50 / 63
第三章 ヴィンセント攻略
魔術具を買いに行こう・1
しおりを挟む
次の休日、私とアレクシスは補助具を買いに街に出ていた。
実のところ、入学してから学院の外に出るのはかなり久しぶりだ。決して外出が禁じられているわけではないのだが、街では平民も行き来するため、防犯上の制約が多い。そのため、街に出る申請や手続きは非常に面倒くさくなっているのだ。
しかも今回は王族であるアレクシスが一緒なので、護衛の手配や馬車の用意などで余計に時間がかかってしまった。
「はあ、やっと街が見えてきな。待ちくたびれて死ぬかと思ったぞ」
馬車で私の真正面に座っているアレクシスが、窓の外をのぞき込みながら不平を言う。
そもそも出発がここまで伸びたのは誰のせいだと思っているのか。
つい私はむきになって、余計な一言を言ってしまった。
「そこまで言うなら、アレクシス王子は学院で待っていればよかったじゃないですか。どうせ買うのは私だけなんですし」
「そうは言うが、アンタ注文の仕方がわかるのか?」
「う……」
私が露骨に顔をそらすと、アレクシスは弱みを見つけたと言わんばかりに、こちらをのぞき込む。
「魔術具の注文には知識がいるぞ。俺だけ先に帰ってもいいが、一学年の座学も終えていないアンタに、どこまでできるかな?」
アレクシスが楽しそうに問いかけてくる。
その言い方から察するに、アレクシスはとうに一学年分の予習は済ませているのだろう。
昔は私の方が勉強はできていたはずなのに。どうせ学院で習うからと思って、予習しなかったのがこんなところで仇となるとは……!
私は学院に戻ったら二学年の分まで予習しようと心に誓いつつ、両手を合わせてアレクシスに手伝ってもらうよう頼んだ。
「ごめんなさい、わたくしめが間違っていました。アレクシス王子が一緒に来てくれて、とても嬉しいです」
「ハハッ、わかればそれでいい」
アレクシスの機嫌も直ったところで、馬車がスピードを落としていく。
どうやら目的地に着いたようだ。
アレクシスと私が馬車を降り、店内に入っていくと、恰幅のいい中年の店員が愛想良く近寄ってくる。
「らっしゃい。今日はどういったご用向きで?」
「彼女に、補助用の魔術具を用意してもらいたい」
「補助用? 魔力操作の補助ですか?」
アレクシスが店員に伝えると、店員は少し驚いた様子で聞き返した。
やはり補助具の注文というのは珍しいのだろう。
しかも、頼みに来たのは貴族の使い走りなどではなく、十代の子どもだ。私たちの服が高価そうだったり、護衛を何人も連れてきているのでなければ、店員はきっと「金はあるのか?」と尋ねていたに違いない。
「そうだ。精霊属性と神属性の二属性持ちだが、頼めるか?」
アレクシスが間違いなく補助具の注文に来ているのだと答えると、店員はパッと顔を輝かせた。
「そりゃ、喜んで! お客様、うちの店に来て正解ですよ。ちょうど魔力操作の調整がうまい弟子がいるんです。今、呼んでくるんで、ちょっと待っていてください!」
店員はアレクシスのリアクションの待たずに、店の奥へと走って行く。
扉の奥から、元気な声が聞こえてきた。
「おい、お客様だぞ!」
「ちょっと待ってくれよ、親方。今、いいところなんだ。水と雷の間に土属性を入れると、うまいこと緩衝材になるんだけど、もうちょっとで効率のいい配分量が……」
「バカヤロー! せっかくの上客が帰っちまったらどうするんだ。さっさと出てこい!」
「はいはい、わかったよ! 今行くっての!」
店員が弟子と、平民らしく乱暴な言葉使いでやり取りをする。
普段、貴族同士の堅いしゃべり方しか知らないアレクシスはビックリして目をむいていたが、私は彼らの飾らないやり取りに、なんだか懐かしい気持ちになる。
扉の奥の方に目を向けると、ぼさぼさになった銀髪をくくりながら、弟子と思われる青年が、だるそうに店の奥から出てきた。
「お待たせしました、お客様。この度はどういった魔術具を――」
愛想笑いを浮かべながらやってきた弟子の青年は、私の顔を見て固まった。
私も固まった。
相手が、あまりにも予想外だったからだ。
「……ルシール、様?」
「ヴィンセント?」
実のところ、入学してから学院の外に出るのはかなり久しぶりだ。決して外出が禁じられているわけではないのだが、街では平民も行き来するため、防犯上の制約が多い。そのため、街に出る申請や手続きは非常に面倒くさくなっているのだ。
しかも今回は王族であるアレクシスが一緒なので、護衛の手配や馬車の用意などで余計に時間がかかってしまった。
「はあ、やっと街が見えてきな。待ちくたびれて死ぬかと思ったぞ」
馬車で私の真正面に座っているアレクシスが、窓の外をのぞき込みながら不平を言う。
そもそも出発がここまで伸びたのは誰のせいだと思っているのか。
つい私はむきになって、余計な一言を言ってしまった。
「そこまで言うなら、アレクシス王子は学院で待っていればよかったじゃないですか。どうせ買うのは私だけなんですし」
「そうは言うが、アンタ注文の仕方がわかるのか?」
「う……」
私が露骨に顔をそらすと、アレクシスは弱みを見つけたと言わんばかりに、こちらをのぞき込む。
「魔術具の注文には知識がいるぞ。俺だけ先に帰ってもいいが、一学年の座学も終えていないアンタに、どこまでできるかな?」
アレクシスが楽しそうに問いかけてくる。
その言い方から察するに、アレクシスはとうに一学年分の予習は済ませているのだろう。
昔は私の方が勉強はできていたはずなのに。どうせ学院で習うからと思って、予習しなかったのがこんなところで仇となるとは……!
