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第一章 アレクシス攻略
勝敗の結果
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きっと誰も暗算で答えを求めることができなかったのだろう。
会場にいる全員の視線が、審判役の侍従に向かった。
誤答であれば、解答権はクリスティアンに渡ってしまう。そうなると、クリスティアンが間違えるまでアレクシスは答えることができないから、クリスティアンはゆっくりと計算することができるのだ。実質、クリスティアンの勝利となる。
唯一の正解を知る審判は、ゆっくりと口を開いた。
「正解は……1247です。おめでとうございます、アレクシス王子」
審判がアレクシスに拍手を送る。
おおっといったざわめきが、会場に広がっていった。
アレクシスの勝利だ!
私はアレクシスに駆け寄り、声をかける。
「やりましたね、アレクシス王子!」
「オレが……勝った、のか?」
まるで自分が勝ったことが信じられないのか、アレクシスは放心したようにつぶやく。
だが誰がどう見ても、アレクシスの勝利に間違いない。
「それにしても、最後の計算は早かったですね。あれはやはり、インド式計算法を使ったのですか?」
「ああ。アンタに教わってから、練習していたんだ。聞いておいて助かったぞ。あれがなければ負けていた」
私は合宿のときの様子を思い出す。
九九を教える合間に、雑談で私が「もっと早い計算方法がある」とつぶやいたことから、アレクシスが食いついたのだ。
インド式計算法は、数学の国インドで生まれたもので、日本の計算法よりスピードが上がりやすく、ミスが出にくい。
昔、ギャンブルが得意な悪役にハマったときに、軽く調べておいたのが功を奏すとは、世の中なにが役立つかわからないものだ。
「念のための保険だったのですけれど、お役に立てたようでなによりです。でもまさか、暗算するとは思わなかったので、少しビックリしました」
「あれは……ペンを取っていては、兄上に負ける気がしたのだ。今考えれば、無謀だったかもしれぬ」
「勝てばいいんです、勝てば」
アレクシスの戸惑いを、私は否定する。
清廉潔白など必要ない。どんなときでも見苦しくあがくのは、悪役の魅力だ。
……あ、違う。悪役になってもらいたいのではない。悪役になったら、アレクシスも私も死んでしまうじゃないか。
だけど、アレクシスが勝つのは良いことで……ん? 良いこと?
私がひとりで勝手に混乱していると、横からクリスティアンがアレクシスに近づいて、手を差し伸べる。
「負けたよ、アレク」
「兄上……」
「正直、アレクがここまでやるなんて思っていなかった。でも、アレクは僕の想像をはるかに超えて努力したんだね。僕はとても嬉しいよ」
敗北の悔しさなどみじんも見せずに、クリスティアンが微笑する。
アレクシスの頬が、紅潮していくのが見えた。もしかしたら、兄に褒められたのは初めてなのかもしれない。
アレクシスは、勝利してからようやく満面の笑みを浮かべた。
「これからも兄弟同士、切磋琢磨していこう。約束だよ」
「はい。頑張ります、兄上」
アレクシスが差し出された手を取る。固い握手が結ばれた。
「イカサマだ!」
そこへ、兄弟の感動のシーンを台無しにするかのような罵声が飛んでくる。
発信源はクリスティアンの取り巻きのひとりだった。
あの顔は覚えている。勝負の前に、アレクシスをにらみつけていた面子の中にいたはずだ。
「イカサマなしに、クリスティアン様が負けるはずがない! 其方、なにか仕込んだのだろう!」
会場にいる全員の視線が、審判役の侍従に向かった。
誤答であれば、解答権はクリスティアンに渡ってしまう。そうなると、クリスティアンが間違えるまでアレクシスは答えることができないから、クリスティアンはゆっくりと計算することができるのだ。実質、クリスティアンの勝利となる。
唯一の正解を知る審判は、ゆっくりと口を開いた。
「正解は……1247です。おめでとうございます、アレクシス王子」
審判がアレクシスに拍手を送る。
おおっといったざわめきが、会場に広がっていった。
アレクシスの勝利だ!
私はアレクシスに駆け寄り、声をかける。
「やりましたね、アレクシス王子!」
「オレが……勝った、のか?」
まるで自分が勝ったことが信じられないのか、アレクシスは放心したようにつぶやく。
だが誰がどう見ても、アレクシスの勝利に間違いない。
「それにしても、最後の計算は早かったですね。あれはやはり、インド式計算法を使ったのですか?」
「ああ。アンタに教わってから、練習していたんだ。聞いておいて助かったぞ。あれがなければ負けていた」
私は合宿のときの様子を思い出す。
九九を教える合間に、雑談で私が「もっと早い計算方法がある」とつぶやいたことから、アレクシスが食いついたのだ。
インド式計算法は、数学の国インドで生まれたもので、日本の計算法よりスピードが上がりやすく、ミスが出にくい。
昔、ギャンブルが得意な悪役にハマったときに、軽く調べておいたのが功を奏すとは、世の中なにが役立つかわからないものだ。
「念のための保険だったのですけれど、お役に立てたようでなによりです。でもまさか、暗算するとは思わなかったので、少しビックリしました」
「あれは……ペンを取っていては、兄上に負ける気がしたのだ。今考えれば、無謀だったかもしれぬ」
「勝てばいいんです、勝てば」
アレクシスの戸惑いを、私は否定する。
清廉潔白など必要ない。どんなときでも見苦しくあがくのは、悪役の魅力だ。
……あ、違う。悪役になってもらいたいのではない。悪役になったら、アレクシスも私も死んでしまうじゃないか。
だけど、アレクシスが勝つのは良いことで……ん? 良いこと?
私がひとりで勝手に混乱していると、横からクリスティアンがアレクシスに近づいて、手を差し伸べる。
「負けたよ、アレク」
「兄上……」
「正直、アレクがここまでやるなんて思っていなかった。でも、アレクは僕の想像をはるかに超えて努力したんだね。僕はとても嬉しいよ」
敗北の悔しさなどみじんも見せずに、クリスティアンが微笑する。
アレクシスの頬が、紅潮していくのが見えた。もしかしたら、兄に褒められたのは初めてなのかもしれない。
アレクシスは、勝利してからようやく満面の笑みを浮かべた。
「これからも兄弟同士、切磋琢磨していこう。約束だよ」
「はい。頑張ります、兄上」
アレクシスが差し出された手を取る。固い握手が結ばれた。
「イカサマだ!」
そこへ、兄弟の感動のシーンを台無しにするかのような罵声が飛んでくる。
発信源はクリスティアンの取り巻きのひとりだった。
あの顔は覚えている。勝負の前に、アレクシスをにらみつけていた面子の中にいたはずだ。
「イカサマなしに、クリスティアン様が負けるはずがない! 其方、なにか仕込んだのだろう!」
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