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第二章 カイ攻略
聖女覚醒
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「待ってください! 聖女がいれば、この事態を打開できるのではないんですか!?」
私はクリスティアンを引き留める。
マンガではステラが浄化の力を使い、クリスティアンを救っていたはずだ。ブラッドを殺すしかないなんて、そんなはずはない。
クリスティアンは駄々をこねる子に言い聞かせるように、私に優しい口調で話しかける。
「たしかに聖女がいれば、止められるだろうね。けど、どこに聖女がいるというんだい? ルシール、君の気持ちはわかるけれど……」
「ステラさんです。ステラさんの力を借りましょう」
「……あの平民の子か」
私の言葉に、クリスティアンが一瞬考え込む。
「わずかな可能性でも、やらないよりはマシか……」
そう独りごちると、クリスティアンはすくっと立ち上がる。
「わかった。彼女の力を試してみよう。けれど、一度だけだ。失敗すれば、ブラッドを殺す。それでいいね」
「わかりました」
ステラは間違いなく聖女だ。正しく導けば、きっと能力が目覚めるに違いない。
私が承諾すると、クリスティアンは周囲の護衛騎士たちに指示を飛ばす。
「精霊属性の者は一般客の避難誘導に当たれ。神属性も光と闇、各一人ずつ残って、誘導員を守れ。他の者は我々の補助をするように」
「はっ!」
「ルシール、光属性持ちは貴重だ。君にも来てもらうよ」
「もちろんです」
クリスティアンが手を差し出す。
手を取った私に、クリスティアンは微笑した。
「いい返事だ。……アレク!」
「はい、兄上!」
アレクシスが返事と同時に、剣を振り払う。
剣の一閃の黒い煙が晴れ、会場までの道が切り開かれる。
アレクシスを先頭に、私たちは走り出した。
***
会場に近づくにつれ、黒い煙は濃さを増し、濃霧のように視界を塞いでいく。
それでも私たちが真っ直ぐ進めたのは、結界のおかげだった。
私とクリスティアン付の護衛を中心に、見えないバリアが張られているようで、そこから先に黒い煙は入ってこられないようだ。
私から離れすぎないように先を歩いていたアレクシスが、私に問う。
「ステラはどこにいる? ルシール、場所はわかるか」
「ステラは下級貴族用の席にいたはずなので……あ、あそこです! あの光っている場所です!」
目をこらすと、奥の方で黒い煙の隙間を縫って、ぼんやりと光が灯っているのが見えた。
アレクシスは「わかった!」と答えると、一目散に走り出す。
私たちが光の源までたどり着くと、そこには二つの人影があった。うずくまるステラと見知らぬ下級貴族らしき人物だ。
私はステラに声をかける。
「ステラさん、無事ですか!」
「ルシール様、私は大丈夫です。でもこの方は、足を怪我して動けません。助けてあげてください」
この混乱の中、ステラは怪我人を見捨てられず、守ろうとしていたようだ。
あり合わせのもので、折れた足を繋ごうとした痕跡が見える。
アレクシスが護衛の一人に声をかけた。護衛は怪我人を背負うと、この場を離れていく。どうやら安全なところまで移動してから、治療を施すようだ。
なんとか怪我人を助けられたことに、ステラはホッとして深く息を吐く。
そのステラの前に、クリスティアンがひざまずいた。
「ステラ嬢、君の力を貸してくれないかい。ブラッドは今、『不和の呪い』という闇の魔術をかけられている。彼の呪いを解くために、君の協力が欲しいんだ」
ステラは迷うことなくうなずく。
「わかりました。どうすればいいですか?」
「僕の手のひらに、手を重ねて。魔力の使い方は僕が教える。君は僕のあとに続いて、同じ呪文を唱えてくれればいい」
ステラは無言でうなずいて、クリスティアンの手に自分の手を重ねる。
クリスティアンは深く息を吐いて集中すると、おもむろに口を開いて唱え始めた。
「光の神よ――」
「光の神よ――」
クリスティアンとステラの声が重なっていく。
それと同時に、ステラの体からまばゆいばかりの光があふれ出していく。
『生きとし生けるものに永久の癒やしを与えし御身に祈らん』
光はやがて、七本の柱となり、天高く伸びていく。
黒い煙を突き破って、その光の柱は空中に複雑な陣を描く。
『我が願いを聞き届けたまえ。闇に囚われし者に、穢れなき救いの光を!』
二人が呪文を唱え終えると、光の陣から光があふれ出し会場全体を包み込んだ。
夜空に降る流星群のように光は会場中に飛び散ると、黒い煙があっという間にかき消されていく。
一瞬で、視界が晴れていった。
会場にいた者は、逃げ惑っていた者も、避難を誘導していた者も、動きを止め、光の源であるステラを見つめている。
「聖女……」
「聖女だ……」
あちらこちらから、ステラを聖女と呼ぶ声が聞こえる。
