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3.塔の上での生活
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精霊付きを殺せば精霊が怒って国を亡ぼす。
そんな言い伝えを信じているのか、私は生かされることになったらしい。
一日二度の食事だけではなく、必要な物を言えば塔に届けられる。
精霊の怒りをおそれているのか、ここから出ること以外は問題はない。
だが、ありあまる時間を無駄にすることは許しがたく、
勉強するために私の部屋にあった本を塔へと移動させた。
家庭教師を雇うことはできなくても、
もともと私に勉強を教えていたのはリマだった。
リマは侯爵家の出身で元伯爵夫人だった。
長男が成人する年になってから三人目の子を身ごもったが、
残念ながら子どもは死産だった。
私の乳母になってからは奥宮の外へ出ることはめったになく、
息子たちともほとんど交流をしていないと聞いている。
そのことを申し訳ないと思っていたけれど、
こうなってしまえば巻き込む心配がなくてよかったとも思う。
「ルーチェ様、休憩にしましょう」
「でも……」
「ルーチェ様が何かしなくてはいけないと焦っているのはわかります。
それでも、休憩も取らずに勉強しても状況はよくならないのです。
少し休みましょう。目の下にくまができていますよ」
「……わかったわ」
リマはほっとしたような顔でお茶の用意をする。
焼き菓子はさすがに添えられてはいなかったけれど、
お茶を飲むと気が緩むのを感じる。
ガタンと塔の下の扉が開く音がする。
食事の時間でもないのに誰が来たのか。
ゆっくりと階段を上がってきたのは、アナベルとコレット。
二人とも新しいドレスを着て、たくさんの装飾品をつけていた。
「へぇ、こんな汚いとこによく住めるわね」
「……何をしに来たの?」
「見に来たのよ。王女でなくなった可哀想なルーチェを」
「そうそう。ぼろいワンピースを着て、
閉じ込められている可哀想なルーチェを見に来たの。
って、閉じ込められているのは前もそうだったわね」
にやにやと笑う二人は部屋の家具などを見てはおかしそうに笑う。
私を馬鹿にするためだけに来たようだ。
「悔しいでしょう?」
「……そうね」
「見下していた私たちに見下されるなんてね」
「私はあなたたちを見下したことなんてないけど」
「心の中ではそうだったでしょう?」
そんなことはないと言っても納得はしないはず。
「満足したのなら帰ってくれる?」
「あら。暇なくせに私たちを追い出そうというの?」
「ここではおもてなしもできないわ」
「ええ、そうね。こんなところに長居はしたくないわ」
「ほこりっぽくて、息がつまりそう。お姉様、帰りましょう」
「そうね。綺麗な王宮へ帰りましょうね」
とりあえずは満足したのか帰ろうとする二人にほっとする。
二人に見下されるのはどうでもいいけれど、
リマに何かされては困るからだ。
階段を下りようとした時、アナベルが満面の笑みで振り返った。
「ああ、そうだわ。伯父様とアルマン、売れたそうよ。
あまり高値はつかなかったみたいだけど。
奴隷としてちゃんとやっていけるのかしら」
「……」
あまりの怒りに黙っていたら、精霊が反応しかける。
はっとして、精霊に何もしないようにお願いする。
「ダメよ、何もしなくていいわ……」
涙をこらえて精霊を黙らせる。
これ以上、大事な精霊たちに傷ついてほしくない。
「ルーチェ様、ハンカチをお使いください」
「リマ……」
ハンカチを受け取って涙を拭く。
お父様とお兄様が奴隷となって売られた……。
どこへ連れて行かれたのかもわからない。
助け出したいけれど、閉じ込められている私にはその力がない。
精霊に助けを求めたとしても、私一人を逃がすのが精一杯だろう。
一人で王宮の外に出られたとしても、生きていけるわけがない。
悲しくても、ここにいるしかなかった。
それからもアナベルとコレットは塔へ来た。
新しいドレスを手に入れるたびに見せに来ているようで、
どれだけ高価だったのかを説明して楽しそうに笑う。
「これはね、絹の中でも特別な絹だけで織られた布なの。
ほら、柔らかそうでしょう。
ああ、見せるだけね。ルーチェがさわったら汚れてしまうわ」
「お姉様のドレスだけじゃないわ。私のこのネックレス。
隣の国の王妃様が愛用している特別な貴石なのよ。
ほら、七色に光って見えるでしょう。
ものすごく高かったらしいわ」
ドレスや宝石が高ければ高いほど、この国は大丈夫なのか心配になる。
だが、二人は私が焦るのは悔しがっているからだと思ったらしく、
楽しそうに自慢して帰っていく。
「リマ、アントシュ国はどうなってしまうの。
きっとあの二人だけじゃないわ。
叔父様と叔母様も好きなだけお金を使っていると思うわ」
「……おそろしいことです。
きっとこの国が亡ぶまで気がつかないのでしょう。
騎士団長たちも、これで本当にいいと思っているのでしょうか」
「わからないわ……止めなくてはいけなかったのに」
今となっては言っても意味がないことだ。
止めようとした宰相や貴族たちはお父様と同じように売られてしまった。
そうなれば残った貴族たちは口をつぐむしかない。
家族を守るためにはそうするしかないのだから。
塔の上からは王都がよく見える。
昔はここからの景色が見たいと思っていたけれど、
こんな風に見たくはなかった。
夜になれば王都の灯りは消える。
昔は夜でも明るい都だったのに、今では一つの灯りすら見えない。
