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第一章 アレクシス攻略
勉強対決当日
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勉強対決当日――。
会場となった城の応接間には、中央に机と椅子が二つずつ並んでいた。その上には、紙とペンが置かれている。
あの机で勝負が行われる予定だ。不正防止のため机の周りにはなにもなく、非常に見晴らしがよくなっている。
そして、中央の机を遠巻きに見つめる観客たちがいた。ざっと数えれば、なぜか三十名を超えている。
予想以上の集まり具合に、私は呆れてしまう。
「あの、アレクシス王子。なんだか見学人が多くありませんか? ただの子ども同士の勝負ですのに……」
「仕方ないだろう。会場を準備したり、兄上とスケジュールを調整したりする必要があるのだ。誰にも知らせず行うわけにはいかぬ。それに人数の半分は護衛だ」
私は観客をよく見てみる。
言われてみれば、剣を携えた護衛らしき人たちと、興味本位でのぞきに来た人たちがいるようだ。
護衛はともかく、興味本位で来た人は帰ってくれないだろうか。野次馬が増えて、アレクシスがプレッシャーに感じてしまうかもしれないのに。
そう考えて、気付いた。アレクシスは私の問いかけに平然と答えていたのだ。
てっきり緊張で腹痛にでもなるかと思っていたが、意外に本番に強いタイプのようで私はホッとする。
「アレクシス王子は思ったより落ち着いていますね。緊張はしていないのですか?」
「……アンタのせいだ」
「え?」
私のせい、とだけ言われてもわからない。
私が首を傾げると、アレクシスはこちらをにらみ上げてくる。
「誰かさんが教えてくれた、九九を忘れないようにするので必死でな。周りを気にしている余裕がない」
「あ、あはは……」
「あはは、ではない! ここ数日、休憩時間も食事の時間もずっと九九で頭がいっぱいだ。これで兄上に勝てなければ、俺はアンタを恨むぞ」
それは困る。アレクシスを勝たせるために努力したのに、恨まれてはたまらない。
なにか他の話題はないかと、私は部屋の中を見回した。
「えーと……あ。奥にクリスティアン王子がいますよ。先に来ていたみたいですね」
「話をそらしたな」
部屋の奥向かいには、取り巻きに囲まれたクリスティアンがいた。
すると私の声が聞こえたわけでもないだろうに、クリスティアンがこちらを見た。
クリスティアンはアレクシスに笑顔で手を振っているが、取り巻きの幾人かはアレクシスをにらんでいる。
あの中に、アレクシスを陥れた人物がいるのかもしれない。私は念のため、取り巻きの顔をよく覚えておくことにする。
やがてクリスティアンが取り巻きと共に近づいてくる。
私の横で、アレクシスの口元が引きつるのが見えた。
「やあ、アレク。今日はよろしくね」
「はい。よろしくお願いします、兄上」
やや引きつった笑顔ではあるが、アレクシスはクリスティアンの顔を正面から見て応える。
クリスティアンは満足そうにうなずくと、宣戦布告とも脅迫ともとれる言葉を投げかけてきた。
「悪いけど、手加減はしないよ。僕は今日この日を、ずっと待ちわびていたんだ。つまらない勝負などにはしないでくれるよね?」
「……全力を尽くします」
「うん。期待しているよ」
軽い応酬を終えると、クリスティアンたちは部屋の奥へと戻っていく。
離れていくクリスティアンの後ろ姿に、アレクシスがそっと息を吐いた。やはり緊張していたらしい。あの腹黒相手では無理もない。
それから開始時間まで、私とアレクシスは雑談をして過ごした。
本当なら時間ギリギリまで九九の暗唱ができればよかったのだが、ベインズに却下されてしまった。貴族は対戦相手の前でみっともなくあがく姿など見せるべきではないし、万が一九九を知られて対策されては元も子もないそうだ。
勝負開始の合図である三の鐘まであと少しといった頃、応接間の入口が開いて誰かが入ってきた。
また観客が増えるのか。私は呆れつつ視線を扉に向けると、予想外の人物がそこにいた。
会場が一気にどよめく。
「国王陛下!?」
