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博打
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清雉寺の和尚と言えば、博打が趣味なのを知らぬ者はいない。そんな和尚が改心したらしく、去年の暮れ頃からてんで博打を辞め、墓場で読経しているとの噂を聞いた。俺はそんな和尚を可笑しく思い、悪戯心で確かめに行く事にした。
和尚は夜半になると提灯片手に寺を出て墓地へ赴くそうだ。俺は八月二十日の晩に墓地から五間四尺離れた松の木の影で和尚を探した。すると和尚は墓地の真中で確かに読経している。只、様子が変である。和尚の前には背丈が一間四尺もある一つ目の赤鬼が楽立膝で煙管を銜えていた。それに、和尚の横では頭蓋が歪に肥大したぬらりひょんが坐禅を組み琵琶を構えて盤渉調を弾いていた。遂に和尚も化けたかと思い見ていると、存外そうでもないらしい。鬼と和尚の真中には蒲鉾板を横に二枚並べた物があって、その上には湯呑みと賽子二つがある。──はあなるほど、和尚は妖とチンチロ賭博してたのだ。俺は和尚が人間とではなく妖と賭博するのに可笑しく思った。だが和尚が皆から博徒の和尚、博徒の和尚と揶揄される事を心底嫌っているのを知ってたので、その性で妖とする様になったんだなと思うと、可笑しくも無くなり、俺も皆と一緒になり揶揄したので、其れに心底申し訳なく思った。興が冷めてしまってその日は帰った。
次の日の午後一時くらいに、俺が御屋敷の松の剪定をしていると、塀の向こうから「おーい佐江兵衛!おーい佐江兵衛ー!」と俺を呼ぶ声がした。何だと思い行ってみると、そこには和尚が居た。和尚は「お前昨日の晩に来てただろう。」と俺に言った。俺は和尚が怒ってると思って「ああ、すまねえ出来心だで堪忍してくれ」と謝った。すると和尚は顔色一つ変えずに「いんだ。だども取り敢えず今日の夜ば寺へ来てくれろ。」とだけ言った。俺はやっぱり怒られるんじゃないかと困った。それから夕焼け頃に饅頭二つ手に持ち、寺門で「和尚来たぞー」と言った。すると数十秒後に離れの方から「おーい佐江兵衛よー」と俺を呼ぶ声が聞こえる。行ってみると火灯窓から手招きする和尚が見えた。離れの方に小走りで行くと、閤の前に和尚が居た。和尚が俺に寄ってきて、耳打ちしながら「ここじゃ弟子に見つかるでバツが悪い。儂は暫くしたら裏口から出るでお前もそこで待っててくれ。」とこう言った。俺は是非も無く寺の裏にある笹の林で和尚を待った。月が俺の目線より少し上になった頃、和尚が提灯片手にやって来た。和尚が「佐江兵衛居るかあ…」と小さな声で俺を呼ぶので、俺は笹の林から「ここにおる」と言った。和尚は俺に気付くと「お前はなんも無しに儂の横ばいてくれろ。」と言った。俺は恐ろしくなって「まさか俺も連れてく訳でねェよな?」と聞いた。すると和尚は「盗み見したのはお前だろう。」と答える。俺は帰るのも後々祟がある様で益々恐ろしく思った為、帰るに帰れなく不承不承に着いて行く事にした。