私は学院に戻ったら二学年の分まで予習しようと心に誓いつつ、両手を合わせてアレクシスに手伝ってもらうよう頼んだ。
「ごめんなさい、わたくしめが間違っていました。アレクシス王子が一緒に来てくれて、とても嬉しいです」
「ハハッ、わかればそれでいい」
アレクシスの機嫌も直ったところで、馬車がスピードを落としていく。
どうやら目的地に着いたようだ。
アレクシスと私が馬車を降り、店内に入っていくと、恰幅のいい中年の店員が愛想良く近寄ってくる。
「らっしゃい。今日はどういったご用向きで?」
「彼女に、補助用の魔術具を用意してもらいたい」
「補助用? 魔力操作の補助ですか?」
アレクシスが店員に伝えると、店員は少し驚いた様子で聞き返した。
やはり補助具の注文というのは珍しいのだろう。
しかも、頼みに来たのは貴族の使い走りなどではなく、十代の子どもだ。私たちの服が高価そうだったり、護衛を何人も連れてきているのでなければ、店員はきっと「金はあるのか?」と尋ねていたに違いない。
「そうだ。精霊属性と神属性の二属性持ちだが、頼めるか?」
アレクシスが間違いなく補助具の注文に来ているのだと答えると、店員はパッと顔を輝かせた。
「そりゃ、喜んで! お客様、うちの店に来て正解ですよ。ちょうど魔力操作の調整がうまい弟子がいるんです。今、呼んでくるんで、ちょっと待っていてください!」
店員はアレクシスのリアクションの待たずに、店の奥へと走って行く。
扉の奥から、元気な声が聞こえてきた。
「おい、お客様だぞ!」
「ちょっと待ってくれよ、親方。今、いいところなんだ。水と雷の間に土属性を入れると、うまいこと緩衝材になるんだけど、もうちょっとで効率のいい配分量が……」
「バカヤロー! せっかくの上客が帰っちまったらどうするんだ。さっさと出てこい!」
「はいはい、わかったよ! 今行くっての!」
店員が弟子と、平民らしく乱暴な言葉使いでやり取りをする。
普段、貴族同士の堅いしゃべり方しか知らないアレクシスはビックリして目をむいていたが、私は彼らの飾らないやり取りに、なんだか懐かしい気持ちになる。
扉の奥の方に目を向けると、ぼさぼさになった銀髪をくくりながら、弟子と思われる青年が、だるそうに店の奥から出てきた。
「お待たせしました、お客様。この度はどういった魔術具を――」
愛想笑いを浮かべながらやってきた弟子の青年は、私の顔を見て固まった。
私も固まった。
相手が、あまりにも予想外だったからだ。
「……ルシール、様?」
「ヴィンセント?」
0
あなたにおすすめの小説
一家処刑?!まっぴらごめんですわ!!~悪役令嬢(予定)の娘といじわる(予定)な継母と馬鹿(現在進行形)な夫
むぎてん
ファンタジー
夫が隠し子のチェルシーを引き取った日。「お花畑のチェルシー」という前世で読んだ小説の中に転生していると気付いた妻マーサ。 この物語、主人公のチェルシーは悪役令嬢だ。 最後は華麗な「ざまあ」の末に一家全員の処刑で幕を閉じるバッドエンド‥‥‥なんて、まっぴら御免ですわ!絶対に阻止して幸せになって見せましょう!! 悪役令嬢(予定)の娘と、意地悪(予定)な継母と、馬鹿(現在進行形)な夫。3人の登場人物がそれぞれの愛の形、家族の形を確認し幸せになるお話です。
なんども濡れ衣で責められるので、いい加減諦めて崖から身を投げてみた
下菊みこと
恋愛
悪役令嬢の最後の抵抗は吉と出るか凶と出るか。
ご都合主義のハッピーエンドのSSです。
でも周りは全くハッピーじゃないです。
小説家になろう様でも投稿しています。
【㊗️受賞!】神のミスで転生したけど、幼児化しちゃった!〜もふもふと一緒に、異世界ライフを楽しもう!〜
一ノ蔵(いちのくら)
ファンタジー
※第18回ファンタジー小説大賞にて、奨励賞を受賞しました!投票して頂いた皆様には、感謝申し上げますm(_ _)m
✩物語は、ゆっくり進みます。冒険より、日常に重きありの異世界ライフです。
【あらすじ】
神のミスにより、異世界転生が決まったミオ。調子に乗って、スキルを欲張り過ぎた結果、幼児化してしまった!
