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22.金属の加工場
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「ここまで来たのだから、加工場も案内するよ。
ルメール侯爵夫妻が見たかった場所だ」
「そうね。行きたいわ」
馬車に乗って、分かれ道まで戻り左側の道に進む。
「オビーヌ侯爵家とパジェス侯爵家は協力関係にはあるが、
加工する技術は違っている。
ただ、お互いに技術者が少なくなってしまって、
何かあった時に伝承できなくなるのではないかと悩んでいた。
だから、お互いに技術を教え合う契約を結んだ」
「それでお父様たちは視察することになったのね」
「ああ。最初に夫妻に視察してもらって、
その後はお互いの技術者を一人ずつ交換して、
技術を教え合うことになっていた。
結果として、それはまだ実現できていない」
「そうなんだ……」
「職人頭は高齢だから、早く引き継げるものを探さないといけないんだが、
それもまだ見つかっていない。
簡単に引き継げるものではないから、誰でもいいわけではないし」
金細工はパジェス侯爵家を支えていると言っても過言ではない産業。
その要ともなる職人頭の後継者ともなれば、
見つけるのにも時間がかかるのだろう。
その後、育てる時間も考えると、あまり猶予はなさそう。
シル兄様から説明を聞いていると、それほど時間はかからずに馬車が止まる。
降りた場所には小さな建物がたくさんあった。
奥の建物の周りにはたくさんの警備の者が立っている。
「職人たちと警備の兵はここに住んでいるんだ。
あまり出入りしていると場所が知られてしまうからね」
「ここに住んでいるの。だから建物がいくつもあるのね」
「加工場は一番奥なんだ。行こう」
シル兄様に手を引かれて奥の建物へ入る。
入ってすぐの部屋では数人の職人が金属を加工している。
指輪やネックレスなどの装飾品が主に作られているようだ。
「ここは最終的に加工する部屋だ」
「最終的?」
「ああ、奥の部屋で金属を合金にして糸にする。
その糸から指輪やネックレスに変形させていくんだ。
合金にしている部屋は危ないけど、糸にする部屋は見ても大丈夫」
一番奥の部屋のドアを開けると、一人の老人が作業していた。
この老人が職人頭らしい。
一つに結んだ髪は白くなっているが、目が青い。
貴族の血が流れているのがわかる。
パジェス侯爵家の分家の者なのかもしれない。
老人は部屋に入ってきたのがシル兄様だとわかると、
こちらに向き直ってお辞儀をした。
「クルト、久しぶりだな」
「ええ、お久しぶりですね、シルヴァン様。見学ですか?」
「ああ、アンリに見せたくて」
「こんにちは。アンリエットよ。少し見学させてね」
「ええ、かまいませんよ」
職人というと気難しいのかと思っていたが、
クルトはにこにこと笑って見せてくれた。
クルトが手にしていたのは大きな石のような金属だった。
これが合金したあとの金属。
見ていると、金属から紡ぐように細い糸が出てくる。
それをぐるぐる巻きにしてまとめて、さきほどの部屋に運ばれていくらしい。
「どうやってるのかな」
「ん?やってみたいのか?アンリもできるよ」
「え?私でもできるの?」
「魔力を糸にする魔術教えただろう?
あれと一緒だよ。金属に魔力を流して、糸にしていくんだ」
「ああ、魔力を流しているんだ。ならできるかも」
「シルヴァン様、この令嬢はもしかして……」
「ああ、俺の婚約者だ」
「そうでしたか。それなら、どうぞ試してみてください」
「いいの?ありがとう」
クルトに小さめの金属を差し出され、受け取る。
小さくても金属だからずっしりと重い。
そのかたまりに魔力を流し、糸にしていく。
最初は難しいと思ったけれど、一度糸にしてしまえば楽になる。
するすると糸が伸びて、輪のように重なっていく。
「うん、できているよ。上手だな」
「ふふ。この作業、楽しいわ」
「初めてでこれほど細い糸にできるとは……素晴らしいですね」
クルトにまで褒められてうれしくなる。
少しだけ試すつもりだったけれど、
これならこのまま作業部屋に運べると言われ、最後まで糸にすることにした。
もうすぐ全部が糸になるという時、廊下のほうがざわつく。
誰かが騒いでいるというか、止めている声が聞こえる。
制止されているのに、入ってきた者がいる?
レンとキールが私たちを庇うように立つと、ドアがバーンと開けられる。
「お祖父様!シルヴァン様が来ているって本当!?」
入ってきたのはこげ茶色の髪を束ねた少女だった。
まん丸の茶目の素朴な感じの、どこにでもいそうな平民の少女。
「こら!ここには入って来るなと言ってあるだろう!」
「だって、シルヴァン様が来ているって言うから……
え?どうしてあなたが糸にできているのよ!」
金属を糸にしているのが見えたのか、少女は私を指さして叫んだ。
「こら!ヴァネッサ!失礼なことを言うんじゃない!」
「でも、どうしてなのよ!あれはパジェス侯爵家の者しかできないはずなのに!」
え?パジェス侯爵家しかできない?
それにヴァネッサって、カトリーヌ様に失礼なことを言った子?
