あぁ、もう!婚約破棄された騎士がそばにいるからって、聖女にしないでください!

gacchi(がっち)

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15.貴族と平民

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「こいつは、ロージー先生の眼鏡を取ろうと後ろから抱き着こうとしていた。」

眼鏡?この眼鏡を取ろうとしていた?どうして?

「貴族令嬢に抱き着くという行為は、
 護衛騎士である俺に、即座に切り捨てられても文句は言えない。」

「そんな!ちょっと眼鏡を取ろうとしただけで!」

「令嬢が抱き着かれるというのは、純潔を疑われる行為だ。
 人前で男に抱き着かれて、それを許すというのは、
 その男とそういう関係だとみなされて、傷物の扱いを受けることになる。」

まさか、とか、それだけで、といった声が聞こえた。
そうなのか、平民とはそれほど意識の差があるんだ。
貴族は名誉を守るためなら、平民を切り捨てることなど気にしない。
そして、それが認められている。

「もし、私が人前で男に抱き着かれ、それを許したと知られたら、
 親に殺されるかもしれません。そんなふしだらな娘はいらないと。
 貴族で一番大事なのは名誉。家の名前を守ることなのです。
 貞淑さを疑われるような娘は、貴族ではいられません。
 …みなさんは、そのことを知らなかったのですね?」

ユリアスに続いて、私が貴族令嬢というものを説明すると、皆が真面目な顔で黙った。これがどのくらい大事なのか、ようやく理解できたのだろう。

「もし抱き着かれた後だったら、俺は間違いなく切った。」

剣に手をかけてそう言い切ったユリアスに、男子生徒二人の顔色がどんどん悪くなっていく。

「なによ!その女がもったいぶって眼鏡で顔を隠しているのが悪いんじゃない!
 なんでそんな眼鏡なんてかけてんのよ!このブス!」

最後の悪あがきなのか、ナミィだけが私に悪態ついてくる。
この眼鏡が悪いのだろうか…最初から私が眼鏡を外して教壇に立っていたら、こんなことにはならなかったのだろうか。

すっと眼鏡を外すと、静寂が訪れた。誰も、一言も発しなかった。
全員の顔を見渡し、私の顔が良く見えるようにした。

「これで、満足ですか?」

すぐさまユリアスが近づいてきて、私の手から眼鏡を取ると、そのまま私に眼鏡をかけた。
目があったらかみ殺されそうな顔をしていて、まずいことをしたと思ったが、後の祭りだった。

「…これでわかったと思うが、ロージー先生が素顔で授業をしたら、授業にならない。
 そのため、魔術具の眼鏡をつけているんだ。
 貴族がつけている魔術具は防御のためであることが多い。
 それを勝手に外すのは命を狙っているとみなされることだ。
 抱き着こうとしたにしろ、眼鏡を外そうとしたにしろ、重罪なことには変わらない。
 このまま三人は学校長に突き出す。
 …退学を覚悟しろ。」

「そんな…ナミィちゃんに頼まれただけなのに…。」

「退学だなんて…。」

「俺は、ロージー先生を引き留めてただけなのに…。」

「全員、共犯だ。ほら、事務員が来たから引き渡すぞ。立って歩け。
 じゃないと風の魔術で転がして連れて行くことになるぞ。」

のろのろと立ち上がった三人はうつむいたまま、もう話すこともできなさそうだった。そのまま事務員たちに連れて行かれる。退学は免れないだろう。貴族相手に仕事をするのが決まっている魔術師の学校で、貴族令嬢への暴行が許されるわけにはいかない。残念だが、魔術師になる道も閉ざされることになるだろう。
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