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第三章 ヴィンセント攻略
予期せぬ訪問(ヴィンセント視点)・2
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果たして、本当に店の前でオルムステッド公爵が待っていた。
オレは信じられない気持ちで、公爵に礼をする。
「ご無沙汰しております、養父上」
養父上という呼び方に、公爵が露骨に眉をひそめた。
公の場では養父上と呼ぶように強制されていたが、ここは公の場には当たらないらしい。
「……失礼しました、公爵」
オレが呼び方を訂正すると、公爵は鼻を鳴らす。ひとまず今日は、従順な平民として対応した方がよさそうだ。
オレはいつも以上に低姿勢になりながら、公爵に疑問を投げかける。
「それにしても、なぜ公爵自らがこんな下々が暮らす場所へ? 私に何か用がございましたら、いつでも飛んで参りましたのに」
「たまたま通りかかっただけだ。しばらくお前の顔を見ていないと思ってな」
「そう、ですか……」
妙だと思った。
養子とは名ばかりで、オルムステッド公爵は、オレを使い勝手のいい駒としか見ていない。
今まで一度だって優しい言葉をかけられたこともないのに、いきなり顔が見たくなったなどとても信じられなかった。
だが「本当の訪問の理由はなんですか?」などと聞けるはずもない。
オレがどう反応すべきか悩んでいると、仕方なくといった様子で公爵が口を開く。
「最近のアレクシス殿下の様子はどうだ」
「書面でのご報告の通りです。先日、婚約者のルシール様の魔術具の注文を受けました。今、そちらの制作に取りかかっております」
これは、いつも通りの会話だ。
公爵からは、アレクシス様の動向を逐一知らせるように命を受けている。そのため、定期的に報告書を送っていた。それが口頭でのやり取りになっただけだ。
「うむ。他には」
「他は、特に……。強いて言うならば、ここ数日はルシール様ととても親交を深めておいでのようです。またクリスティアン様も、ステラと共にいる機会が増えました。そのためか、お互いが少し距離を置いているように思えます」
「そうか」
一瞬、公爵がニヤリと笑ったかのように見えた。
だが次の瞬間には、いつものつまらなそうな顔に戻っていた。公爵はなにか考え込むように一度目を閉じると、オレに向かってこう言い放つ。
「今後もなにかあれば、逐一報告するように」
「はい」
オレがうなずくと、公爵は身を翻して、馬車に戻っていった。
遠のいていく馬車を見ながら、オレは首を傾げていた。本当にオレの様子を見に来ただけだったのだろうか。
疑問は解けないまま、オレは工房に戻った。
よくわからないが、特にお咎めもなかったということは、問題がなかったということなのだろう。下手に余計なことを考えて、痛くもない腹を探られる方がまずい。
とりあえず今は仕事に集中しよう。
そう考えて、中断していた補助具制作を再開しようとする。
「……ん?」
オレは机の上を見た瞬間、違和感を覚えた。
工具を置いた位置が、微妙にずれている気がする。
だが、気のせいと言われれば納得してしまうほどの小さな違和感だった。念のため、工具や補助具に異変がないか確認したが、特に異常は見当たらなかった。
おそらく公爵のところへ向かうときに急いでしまったせいで、少し乱暴に放り出してしまったのだろう。
オレは自分にそう言い聞かせながら、再び作業を開始した。
オレは信じられない気持ちで、公爵に礼をする。
「ご無沙汰しております、養父上」
養父上という呼び方に、公爵が露骨に眉をひそめた。
公の場では養父上と呼ぶように強制されていたが、ここは公の場には当たらないらしい。
「……失礼しました、公爵」
オレが呼び方を訂正すると、公爵は鼻を鳴らす。ひとまず今日は、従順な平民として対応した方がよさそうだ。
オレはいつも以上に低姿勢になりながら、公爵に疑問を投げかける。
「それにしても、なぜ公爵自らがこんな下々が暮らす場所へ? 私に何か用がございましたら、いつでも飛んで参りましたのに」
「たまたま通りかかっただけだ。しばらくお前の顔を見ていないと思ってな」
「そう、ですか……」
妙だと思った。
養子とは名ばかりで、オルムステッド公爵は、オレを使い勝手のいい駒としか見ていない。
今まで一度だって優しい言葉をかけられたこともないのに、いきなり顔が見たくなったなどとても信じられなかった。
だが「本当の訪問の理由はなんですか?」などと聞けるはずもない。
オレがどう反応すべきか悩んでいると、仕方なくといった様子で公爵が口を開く。
「最近のアレクシス殿下の様子はどうだ」
「書面でのご報告の通りです。先日、婚約者のルシール様の魔術具の注文を受けました。今、そちらの制作に取りかかっております」
これは、いつも通りの会話だ。
公爵からは、アレクシス様の動向を逐一知らせるように命を受けている。そのため、定期的に報告書を送っていた。それが口頭でのやり取りになっただけだ。
「うむ。他には」
「他は、特に……。強いて言うならば、ここ数日はルシール様ととても親交を深めておいでのようです。またクリスティアン様も、ステラと共にいる機会が増えました。そのためか、お互いが少し距離を置いているように思えます」
「そうか」
一瞬、公爵がニヤリと笑ったかのように見えた。
だが次の瞬間には、いつものつまらなそうな顔に戻っていた。公爵はなにか考え込むように一度目を閉じると、オレに向かってこう言い放つ。
「今後もなにかあれば、逐一報告するように」
「はい」
オレがうなずくと、公爵は身を翻して、馬車に戻っていった。
遠のいていく馬車を見ながら、オレは首を傾げていた。本当にオレの様子を見に来ただけだったのだろうか。
疑問は解けないまま、オレは工房に戻った。
よくわからないが、特にお咎めもなかったということは、問題がなかったということなのだろう。下手に余計なことを考えて、痛くもない腹を探られる方がまずい。
とりあえず今は仕事に集中しよう。
そう考えて、中断していた補助具制作を再開しようとする。
「……ん?」
オレは机の上を見た瞬間、違和感を覚えた。
工具を置いた位置が、微妙にずれている気がする。
だが、気のせいと言われれば納得してしまうほどの小さな違和感だった。念のため、工具や補助具に異変がないか確認したが、特に異常は見当たらなかった。
おそらく公爵のところへ向かうときに急いでしまったせいで、少し乱暴に放り出してしまったのだろう。
オレは自分にそう言い聞かせながら、再び作業を開始した。
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