そんなハプニングがありつつも、ミオは、大好きな異世界で送る第二の人生に、希望いっぱい!
事故のお詫びに遣わされた、守護獣神のジョウとともに、ミオは異世界ライフを楽しみます!
カクヨム(吉野 ひな)にて、先行投稿しています。
主人公の恋敵として夫に処刑される王妃として転生した私は夫になる男との結婚を阻止します
白雪の雫
ファンタジー
突然ですが質問です。
あなたは【真実の愛】を信じますか?
そう聞かれたら私は『いいえ!』『No!』と答える。
だって・・・そうでしょ?
ジュリアーノ王太子の(名目上の)父親である若かりし頃の陛下曰く「私と彼女は真実の愛で結ばれている」という何が何だか訳の分からない理屈で、婚約者だった大臣の姫ではなく平民の女を妃にしたのよ!?
それだけではない。
何と平民から王妃になった女は庭師と不倫して不義の子を儲け、その不義の子ことジュリアーノは陛下が側室にも成れない身分の低い女が産んだ息子のユーリアを後宮に入れて妃のように扱っているのよーーーっ!!!
私とジュリアーノの結婚は王太子の後見になって欲しいと陛下から土下座をされてまで請われたもの。
それなのに・・・ジュリアーノは私を後宮の片隅に追いやりユーリアと毎晩「アッー!」をしている。
しかも!
ジュリアーノはユーリアと「アッー!」をするにしてもベルフィーネという存在が邪魔という理由だけで、正式な王太子妃である私を車裂きの刑にしやがるのよ!!!
マジかーーーっ!!!
前世は腐女子であるが会社では働く女性向けの商品開発に携わっていた私は【夢色の恋人達】というBLゲームの、悪役と位置づけられている王太子妃のベルフィーネに転生していたのよーーーっ!!!
思い付きで書いたので、ガバガバ設定+矛盾がある+ご都合主義。
世界観、建築物や衣装等は古代ギリシャ・ローマ神話、古代バビロニアをベースにしたファンタジー、ベルフィーネの一人称は『私』と書いて『わたくし』です。
断罪まであと5秒、今すぐ逆転始めます
山河 枝
ファンタジー
聖女が魔物と戦う乙女ゲーム。その聖女につかみかかったせいで処刑される令嬢アナベルに、転生してしまった。
でも私は知っている。実は、アナベルこそが本物の聖女。
それを証明すれば断罪回避できるはず。
幸い、処刑人が味方になりそうだし。モフモフ精霊たちも慕ってくれる。
チート魔法で魔物たちを一掃して、本物アピールしないと。
処刑5秒前だから、今すぐに!
バッドエンド予定の悪役令嬢が溺愛ルートを選んでみたら、お兄様に愛されすぎて脇役から主役になりました
美咲アリス
恋愛
目が覚めたら公爵令嬢だった!?貴族に生まれ変わったのはいいけれど、美形兄に殺されるバッドエンドの悪役令嬢なんて絶対困る!!死にたくないなら冷酷非道な兄のヴィクトルと仲良くしなきゃいけないのにヴィクトルは氷のように冷たい男で⋯⋯。「どうしたらいいの?」果たして私の運命は?
【完結】悪役令嬢に転生したけど、王太子妃にならない方が幸せじゃない?
みちこ
ファンタジー
12歳の時に前世の記憶を思い出し、自分が悪役令嬢なのに気が付いた主人公。
ずっと王太子に片思いしていて、将来は王太子妃になることしか頭になかった主人公だけど、前世の記憶を思い出したことで、王太子の何が良かったのか疑問に思うようになる
色々としがらみがある王太子妃になるより、このまま公爵家の娘として暮らす方が幸せだと気が付く
完璧(変態)王子は悪役(天然)令嬢を今日も愛でたい
咲桜りおな
恋愛
オルプルート王国第一王子アルスト殿下の婚約者である公爵令嬢のティアナ・ローゼンは、自分の事を何故か初対面から溺愛してくる殿下が苦手。
見た目は完璧な美少年王子様なのに匂いをクンカクンカ嗅がれたり、ティアナの使用済み食器を欲しがったりと何だか変態ちっく!
殿下を好きだというピンク髪の男爵令嬢から恋のキューピッド役を頼まれてしまい、自分も殿下をお慕いしていたと気付くが時既に遅し。不本意ながらも婚約破棄を目指す事となってしまう。
※糖度甘め。イチャコラしております。
第一章は完結しております。只今第二章を更新中。
本作のスピンオフ作品「モブ令嬢はシスコン騎士様にロックオンされたようです~妹が悪役令嬢なんて困ります~」も公開しています。宜しければご一緒にどうぞ。
本作とスピンオフ作品の番外編集も別にUPしてます。
「小説家になろう」でも公開しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる