ただ幸せになりたかっただけと、あなたたちは言うけれど

gacchi(がっち)

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34.処罰と謝罪

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レドアル公爵家に着いて私室に戻ろうとしたら、
応接室に来るようにと伯父様から呼び出しがあった。
それを聞いて兄様と首をかしげる。

「何があったんだろう?」

「行ってみましょう?」

応接室に入ると、伯父様が手紙を前に悩むような顔をしていた。

「どうかしたの?」

「ジュリアンヌも関係することだから呼んだんだ。
 レドアル公爵夫人、マゼンタ夫人とシュゼットが屋敷から追い出された」

 「「え?」」

追い出されたって、まさかイフリア公爵家から?

「二人ともアジェ伯爵家に戻されたそうだ」

「シュゼット様がお父様の娘だと言ったから?」

「ああ、シュゼットがイフリア公爵の娘だと審議会で認定された。
 ロズリーヌとの離縁は公爵の罪だと王家から処罰が下された。
 まだ一部しか実行されていないが、二人はどちらにしても伯爵家に戻る」

「どちらにしても?」

処罰が二つあるような話しぶりに首をかしげていると、
伯父様がイフリア公爵家に下された処罰内容を教えてくれた。
それを聞いた兄様が声をあげて笑う。

「すごい処罰ですね。決めたのは陛下でしょうか?」

「この処罰を考えたのはアドルフ様だろう。
 陛下はイフリア公爵家には負い目があるからな」

「負い目?」

「イフリア公爵が王命で結婚したのは先代公爵の要望だった。
 それを聞く羽目になったのは、陛下がアンジェル妃を娶りたかったからだ
 本当は側妃であるバルバラ様のほうが王妃になることがきまっていた。
 アンジェル妃は側妃になる予定すらなかった」

「それは知りませんでした」

王妃アンジェル様は推進派のミュッセ侯爵家。
側妃バルバラ様は伝統派のアフレ侯爵家。
陛下が結婚された頃は伝統派の力が強かったはず。

「王太子だった陛下とアンジェル妃は学園で出会い恋仲になった。
 だが、妃に内定していたのはバルバラ様。
 それを押しのけ、アンジェル様を妃にすると言い出した」

「先代公爵がそれを認める代わりに王命を出させたと?」

伝統派の侯爵令嬢が王妃になっていれば、
これほどまで伝統派の力が弱まることはなかったかもしれない。
伝統派の筆頭家であるイフリア公爵が納得しなければ、
妃の変更はできなかったはず。

王命を出してまで、お母様をイフリア公爵家に嫁がせたかったなんて、
お祖父様は何を考えてそうしたのか。

「当時、ヴィクトルとマゼンタが恋仲なのは有名な話だった。
 評判の悪いマゼンタを公爵夫人にすることは先代公爵が認めなかったが、
 他の令嬢とは結婚しないとヴィクトルが頑なに拒否していた。
 だが、王命ともなれば拒否することは許されない。
 拒否すれば公爵を継げないだけでなく、貴族でいることもできなくなる。
 さすがにヴィクトルも王命を受け入れた」
 
「それで王命を出してまで叔母上と結婚を……。
 先代のイフリア公爵と陛下が結託して王命を出したのなら、
 お祖父様が嫌がっても止めるのは難しかったでしょうね」

「ああ、だから父上と俺では、
 王命が出されるのを止めることはできなかった……」

お父様とお母様の結婚はお祖父様が望んだものだったんだ。
お祖父様が亡くなったのは私が三歳の時だったから、ほとんど記憶にない。

「イフリア公爵はどうするんでしょうね。
 公爵家に残れば想い入れていた愛人よりも爵位を取るのかと言われ、
 愛人たちをとれば、なんて愚かな男だと見下されることになる。
 どちらをとっても公爵は立場をなくすことになるし、
 愛人と娘は公爵家から追い出されることになります」

「そうだな。どちらをとっても公爵はつらいだろうな。
 だが、その前に手紙が来ているんだ。
 ……前イフリア公爵夫人であるマゼンタ伯爵夫人から」

「え?」

「マゼンタ夫人から手紙?」

「ああ、レドアル公爵家に謝罪がしたいと」

マゼンタ様が謝罪?
処罰を受けて、伯爵家に戻ったばかりなのに?

「手紙にはヴィクトルとロズリーヌの結婚の邪魔をしてしまったこと、
 不貞を続けて娘まで産んでしまったことの謝罪がしたいと書いてあった」

「……ジュリアンヌのことは?」

「誘拐した件のことは認めないだろうな。
 二日後に、この屋敷に謝罪しに来たい、
 その時にはお前たちも同席してほしいとも書かれている」

……マゼンタ様の謝罪に私も同席?
私をさらって、殺そうとしたことは認めていないのに……

思い出しかけて、身体が震えて止まらない。

「ジュリアンヌ!」

私の異変に気がついた兄様が身体を支えてくれる。
もう少し遅かったら、倒れていたかもしれない。

「やはり……無理はしないほうがいいな。
 謝罪は私が聞こう。まぁ、謝罪されても許すことはないが」

「当然です……俺も立ち会います。
 ジュリアンヌの代わりに、何を考えているか聞きたい」

「……待って、兄様。私も立ち会います」

「ジュリアンヌ!?」

怖い……会いたくない……けれど、
自分が知らないところで何かが変わっていくのが嫌だ。

「兄様が……そばにいてくれるなら大丈夫。
 マゼンタ様が何を考えているのか、私も知りたいの……」

「ジュリアンヌ、でも危険かもしれない。
 マゼンタ夫人はまともじゃない。
 おとなしく謝罪するようには見えなかった」

「それなら伯父様と兄様が会うのも危険だわ」

「そうかもしれないが……」

「いや、ジュリアンヌも立ち会わせよう」

私を危ない目にあわせなくないのか、兄様が渋っていると、
伯父様が私の立ち合いを決めた。

「父上、どうしてですか?」

「いずれ夜会で会うことになる。
 それなら、私たちがいる場所で見極めたほうがいい。
 何かするようであれば、容赦はしない」

「……そうですね。そういうことであれば。
 ジュリアンヌ、絶対に俺の隣から離れてはいけないよ?」

「ええ、わかっているわ」

多分、言われなくても兄様から離れることはできない。
まだ震えは完全にはおさまっていないし、怖いと思う。

それでも、伯父様が言うように社交界にでれば会わないわけにもいかない。
マゼンタ様はおそらく処罰を受けたとしても出席するだろうから。

いつまでも会わずにいることはできない。
これも自立するために必要なことだからと自分に言い聞かせた。





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