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6.誰も望んでいない聖女
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「役目がない……どういうことなの?
わからないって、何なのよ?
あなた達が連れて来たんじゃないの!?」
「違います。勝手に落ちてくるのです」
「勝手にって何よ!?
私が来たくて来たんじゃないのに!」
苛立ちをぶつけるように叫んだ聖女様に引きずられないように、
声を抑えて説明をする。
「同じように言いますと、こちらが来てほしかったわけではありません。
聖女様を異世界から連れてきたどころか、呼んだわけでもないのです。
当然、落ちてきたのには何かの力が存在するのでしょうけど、
それは私たちの国とは関係ありません」
「……そんな。じゃあ、帰してもらえないの?」
「ええ、そうですね。
私たちにそんな力はありませんから」
「そんな……ひどい……」
ポロポロと涙をこぼして顔をゆがめた聖女様に、
同情する気持ちがないわけではない。
だけど、ここではっきり聖女様の立場を説明しておかなければいけない。
聖女様のこれからの人生のためにも。
「あかり様、はっきり言っておきます。
私たちが聖女様を保護するのは善意です」
「善意……?」
「はい。聖女様を保護しないで放置した場合、
若い女性というだけで、すぐさま攫われて売り飛ばされるでしょう。
その場合、命の保証はありません」
「えっ」
「もう一度言います。私たちがこの世界にお呼びしたわけではありません。
まれに異世界から人が勝手に落ちてくるのです。
ですが、初代王妃が決められた法で聖女様を保護することになっております。
わかりますか?私たちに怒りをぶつけられても困るのです」
「だって……でも。この世界の人が原因かもしれないし」
「それを言うなら、異世界の人が原因かもしれませんでしょう?
あなたのせいだと言われて、あかり様は納得できますか?」
もう何も怒りをぶつける理由を探し出せなかったのか、
聖女様はくやしそうに唇を噛んだ。
私の説明を聞いても納得できないからか、
聖女様は私をにらみつけている。
残念だけど、いつまでもこんな態度を許すわけにはいかない。
陛下やマルセル様に同じような態度をしてしまえば、
異世界から来た人間であっても許されない。
その時になって後悔しても遅いのだから。
「……私たちは聖女様を放置するということもできます。
ですが、それでは聖女様は大変な目に合うでしょう。
それをお望みであれば、王宮から出て行ってもらってもかまわないのですけど」
「……」
「どういたしますか?
王宮で保護されるのであれば、こちらの法に従ってもらわなければいけません。
ここは王制で貴族がいる社会です。
身分社会な上、礼儀作法も厳しいです。
それを乱すようならば出て行ってもらうことになります」
「出ていったら攫われるんじゃ……?」
「そうですね。
ですが、こちらが善意で保護していることを忘れ、
我儘を通そうとした聖女様も過去いらっしゃいました。
その方たちは王宮の外に出されたり、幽閉されたと記録にあります。
この国を崩壊させるような聖女様を保護するほど愚かではありませんから」
初代王妃が決めた聖女規定はあるが、
それは聖女様が善良な人間だった場合のみ。
この国に従う気がないものは放り出してもかまわない。
さて、今回の聖女様はどちらを選ぶのだろうか。
「………」
「今日、私が帰るまでに返事をお願いいたしますね?
これでも次期公爵なので、忙しいのです」
「次期公爵?」
「王族の下に公爵、侯爵、辺境伯、伯爵、子爵、男爵、騎士爵という爵位があります。
私は王族の次に偉い立場になります。
その他に王宮で勤めるものの爵位というものもありますが、
それを覚えるのはこの国で生きていくと決めてからでもいいです。
王宮の外に出たら一生関わらないでしょうから」
「……」
「お茶をどうぞ。何も食べていないのでしょう?
味はさほど変わらないそうです」
聖女様はティーカップを握り締めるように持ち上げてお茶を飲み、
チョコレートを一つ二つと口に入れる。
お腹が空いていたのに気がついたのか、焼き菓子を食べ始めた。
しばらくは何も言わずに黙っていると、聖女様が食べている音だけが聞こえる。
だが、そろそろ帰る時間だと気がついて声をかける。
「結論は出ましたか?」
わからないって、何なのよ?