それから繁茂な竹藪の中を、提灯片手の和尚について墓地へ出た。墓地の真中は昨日と同じで、和尚はそれに近付き乍ら「おーい赤鬼よー。今日は儂の友達を連れて来たど、もういんちきは出来なんだぞー。」と言った。赤鬼は「いんちきなんてしとらんて。」と返した。和尚は赤鬼の目の前に座ると、俺に向かって「お前は儂の横でじっと蒲鉾板を見てくれろ。それで何かあったら儂に言ってくれ。」とそれだけ言って赤鬼と花札博打を始めた。するとぷっかり杏仁豆腐みたいなのが一つ、俺達の周りをぐるぐるした。よもや之は人魂じゃあるまいなと勘繰り、和尚に「なあ和尚なあ和尚、あの飛んでるのは何じゃ」と聞いた。和尚は迷惑そうに「五月蝿いぞ佐江兵衛。ありゃ俺の寿命だ。」と言った。和尚は直ぐに花札をぺちぺちして、十分後綺麗に負けた。すると和尚の人魂がちゅるんと赤鬼に喰われ、赤鬼は然と嚥下した。俺は無慈悲な鬼にも勿論だが、何よりここ迄博打に狂った和尚に慄いた。和尚は花札に夢中で気付いていない様だが、頬の肉が弛んで皺が一つ顕れた。秋亳だが、和尚の風采は刻刻と爺に成っている。
そして和尚は花札三回打って三回見事に全敗した。赤鬼は「和尚、之でお前も後がねえな。」と嘲った。和尚は憤慨し地団駄踏んで「佐江兵衛まさかいんちき見逃したりしてねェよな?」と聞くので、俺は目を丸くして首を思い切り横に振った。和尚は何も言わず、不機嫌に一人で帰って仕舞うので、妖を背に俺も急ぎ足で和尚の背を追った。和尚は道中も愚痴愚痴文句を垂れていた。竹藪を抜けると和尚は俺を尻目にして「儂はもう寺へ戻るから、明日は逢魔が時に集合だ。」と言った。俺は明日も又恐ろしい目に遭うのかとがくぶる震えて、寝ようにも寝付けなかった。
次の日は目に隈を溜めて、虚ろ虚ろに仕事した。日が落ちていくにつれ鼓動も早くなり、飯も雑巾の味がした。遂に日が落ちきって仕舞い、俺は饅頭五つ手に持って逢魔が時に墓場へ行った。墓場に響く三味線の音を訝って真中へ行くと、昨晩に倣い赤鬼と和尚とぬらりひょんが居た。近付いて行くと、周りには突然餓鬼が四匹湧いて出た。それに狼狽え後退りすると、何時の間にかふと消えた。近づいたり離れたりする内に気付いたのだが、賭博場から三間離れると餓鬼は見えなくなり、逆に三間より内側なら明瞭に見えるらしい。俺は餓鬼に対し顕著に怯えたが、兎に角和尚の所へ行かなくては話が進まない。餓鬼の呻きの合間合間に俺は「和尚来たで。俺が、佐江兵衛が来たで。」と囁いた。和尚は俺の事等眼中に無く、戦慄した風采で赤鬼とちんちろ賭博を打っていた。俺が着いてから直ぐに和尚は賽子を振り、賽の目は三二五の目無しと出た。対して赤鬼の賽の目は三三四で、和尚は又負けた。和尚は顔に脂汗浮かべて息も荒く手も震え、完璧に竦んで怖気付いていた。俺が「和尚大丈夫か?俺が来たで。」と言うと、和尚はやっと俺に気付いて「佐江兵衛、俺は駄目かも分からん。今日負けたら魂ば盗られてしまう。惜しいもんは無ェが、俺怖くって怖くって…」と泣いた。俺は「和尚よ、もう辞めて帰ろ。なぜに此処に拘る?俺らもう博徒の和尚なんて言わねし、之も絶対秘密にすっからもう辞めてけれ。」と言った。すると赤鬼が俺と和尚の話に割って入って、「なあ佐江兵衛よ、こいつは不老不死に成りたく俺らと寿命賭けっこして賭博ば始めたんだで。それから二敗三敗してく内にとっくりとっくり夢中に成って、どうにも後戻り出来なんだなあ、之は後戻り出来なんだなあ。」と悪戯に笑った。俺は赤鬼が自分の名前を知ってるのに吃驚して「赤鬼何で俺の名前を知ってる?和尚言ったか?」と両方に聞いた。和尚は怯えたまま俯き首を横に振る。すると赤鬼は俺の顔を上から下まで見ながら「お前の事も、最初から知ってるさ。剪定屋の佐江兵衛だろ?」と言った。俺はそう言う赤鬼に目を丸くして半泣きになった。すると直ぐに、ぬらりひょんが胡座をかいて、先刻迄止んでいた三味線がベンベベン!と鳴り始めた。すると赤鬼が椀と賽子三つ持って「さあ和尚!最後だ最後だ。これで最後だ!」と言い放った。俺は和尚の肩を掴んで「もう駄目だ和尚、絶対に帰ろ死んでしまう!」と宥めたが、和尚は「駄目だ途中で止めたら儂の魂全部喰われてしまう。どっち道此処で勝たな儂は死ぬ…儂は死ぬ…」と号泣して仕舞った。それを見て赤鬼はにまにま笑い、餓鬼も嬉しそうに甲高い雄叫びを上げた。
