ただ幸せになりたかっただけと、あなたたちは言うけれど

gacchi(がっち)

文字の大きさ
33 / 66

33.選ばれない令嬢

しおりを挟む
「……私、ジュリアンヌ様とはずっとお会いしたいと思っていましたの」

「あら、なぜ私に?」

「ええ、できれば仲良くしたいと思いまして。
 将来、姉妹になるかもしれないのですから」

「!?」

アゼリマ侯爵家からの見合いの話は断っているはずなのに、何を言い出すのか。
頬をほんのり赤らめたシャルロット様に、隣の令嬢がはしゃいだ声を出す。

「シャルロット様は将来のレドアル公爵夫人だと噂になっていますものね」

「そんな噂があるのですか?」

「ええ、ジュリアンヌ様はまだ一学年だからご存じないかもしれませんが、
 シャルロット様とジェラルド様の仲は有名ですのよ」

「へぇ……仲が有名とは、どういう意味でですか?」

恋仲のように匂わせているいるけれど、そんなわけはない。
ここで嘘をいうようならはっきり言ってしまおうかしら。

「お二人がお似合いだという噂ですわ。
 銀髪のジェラルド様と金髪のシャルロット様が並ぶと、
 とても美しい光景で……」

お似合いだという噂か……それならば嘘だとも言いにくい。
この令嬢たちが流しているのだろうけど。
そう思っていたら口をはさんだのはマリエットだった。

「あら。ジェラルド様にそんな噂があるのですか?
 先輩方はジュリアンヌ様と一緒にいる所を見たことがないのですね。
 銀色の髪と金色の髪で、しかも同じ紫色のとても綺麗な瞳。
 お二人がそろっていると対の人形のように美しいのです」

先輩令嬢にも物おじせずマリエットがうっとりとした顔で言う。
それに対して、先輩令嬢も対抗するように声を張り上げた。

「ジェラルド様とシャルロット様は外見だけじゃなく、
 成績だっていつも一位と二位にそろって……」

「あら、シャルロット様は二位なのですね。
 ジュリアンヌ様は一位ですのよ」

「なっ!?」

「ジェラルド様がシャルロット様とお似合いという理由はそれだけなんですか?」

「え?……いや、あの……」

マリエットだけかと思ったら、コリンヌまで参戦してきた。
おとなしいコリンヌの発言が意外と効いたのか、先輩令嬢は言葉に詰まる。

「それでしたら、あまり仲がいいとは言えませんわね。
 せめて休み時間のたびに一緒にいるとか、勉強を教え合っていたとか、
 そういう具体的な理由がないのであれば……意味はなさそうですもの」

「失礼だわ!私とジェラルド様の仲はみなさんが認めてくれているのよ!
 私はジェラルド様と結婚すると決まっているんだから!」

「……は?……結婚すると決まっている?」

さすがに聞き流すことができずに咎めるように言ってしまった。
思ったよりも低い声が出てしまったのは仕方ないと思う。

「えっ……いえ、あの、決まっていると思うの」

いつもの調子で言ってしまったのだろうけど、ここにはレドアル公爵家の私がいる。
これ以上嘘をつくようなら、この場ではっきり言うこともできる。
もうすでに見合いの話は断っているのだと。

それに気がついたのか、シャルロット様は小さな声でごまかした。

「シャルロット様、決まっていると思うというのは、どういうこと?」

「……ほら、私たちは年齢も同じだし、推進派の公爵家と中立派の侯爵家、
 爵位は違っても筆頭家であることは同じでしょう?
 私たちが結婚すれば、伝統派を抑え込めると思うの。
 それはイフリア公爵家に恨みがあるジュリアンヌ様にとっても良いことではないかしら?」

「話だけ聞けばそうかもしれないわ」

「そうでしょう?だから、私とジェラルド様の仲を邪魔しないでほしいの。
 いくらお兄様のことが好きでも、将来のことを考えなくてはいけないでしょうし」

「私が邪魔になるようではレドアル公爵家に嫁いでくることはないと思うけど」

「それはそうかもしれないけど……でも、わかるでしょう?
 相手が妹だとしても、好きな人は独占したくなるものだから」

その気持ちはよくわかる。
……私だけのものでいてほしいと思ってしまうもの。

だけど、これはそれとは別問題。

「あのね、兄様が私よりもシャルロット様を選ぶというのなら、
 今すぐにでも婚約できると思うわよ」

「……ジュリアンヌ様が邪魔をしないでくれればいいだけでしょう?」

「そうじゃないの。レドアル公爵家は政略結婚をさせない方針なの。
 だから、結婚相手を選ぶのはジェラルド兄様。
 私がどうこう言えることじゃないの。
 兄様がシャルロット様を好きにならない限り、無理ってこと」