あなた達が連れて来たんじゃないの!?」
「違います。勝手に落ちてくるのです」
「勝手にって何よ!?
私が来たくて来たんじゃないのに!」
苛立ちをぶつけるように叫んだ聖女様に引きずられないように、
声を抑えて説明をする。
「同じように言いますと、こちらが来てほしかったわけではありません。
聖女様を異世界から連れてきたどころか、呼んだわけでもないのです。
当然、落ちてきたのには何かの力が存在するのでしょうけど、
それは私たちの国とは関係ありません」
「……そんな。じゃあ、帰してもらえないの?」
「ええ、そうですね。
私たちにそんな力はありませんから」
「そんな……ひどい……」
ポロポロと涙をこぼして顔をゆがめた聖女様に、
同情する気持ちがないわけではない。
だけど、ここではっきり聖女様の立場を説明しておかなければいけない。
聖女様のこれからの人生のためにも。
「あかり様、はっきり言っておきます。
私たちが聖女様を保護するのは善意です」
「善意……?」
「はい。聖女様を保護しないで放置した場合、
若い女性というだけで、すぐさま攫われて売り飛ばされるでしょう。
その場合、命の保証はありません」
「えっ」
「もう一度言います。私たちがこの世界にお呼びしたわけではありません。
まれに異世界から人が勝手に落ちてくるのです。
ですが、初代王妃が決められた法で聖女様を保護することになっております。
わかりますか?私たちに怒りをぶつけられても困るのです」
「だって……でも。この世界の人が原因かもしれないし」
「それを言うなら、異世界の人が原因かもしれませんでしょう?
あなたのせいだと言われて、あかり様は納得できますか?」
もう何も怒りをぶつける理由を探し出せなかったのか、
聖女様はくやしそうに唇を噛んだ。
私の説明を聞いても納得できないからか、
聖女様は私をにらみつけている。
残念だけど、いつまでもこんな態度を許すわけにはいかない。
陛下やマルセル様に同じような態度をしてしまえば、
異世界から来た人間であっても許されない。
その時になって後悔しても遅いのだから。
「……私たちは聖女様を放置するということもできます。
ですが、それでは聖女様は大変な目に合うでしょう。
それをお望みであれば、王宮から出て行ってもらってもかまわないのですけど」
「……」
「どういたしますか?
王宮で保護されるのであれば、こちらの法に従ってもらわなければいけません。
ここは王制で貴族がいる社会です。
身分社会な上、礼儀作法も厳しいです。
それを乱すようならば出て行ってもらうことになります」
「出ていったら攫われるんじゃ……?」
「そうですね。
ですが、こちらが善意で保護していることを忘れ、
我儘を通そうとした聖女様も過去いらっしゃいました。
その方たちは王宮の外に出されたり、幽閉されたと記録にあります。
この国を崩壊させるような聖女様を保護するほど愚かではありませんから」
初代王妃が決めた聖女規定はあるが、
それは聖女様が善良な人間だった場合のみ。
この国に従う気がないものは放り出してもかまわない。
さて、今回の聖女様はどちらを選ぶのだろうか。
「………」
「今日、私が帰るまでに返事をお願いいたしますね?
これでも次期公爵なので、忙しいのです」
「次期公爵?」
「王族の下に公爵、侯爵、辺境伯、伯爵、子爵、男爵、騎士爵という爵位があります。
私は王族の次に偉い立場になります。
その他に王宮で勤めるものの爵位というものもありますが、
それを覚えるのはこの国で生きていくと決めてからでもいいです。
王宮の外に出たら一生関わらないでしょうから」
「……」
「お茶をどうぞ。何も食べていないのでしょう?
味はさほど変わらないそうです」
聖女様はティーカップを握り締めるように持ち上げてお茶を飲み、
チョコレートを一つ二つと口に入れる。
お腹が空いていたのに気がついたのか、焼き菓子を食べ始めた。
しばらくは何も言わずに黙っていると、聖女様が食べている音だけが聞こえる。
だが、そろそろ帰る時間だと気がついて声をかける。
「結論は出ましたか?」
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