とうとう賽子が振られた。先が和尚で後が赤鬼だ。和尚の賽子がコロコロ転がり、賽の目は四六四と出た。賽子は一から六迄ある訳で、それの六といったら相当に強い。四五六かピンゾロが出なきゃ先ず負けない。それから直ぐ赤鬼も賽子を振り、賽の目は六二二と出た。和尚が六で赤鬼も六だから、この局は分けである。和尚の響く動悸が俺にまで聞こえたが、俺は和尚に何も言えなかった。それからベベン!と三味線が鳴って、和尚に賽子が渡された。和尚はここ一番、良い目を引かなきゃ死んでしまう。和尚の呼吸が止まり、張り詰めた緊張の中で和尚が賽子を持つ手を振り上げたその時、湧いた餓鬼が和尚の背を押したので、和尚は動転して賽子を落とした。和尚が──嗚呼!と叫んで赤鬼がにたにた笑った。和尚は俺に振り返り抱きつくと「助けてくれ佐江兵衛!後生だ助けてくれ!」と泣き叫んだ。それを見ながら赤鬼が又にたにた笑って、賽子を振った。和尚はもう何も見ちゃいなかったが、俺は赤鬼の賽の目がころころ転がり、一が三つ揃ったのを確かに見た。そしてぬらりひょんの三味線が鳴り止んだ瞬間、俺に抱きついてた和尚がみるみる軽くなり骨張った。俺が肩を持ち上げ和尚の顔を恐る恐る見てみると、和尚は確かに数秒前迄三十歳位だったのが、皺だらけで声も枯れ、体が骨と皮だけの爺になった。俺は仰天して「嗚呼!和尚が!」と叫んだ。その刹那、餓鬼の手が俺の胴体を通り抜けて和尚を掴み、七本の腕が和尚の節々を掴んで四方八方に千切った。俺が「やめろ!和尚だ!やめろ!」と手を振り解こうとしたが、すり抜けて掴めなかった。和尚はそのまま餓鬼の手で疎らに千切られ、地の奥底へと沈んで行った。俺は泣き伏し、赤鬼に「和尚は、あれは趣味だったんだ。遊びの賭博だったんだ!」と叫んだ。すると赤鬼は「趣味も度を過ぎると罪悪だな。」と俺を嘲った。
和尚は夜半になると提灯片手に寺を出て墓地へ赴くそうだ。俺は八月二十日の晩に墓地から五間四尺離れた松の木の影で和尚を探した。すると和尚は墓地の真中で確かに読経している。只、様子が変である。和尚の前には背丈が一間四尺もある一つ目の赤鬼が楽立膝で煙管を銜えていた。それに、和尚の横では頭蓋が歪に肥大したぬらりひょんが坐禅を組み琵琶を構えて盤渉調を弾いていた。遂に和尚も化けたかと思い見ていると、存外そうでもないらしい。鬼と和尚の真中には蒲鉾板を横に二枚並べた物があって、その上には湯呑みと賽子二つがある。──はあなるほど、和尚は妖とチンチロ賭博してたのだ。俺は和尚が人間とではなく妖と賭博するのに可笑しく思った。だが和尚が皆から博徒の和尚、博徒の和尚と揶揄される事を心底嫌っているのを知ってたので、その性で妖とする様になったんだなと思うと、可笑しくも無くなり、俺も皆と一緒になり揶揄したので、其れに心底申し訳なく思った。興が冷めてしまってその日は帰った。
次の日の午後一時くらいに、俺が御屋敷の松の剪定をしていると、塀の向こうから「おーい佐江兵衛!おーい佐江兵衛ー!」と俺を呼ぶ声がした。何だと思い行ってみると、そこには和尚が居た。和尚は「お前昨日の晩に来てただろう。」と俺に言った。俺は和尚が怒ってると思って「ああ、すまねえ出来心だで堪忍してくれ」と謝った。すると和尚は顔色一つ変えずに「いんだ。だども取り敢えず今日の夜ば寺へ来てくれろ。」とだけ言った。俺はやっぱり怒られるんじゃないかと困った。それから夕焼け頃に饅頭二つ手に持ち、寺門で「和尚来たぞー」と言った。