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22.王子誕生のお祝い
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季節が二つ変わった頃、王太子妃が王子を産んだと発表があった。
母子ともに無事で、予定通り三か月後に夜会を開くという。
「王子なのね……」
「なんだか嫌そうだな」
「だって、この子が婚約者にされそうで」
「ああ……そういうことか」
私とルカスの娘はシャルリーヌと名付けた。
白金色の髪に深緑色の目。
顔立ちは私よりもルカスに似た女の子だった。
「せめて王子の性格がいいといいんだが」
「その王子が王太子になるとは限らないし、
シャルリーヌが選ばれるとも限らないけど」
「そう願いたいね」
ルカスは王宮騎士だったのに王族を嫌うような発言していいのかと思うけど、
私もできれば王子の婚約者にしたくはない。
「夜会に出席している間、おとなしくしていてくれるといいけど」
「いつもごきげんだから大丈夫だろう」
残念ながらルカスの予測は大きく外れ、
屋敷を出なくてはいけない時間なのに泣き止んでくれない。
困ったけれど、公爵家の次期当主として夜会に出ないわけにもいかない。
乳母たちにシャルリーヌを預け、ルカスと王宮へと向かう。
「挨拶だけしたら帰りましょう」
「そのほうがいいな。これから体調が悪くなるのかもしれない」
言われてみれば、熱を出す前にぐずっていたことがあった。
ぐずっているのは、この後体調を崩すからかもしれない。
そう思い、王家に挨拶をしたら帰ることにする。
一年半ぶりに会う聖女は、体重が増えたのか身体が大きくなっていた。
見るからに不機嫌そうで、私の顔を見たら泣き出してしまう。
「あかり様?」
「セレスティナ様ぁぁぁ……」
「えっと……陛下、王太子妃様を休憩室にお連れしてもいいでしょうか?」
「かまわない……連れていけ」
「はい。あかり様、あちらへ」
公爵家の休憩室へと連れて行くと、
聖女は崩れ落ちるようにして泣き出した。
「セレスティナ、あかり様はいったい……」
「ルカス、ここで聞いたことは秘密にしておいて。
誰に聞かれても話さないでね」
「わ、わかった」
おそらく聖女は黙っていられないだろうと、先にルカスに念を押す。
「あかり様、つらかったのですね?」
「だって、だって、私が産んだんじゃないのに!」
「ええ、わかっています」
「違う愛妾も身ごもっているって。
それも全部、私が産んだことになるって、おかしいでしょう!?」
「ですが……王家は代々そうして血をつないできました」
マルセル様もヴェルナー様も愛妾から生まれているが、
王妃様から生まれたことになっている。
愛妾は子を産んでも母とは名乗れない。
乳母として王子の子育てに参加するが、奥の宮から外へは出られない。
だからこそ、愛妾には王家が予算を出すのだ。
「……可愛い子どもが欲しかったけれど、
それは自分が産んだ子が可愛ければいいと思っただけで、
他の女が産んだ子なんて可愛くてもかわいくないのよ!」
「……これから、あかり様も産む可能性があるのですから」
「そうだけど……私が産んだ子が一番じゃないなんて嫌なの!!」
これ以上騒がしくしていると他の貴族に聞かれるかもしれない。
なんとかなだめようとしていたら、奥の宮の侍女たちが部屋に来て、
聖女を無理やり連れて帰って行った。
おそらく陛下の命令だ。
もう夜会に戻って来ることはないだろう。
「セレスティナ、とりあえず帰ろうか。
シャルリーヌが待っている」
「ええ、そうね」
屋敷に帰ったら、シャルリーヌはまだ泣いていた。
慌てて抱き上げると、真っ赤な顔でぐずりながらも眠りについた。
「ずいぶん機嫌が悪かったんだな。
セレスティナが不安に思っていることを感じ取ったのかもしれない。
あかり様の状況を知っていたんだろう?」
「そうかもしれないわ」
「……あかり様について、まだ何か心配なことがあるのか?」
「……落ちて来た聖女が子を産んだことはないそうよ」
「は?」
「子どもを産めた聖女は一人もいないの」
「一人も……?」
初代聖女から、前回落ちて来た聖女までの記録はすべて読んだ。
王太子妃になった聖女には子どもがいることになっているが、
実際に産んだのは愛妾たちだった。
子を産んだ後の夜会の記録を見れば、聖女が産んでいないのはすぐにわかる。
聖女は皆機嫌が悪く、荒れていたと書かれていた。
自分で産んだ子ではないのに祝われるのが嫌なのだろう。
異世界にはそのような慣習がないそうだから。
「あかり様が自分の子を抱くことはないと思うの。
愛妾が子を産むのを見続けるのはつらいでしょうね」
「そうだな……」
ルカスは黙ったまま、そっと抱きしめてくれる。
せめてマルセル様が聖女をなぐさめてくれているといいのだけど……。
それから半年もたたずに第二王子が生まれた。
そして、その一年後には第一王女と第二王女が双子として生まれた。
その度に聖女は追い詰められた顔になっていく。
心配していたけれど、私たちにはどうすることもできなかった。
五年後。私とルカスの二人目の子どもが産まれた日、
王宮から帰って来たお父様は真っ青な顔をしていた。
まずはお祝いを言ってくれたけれど、王宮で何かあったのはわかりきっていた。
「お父様、王宮で何があったの?」
「誰にも言うなよ。あかり様が愛妾の一人を切り殺そうとして、
止めようとしたマルセル様ともみ合いになった。
愛妾は無事だったが、二人とも大けがを負ってしまった」
「大けがってどれくらいの?」
「マルセル様は左頬を切られて、口まで裂けてしまった。
回復しても、食事をまともに取れるようになるかわからない。
そして、あかり様は腹部に剣が刺さり……助かるかどうかわからない」
「なんてこと……」
予想以上の大けがに私まで血の気が引きそうになる。
「ああ、出産後なのにすまない。セレスティナはゆっくり休んでくれ」
「は、はい……」
母子ともに無事で、予定通り三か月後に夜会を開くという。
「王子なのね……」
「なんだか嫌そうだな」
「だって、この子が婚約者にされそうで」
「ああ……そういうことか」
私とルカスの娘はシャルリーヌと名付けた。
白金色の髪に深緑色の目。
顔立ちは私よりもルカスに似た女の子だった。
「せめて王子の性格がいいといいんだが」
「その王子が王太子になるとは限らないし、
シャルリーヌが選ばれるとも限らないけど」
「そう願いたいね」
ルカスは王宮騎士だったのに王族を嫌うような発言していいのかと思うけど、
私もできれば王子の婚約者にしたくはない。
「夜会に出席している間、おとなしくしていてくれるといいけど」
「いつもごきげんだから大丈夫だろう」
残念ながらルカスの予測は大きく外れ、
屋敷を出なくてはいけない時間なのに泣き止んでくれない。
困ったけれど、公爵家の次期当主として夜会に出ないわけにもいかない。
乳母たちにシャルリーヌを預け、ルカスと王宮へと向かう。
「挨拶だけしたら帰りましょう」
「そのほうがいいな。これから体調が悪くなるのかもしれない」
言われてみれば、熱を出す前にぐずっていたことがあった。
ぐずっているのは、この後体調を崩すからかもしれない。
そう思い、王家に挨拶をしたら帰ることにする。
一年半ぶりに会う聖女は、体重が増えたのか身体が大きくなっていた。
見るからに不機嫌そうで、私の顔を見たら泣き出してしまう。
「あかり様?」
「セレスティナ様ぁぁぁ……」
「えっと……陛下、王太子妃様を休憩室にお連れしてもいいでしょうか?」
「かまわない……連れていけ」
「はい。あかり様、あちらへ」
公爵家の休憩室へと連れて行くと、
聖女は崩れ落ちるようにして泣き出した。
「セレスティナ、あかり様はいったい……」
「ルカス、ここで聞いたことは秘密にしておいて。
