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第一章 アレクシス攻略
勉強対決・2
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「二問目です。7-2……」
「5だ!」
アレクシスが負けじと答える。
うかうかしていれば、クリスティアンに先手を取られてしまうことがわかったからか、ペンを手に取ってすらいない。
審判が正解だと答えると、アレクシスはそっと息を吐いた。
けれどクリスティアンは、同点に追いつかれたというのに余裕の表情だ。こういったプレッシャーのかかる勝負では、クリスティアンにどうしても一日の長がある。
なんとか早めに有利を取っておきたいところだが、かけ算までは難しいだろう。せめて引き離されないよう、アレクシスの粘りに期待するしかない。
「三問目、13+2」
「15だね」
「クリスティアン王子、正解です」
「六問目、10+6-2」
「じゅ、14!」
「アレクシス王子、正解です」
しばらくは、一進一退の攻防が続いた。
瞬発力はアレクシスの方が優勢だが、二桁以上の足し引き算では、咄嗟にタイムラグが生まれてしまうようだ。それでも負けじと取られては取り返し、同点のまま六問目を終えた。
問題数は全部で十五問。そろそろ、かけ算と割り算のターンに入る頃だろう。
九九を知らないクリスティアンは、どうしても計算に時間がかかるはずだ。ここから得点を引き離せば、アレクシスの勝利が見えてくる。
そう私が思った矢先のことだった。
「七問目、4×7」
「に、にじゅ――」
「28」
アレクシスが信じられないといった様子で、クリスティアンを見つめていた。
紙とペンを使わずに、クリスティアンが即答していたからだ。
「クリスティアン王子、正解です」
クリスティアンは九九を知らないはずでは……?
私の背中を冷たい汗が流れていく。
九九の存在は、アレクシス、マーサ、ベインズの三人にしか教えていない。なのに、クリスティアンの解答スピードは、事前に九九対策をしていないと不可能なほど早かった。
まさか、誰かが密告したとか……?
「八問目、9×9……」
「81!」
アレクシスの大きな声に、私はハッとする。
そうだ、これで勝負が決まったわけではない。
アレクシスの目は、まだ諦めていなかった。誰が裏切ったかなど考えるのは、試合が終わってからでいい。
あるいは、誰も裏切ってなどいないのかもしれない。
クリスティアン王子の性格から考えれば、事前にアレクシスの様子を調べることは十分考えられる。
合宿中アレクシスは、九九を暗記するために何度もつぶやいていた。それを聞いた下働きや護衛が、クリスティアンの耳に入れた可能性はないだろうか。
九九はパッと聞けば呪文のようだが、よく聞けば数字の羅列だということはすぐわかる。
そこからクリスティアンが、計算式を暗記しているのだと推測することは不可能ではない。
だとすれば、裏切りでもなんでもない。私の情報管理力が、クリスティアンの情報収集力より劣っていただけの話だ。
私は深呼吸した。
アレクシスがひとりで頑張っているのに、私が冷静さを失ってどうする。
今は目の前の勝負に集中しよう。
その後、一桁の割り算、二桁と一桁のかけ算と、問題は続いていった。
クリスティアンが取れば、アレクシスが追いつく。アレクシスがリードすれば、クリスティアンもすぐに同点に迫る。
そして両者とも、得点数七対七の状態で、最終問題を迎えた。
「十五問目、43×29は?」
初めて侍従が、問いを最後まで読み上げる。
クリスティアン王子がペンを取って、計算し始めた。大人の日本人でも、二桁同士のかけ算の解を瞬時に求めるのは難しい。
けれどアレクシスはペンを取ることもなく、空中に数字を書きながら、なにか小声でつぶやいている。まさか暗算をしているのだろうか。
カリカリと、クリスティアンの書き込む音だけが会場に響き渡る。
ずいぶん長い時間に感じられたけれど、おそらくほんの数秒のことだったと思う。