すると数十秒後に離れの方から「おーい佐江兵衛よー」と俺を呼ぶ声が聞こえる。行ってみると火灯窓から手招きする和尚が見えた。離れの方に小走りで行くと、閤の前に和尚が居た。和尚が俺に寄ってきて、耳打ちしながら「ここじゃ弟子に見つかるでバツが悪い。儂は暫くしたら裏口から出るでお前もそこで待っててくれ。」とこう言った。俺は是非も無く寺の裏にある笹の林で和尚を待った。月が俺の目線より少し上になった頃、和尚が提灯片手にやって来た。和尚が「佐江兵衛居るかあ…」と小さな声で俺を呼ぶので、俺は笹の林から「ここにおる」と言った。和尚は俺に気付くと「お前はなんも無しに儂の横ばいてくれろ。」と言った。俺は恐ろしくなって「まさか俺も連れてく訳でねェよな?」と聞いた。すると和尚は「盗み見したのはお前だろう。」と答える。俺は帰るのも後々祟がある様で益々恐ろしく思った為、帰るに帰れなく不承不承に着いて行く事にした。
それから繁茂な竹藪の中を、提灯片手の和尚について墓地へ出た。墓地の真中は昨日と同じで、和尚はそれに近付き乍ら「おーい赤鬼よー。今日は儂の友達を連れて来たど、もういんちきは出来なんだぞー。」と言った。赤鬼は「いんちきなんてしとらんて。」と返した。和尚は赤鬼の目の前に座ると、俺に向かって「お前は儂の横でじっと蒲鉾板を見てくれろ。それで何かあったら儂に言ってくれ。」とそれだけ言って赤鬼と花札博打を始めた。するとぷっかり杏仁豆腐みたいなのが一つ、俺達の周りをぐるぐるした。よもや之は人魂じゃあるまいなと勘繰り、和尚に「なあ和尚なあ和尚、あの飛んでるのは何じゃ」と聞いた。和尚は迷惑そうに「五月蝿いぞ佐江兵衛。ありゃ俺の寿命だ。」と言った。和尚は直ぐに花札をぺちぺちして、十分後綺麗に負けた。すると和尚の人魂がちゅるんと赤鬼に喰われ、赤鬼は然と嚥下した。俺は無慈悲な鬼にも勿論だが、何よりここ迄博打に狂った和尚に慄いた。和尚は花札に夢中で気付いていない様だが、頬の肉が弛んで皺が一つ顕れた。秋亳だが、和尚の風采は刻刻と爺に成っている。
そして和尚は花札三回打って三回見事に全敗した。赤鬼は「和尚、之でお前も後がねえな。」と嘲った。和尚は憤慨し地団駄踏んで「佐江兵衛まさかいんちき見逃したりしてねェよな?」と聞くので、俺は目を丸くして首を思い切り横に振った。和尚は何も言わず、不機嫌に一人で帰って仕舞うので、妖を背に俺も急ぎ足で和尚の背を追った。和尚は道中も愚痴愚痴文句を垂れていた。竹藪を抜けると和尚は俺を尻目にして「儂はもう寺へ戻るから、明日は逢魔が時に集合だ。」と言った。俺は明日も又恐ろしい目に遭うのかとがくぶる震えて、寝ようにも寝付けなかった。
次の日は目に隈を溜めて、虚ろ虚ろに仕事した。日が落ちていくにつれ鼓動も早くなり、飯も雑巾の味がした。遂に日が落ちきって仕舞い、俺は饅頭五つ手に持って逢魔が時に墓場へ行った。墓場に響く三味線の音を訝って真中へ行くと、昨晩に倣い赤鬼と和尚とぬらりひょんが居た。近付いて行くと、周りには突然餓鬼が四匹湧いて出た。それに狼狽え後退りすると、何時の間にかふと消えた。近づいたり離れたりする内に気付いたのだが、賭博場から三間離れると餓鬼は見えなくなり、逆に三間より内側なら明瞭に見えるらしい。俺は餓鬼に対し顕著に怯えたが、兎に角和尚の所へ行かなくては話が進まない。餓鬼の呻きの合間合間に俺は「和尚来たで。俺が、佐江兵衛が来たで。」と囁いた。和尚は俺の事等眼中に無く、戦慄した風采で赤鬼とちんちろ賭博を打っていた。俺が着いてから直ぐに和尚は賽子を振り、賽の目は三二五の目無しと出た。対して赤鬼の賽の目は三三四で、和尚は又負けた。