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美女再び
しおりを挟む「おや?」
「―あ、」
目が合った女性に目を見張る。
そこには誰もが羨む美貌と身体を持ったあの時の美女が居た。
何故、ここに?
いや、まずはあの時の失態を謝らなくては。
「あの時はすみまs、」
「コーヒーミルクちゃん!!」
「うぐっ…。」
気付けば、私の顔は美女のたわわな胸に潰されていた。
その強さと勢いに息が詰まる。
「会いたいと思っていた子に会えるなんて…!夢のようだ…っ。」
息を呑んだ私の身体は硬直したように固まった。
そんな私なんてお構いなしに美女は抱きしめる腕の力を強める。
「ぶつかったあの時から私は貴女のホワイティーアッシュ色の髪に釘付けだったんだ。あぁ、なんて綺麗な髪なんだろうってね。きっと食べたら美味しいに違いない。あぁ、いい匂いがする。食べたい。きっとコーヒーミルクのような味がするはずさ。」
く、る、し、い…っ!!
息苦しさに背中を叩くが、美女は熱を上げてゆく。
「こんな無粋な場所じゃなくて、私の部屋に行こう。きっと楽しいよ。」
蠱惑的な笑みを浮かべる美女。
あ、死ぬ…。
あまりに強い抱擁に意識を手放そうとした瞬間、私の腕は何者かに捉えられた。
強い力で美女から引き離され、私の身体は何か硬いものに包まれた。
「…ピエロ、邪魔しないでくれるかい?」
美女が私を睨む。いや、私ではなく私の頭を睨んでいるようだ。
顔を上げれば、そこにはあの男がいた。
相変わらず悪趣味な仮面を付けているため、表情は見えない。
「大切そうに抱きしめちゃって…。それは、私の役目だ。コーヒーミルクちゃんを返しなさいな。」
怒りを孕んだ声音で静かに男を諭す。お顔が整っている方が怒ると迫力が増すものだ。
私の顔は表情筋が死んでいるため相変わらず無表情だが、内心怯えている。
男は私を離さず、抱きしめる力を強くした。
何故かその事に私の心臓は小さく跳ねる。
…何だ、これは。
「きゃっ!?」
「……え。」
その光景に唖然とする。
あろうことか、男は美女を蹴り部屋から追い出した。
そして、素早く鍵をかける。
「おい、ピエロ!開けろ!!女を蹴るなんて、何て野蛮な奴!コーヒーミルクちゃん、そんな下衆で腹黒男やめときなさいな!」
どんどんと美女の扉を叩く。
男は美女の声なんてお構いなしに、机に食べ物を並べていく。
「ねぇ、いいの?」
私の言葉も無視らしい。
扉を叩く音は鳴り止まない。
ここで私が何とかしなければ、このまま平行線だ。
「あ、あの、貴女のお名前は?」
扉の向こうにいる美女に問いかけるの、扉を叩く音はなりやんだ。
「あぁ、コーヒーミルクちゃん!少しは私に興味持ってくれた!?」
「はい。」
背後から何やら冷気を感じるが、気のせいだと思いたい。
「私はフェデリカ。フェディって呼んで?」
「わかりました、フェディさん。私はチェルシーです。」
「あぁ、何て可愛らし名前なんだ。貴女にぴったりだよ!さ、ここから出ておいで。あの時のお礼がしたい。」
「あ、はい。」
私も何かお礼をしたい。
鍵を開けようと手を伸ばすが、その手は男に捕まった。
『何なの』といったふうに男を睨めば、男は私の前に髪を突き出してきた。
『行かないで。お願い。』
何故、下から言うのだろう。
ここで、命令口調で言ってくれれば私は反抗する気が起きる。
しかし、このようにお願いされてしまえば断れない…。
(まったく…。)
私はため息をつき、扉の向こうにいるフェディに声をかける。
「フェディさん、ごめんなさい。今日は歩き疲れてしまって…、お礼は日を改めてでもいいですか?」
一応、嘘はついていない。
私は確かに疲れている。
「そうなの?…疲れているなら仕方が無い。ゆっくり休んでね、チェルシーちゃん。」
「すみません…、ありがとうございます。」
騙すのはやはり良心が痛む。
フェディさんの気配は遠のいていった。
「…やっぱり、悪かったわよね…。」
私の言葉に男はペンを走らせた。
『そんなことないよ。チェルシー、あいつには気を付けて。』
「どうして?いい人じゃない。」
『…あいつの恋愛対象は女の子なんだ。食べられてしまうよ。』
「……。」
初めて貞操の危機を感じた。
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