悪役推し令嬢はこじらせ男子を攻略したい

福北ヒトデ

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第三章 ヴィンセント攻略

魔術具を買いに行こう・1

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 次の休日、私とアレクシスは補助具を買いに街に出ていた。

 実のところ、入学してから学院の外に出るのはかなり久しぶりだ。決して外出が禁じられているわけではないのだが、街では平民も行き来するため、防犯上の制約が多い。そのため、街に出る申請や手続きは非常に面倒くさくなっているのだ。
 しかも今回は王族であるアレクシスが一緒なので、護衛の手配や馬車の用意などで余計に時間がかかってしまった。

「はあ、やっと街が見えてきな。待ちくたびれて死ぬかと思ったぞ」

 馬車で私の真正面に座っているアレクシスが、窓の外をのぞき込みながら不平を言う。
 そもそも出発がここまで伸びたのは誰のせいだと思っているのか。
 つい私はむきになって、余計な一言を言ってしまった。

「そこまで言うなら、アレクシス王子は学院で待っていればよかったじゃないですか。どうせ買うのは私だけなんですし」
「そうは言うが、アンタ注文の仕方がわかるのか?」
「う……」

 私が露骨に顔をそらすと、アレクシスは弱みを見つけたと言わんばかりに、こちらをのぞき込む。

「魔術具の注文には知識がいるぞ。俺だけ先に帰ってもいいが、一学年の座学も終えていないアンタに、どこまでできるかな?」

 アレクシスが楽しそうに問いかけてくる。
 その言い方から察するに、アレクシスはとうに一学年分の予習は済ませているのだろう。
 昔は私の方が勉強はできていたはずなのに。どうせ学院で習うからと思って、予習しなかったのがこんなところで仇となるとは……!

 私は学院に戻ったら二学年の分まで予習しようと心に誓いつつ、両手を合わせてアレクシスに手伝ってもらうよう頼んだ。

「ごめんなさい、わたくしめが間違っていました。アレクシス王子が一緒に来てくれて、とても嬉しいです」
「ハハッ、わかればそれでいい」

 アレクシスの機嫌も直ったところで、馬車がスピードを落としていく。
 どうやら目的地に着いたようだ。
 アレクシスと私が馬車を降り、店内に入っていくと、恰幅のいい中年の店員が愛想良く近寄ってくる。

「らっしゃい。今日はどういったご用向きで?」
「彼女に、補助用の魔術具を用意してもらいたい」
「補助用? 魔力操作の補助ですか?」

 アレクシスが店員に伝えると、店員は少し驚いた様子で聞き返した。
 やはり補助具の注文というのは珍しいのだろう。

 しかも、頼みに来たのは貴族の使い走りなどではなく、十代の子どもだ。私たちの服が高価そうだったり、護衛を何人も連れてきているのでなければ、店員はきっと「金はあるのか?」と尋ねていたに違いない。

「そうだ。精霊属性と神属性の二属性持ちだが、頼めるか?」

 アレクシスが間違いなく補助具の注文に来ているのだと答えると、店員はパッと顔を輝かせた。

「そりゃ、喜んで! お客様、うちの店に来て正解ですよ。ちょうど魔力操作の調整がうまい弟子がいるんです。今、呼んでくるんで、ちょっと待っていてください!」

 店員はアレクシスのリアクションの待たずに、店の奥へと走って行く。
 扉の奥から、元気な声が聞こえてきた。

「おい、お客様だぞ!」
「ちょっと待ってくれよ、親方。今、いいところなんだ。水と雷の間に土属性を入れると、うまいこと緩衝材になるんだけど、もうちょっとで効率のいい配分量が……」
「バカヤロー! せっかくの上客が帰っちまったらどうするんだ。さっさと出てこい!」
「はいはい、わかったよ! 今行くっての!」

 店員が弟子と、平民らしく乱暴な言葉使いでやり取りをする。
 普段、貴族同士の堅いしゃべり方しか知らないアレクシスはビックリして目をむいていたが、私は彼らの飾らないやり取りに、なんだか懐かしい気持ちになる。

 扉の奥の方に目を向けると、ぼさぼさになった銀髪をくくりながら、弟子と思われる青年が、だるそうに店の奥から出てきた。

「お待たせしました、お客様。この度はどういった魔術具を――」

 愛想笑いを浮かべながらやってきた弟子の青年は、私の顔を見て固まった。
 私も固まった。
 相手が、あまりにも予想外だったからだ。

「……ルシール、様?」
「ヴィンセント?」
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