入ってきたのは、アレクシスとクリスティアンの父親である、国王その人だった。
会場となった城の応接間には、中央に机と椅子が二つずつ並んでいた。その上には、紙とペンが置かれている。
あの机で勝負が行われる予定だ。不正防止のため机の周りにはなにもなく、非常に見晴らしがよくなっている。
そして、中央の机を遠巻きに見つめる観客たちがいた。ざっと数えれば、なぜか三十名を超えている。
予想以上の集まり具合に、私は呆れてしまう。
「あの、アレクシス王子。なんだか見学人が多くありませんか? ただの子ども同士の勝負ですのに……」
「仕方ないだろう。会場を準備したり、兄上とスケジュールを調整したりする必要があるのだ。誰にも知らせず行うわけにはいかぬ。それに人数の半分は護衛だ」
私は観客をよく見てみる。
言われてみれば、剣を携えた護衛らしき人たちと、興味本位でのぞきに来た人たちがいるようだ。
護衛はともかく、興味本位で来た人は帰ってくれないだろうか。野次馬が増えて、アレクシスがプレッシャーに感じてしまうかもしれないのに。
そう考えて、気付いた。アレクシスは私の問いかけに平然と答えていたのだ。
てっきり緊張で腹痛にでもなるかと思っていたが、意外に本番に強いタイプのようで私はホッとする。
「アレクシス王子は思ったより落ち着いていますね。緊張はしていないのですか?」
「……アンタのせいだ」
「え?」
私のせい、とだけ言われてもわからない。
私が首を傾げると、アレクシスはこちらをにらみ上げてくる。
「誰かさんが教えてくれた、九九を忘れないようにするので必死でな。周りを気にしている余裕がない」
「あ、あはは……」
「あはは、ではない! ここ数日、休憩時間も食事の時間もずっと九九で頭がいっぱいだ。これで兄上に勝てなければ、俺はアンタを恨むぞ」
それは困る。アレクシスを勝たせるために努力したのに、恨まれてはたまらない。
なにか他の話題はないかと、私は部屋の中を見回した。
「えーと……あ。奥にクリスティアン王子がいますよ。先に来ていたみたいですね」
「話をそらしたな」
部屋の奥向かいには、取り巻きに囲まれたクリスティアンがいた。
すると私の声が聞こえたわけでもないだろうに、クリスティアンがこちらを見た。
クリスティアンはアレクシスに笑顔で手を振っているが、取り巻きの幾人かはアレクシスをにらんでいる。
あの中に、アレクシスを陥れた人物がいるのかもしれない。私は念のため、取り巻きの顔をよく覚えておくことにする。
やがてクリスティアンが取り巻きと共に近づいてくる。
私の横で、アレクシスの口元が引きつるのが見えた。
「やあ、アレク。今日はよろしくね」
「はい。よろしくお願いします、兄上」
やや引きつった笑顔ではあるが、アレクシスはクリスティアンの顔を正面から見て応える。
クリスティアンは満足そうにうなずくと、宣戦布告とも脅迫ともとれる言葉を投げかけてきた。
「悪いけど、手加減はしないよ。僕は今日この日を、ずっと待ちわびていたんだ。つまらない勝負などにはしないでくれるよね?」
「……全力を尽くします」
「うん。期待しているよ」
軽い応酬を終えると、クリスティアンたちは部屋の奥へと戻っていく。
離れていくクリスティアンの後ろ姿に、アレクシスがそっと息を吐いた。やはり緊張していたらしい。あの腹黒相手では無理もない。
それから開始時間まで、私とアレクシスは雑談をして過ごした。
本当なら時間ギリギリまで九九の暗唱ができればよかったのだが、ベインズに却下されてしまった。貴族は対戦相手の前でみっともなくあがく姿など見せるべきではないし、万が一九九を知られて対策されては元も子もないそうだ。
勝負開始の合図である三の鐘まであと少しといった頃、応接間の入口が開いて誰かが入ってきた。
また観客が増えるのか。私は呆れつつ視線を扉に向けると、予想外の人物がそこにいた。
会場が一気にどよめく。
「国王陛下!?」
入ってきたのは、アレクシスとクリスティアンの父親である、国王その人だった。
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