みんなひっそりとして、息を殺して潜んでいるかのようだ。
そんな言い伝えを信じているのか、私は生かされることになったらしい。
一日二度の食事だけではなく、必要な物を言えば塔に届けられる。
精霊の怒りをおそれているのか、ここから出ること以外は問題はない。
だが、ありあまる時間を無駄にすることは許しがたく、
勉強するために私の部屋にあった本を塔へと移動させた。
家庭教師を雇うことはできなくても、
もともと私に勉強を教えていたのはリマだった。
リマは侯爵家の出身で元伯爵夫人だった。
長男が成人する年になってから三人目の子を身ごもったが、
残念ながら子どもは死産だった。
私の乳母になってからは奥宮の外へ出ることはめったになく、
息子たちともほとんど交流をしていないと聞いている。
そのことを申し訳ないと思っていたけれど、
こうなってしまえば巻き込む心配がなくてよかったとも思う。
「ルーチェ様、休憩にしましょう」
「でも……」
「ルーチェ様が何かしなくてはいけないと焦っているのはわかります。
それでも、休憩も取らずに勉強しても状況はよくならないのです。
少し休みましょう。目の下にくまができていますよ」
「……わかったわ」
リマはほっとしたような顔でお茶の用意をする。
焼き菓子はさすがに添えられてはいなかったけれど、
お茶を飲むと気が緩むのを感じる。
ガタンと塔の下の扉が開く音がする。
食事の時間でもないのに誰が来たのか。
ゆっくりと階段を上がってきたのは、アナベルとコレット。
二人とも新しいドレスを着て、たくさんの装飾品をつけていた。
「へぇ、こんな汚いとこによく住めるわね」
「……何をしに来たの?」
「見に来たのよ。王女でなくなった可哀想なルーチェを」
「そうそう。ぼろいワンピースを着て、
閉じ込められている可哀想なルーチェを見に来たの。
って、閉じ込められているのは前もそうだったわね」
にやにやと笑う二人は部屋の家具などを見てはおかしそうに笑う。
私を馬鹿にするためだけに来たようだ。
「悔しいでしょう?」
「……そうね」
「見下していた私たちに見下されるなんてね」
「私はあなたたちを見下したことなんてないけど」
「心の中ではそうだったでしょう?」
そんなことはないと言っても納得はしないはず。
「満足したのなら帰ってくれる?」
「あら。暇なくせに私たちを追い出そうというの?」
「ここではおもてなしもできないわ」
「ええ、そうね。こんなところに長居はしたくないわ」
「ほこりっぽくて、息がつまりそう。お姉様、帰りましょう」
「そうね。綺麗な王宮へ帰りましょうね」
とりあえずは満足したのか帰ろうとする二人にほっとする。
二人に見下されるのはどうでもいいけれど、
リマに何かされては困るからだ。
階段を下りようとした時、アナベルが満面の笑みで振り返った。
「ああ、そうだわ。伯父様とアルマン、売れたそうよ。
あまり高値はつかなかったみたいだけど。
奴隷としてちゃんとやっていけるのかしら」
「……」
あまりの怒りに黙っていたら、精霊が反応しかける。
はっとして、精霊に何もしないようにお願いする。
「ダメよ、何もしなくていいわ……」
涙をこらえて精霊を黙らせる。
これ以上、大事な精霊たちに傷ついてほしくない。
「ルーチェ様、ハンカチをお使いください」
「リマ……」
ハンカチを受け取って涙を拭く。
お父様とお兄様が奴隷となって売られた……。
どこへ連れて行かれたのかもわからない。
助け出したいけれど、閉じ込められている私にはその力がない。
精霊に助けを求めたとしても、私一人を逃がすのが精一杯だろう。
一人で王宮の外に出られたとしても、生きていけるわけがない。
悲しくても、ここにいるしかなかった。
それからもアナベルとコレットは塔へ来た。
新しいドレスを手に入れるたびに見せに来ているようで、
どれだけ高価だったのかを説明して楽しそうに笑う。
「これはね、絹の中でも特別な絹だけで織られた布なの。
ほら、柔らかそうでしょう。
ああ、見せるだけね。ルーチェがさわったら汚れてしまうわ」
「お姉様のドレスだけじゃないわ。私のこのネックレス。
隣の国の王妃様が愛用している特別な貴石なのよ。
ほら、七色に光って見えるでしょう。
ものすごく高かったらしいわ」
ドレスや宝石が高ければ高いほど、この国は大丈夫なのか心配になる。
だが、二人は私が焦るのは悔しがっているからだと思ったらしく、
楽しそうに自慢して帰っていく。
「リマ、アントシュ国はどうなってしまうの。
きっとあの二人だけじゃないわ。
叔父様と叔母様も好きなだけお金を使っていると思うわ」
「……おそろしいことです。
きっとこの国が亡ぶまで気がつかないのでしょう。
騎士団長たちも、これで本当にいいと思っているのでしょうか」
「わからないわ……止めなくてはいけなかったのに」
今となっては言っても意味がないことだ。
止めようとした宰相や貴族たちはお父様と同じように売られてしまった。
そうなれば残った貴族たちは口をつぐむしかない。
家族を守るためにはそうするしかないのだから。
塔の上からは王都がよく見える。
昔はここからの景色が見たいと思っていたけれど、
こんな風に見たくはなかった。
夜になれば王都の灯りは消える。
昔は夜でも明るい都だったのに、今では一つの灯りすら見えない。
みんなひっそりとして、息を殺して潜んでいるかのようだ。
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