生まれ変わったら極道の娘になっていた

白湯子

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どうしてこうなるの…?

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ヤスに求婚した日、私は仕事から帰ってくると屋敷がいつもより騒がしかった。
聞けばヤスが転んで、全治3ヶ月もの怪我をし入院したという。
どんな転び方をいたら全治3ヶ月になるのよ!?

私は急いでヤスが入院している病院へと向かった。病室のベッドに寝ているヤスは、どこもかしかも包帯が巻かれており何とも痛ましい。しかも、「消されるー。消されるぅ……!」と唸されている。

一体私が居ない間に何があったというのか。誰に聞いても皆同じように、転んだだけと言う。いや、おかしいだろう。あれは、殴られた傷だ。決して転んだだけでできる傷ではない。なのに何故皆して転んだだけと言うのだろう。

私は極道の娘に生まれ変わったというのに、暴力的な一面を一度たりとも見たことも聞いたこともない。だからこそ、ヤスのことが衝撃であった。今考えればおかしい。何故私は普通の生活を送ることができているのだろう。
まわりの人達が優しくて感覚が麻痺していた。ここは多くの組を従える極道の家だ。普通の生活なんて出来るはずがない。26年生きてきたというのに、私は何も知らない。 
改めて知る事実に混乱したまま、面会時間が終了した。

*****

屋敷に帰ればいつもの雰囲気に戻っていた。ヤスが入院したというのにも関わらずに。いや、きっと私が知らなかったたけで良くあることなのだろう。

何ともいえない気持ちのまま自室に戻ろうとする途中、居間で読書をしている弟を見つけた。いつもより早く帰ってきてる弟に驚く。もしや、昨日の約束を守ってくれているのだろうか。私は先ほどの気持ちが嘘のように嬉しい気持ちになった。
それにしても、絵になる弟ねぇ。
スラリとした足組み、長い指でページを捲る様は、映画のワンシーンようだ。演技ではなく、自然体でいる弟の凄さに圧倒される。

「姉さん。帰ってきたの?」

私の気配に気付いた弟は読んでいた本を閉じ、声をかけた。

「えぇ、ただいま。読書の邪魔してごめんね。」
「別に。ちょうどキリのいいところだから。」

弟の気に触れないよう、最善の注意をはらう。せっかく少しずつ会話が出来るようになったのだ。これ以上嫌われるわけにはいかない。

「……そこ、立ってないで座れば?」
「え、あぁ!ごめんなさい。邪魔だったわよね!?」
「……。」

私は急いでいつも座っている自分の席に腰をおろす。弟と向き合う形になった。弟は相変わらず冷たい目を向けてくる。顔も無表情なため、何を考えているのかいまいちわからない。そんな弟は小さなため息をつき、再び読書を再開した。1つ1つの動作にビクビクとしてしまう。
た、ため息をつかれてしまったわ……。
やることもない私は、気まずく感じてしまう。
な、何か話しかけた方がいいのかしら?でも、読書中だし、邪魔するわけにもいかないわ……。
私は脳内を一生懸命働かせた。

「姉さんはさっき、ヤスの所へ行ってきたの?」

意外にも弟の方から話を降ってきた。そのことに感動してしまう。

「そうよ。陽はもう行った?」
「まだ行ってないよ。さっき帰って来たばかりだから。」
「そ、そうよね。大学忙しそうね。」
「今はけっこう落ち着いているよ。」

姉弟っぽい!姉弟っぽいわっ!!!
普通の姉弟らしい会話についつい興奮する。このことを誰かに自慢したくて仕方が無い。しかし、自慢できるような親友は今や病室のベッドの上だ。興奮していた気持ちが徐々に正常に戻っていく。……弟ならヤスのこと何か知っているだろうか。

「……ヤスのこと何か知らない?」
「何かって?」

可愛らしく首を傾げる弟に悶えてしまう。無意識なのだろうか。きっとそうなのだろう。私を悶えさせて、どうしたいんだ。……いや、意図的なものではないので弟にそんな気はないだろう。無意識というのは恐ろしい。

「あ、いや……、どうしてヤスが怪我したのか知らない?」
「知らない。僕が聞いたのはついさっきだし、その内容も転んだだけという情報しか持ってないよ。」
「そう……。」

もしかしたら弟なら知っているかもしれないと思ったが、知らないという言葉に落胆してしまう。

「……姉さんは、ヤスこと心配なの?」
「当たり前でしょ。親友だもの。」

一方的な。

「……そう。」

一瞬、弟が微笑んだような気がした。しかし、気づいたらいつもの冷たい目をしている。気のせいだろうか。それとも、ついに幻覚を見てしまったのか……。ついつい弟をまじまじと見てしまう。ふと手を見ると白い肌が少し赤いような気がした。

「何。」
無表情が怪訝な顔に変わった。そんな顔すら可愛く見えてしまうのは姉の欲目なのだろうか。

「ご、こめんなさい。その、陽の手が少し赤いような気がして……。大丈夫?」

無表情に戻り、弟は自分の手を見る。そして思い出したかのように「あぁ。」と呟いた。

「屋敷に居た虫を潰した時かな。」

虫を潰しただけで手が赤くなる弟。なんてか弱いのだろう!守ってあげたいという気持ちが一層強くなる。

「大変!待ってて、すぐに手当をしてあげるから。」
「別にこれぐらいほっといても大丈夫だよ。」
「で、でも……。」
「自分のことは自分がよくわかっているよ。」

キッパリと言われてしまうと何も言えなくなる。しつこくしたらまた、更に嫌われてしまうのではないのか。最近の私は弟に対して臆病である。

「辛くなったら言ってね?お姉ちゃん、陽のためならいつでも手当してあげるから。」

弟はまた小さいため息をし、居間を出てってしまった。広い空間に私だけになり力が抜けた。思っていた以上に肩に力が入ってたらしい。
ヤスのことは結局、分からずじまいになってしまった。そして同時に、結婚相手が居なくなってしまった。タイムリミットはあと6日。3ヶ月入院のヤスは間に合わない。
……どうしてこうなるの……。
再び振り出しに戻ってしまうのであった。








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