誰に聞かれても話さないでね」
「わ、わかった」
おそらく聖女は黙っていられないだろうと、先にルカスに念を押す。
「あかり様、つらかったのですね?」
「だって、だって、私が産んだんじゃないのに!」
「ええ、わかっています」
「違う愛妾も身ごもっているって。
それも全部、私が産んだことになるって、おかしいでしょう!?」
「ですが……王家は代々そうして血をつないできました」
マルセル様もヴェルナー様も愛妾から生まれているが、
王妃様から生まれたことになっている。
愛妾は子を産んでも母とは名乗れない。
乳母として王子の子育てに参加するが、奥の宮から外へは出られない。
だからこそ、愛妾には王家が予算を出すのだ。
「……可愛い子どもが欲しかったけれど、
それは自分が産んだ子が可愛ければいいと思っただけで、
他の女が産んだ子なんて可愛くてもかわいくないのよ!」
「……これから、あかり様も産む可能性があるのですから」
「そうだけど……私が産んだ子が一番じゃないなんて嫌なの!!」
これ以上騒がしくしていると他の貴族に聞かれるかもしれない。
なんとかなだめようとしていたら、奥の宮の侍女たちが部屋に来て、
聖女を無理やり連れて帰って行った。
おそらく陛下の命令だ。
もう夜会に戻って来ることはないだろう。
「セレスティナ、とりあえず帰ろうか。
シャルリーヌが待っている」
「ええ、そうね」
屋敷に帰ったら、シャルリーヌはまだ泣いていた。
慌てて抱き上げると、真っ赤な顔でぐずりながらも眠りについた。
「ずいぶん機嫌が悪かったんだな。
セレスティナが不安に思っていることを感じ取ったのかもしれない。
あかり様の状況を知っていたんだろう?」
「そうかもしれないわ」
「……あかり様について、まだ何か心配なことがあるのか?」
「……落ちて来た聖女が子を産んだことはないそうよ」
「は?」
「子どもを産めた聖女は一人もいないの」
「一人も……?」
初代聖女から、前回落ちて来た聖女までの記録はすべて読んだ。
王太子妃になった聖女には子どもがいることになっているが、
実際に産んだのは愛妾たちだった。
子を産んだ後の夜会の記録を見れば、聖女が産んでいないのはすぐにわかる。
聖女は皆機嫌が悪く、荒れていたと書かれていた。
自分で産んだ子ではないのに祝われるのが嫌なのだろう。
異世界にはそのような慣習がないそうだから。
「あかり様が自分の子を抱くことはないと思うの。
愛妾が子を産むのを見続けるのはつらいでしょうね」
「そうだな……」
ルカスは黙ったまま、そっと抱きしめてくれる。
せめてマルセル様が聖女をなぐさめてくれているといいのだけど……。
それから半年もたたずに第二王子が生まれた。
そして、その一年後には第一王女と第二王女が双子として生まれた。
その度に聖女は追い詰められた顔になっていく。
心配していたけれど、私たちにはどうすることもできなかった。
五年後。私とルカスの二人目の子どもが産まれた日、
王宮から帰って来たお父様は真っ青な顔をしていた。
まずはお祝いを言ってくれたけれど、王宮で何かあったのはわかりきっていた。
「お父様、王宮で何があったの?」
「誰にも言うなよ。あかり様が愛妾の一人を切り殺そうとして、
止めようとしたマルセル様ともみ合いになった。
愛妾は無事だったが、二人とも大けがを負ってしまった」
「大けがってどれくらいの?」
「マルセル様は左頬を切られて、口まで裂けてしまった。
回復しても、食事をまともに取れるようになるかわからない。
そして、あかり様は腹部に剣が刺さり……助かるかどうかわからない」
「なんてこと……」
予想以上の大けがに私まで血の気が引きそうになる。
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「は、はい……」
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