「……好きにさせればいいってことね?」

「できるのなら、どうぞ」

「じゃあ、夜会のパートナーは譲ってくれるわよね?」

邪魔をする気はない。
でも、これだけは言っておかなくてはいけない。

「夜会のパートナーを私に決めたのは兄様よ。
 私からお願いしたわけじゃないわ」

「うそよ!」

「本当よ。他の令息に声をかけられても断れと言われたわ。
 私がサミュエル様に誘われても譲るつもりはないと」

「あなたがわがままを言ったからでしょう!?」

「信じないのならそれでいいけれど、兄様にお願いしても無駄だと思うわ。
 しつこくつきまとうのだけは嫌がるからやめてあげてね?」

「っ!!」

何度も見合いを断られているのにあきらめないことを言っていると気づいたのか、
シャルロット様は顔を真っ赤にして席を立った。

「シャルロット様!?」

「……帰るわ!」

バタバタと退席したシャルロット様を追って、先輩令嬢も去って行った。

「ふふふ。ジュリアンヌ様、言い負かしましたね?」

「もう少し我慢しようと思ったのだけど、我慢できなくて。
 兄様がシャルロット様を選ばないのは知っていたから」

「ジュリアンヌ様が言わなかったら私が言っていたと思います。
 シャルロット様は同じ教室なのに話しかけても答えてもらえないそうです。
 三学年では有名な話だそうですよ。
 こちらが一学年で知らないと思って言っていたのでしょうけど」

「まぁ、そうなの?」

「ジュリアンヌ様と仲良くなって、つけ入る隙が欲しかったのかもしれませんね」

「そうかもしれないわね。
 その割には敵意を感じたけれど」

「おそらく夜会のパートナーのことを聞いて敵対視していたのでしょう」

気持ちはわかるけれど、貴族令嬢としては残念な方だ。
私と敵対することなく表面上だけでも仲良くしておけば、
今後ジェラルド兄様と会話する機会があったかもしれないのに。

こんな風に喧嘩別れしてしまえば会話するきっかけもない。

いくら美しくて身分が高くて優秀であっても、
兄様がシャルロット様を選ばないわけがわかった気がする。

それから兄様が迎えに来る時間までおしゃべりをして時間をつぶす。
四人と一緒におとなしく待っていると、兄様が迎えに来てくれた。
シャルロット様たちが先に退席しているのを見て、兄様は楽しそうに笑う。

