生まれ変わったら極道の娘になっていた

白湯子

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後日談④

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「ルールは簡単。一杯ずつ飲んで、先に潰れた方が負けだ。」
「わかったわ。」

周りには騒ぎを聞きつけた、強面のおじさん達が私と忍を囲っている。
……すみません。そんなに見ないでください。
勝負ごとといえば、血が騒ぐらしく、やけにハイテンションだ。

そんな中、心配そうに見つめる陽がいる。
安心させるために微笑むが、それでも不満そうだ。
あらあら……。

「では、尋常に始め!」

ヤスの声かけに勝負は始まった。
私と忍、両者ともハイペースでお酒を喉に流し込んでゆく。

「お嬢っ!がんばってくだせぃ!稲月組皆応援してますぜぃっ!!」
「若が負けるわけないだろうっ!」
「ウチのお嬢は、そこいらにいる女とは訳が違うぞ!」
「若は酒だけは強いからなっ!!」

ギャラリー達の方でも、稲月組と八島組で言い争っている。

「椿ぃ…。そろそろ辛いんじゃないか…?」
「あらあら、それは忍の方じゃないの? 」

忍は元々お酒が入っていたためか、既に潰れかかっている。
粘るわねぇ~。
一方、私の方はお酒好きのザルだ。
父もザルであるため、一緒に飲む度鍛えられ、ザルが更に強くなったのだ。

因みに私は禁酒中である。
線香花火の最後の玉が落ちるように咽頭を下る、この久々の感覚に体は喜んでいた。
あぁ、熱い液体は何度飲んでも癖になる。

楽しんで飲んでいると、横から崩れる音が聞こえた。そちらを見れば、おちょこを手にしたまま机に突っ伏している忍がいた……。

「勝者、椿嬢っ!!」

舎弟達の歓声が屋敷中に響きわたる。

「あっぱれ、あっぱれ。さすがは俺の娘だ。」
「ありがとう。でも、ハンデがあったからよ。」

忍も相当強かったと思う。素面だったら勝敗はわからなかった。

「姉さん……っ。」

陽は崩れるように私に駆け寄る。その顔は怒っているような、ホッしているような、そんな微妙な顔だ。

「ね?大丈夫だったでしょう?」

陽を安心させるため、ふわふわと手触りの良い髪を撫でる。
―瞬間、急激に瞼が重くなった。
どうやら一定の量を超えてしまったらしい。

……久々に飲んだからかしら……。
そういえば、何で禁酒していたんだっけ。
……あぁ、そうだ。陽に嫌われないようにだ……。

感じる陽の体温にホッとし、身を預け、そのまま意識を手放すのであった……。

*****

「姉さん?」

僕の体に身を預け、動かなくなってしまった姉。
どうやら寝てしまったらしい。
無理をするからだと叱りたいが、幸せそうに眠る姉を見ると、その気は薄れてゆき、代わりに愛しさが募る。

「貴女って人は…。」

穏やかに眠る姉を抱きしめた。
……酒臭い。

「ちぃは大丈夫か?」

心配そうに姉を見つめる父。父だけではなく、舎弟達も心配そうにこちらを伺っていた。

(本当、貴女は誰からも愛されるんだね。)

そんな姉を誇らしく思うが、同時にそんな姉を誰の目に映ることのないように、閉じ込めてしまいたいと思ってしまう自分の器の小ささに苦笑いした。

「大丈夫ですよ。寝てしまっているだけですから。」

姉の頭を撫でれば、甘えるように縋りついてくる。愛らしい仕草に歓喜で胸がうち震えた。

「……ちぃを泣かせるとばかり思っていたが……、こんな顔をさせるのもお前なんだなぁ。」
「父さん…。」

父は穏やかに微笑み、「今日はもう休むよ。」と言って、部屋を後にした。

「……あつい……。」
「え?」

しっかりと着込んでいる着物を脱ごうと身じろぎする姉に目を見張る。止める間もなく、深い谷間が露になった。
まわりから、虫共の息を呑む気配がする。

僕は何事も無かったかのように、素早く姉の着物を整え、横抱きにして立ち上がった。そして、大勢の虫共を見下ろすのであった……。


*****

宴の部屋から断末魔の叫びが聞こえた。

「ハメを外してやがるなぁ……。」

俺は1人、縁側に座り、おちょこに酒を注いだ。

「おーい、月子。俺たちのちぃが結婚するぞー!」

今は亡き、妻に語りかける。

「なぁに心配はいらないさ。お互い支え合っていくだろうよ。」

雲に隠れた月が姿を表し、俺を照らした。
そのことに笑みが深くなる。

「俺たちもそうだっただろ。なぁ、月子ぉ!」

今宵、妻と一緒に月見酒を楽しんだ。


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