先に解答したのはアレクシスだった。
「1247だ」
「5だ!」
アレクシスが負けじと答える。
うかうかしていれば、クリスティアンに先手を取られてしまうことがわかったからか、ペンを手に取ってすらいない。
審判が正解だと答えると、アレクシスはそっと息を吐いた。
けれどクリスティアンは、同点に追いつかれたというのに余裕の表情だ。こういったプレッシャーのかかる勝負では、クリスティアンにどうしても一日の長がある。
なんとか早めに有利を取っておきたいところだが、かけ算までは難しいだろう。せめて引き離されないよう、アレクシスの粘りに期待するしかない。
「三問目、13+2」
「15だね」
「クリスティアン王子、正解です」
「六問目、10+6-2」
「じゅ、14!」
「アレクシス王子、正解です」
しばらくは、一進一退の攻防が続いた。
瞬発力はアレクシスの方が優勢だが、二桁以上の足し引き算では、咄嗟にタイムラグが生まれてしまうようだ。それでも負けじと取られては取り返し、同点のまま六問目を終えた。
問題数は全部で十五問。そろそろ、かけ算と割り算のターンに入る頃だろう。
九九を知らないクリスティアンは、どうしても計算に時間がかかるはずだ。ここから得点を引き離せば、アレクシスの勝利が見えてくる。
そう私が思った矢先のことだった。
「七問目、4×7」
「に、にじゅ――」
「28」
アレクシスが信じられないといった様子で、クリスティアンを見つめていた。
紙とペンを使わずに、クリスティアンが即答していたからだ。
「クリスティアン王子、正解です」
クリスティアンは九九を知らないはずでは……?
私の背中を冷たい汗が流れていく。
九九の存在は、アレクシス、マーサ、ベインズの三人にしか教えていない。なのに、クリスティアンの解答スピードは、事前に九九対策をしていないと不可能なほど早かった。
まさか、誰かが密告したとか……?
「八問目、9×9……」
「81!」
アレクシスの大きな声に、私はハッとする。
そうだ、これで勝負が決まったわけではない。
アレクシスの目は、まだ諦めていなかった。誰が裏切ったかなど考えるのは、試合が終わってからでいい。
あるいは、誰も裏切ってなどいないのかもしれない。
クリスティアン王子の性格から考えれば、事前にアレクシスの様子を調べることは十分考えられる。
合宿中アレクシスは、九九を暗記するために何度もつぶやいていた。それを聞いた下働きや護衛が、クリスティアンの耳に入れた可能性はないだろうか。
九九はパッと聞けば呪文のようだが、よく聞けば数字の羅列だということはすぐわかる。
そこからクリスティアンが、計算式を暗記しているのだと推測することは不可能ではない。
だとすれば、裏切りでもなんでもない。私の情報管理力が、クリスティアンの情報収集力より劣っていただけの話だ。
私は深呼吸した。
アレクシスがひとりで頑張っているのに、私が冷静さを失ってどうする。
今は目の前の勝負に集中しよう。
その後、一桁の割り算、二桁と一桁のかけ算と、問題は続いていった。
クリスティアンが取れば、アレクシスが追いつく。アレクシスがリードすれば、クリスティアンもすぐに同点に迫る。
そして両者とも、得点数七対七の状態で、最終問題を迎えた。
「十五問目、43×29は?」
初めて侍従が、問いを最後まで読み上げる。
クリスティアン王子がペンを取って、計算し始めた。大人の日本人でも、二桁同士のかけ算の解を瞬時に求めるのは難しい。
けれどアレクシスはペンを取ることもなく、空中に数字を書きながら、なにか小声でつぶやいている。まさか暗算をしているのだろうか。
カリカリと、クリスティアンの書き込む音だけが会場に響き渡る。
ずいぶん長い時間に感じられたけれど、おそらくほんの数秒のことだったと思う。
先に解答したのはアレクシスだった。
「1247だ」
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