「おや。うまくやったようだな?」

「うまく、かはわからないけれど。
 私にとってはいい結果だったと思うわ」

「それなら十分だ。帰ろうか」

「ええ」

帰りの馬車でお茶会の報告をすれば、兄様は声をあげて笑っていた。

「そんなに笑うところ?」

「ああ、面白い。シャルロットが相変わらず妄想を話しているのは腹が立つが、
 ジュリアンヌがはっきり言い返してくれたおかげですっきりした。
 ありがとう」

「どういたしまして」

よほどお気に召したのか、ぎゅうっと抱きしめられて頬をなでられる。

シャルロット様が兄様にこれで近づかなくなればいいけれど。

レドアル公爵家に着いて私室に戻ろうとしたら、
応接室に来るようにと伯父様から呼び出しがあった。
それを聞いて兄様と首をかしげる。

「何があったんだろう?」

「行ってみましょう?」

応接室に入ると、伯父様が手紙を前に悩むような顔をしていた。

「どうかしたの?」

「ジュリアンヌも関係することだから呼んだんだ。
 レドアル公爵夫人、マゼンタ夫人とシュゼットが屋敷から追い出されたそうだ」

 「「え?」」

しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

婚約破棄されたのでファンシーショップ始めました。 ― 元婚約者が、お人形さんを側室にしようとして大恥をかきました ―

鷹 綾
恋愛
隣国の王子から「政略的にも個人的にも魅力を感じない」と婚約破棄された、ファンタジア王国第三女王タナー。 泣きも怒りもせず、彼女が考えたのは――「いつか王宮の庇護がなくなっても困らない生き方」だった。 まだ八歳。 それでも先を見据え、タナーは王都の片隅で小さなファンシーショップを開くことを決意する。 並ぶのは、かわいい雑貨。 そして、かわいい魔法の雑貨。 お茶を淹れてくれるクマのぬいぐるみ店員《テイデイ・バトラー》、 冷めないティーカップ、 時間になると小鳥が飛び出すアンティーク時計――。 静かに広がる評判の裏で、 かつての元婚約者は「お人形さんを側室にしようとして」赤っ恥をかくことに。 ざまぁは控えめ、日常はやさしく。 かわいいものに囲まれながら、女王は今日も穏やかにお店を開けています。 --- この文面は ✔ アルファポリス向け文字数 ✔ 女子読者に刺さるワード配置 ✔ ネタバレしすぎない ✔ ほのぼの感キープ を全部満たしています。 次は 👉 タグ案 👉 ランキング用超短縮あらすじ(100字) どちらにしますか?

処刑前夜に逃亡した悪役令嬢、五年後に氷の公爵様に捕まる〜冷徹旦那様が溺愛パパに豹変しましたが私の抱いている赤ちゃん実は人生2周目です〜

放浪人
恋愛
「処刑されるなんて真っ平ごめんです!」 無実の罪で投獄された悪役令嬢レティシア(中身は元社畜のアラサー日本人)は、処刑前夜、お腹の子供と共に脱獄し、辺境の田舎村へ逃亡した。 それから五年。薬師として穏やかに暮らしていた彼女のもとに、かつて自分を冷遇し、処刑を命じた夫――「氷の公爵」アレクセイが現れる。 殺される!と震えるレティシアだったが、再会した彼は地面に頭を擦り付け、まさかの溺愛キャラに豹変していて!? 「愛しているレティシア! 二度と離さない!」 「(顔が怖いです公爵様……!)」 不器用すぎて顔が怖い旦那様の暴走する溺愛。 そして、二人の息子であるシオン(1歳)は、実は前世で魔王を倒した「英雄」の生まれ変わりだった! 「パパとママは僕が守る(物理)」 最強の赤ちゃんが裏で暗躍し、聖女(自称)の陰謀も、帝国の侵略も、古代兵器も、ガラガラ一振りで粉砕していく。

婚約破棄されたので、戻らない選択をしました

ふわふわ
恋愛
王太子アルトゥールの婚約者として生きてきた 貴族令嬢ミディア・バイエルン。 だが、偽りの聖女シエナに心を奪われた王太子から、 彼女は一方的に婚約を破棄される。 「戻る場所は、もうありませんわ」 そう告げて向かった先は、 王都から遠く離れたアルツハイム辺境伯領。 権力も、評価も、比較もない土地で、 ミディアは“誰かに選ばれる人生”を静かに手放していく。 指示しない。 介入しない。 評価しない。 それでも、人は動き、街は回り、 日常は確かに続いていく。 一方、王都では―― 彼女を失った王太子と王政が、 少しずつ立ち行かなくなっていき……? 派手な復讐も、涙の和解もない。 あるのは、「戻らない」という選択と、 終わらせない日常だけ。

冷酷伯爵ディートリヒは、去った妻を取り戻せない

くろねこ
恋愛
名門伯爵家に政略結婚で嫁いだ、正妻エレノア・リーヴェルト。夫である伯爵ディートリヒ・フォン・アイゼンヴァルトは、 軍務と義務を最優先し、彼女に関心を向けることはなかった。 言葉も、視線も、愛情も与えられない日々。それでも伯爵夫人として尽くし続けたエレノアは、ある一言をきっかけに、静かに伯爵家を去る決意をする。 ――そして初めて、夫は気づく。 自分がどれほど多くのものを、彼女から与えられていたのかを。 一方、エレノアは新たな地でその才覚と人柄を評価され、 「必要とされる存在」として歩き始めていた。 去った妻を想い、今さら後悔する冷酷伯爵。前を向いて生きる正妻令嬢。 これは、失ってから愛に気づいた男と、 二度と戻らないかもしれない夫婦の物語。 ――今さら、遅いのです。

