これが運命ではなかったとしても

gacchi(がっち)

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2.晩餐会の始まり

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早くお父様たちが来てくれないかなと思っていると、廊下がざわつき始めた。
ようやく到着したらしい。

扉が開いてお父様の姿が見えたので、席を立って迎え入れる。

「おお、待たせてすまなかったな」

「いえ、兄上は忙しいでしょうから。気にしていませんよ」

「そうか。では、始めようか」

お父様が叔父様に謝ったが、叔父様はにこやかに許している。
めずらしいと思いながら、和やかな雰囲気にほっとする。

隣に座ったお兄様が小声で私に話しかけて来る。

「遅れてごめん、大丈夫だったか?」

「ええ、問題はないわ。なんだか叔父様の機嫌がいいみたいで」

「そのようだね。ちょっと気味が悪いけど」

これ以上は聞こえたらまずいので、うなずいて同意しておく。

お父様が合図を出し、料理が運ばれてくる。
お父様と叔父様の世間話を聞きながら前菜とスープを食べ終えると、
魚料理の皿が目の前に置かれる。

美味しそうだと思って手を出そうとしたら、精霊たちに両目をふさがれた。

「ちょっと、何をするのよ」

小声で注意をすると、精霊の気持ちが伝わって来る。

ダメ。ダメ。タベナイデ。

食べないで?この料理に何か問題でもあるの?
私に伝わったことでほっとしたように精霊が目から離れる。

その次の瞬間、ガタンと大きな音が立て続けにした。
目に入ってきたのは苦しみながら血を吐いて倒れるお父様とお兄様の姿だった。

まさか、この料理に毒が!?

「お父様!?お兄様も!!大丈夫ですか!?
 誰か!急いで医術師を連れて来て!」

「その必要はない」

「え!?」

叔父様は何を言っているのかと思ったら、叔父様たちは誰も騒いでいなかった。
床に崩れ落ちたお父様とお兄様を面白そうに見ていた。

「叔父様、何を。お父様とお兄様が苦しんでいるのに、早く医術師をっ」

こうしている間にもお父様とお兄様は苦しそうにしている。
息ができないのか、のどを抑えている。
早く助けなければ命が危ないかもしれない。

「誰か!医術師を呼んできて!!」

近くにいる騎士たちに命令しても、動いてはくれない。
目をそらすようにして、そこに立ったままだった。

「どうしてっ!?」

「叫んでも誰も動かないよ。
 ルーチェはどうして食べなかったんだ?食べていれば楽だったのに」

残念そうな顔をする叔父様に……毒をいれたのは叔父様だと気づく。

「どうして……」

「まぁ、いい。そいつらを連れていけ」

騎士たちは苦しんでいるお父様とお兄様の手足をつかみ、どこかへ連れて行く。

「どこに連れて行くの!?」

「心配しなくても、死ぬような毒ではない。
 せいぜい二日ほど苦しむだけだ」

「お父様とお兄様をどうするつもりよ!?」

「もうこの国にはいらないからな。他国へ売るつもりだ」

「なんてことを……」

「心配するな。お前も一緒に売ってやろう」

控えていたはずの騎士に後ろから腕を捕まれ、連れて行かれそうになる。
だが、次の瞬間、騎士は腕を押さえてしゃがみ込む。
その腕からはぽたぽたと血が流れていた。

「っ!どういうことだ!!」

騎士が私を引っ張ろうとした時、近くにいた精霊が身体を変化させ、
鋭い刃のような風になって騎士に向かっていったのが見えた。
そして精霊は傷だらけになってふらふらと飛んでいる……。

力なく戻って来た精霊を抱きしめるようにして助ける。
こんなに傷だらけになるのがわかっているのに私を助けてくれた。

だが、精霊が見えない者たちからすれば、
私は何もしていないのに騎士が血を流して倒れたようにしか見えない。

他の騎士たちは怖気づいたようで、動きが止まった。

「化け物なのか!?早く殺せ!」

「シブリアン様、ルーチェ様を殺してはいけません」

「どうしてだ」

叔父様を止めたのは大きな身体の騎士だった。
あの者はたしか騎士団長なはず。
どうして、お父様の臣下であるはずの騎士団長が叔父様に従っているの?

「見たところ、ルーチェ様には本当に精霊がついているようです。
 精霊付きを殺したら国が亡びると言われております。
 そうでなくとも、ふれようとすればさきほどの騎士のように怪我を負います」

「どうしろと言うんだ」

「……塔に閉じ込めておきましょう。
 国から追い出したとしても何か起きるかもしれませんから。
 ルーチェ様、移動していただけますか?
 あなたの大事な乳母を殺されたくはないでしょう?」

「リマをどうする気なの!」

「おとなしく塔にいてくださるのなら、
 乳母も一緒に閉じ込めて差し上げます」

「……わかったわ」

リマを人質にされてしまえば逆らうことはできない。

「騎士団長……お父様とお兄様はどうなるの?」

「……おそらく奴隷制がある国へ売られるでしょう」

「……どうしてこんな……ひどいことを」

「さぁ、塔へ行きましょう」

連れて行かれたお父様とお兄様を助けることもできず、おとなしく塔へ向かう。

外宮と内宮の間の敷地に建つ塔。
騎士団長が扉の鍵を開けると螺旋階段が見えた。

長い階段を上がると塔の上には特別な囚人を収容する部屋があった。
そこは石畳みで、貴族用の部屋だからか応接間と寝室だけではなく、
使用人部屋までもついていた。

「では、おとなしくしていてください。
 すぐに乳母も連れてきます」

「リマに乱暴なことはしないで」

「わかりました」

お父様とお兄様を見捨てた騎士団長に信用はないけれど、
それでもリマに乱暴なことはしないでほしかった。
心配していたが、それから間もなくリマも連れて来られた。

「リマ!」

「ルーチェ様、ご無事でっ」

抱き合ってお互いの無事を確認している間に、
塔の扉は閉じられ鍵がかけられていた。

「閉じ込められてしまった……。
 お父様とお兄様はどうしているのかしら。
 私、何もできなかった……」

「……ルーチェ様だけでも助かってよかったのです」

「でも……」

精霊の力があっても何もできなかった。
あれだけ機嫌が悪かった時点で気がついていれば、
晩餐会を取りやめることができたかもしれない。

もっと精霊の力が強ければ、
騎士団長も叔父様たちも捕縛して牢に入れることができたかもしれない。

どれだけ考えても、結果は変わらない。
落ち込む私に食事を運んできた侍女が教えてくれた。

お父様とお兄様は他国へ売られたようだと。



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