そういえば、職人頭の孫娘だと言っていた。
私が貴族だというのはわかっているだろうに、
指さして非難するなんて、命が惜しくないのだろうか。
呆れていると、シル兄様がキールに命じる。
「キール、あいつを外に連れていけ」
「わかりました」
キールはヴァネッサの腕をつかんで無理やり外に連れて行こうとする。
「やめて!離してよ!シルヴァン様に会いに来たんだから!」
「いいから黙れ!」
「離して!シルヴァン様!助けて!」
ヴァネッサが叫ぶ声がだんだん遠くなっていく。
「シルヴァン様、申し訳ありません」
見れば、クルトが深々と頭を下げていた。
ルメール侯爵夫妻が見たかった場所だ」
「そうね。行きたいわ」
馬車に乗って、分かれ道まで戻り左側の道に進む。
「オビーヌ侯爵家とパジェス侯爵家は協力関係にはあるが、
加工する技術は違っている。
ただ、お互いに技術者が少なくなってしまって、
何かあった時に伝承できなくなるのではないかと悩んでいた。
だから、お互いに技術を教え合う契約を結んだ」
「それでお父様たちは視察することになったのね」
「ああ。最初に夫妻に視察してもらって、
その後はお互いの技術者を一人ずつ交換して、
技術を教え合うことになっていた。
結果として、それはまだ実現できていない」
「そうなんだ……」
「職人頭は高齢だから、早く引き継げるものを探さないといけないんだが、
それもまだ見つかっていない。
簡単に引き継げるものではないから、誰でもいいわけではないし」
金細工はパジェス侯爵家を支えていると言っても過言ではない産業。
その要ともなる職人頭の後継者ともなれば、
見つけるのにも時間がかかるのだろう。
その後、育てる時間も考えると、あまり猶予はなさそう。
シル兄様から説明を聞いていると、それほど時間はかからずに馬車が止まる。
降りた場所には小さな建物がたくさんあった。
奥の建物の周りにはたくさんの警備の者が立っている。
「職人たちと警備の兵はここに住んでいるんだ。
あまり出入りしていると場所が知られてしまうからね」
「ここに住んでいるの。だから建物がいくつもあるのね」
「加工場は一番奥なんだ。行こう」
シル兄様に手を引かれて奥の建物へ入る。
入ってすぐの部屋では数人の職人が金属を加工している。
指輪やネックレスなどの装飾品が主に作られているようだ。
「ここは最終的に加工する部屋だ」
「最終的?」
「ああ、奥の部屋で金属を合金にして糸にする。
その糸から指輪やネックレスに変形させていくんだ。
合金にしている部屋は危ないけど、糸にする部屋は見ても大丈夫」
一番奥の部屋のドアを開けると、一人の老人が作業していた。
この老人が職人頭らしい。
一つに結んだ髪は白くなっているが、目が青い。
貴族の血が流れているのがわかる。
パジェス侯爵家の分家の者なのかもしれない。
老人は部屋に入ってきたのがシル兄様だとわかると、
こちらに向き直ってお辞儀をした。
「クルト、久しぶりだな」
「ええ、お久しぶりですね、シルヴァン様。見学ですか?」
「ああ、アンリに見せたくて」
「こんにちは。アンリエットよ。少し見学させてね」
「ええ、かまいませんよ」
職人というと気難しいのかと思っていたが、
クルトはにこにこと笑って見せてくれた。
クルトが手にしていたのは大きな石のような金属だった。
これが合金したあとの金属。
見ていると、金属から紡ぐように細い糸が出てくる。
それをぐるぐる巻きにしてまとめて、さきほどの部屋に運ばれていくらしい。
「どうやってるのかな」
「ん?やってみたいのか?アンリもできるよ」
「え?私でもできるの?」
「魔力を糸にする魔術教えただろう?
あれと一緒だよ。金属に魔力を流して、糸にしていくんだ」
「ああ、魔力を流しているんだ。ならできるかも」
「シルヴァン様、この令嬢はもしかして……」
「ああ、俺の婚約者だ」
「そうでしたか。それなら、どうぞ試してみてください」
「いいの?ありがとう」
クルトに小さめの金属を差し出され、受け取る。
小さくても金属だからずっしりと重い。
そのかたまりに魔力を流し、糸にしていく。
最初は難しいと思ったけれど、一度糸にしてしまえば楽になる。
するすると糸が伸びて、輪のように重なっていく。
「うん、できているよ。上手だな」
「ふふ。この作業、楽しいわ」
「初めてでこれほど細い糸にできるとは……素晴らしいですね」
クルトにまで褒められてうれしくなる。
少しだけ試すつもりだったけれど、
これならこのまま作業部屋に運べると言われ、最後まで糸にすることにした。
もうすぐ全部が糸になるという時、廊下のほうがざわつく。
誰かが騒いでいるというか、止めている声が聞こえる。
制止されているのに、入ってきた者がいる?
レンとキールが私たちを庇うように立つと、ドアがバーンと開けられる。
「お祖父様!シルヴァン様が来ているって本当!?」
入ってきたのはこげ茶色の髪を束ねた少女だった。
まん丸の茶目の素朴な感じの、どこにでもいそうな平民の少女。
「こら!ここには入って来るなと言ってあるだろう!」
「だって、シルヴァン様が来ているって言うから……
え?どうしてあなたが糸にできているのよ!」
金属を糸にしているのが見えたのか、少女は私を指さして叫んだ。
「こら!ヴァネッサ!失礼なことを言うんじゃない!」
「でも、どうしてなのよ!あれはパジェス侯爵家の者しかできないはずなのに!」
え?パジェス侯爵家しかできない?
それにヴァネッサって、カトリーヌ様に失礼なことを言った子?
そういえば、職人頭の孫娘だと言っていた。
私が貴族だというのはわかっているだろうに、
指さして非難するなんて、命が惜しくないのだろうか。
呆れていると、シル兄様がキールに命じる。
「キール、あいつを外に連れていけ」
「わかりました」
キールはヴァネッサの腕をつかんで無理やり外に連れて行こうとする。
「やめて!離してよ!シルヴァン様に会いに来たんだから!」
「いいから黙れ!」
「離して!シルヴァン様!助けて!」
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「シルヴァン様、申し訳ありません」
見れば、クルトが深々と頭を下げていた。
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