悪役推し令嬢はこじらせ男子を攻略したい

福北ヒトデ

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第二章 カイ攻略

不和の呪い

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 だが、アレクシスの手は届かない。
 敵の攻撃は、もう目の前まで来ていた。

「きゃあ!」

 そのとき私の周囲で、バチバチッと激しく電流がはじけ飛ぶ。
 咄嗟に耳を塞ぐが、音がすごいだけで、なぜか痛みはない。

「え、なに……?」

 私が呆然としていると、アレクシスに手を引かれ、護衛たちがいる場所まで引き寄せられる。

「アレクシス王子……!」
「ケガはないか!?」
「は、はい! でもこれはいったい……!?」
「説明はあとだ」

 アレクシスは私を護衛に預けると、剣を構え、呪文を唱え出す。

「闇の神よ、昏き静寂しじまに眠りし御身に祈らん。我が剣に、御身が敵を討ち払う破邪と混沌の力を!」

 呪文の発動と同時に、アレクシスの剣の刀身がみるみる黒く染まっていく。
 おそらく神属性、それも闇属性の術なのだろうが、まだ教わっていない私には詳しくはわからない。

「はあっ!」

 アレクシスは再び襲いかかってきた黒い煙を、黒い剣で振り払う。すると煙は剣に吸い込まれ、消えていく。
 護衛たちの幾人かも、同じように敵の攻撃を振り払っていく。

 だがブラッドから立ち上る煙は、とどまるところを知らない。黒い煙は、一般の観客席にも迫っているようだ。
 あちこちから悲鳴が上がり、皆逃げ惑っていた。

「アレク! ルシール!」

 クリスティアンが護衛を連れて、近づいてくる。
 クリスティアンの剣も黒く染まり、幾度か煙を振り払いながら、ようやく目の前までたどり着いた。

「二人とも無事かい」
「兄上、俺は大丈夫です。けど、ルシールがかすっているかもしれません。確認してください!」
「わかった。ルシール、少し失礼するよ」

 クリスティアンが私の手や首筋など、全身をくまなくチェックする。
 わずかな兆候も見逃さないといった様子で幾度も確認すると、やがてホッと息を吐いた。

「大丈夫。どこにも兆候はない。そういえばルシールは光属性だったね。運がよかった……」
「光属性だと、なにか関係があるんですか?」
「今、ブラッドには『不和の呪い』という術がかかっている。使用を禁じられた闇の魔術で、精霊属性の術が効かないんだ。不和の呪いの攻撃は闇の魔術で払うか、光の魔術で防ぐしかない。君は光属性だったから、防ぐことができたんだろうね」

 私はクリスティアンの言葉を聞いて、得心した。
 どうりで敵の攻撃が、魔法障壁をすり抜けてきたわけだ。魔法障壁はきっと精霊属性なのだろう。

 そして、同時に恐ろしい考えが脳裏をよぎる。

「精霊属性の術が使えない? それじゃ、王族じゃないほとんどの人には防ぎようがないってことになりませんか?」
「残念ながら、その通りだよ」

 クリスティアンが深刻な表情でうなずく。

「不和の呪いは、呪われた者の魔力を吸い尽くし、死ぬまで他者を攻撃し続ける。そして攻撃を受けた者もまた呪いに感染し、感染者を増やす。この術のせいで滅びた国は、一つや二つではない。使用どころか研究すら許されない禁術なんだよ」

 感染者が次の感染者を産むなんて、まるでゾンビのような呪いだ。
 そこまで考えて、私はふと思い出した。
 たしか『聖戦のステラ』にそんなシーンがあったはずだ。

 ステラの目の前で多くの者が倒れ、ステラを守ったクリスティアンも感染し倒れた。クリスティアンが倒れたことにショックを受けたステラがそこで覚醒し、聖女として認められるようになったのだ。

 だが、それは卒業直前の社交界での出来事で、入学早々こんなことにはならなかったはずだ。まさか私がアレクシスたちを救うことで、大きく歴史を変えてしまったのだろうか。

「兄上、このままではキリがありません! これ以上、被害が出る前に決断しないと……!」

 敵の攻撃をはね除け続けていたアレクシスが叫ぶ。
 クリスティアンは一瞬不安そう眉を下げると、アレクシスに問う。

「アレク、本当にそれでいいのかい」
「……他に、方法はありませんから」
「そうだね。事態は一刻を争う。……わかった、やろう」
「あ、あの、決断って……?」

 私が声をかけると、アレクシスがつらそうに視線をそらす。
 クリスティアンは申し訳なさそうに目を伏せると、首を横に振った。

「不和の呪いは、感染者の魔力を吸って広げられる。だからこの呪いを絶つには、感染者から魔力を吸えないようにするしかない……。つまり、ブラッドを殺すしかないんだよ」
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