白い結婚の末、離婚を選んだ公爵夫人は二度と戻らない』

鍛高譚
恋愛
白い結婚の末、「白い結婚」の末、私は冷遇され、夫は愛人を溺愛していた――ならば、もう要らないわ」 公爵令嬢 ジェニファー・ランカスター は、王弟 エドワード・クラレンス公爵 のもとへ政略結婚として嫁ぐ。 だが、その結婚生活は冷たく空虚なものだった。夫は愛人 ローザ・フィッツジェラルド に夢中になり、公爵夫人であるジェニファーは侮辱され、無視され続ける日々。 ――それでも、貴族の娘は耐えなければならないの? 何の愛もなく、ただ飾り物として扱われる結婚に見切りをつけたジェニファーは 「離婚」 を決意する。 しかし、王弟であるエドワードとの離婚は容易ではない。実家のランカスター家は猛反対し、王宮の重臣たちも彼女の決断を 「公爵家の恥」 と揶揄する。 それでも、ジェニファーは負けない。弁護士と協力し、着々と準備を進めていく。 そんな折、彼女は北方の大国 ヴォルフ公国の大公、アレクサンダー・ヴォルフ と出会う。 温かく誠実な彼との交流を通じて、ジェニファーは 「本当に大切にされること」 を知る。 そして、彼女の決断は、王都の社交界に大きな波紋を呼ぶこととなる――。 「公爵夫人を手放したことを、いつか後悔しても遅いわ」 「私はもう、あなたたちの飾り人形じゃない」 離婚を巡る策略、愛人の凋落、元夫の後悔――。 そして、新たな地で手にした 「愛される結婚」。

王太子に愛されないので、隣国王子に拾われました

鍛高譚
恋愛
「王太子妃として、私はただの飾り――それなら、いっそ逃げるわ」 オデット・ド・ブランシュフォール侯爵令嬢は、王太子アルベールの婚約者として育てられた。誰もが羨む立場のはずだったが、彼の心は愛人ミレイユに奪われ、オデットはただの“形式だけの妻”として冷遇される。 「君との結婚はただの義務だ。愛するのはミレイユだけ」 そう嘲笑う王太子と、勝ち誇る愛人。耐え忍ぶことを強いられた日々に、オデットの心は次第に冷え切っていった。だが、ある日――隣国アルヴェールの王子・レオポルドから届いた一通の書簡が、彼女の運命を大きく変える。 「もし君が望むなら、私は君を迎え入れよう」 このまま王太子妃として屈辱に耐え続けるのか。それとも、自らの人生を取り戻すのか。 オデットは決断する。――もう、アルベールの傀儡にはならない。 愛人に嘲笑われた王妃の座などまっぴらごめん! 王宮を飛び出し、隣国で新たな人生を掴み取ったオデットを待っていたのは、誠実な王子の深い愛。 冷遇された令嬢が、理不尽な白い結婚を捨てて“本当の幸せ”を手にする

王子様への置き手紙

あおた卵
恋愛
フィオナは王太子ジェラルドの婚約者。王宮で暮らしながら王太子妃教育を受けていた。そんなある日、ジェラルドと侯爵家令嬢のマデリーンがキスをする所を目撃してしまう。ショックを受けたフィオナは自ら修道院に行くことを決意し、護衛騎士のエルマーとともに王宮を逃げ出した。置き手紙を読んだ皇太子が追いかけてくるとは思いもせずに⋯⋯

殿下、もう何もかも手遅れです

魚谷
恋愛
偉大なる国王が崩御した。 葬儀の場で、王太子アドルフォスは、父王が病床にいるのを良いことに国を思うがままにしようとする、婚約者である公爵令嬢ロザリンデと、その父である宰相を断罪しようと決意する。 全ては自分が次の王に相応しいことを、その場にいる全ての貴族たちに示すため。 アドルフォスは自分の勝利を信じて疑わなかった。 自分には、麗しい子爵令嬢で、数百年に一度生まれる聖女の力に覚醒したエレインという心強い味方がいるのだから。 勝利は揺るぎないはずだった……そう、アドルフォスの頭の中では。 これはひとつの国の終わりの物語。 ★他のサイトにも掲載しております ★13000字程度でサクッとお読み頂けます

処理中です...