その声色には、驚きや尊敬の念もあるが、多くの者があまりの神聖さに陶酔しているように見えた。
私の横にいたアレクシスも天を仰ぎ、呆然とつぶやく。
「これが……聖女の力……」
私はクリスティアンを引き留める。
マンガではステラが浄化の力を使い、クリスティアンを救っていたはずだ。ブラッドを殺すしかないなんて、そんなはずはない。
クリスティアンは駄々をこねる子に言い聞かせるように、私に優しい口調で話しかける。
「たしかに聖女がいれば、止められるだろうね。けど、どこに聖女がいるというんだい? ルシール、君の気持ちはわかるけれど……」
「ステラさんです。ステラさんの力を借りましょう」
「……あの平民の子か」
私の言葉に、クリスティアンが一瞬考え込む。
「わずかな可能性でも、やらないよりはマシか……」
そう独りごちると、クリスティアンはすくっと立ち上がる。
「わかった。彼女の力を試してみよう。けれど、一度だけだ。失敗すれば、ブラッドを殺す。それでいいね」
「わかりました」
ステラは間違いなく聖女だ。正しく導けば、きっと能力が目覚めるに違いない。
私が承諾すると、クリスティアンは周囲の護衛騎士たちに指示を飛ばす。
「精霊属性の者は一般客の避難誘導に当たれ。神属性も光と闇、各一人ずつ残って、誘導員を守れ。他の者は我々の補助をするように」
「はっ!」
「ルシール、光属性持ちは貴重だ。君にも来てもらうよ」
「もちろんです」
クリスティアンが手を差し出す。
手を取った私に、クリスティアンは微笑した。
「いい返事だ。……アレク!」
「はい、兄上!」
アレクシスが返事と同時に、剣を振り払う。
剣の一閃の黒い煙が晴れ、会場までの道が切り開かれる。
アレクシスを先頭に、私たちは走り出した。
***
会場に近づくにつれ、黒い煙は濃さを増し、濃霧のように視界を塞いでいく。
それでも私たちが真っ直ぐ進めたのは、結界のおかげだった。
私とクリスティアン付の護衛を中心に、見えないバリアが張られているようで、そこから先に黒い煙は入ってこられないようだ。
私から離れすぎないように先を歩いていたアレクシスが、私に問う。
「ステラはどこにいる? ルシール、場所はわかるか」
「ステラは下級貴族用の席にいたはずなので……あ、あそこです! あの光っている場所です!」
目をこらすと、奥の方で黒い煙の隙間を縫って、ぼんやりと光が灯っているのが見えた。
アレクシスは「わかった!」と答えると、一目散に走り出す。
私たちが光の源までたどり着くと、そこには二つの人影があった。うずくまるステラと見知らぬ下級貴族らしき人物だ。
私はステラに声をかける。
「ステラさん、無事ですか!」
「ルシール様、私は大丈夫です。でもこの方は、足を怪我して動けません。助けてあげてください」
この混乱の中、ステラは怪我人を見捨てられず、守ろうとしていたようだ。
あり合わせのもので、折れた足を繋ごうとした痕跡が見える。
アレクシスが護衛の一人に声をかけた。護衛は怪我人を背負うと、この場を離れていく。どうやら安全なところまで移動してから、治療を施すようだ。
なんとか怪我人を助けられたことに、ステラはホッとして深く息を吐く。
そのステラの前に、クリスティアンがひざまずいた。
「ステラ嬢、君の力を貸してくれないかい。ブラッドは今、『不和の呪い』という闇の魔術をかけられている。彼の呪いを解くために、君の協力が欲しいんだ」
ステラは迷うことなくうなずく。
「わかりました。どうすればいいですか?」
「僕の手のひらに、手を重ねて。魔力の使い方は僕が教える。君は僕のあとに続いて、同じ呪文を唱えてくれればいい」
ステラは無言でうなずいて、クリスティアンの手に自分の手を重ねる。
クリスティアンは深く息を吐いて集中すると、おもむろに口を開いて唱え始めた。
「光の神よ――」
「光の神よ――」
クリスティアンとステラの声が重なっていく。
それと同時に、ステラの体からまばゆいばかりの光があふれ出していく。
『生きとし生けるものに永久の癒やしを与えし御身に祈らん』
光はやがて、七本の柱となり、天高く伸びていく。
黒い煙を突き破って、その光の柱は空中に複雑な陣を描く。
『我が願いを聞き届けたまえ。闇に囚われし者に、穢れなき救いの光を!』
二人が呪文を唱え終えると、光の陣から光があふれ出し会場全体を包み込んだ。
夜空に降る流星群のように光は会場中に飛び散ると、黒い煙があっという間にかき消されていく。
一瞬で、視界が晴れていった。
会場にいた者は、逃げ惑っていた者も、避難を誘導していた者も、動きを止め、光の源であるステラを見つめている。
「聖女……」
「聖女だ……」
あちらこちらから、ステラを聖女と呼ぶ声が聞こえる。
その声色には、驚きや尊敬の念もあるが、多くの者があまりの神聖さに陶酔しているように見えた。
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