あぁ、もう!婚約破棄された騎士がそばにいるからって、聖女にしないでください!

gacchi(がっち)

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1.おバカはどこにでもいる

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これで地味な姿で過ごした学園生活も終わる。
子爵家令嬢のロージー・ベルファインは卒業を祝うパーティ中に考え事をしていた。
見事な金色の髪をくすませた上できっちりとまとめ、
目立つ青の瞳は分厚い眼鏡で隠している。
わざと少しだけ猫背にして、所作も下位貴族らしい大雑把な動きを心掛けている。
学園にいた5年間はただただ窮屈な時間だった。
それもようやく終わる。パーティも中盤に差し掛かり、そろそろ退出しても目立たない。
誰かが退出し始めたらロージーも退出するつもりだった。

卒業後は近くの魔術師学校の講師として迎えられることが決まっている。
生家には帰らずに自立して生活するつもりだった。
願わくば高位貴族なんかとは関わらずに、平民の方との出会いがあれば…
なんてことを夢見ていた。

ダンスも途中だというのに、広間の中央に陣取り、声を張り上げる馬鹿がいなければ、
何事もなくパーティを終えて帰るところだったのに。






「マリージュ・ケンバウム。俺はお前との婚約を破棄する!
 出てこい!マリージュ!」



身長は高くがっしりとした体形だが、
茶色の髪と茶色の目のせいでどうしても地味に見える、
この国の第二王子フレッド様が叫んでいる。
夜会の中盤に差し掛かったところだった。

婚約者がいるはずなのに違う令嬢を伴っていることから、入場から噂されていた。
王子は何を考えているんだと。
婚約者のマリージュ様は筆頭公爵家の二女で、
フレッド様とは幼いころより婚約していたはずだ。
同じ茶色の髪でも、フレッド様が土属性だけしか持たないのに対し、
マリージュ様は髪の一部が緑色に染まり、目の色は紫。
土、葉、無属性の三属性も持っている才女だ。
外見も美しく、穏やかな性格で聖女とも呼ばれている方だった。
フレッド様とはあまりうまくいっていないとは聞いていたが…。


艶やかな紫のドレスに身を包んだマリージュ様がゆっくりと中央に出てくる。
どんな時も急いだり焦ったりしない。淑女の鏡のような令嬢だ。



「フレッド様、聞こえております。
 婚約の破棄ですか?
 それが本気ならば王宮で話し合ってくださればよかったのに。」

「万が一でも婚約破棄に同意しないと言われたら面倒だからな。
 こんな人前ではっきり言われたら、同意するしかないだろう?」

「まぁ。どこで言われても喜んで了承しましたのに。」


フレッド様の申し出がうれしかったのか、マリージュ様が微笑んで受けている。
婚約破棄されて喜ぶとは思っていなかったが、
マリージュ様はそれだけフレッド様が嫌だったのだろう。

あまり賢いとは言えないような方だったし、
魔術の腕もいまいちだったし、努力とか嫌いそうだったし。
王族と関わらないようにしていたロージーでも知っているくらい、
王子の評判はいまいちだった。
それでも性格まで悪いとは思っていなかった…。こんな人前で婚約破棄するなんて。


いくら公爵令嬢が平気な顔をしていても、傷がつかないわけはない。
記憶の中の自分と重なって見えて、ぐっと胸が苦しくなった。
落ち着いて、大丈夫。ここでは私は子爵令嬢。関係ないのだから。



「ふん!これだから可愛げがないというんだ。
 髪の色も汚く混じったような女に用はない。
 俺は新しい婚約者にキャロル・モンマイドを指名する!」

「…は?」
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