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30.ハーヤネン国の問題
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「おそらくはアンリエット嬢が邪魔だから、オトニエル国に帰らせようとしている。
ランとレンは人質にでもするつもりなのだろう。
二人の命が惜しければ、何も言わずに帰れと言う予定で」
「あの二人はアンリにとって大事な侍女と護衛なんだ。
そんなことをすればアンリは帰らなくてはならなくなる……。
兄上が護送を止めてくれて助かったよ」
「だが、オトニエル国には連絡が行ったようだ。
アンリエット嬢がここにいると。
間違いなく迎えにくるだろう。お前たちはどうするつもりだ?」
どちらにしても私がここにいることは知られると思っていた。
「私はオトニエル国に帰りません。
もうすでにルメール侯爵家の籍は外れていますし、
もともと今の侯爵は叔父で、養女になっていましたが、
再度養女に戻すにしても私が署名しなければ無理なはずです」
「アンリエット嬢は成人していたよね?」
「はい。もう十八歳になっています。
親権が必要な年齢でもありませんから、
私が貴族から抜けても問題ないはずです」
「そうだよね。
そうなると正攻法で連れ戻そうとはしないかもしれないな」
正攻法ではない?
さっき言っていたランとレンを人質にしようとしていたとか?
八歳の私を騙して契約させたような人たちだから、
何かしら企んでいてもおかしくはない。
「兄上、ウダール侯爵家が裏にいるのはわかったが、
ハーヤネン王家はどう対応すると思う?」
「王家はアンリエットをオトニエル国に帰そうとしている気がする。
オトニエル国に恩を売れるというのと、
オビーヌ侯爵家の令嬢をパジェス侯爵家に嫁がせれば、
王太子の側妃問題が出なくなると思っているようだ」
「は?王太子の側妃問題?」
「ジョージア様はカトリーヌ嬢が嫌いなんだ。
だが、このままだと側妃になれそうな令嬢はカトリーヌ嬢しかいない。
私を王女と結婚させて王族に残そうとするくらい嫌なんだろうけど、
まさかそのためにパジェス侯爵家を犠牲にするとはね……」
側妃を娶りたくないと思う気持ちはわからないでもないけど、
そのためにカトリーヌ様をシル兄様に嫁がせるって……。
パジェス侯爵家が嫌がっていることはわかっているはずなのに。
その時、ドアがノックされる。
入ってきたのは使用人ではなかった。
服装からして王宮の使いのようだ。
「オディロン様、王宮にお戻りください」
「なぜだ?」
「え?あの、ジョージア様とミュリエル様がお呼びですので」
「戻らないと伝えてくれ」
「ですが!」
「今、パジェス侯爵家で問題が起きている。
これが解決するまでは王宮に戻らないと伝えてくれ。
私はもともとこの屋敷から王宮に通う予定だったのだし、
しばらくは側近の仕事もするつもりはない。
どうしても呼びたいのなら、陛下の許可を取って正式に呼び出してくれ」
「……わかりました」
オディロン様が王宮に戻らないのが納得いかないようで、
使いの者は悔しそうに顔をゆがめて帰っていった。
「戻らなくていいのか?」
「もうあの二人のわがままに振り回されるのはごめんだ。
この辺ではっきりしておかないと、どこまでも好き勝手される」
あれ……もしかして、オディロン様は王女と結婚したくないのかな。
そう思ったのは私だけではなかったらしい。
「俺は兄上は王女を好きなのかと思っていた。
学園が終わっても領地に戻らないし、
夜会でもずっと一緒にいたから」
「ミュリエル様のことは好きでも嫌いでもない感じかな。
結婚しても構わないと思っていたけれど、
シルヴァンの結婚にまで口を出すのなら別問題だ」
「解決しなければ戻らないって、
婚約も取りやめにするつもりなのか?」
「シルヴァンとアンリエット嬢が結婚できなければ、
私がパジェス侯爵家を継がなければいけなくなるだろう。
そもそも私はまだミュリエル様との婚約を同意していない」
「は?同意していない?」
「同意していないのに勝手に父上たちに連絡したらしい。
議会での話し合いに関しても内緒にされていた。
アンリエット嬢のことで父上から連絡が来るまで知らなかった」
「……嘘だろう」
オディロン様の同意なしに王女との婚約の話が進んでいたとは思わなかった。
それにしてはオディロン様が怒っている様子はない。
好きでも嫌いでもないのに
「じゃあ、王女との婚約は断るつもりなのか?」
「いや、シルヴァンがアンリエット嬢と結婚したなら婚約してもいいと思ってるし、
そうミュリエル様にも伝えてあったんだがな」
「どうして俺たちの結婚が先なんだ?」
「だって、アンリエット嬢に魔力の糸を授けたんだろう?
アンリエット嬢以外と結婚できるのか?」
あ、そうだ。魔力の糸は一人にしか授けられない。
気持ちが離れたら切れるものらしいけれど、
無理やりシル兄様と別れさせられた場合、切れるとは思えない。
「いや、父上と母上には悪いけど、無理だな。
俺はアンリエット以外と結婚する気はない」
「そうだろう?
