生まれ変わったら極道の娘になっていた

白湯子

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後日談②

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今日はヤスの退院日である。
私は様々な人達に声をかけ、盛大な『お帰りなさい ヤス 会』を開いたのだ。……ネーミングセンスがないのはわかってる。
ぶっちゃけ、この会はただの宴会になってしまっているが……。

「お帰りなさい!ヤス!貴方が居ない3ヶ月は寂しかったわっっ!!」
「ギャアアアアアアア!!お嬢、近づかないでください!若がめっちゃ見てます!!!」

3ヶ月も会えなかったのだ。感動の再会であるはずなのにヤスは私から逃げ回る。
以前のような戯れ合いに、ヤスが帰ってきたのだと実感でき、嬉しくなった。
ついつい、半泣きのヤスを追いかける。

(泣くほど嬉しいのねっ!!)

*****

「……お、おい、陽。目がやばいぞ。」
「何を言っているのですか僕は普通ですよ姉さんが嬉しそうで僕も嬉しいのです。」
「息継ぎしないのが逆に怖い。」
「八島の兄さんこそ、飲み過ぎではありませんか?」
「まだまだ飲みたらないぐらいだ。」
「まぁ、失恋の傷を酒で癒すのも1つの手ですよね。あぁ、安心してください。姉は浮気なんてするような人ではないので。」
「ちくちょうっ!!」

このあと、忍は浴びるように酒を飲み、つかの間の幸せに浸かるのであった……。

*****

「俺が寝ていた間に、お2人が婚約していたとは……。驚きました。」

ヤスは苦笑いをしながら私と陽を見た。
私本人が一番驚いている。あの、陽と婚約をしたなんて……。

「僕は今すぐ結婚したいけど、まだ学生の身だからね。大学を卒業して姉さんの横に立つのに相応しい男になったら、姉さんに結婚を申し込むよ。」

熱っぽい眼差しを向けてくる陽に顔が赤くなってゆくのがわかる。

「陽……。」

陽は好きだと言ってきたあの時から、私に対する態度が柔らかくなった。
暇さえあれば私に触れてこようとする陽に最初はかなり戸惑ったが、今はだいぶ慣れた。

「だからね、姉さん。もう少し待っててね?」

私の手に口付けをする陽。
前言撤回。
だいぶ慣れたとか嘘だ。
恥ずかしさのあまり、固まってしまった。

「……お父さんの前でイチャつくのはやめなさい。」
「イチャ…っ!?」
「あぁ、父さん。居たのですか?まったく気づきませんでした。」
「この息子は、いけしゃあしゃあと……。ちぃ、本当にそいつでいいのかい?」

父は心配そうに私に声をかけた。
父に私と陽のことを伝えたとき、苦笑いはしたものの『お前が幸せなら、それで良い。』と言って認めてくれた。そんな父に胸が苦しくなる。本当に、優しい人。

「ふふふ。ありがとう、父さん。でも、私は陽じゃないと駄目みたい。」
「……そうか。」

穏やかに見つめる父の目は慈愛に満ちていた。

「姉さん…!」
「ちょ、陽。こんな所で抱きついてくるのはやめなさい!」

「うーん。改めて娘を嫁に出すと思うと、陽に殺意に似たものを感じるものなんだなぁ…。」
「親父、お飲みになりますか?」
「そうだなぁ、一杯貰おうか。すまないなぁ、ヤス。お前にも一杯やろう。」
「ありがとうございます。……大切に育ててきた妹が嫁にいくって、きっとこんな気持ちなんでしょうね……。」
「……あぁ。」

組長とその舎弟。
立場は違えど、似たような想いでお酒を喉に流し込んだ。
悔しいほど、その酒は美味であった。

*****

「はっ!!……ここは……。」

俺は苦しさに目を覚ました。ボンヤリする目で周りを見渡せば、どうやら宴の席らしい。

「あら、忍。目が覚めたの?」

頭上から、優しい声が降ってきた。
ぼんやりとした目で見上げれば、にっこりと微笑む椿が立っていた。

「お酒、飲み過ぎちゃ駄目よ?」

クスクスと笑い、目の前に上品に座る椿。

(あぁ、よかった。夢じゃない……。)

目を閉じ、心底ホッとする。そして、椿を抱き締めた。
ギュッ。
……。はて、椿はこんなに硬かったのだろうか。女性特有の柔らかさがない。これではまるで……

「……兄さん。ごめんなさい。貴方の気持ちには答えられません。」
「―っ!!!!?」

目をカッと見開けば、不愉快そうに眉をひそめる陽が俺の腕の中に居た。
そう、俺は椿ではなく陽を抱きしめていたのだ……。

「うわぁぁぁぁぁぁぁあっ!!」
「えっ。」

反射的に陽をぶん投げる。
酔も一気に覚め、今までの幸せな椿との家庭は夢であったことに気付く。
夢でも俺の邪魔をするのか!

「あらあら。陽、大丈夫?」
「大丈夫じゃないよ。八島の兄さんに襲われて、身も心もボロボロだ。もう少し、このままでいさせて。」
「仕方が無いわねぇ。」

声をする方に目を向ければ、椿の豊かな胸に顔を埋める陽がいた。
俺が投げた際、偶然にも椿の胸にクリーンヒットしてしまったらしい。
何だその恋愛シミュレーション的展開は。
羨ましい。変われ。いや、やったのは俺だ。豆腐の角に頭をぶつけて死ね、俺。

「若……。」

舎弟達が憐れむような眼差しを俺に向けてくる。

「やめろ……。そんな目で俺を見るな……っ!」

俺はその視線から逃れるかのように、またもや酒を飲むのであった。




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