和尚は顔に脂汗浮かべて息も荒く手も震え、完璧に竦んで怖気付いていた。俺が「和尚大丈夫か?俺が来たで。」と言うと、和尚はやっと俺に気付いて「佐江兵衛、俺は駄目かも分からん。今日負けたら魂ば盗られてしまう。惜しいもんは無ェが、俺怖くって怖くって…」と泣いた。俺は「和尚よ、もう辞めて帰ろ。なぜに此処に拘る?俺らもう博徒の和尚なんて言わねし、之も絶対秘密にすっからもう辞めてけれ。」と言った。すると赤鬼が俺と和尚の話に割って入って、「なあ佐江兵衛よ、こいつは不老不死に成りたく俺らと寿命賭けっこして賭博ば始めたんだで。それから二敗三敗してく内にとっくりとっくり夢中に成って、どうにも後戻り出来なんだなあ、之は後戻り出来なんだなあ。」と悪戯に笑った。俺は赤鬼が自分の名前を知ってるのに吃驚して「赤鬼何で俺の名前を知ってる?和尚言ったか?」と両方に聞いた。和尚は怯えたまま俯き首を横に振る。すると赤鬼は俺の顔を上から下まで見ながら「お前の事も、最初から知ってるさ。剪定屋の佐江兵衛だろ?」と言った。俺はそう言う赤鬼に目を丸くして半泣きになった。すると直ぐに、ぬらりひょんが胡座をかいて、先刻迄止んでいた三味線がベンベベン!と鳴り始めた。すると赤鬼が椀と賽子三つ持って「さあ和尚!最後だ最後だ。これで最後だ!」と言い放った。俺は和尚の肩を掴んで「もう駄目だ和尚、絶対に帰ろ死んでしまう!」と宥めたが、和尚は「駄目だ途中で止めたら儂の魂全部喰われてしまう。どっち道此処で勝たな儂は死ぬ…儂は死ぬ…」と号泣して仕舞った。それを見て赤鬼はにまにま笑い、餓鬼も嬉しそうに甲高い雄叫びを上げた。
とうとう賽子が振られた。先が和尚で後が赤鬼だ。和尚の賽子がコロコロ転がり、賽の目は四六四と出た。賽子は一から六迄ある訳で、それの六といったら相当に強い。四五六かピンゾロが出なきゃ先ず負けない。それから直ぐ赤鬼も賽子を振り、賽の目は六二二と出た。和尚が六で赤鬼も六だから、この局は分けである。和尚の響く動悸が俺にまで聞こえたが、俺は和尚に何も言えなかった。それからベベン!と三味線が鳴って、和尚に賽子が渡された。和尚はここ一番、良い目を引かなきゃ死んでしまう。和尚の呼吸が止まり、張り詰めた緊張の中で和尚が賽子を持つ手を振り上げたその時、湧いた餓鬼が和尚の背を押したので、和尚は動転して賽子を落とした。和尚が──嗚呼!と叫んで赤鬼がにたにた笑った。和尚は俺に振り返り抱きつくと「助けてくれ佐江兵衛!後生だ助けてくれ!」と泣き叫んだ。それを見ながら赤鬼が又にたにた笑って、賽子を振った。和尚はもう何も見ちゃいなかったが、俺は赤鬼の賽の目がころころ転がり、一が三つ揃ったのを確かに見た。そしてぬらりひょんの三味線が鳴り止んだ瞬間、俺に抱きついてた和尚がみるみる軽くなり骨張った。俺が肩を持ち上げ和尚の顔を恐る恐る見てみると、和尚は確かに数秒前迄三十歳位だったのが、皺だらけで声も枯れ、体が骨と皮だけの爺になった。俺は仰天して「嗚呼!和尚が!」と叫んだ。その刹那、餓鬼の手が俺の胴体を通り抜けて和尚を掴み、七本の腕が和尚の節々を掴んで四方八方に千切った。俺が「やめろ!和尚だ!やめろ!」と手を振り解こうとしたが、すり抜けて掴めなかった。和尚はそのまま餓鬼の手で疎らに千切られ、地の奥底へと沈んで行った。俺は泣き伏し、赤鬼に「和尚は、あれは趣味だったんだ。遊びの賭博だったんだ!」と叫んだ。すると赤鬼は「趣味も度を過ぎると罪悪だな。」と俺を嘲った。
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