その場合は俺がパジェス侯爵家に帰らないといけなくなる。
ミュリエル様が降嫁してくるならそれでもいいが、
領地に帰るならジョージア様の側近としての仕事はできない。
ジョージア様はそこまで考えずに行動したんだろう。
少し反省してもらわないとな」
ハーヤネン国の国王は穏やかな性格だと聞いていたし、
貴族の関係も問題なく治めていると思っていた。
王太子と王女の話だけ聞くと不安になるけど、大丈夫なのかな。
ランとレンは人質にでもするつもりなのだろう。
二人の命が惜しければ、何も言わずに帰れと言う予定で」
「あの二人はアンリにとって大事な侍女と護衛なんだ。
そんなことをすればアンリは帰らなくてはならなくなる……。
兄上が護送を止めてくれて助かったよ」
「だが、オトニエル国には連絡が行ったようだ。
アンリエット嬢がここにいると。
間違いなく迎えにくるだろう。お前たちはどうするつもりだ?」
どちらにしても私がここにいることは知られると思っていた。
「私はオトニエル国に帰りません。
もうすでにルメール侯爵家の籍は外れていますし、
もともと今の侯爵は叔父で、養女になっていましたが、
再度養女に戻すにしても私が署名しなければ無理なはずです」
「アンリエット嬢は成人していたよね?」
「はい。もう十八歳になっています。
親権が必要な年齢でもありませんから、
私が貴族から抜けても問題ないはずです」
「そうだよね。
そうなると正攻法で連れ戻そうとはしないかもしれないな」
正攻法ではない?
さっき言っていたランとレンを人質にしようとしていたとか?
八歳の私を騙して契約させたような人たちだから、
何かしら企んでいてもおかしくはない。
「兄上、ウダール侯爵家が裏にいるのはわかったが、
ハーヤネン王家はどう対応すると思う?」
「王家はアンリエットをオトニエル国に帰そうとしている気がする。
オトニエル国に恩を売れるというのと、
オビーヌ侯爵家の令嬢をパジェス侯爵家に嫁がせれば、
王太子の側妃問題が出なくなると思っているようだ」
「は?王太子の側妃問題?」
「ジョージア様はカトリーヌ嬢が嫌いなんだ。
だが、このままだと側妃になれそうな令嬢はカトリーヌ嬢しかいない。
私を王女と結婚させて王族に残そうとするくらい嫌なんだろうけど、
まさかそのためにパジェス侯爵家を犠牲にするとはね……」
側妃を娶りたくないと思う気持ちはわからないでもないけど、
そのためにカトリーヌ様をシル兄様に嫁がせるって……。
パジェス侯爵家が嫌がっていることはわかっているはずなのに。
その時、ドアがノックされる。
入ってきたのは使用人ではなかった。
服装からして王宮の使いのようだ。
「オディロン様、王宮にお戻りください」
「なぜだ?」
「え?あの、ジョージア様とミュリエル様がお呼びですので」
「戻らないと伝えてくれ」
「ですが!」
「今、パジェス侯爵家で問題が起きている。
これが解決するまでは王宮に戻らないと伝えてくれ。
私はもともとこの屋敷から王宮に通う予定だったのだし、
しばらくは側近の仕事もするつもりはない。
どうしても呼びたいのなら、陛下の許可を取って正式に呼び出してくれ」
「……わかりました」
オディロン様が王宮に戻らないのが納得いかないようで、
使いの者は悔しそうに顔をゆがめて帰っていった。
「戻らなくていいのか?」
「もうあの二人のわがままに振り回されるのはごめんだ。
この辺ではっきりしておかないと、どこまでも好き勝手される」
あれ……もしかして、オディロン様は王女と結婚したくないのかな。
そう思ったのは私だけではなかったらしい。
「俺は兄上は王女を好きなのかと思っていた。
学園が終わっても領地に戻らないし、
夜会でもずっと一緒にいたから」
「ミュリエル様のことは好きでも嫌いでもない感じかな。
結婚しても構わないと思っていたけれど、
シルヴァンの結婚にまで口を出すのなら別問題だ」
「解決しなければ戻らないって、
婚約も取りやめにするつもりなのか?」
「シルヴァンとアンリエット嬢が結婚できなければ、
私がパジェス侯爵家を継がなければいけなくなるだろう。
そもそも私はまだミュリエル様との婚約を同意していない」
「は?同意していない?」
「同意していないのに勝手に父上たちに連絡したらしい。
議会での話し合いに関しても内緒にされていた。
アンリエット嬢のことで父上から連絡が来るまで知らなかった」
「……嘘だろう」
オディロン様の同意なしに王女との婚約の話が進んでいたとは思わなかった。
それにしてはオディロン様が怒っている様子はない。
好きでも嫌いでもないのに
「じゃあ、王女との婚約は断るつもりなのか?」
「いや、シルヴァンがアンリエット嬢と結婚したなら婚約してもいいと思ってるし、
そうミュリエル様にも伝えてあったんだがな」
「どうして俺たちの結婚が先なんだ?」
「だって、アンリエット嬢に魔力の糸を授けたんだろう?
アンリエット嬢以外と結婚できるのか?」
あ、そうだ。魔力の糸は一人にしか授けられない。
気持ちが離れたら切れるものらしいけれど、
無理やりシル兄様と別れさせられた場合、切れるとは思えない。
「いや、父上と母上には悪いけど、無理だな。
俺はアンリエット以外と結婚する気はない」
「そうだろう?
その場合は俺がパジェス侯爵家に帰らないといけなくなる。
ミュリエル様が降嫁してくるならそれでもいいが、
領地に帰るならジョージア様の側近としての仕事はできない。
ジョージア様はそこまで考えずに行動したんだろう。
少し反省してもらわないとな」
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