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33.王宮へ
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「わかった!アンリエット嬢はオトニエル国に帰さない!
それなら問題ないのだろう?」
「ジョージア様だけがそう決めても意味がないのですよ?
背後にはウダール侯爵家とカトリーヌ嬢がいるでしょう。
それにオトニエル国には何と言って断るつもりですか?」
「う……それは。オディロンなら良い策があるんだろう?」
「ありません。だから困っているのですよ。
こちらは対応を考えるのに忙しいので帰ってください」
「だが、お前がいないと仕事が」
「私の仕事ではありません。お帰りください」
にっこり笑ったオディロン様が怖かったのか、
ジョージア様の顔がひくついている。
さすがに今は説得できないとわかると大きくため息をついた。
「……また来る」
「もう来なくてけっこうです。邪魔しないでください」
がっくりうなだれたままジョージア様は帰っていった。
「兄上、これで王家は味方についたと思うか?」
「いや、どうだろうな。楽観的な人だからな。
どうにかなると思っていそうだ」
「……苦労していたんだな」
「そうだな」
涼しい顔で受け答えしているオディロン様からは苦労は感じない。
だけど、あのジョージア様の下で働くとなると……大変だろうな。
次の日からもジョージア様から手紙が届いていたが、
オディロン様は読むとすぐに燃やしてしまっていた。
帰ってきてほしいのはわかるけど一日に四度も手紙が届くなんて、
問題が解決するまで待てないのだろうかと思う。
三日過ぎて、いよいよ王宮に上がる日。
緊張しながらもドレスに着替える。
正式なドレスを着るのは久しぶりで重く感じる。
王宮に住んでいたころはこれが当たり前だったのに、
一度自由を知ってしまったら戻れるわけがない。
ハーヤネン国の王宮は広いのに騎士の数は少ない。
それだけ平和な国だと言うことなのか。
私たちはオディロン様の案内で謁見室に向かう。
呼ばれたのはシル兄様と私だけだったのだけど、
オディロン様は強引に謁見室までついてきてくれた。
ハーヤネン国王もオディロン様がいるのは想定外だったようで、
驚いているのがわかる。
「参上いたしました。シルヴァン・パジェスです」
「ああ、呼んだのはシルヴァンのほうだよな。
どうしてオディロンがいるんだ?」
「どうしてと言われましても。
なぜ私が関係しないと思われているのかわかりません」
「なんだと?」
オディロン様はジョージア様にしたのと同じように説明する。
それを聞いた国王はジョージア様と違って納得しないようだった。
「そんなのはシルヴァンがカトリーヌと結婚すれば済む話だろう?」
「それではパジェス侯爵家の金細工は途絶えることになりますが、
それでもよろしいですか?」
「は?」
「パジェス家の男は惚れた女性にのみ、魔術を授けることができます。
その相手とでなければ、パジェス家の才能は受け継がれません」
え?魔力の糸を授けた相手とでなければ、受け継がれない?
それって、あの魔術を使えないってことだよね。
パジェス家に生まれたのなら使えるわけじゃないの?
「それならオディロンとミュリエルの子に継がせればいいだろう」
「それも無理です」
「なぜだ?」
「私がミュリエル様に惚れていないからです」
「は?」
「私とミュリエル様がパジェス家を継いだ場合は形だけの結婚になります。
金細工についてはシルヴァンたちの子に継いでもらうつもりでした。
パジェス家と金細工を切り離せば問題はなくなります」
「ミュリエルに惚れていないだと……」
知らない話が出てきているけれど、シル兄様も平然としている。
もしかして、これはオディロン様の嘘?
そうだよね、惚れていないと授けられないとかはさすがにないよね。
「ですが、シルヴァンがパジェス家の籍から外れれば、
陛下の命令に従う必要はなくなります。
アンリエット嬢と二人で逃げてしまったら、
金細工を受け継ぐものがいなくなります。
陛下がそう判断したことですから、仕方がありませんが」
「いや……ちょっと待て。
まさか金細工に影響があるとは思わなかったんだ。
ただの令嬢だと思って、オトニエルに帰せば済む話だと……」
「そうなればパジェス家は終わりです。
もしかしたら、父上は爵位を返上するかもしれませんね」
「……金細工ができなくなれば、爵位など邪魔なだけか」
パジェス家の金細工はこの国の大事な輸出品だ。
他国に売る分は王家が管理しているので、
それがなくなればかなりの痛手になるはず。
「わかった。その令嬢を無理に帰すことはしない。
だが、こちらに迎えに来た使者と話をして断ってくれ。
そのくらいなら問題ないだろう?」
「ええ、断ってかまわないのでしたら」
「はぁ……なぁ、オディロン。
ミュリエルとは結婚したくないのか?」
「私と結婚しても形だけになりますが、
それでミュリエル様は幸せになれると思われますか?」
「ミュリエルはそれでいいかもしれないが、王家としてはそれでは困る。
ミュリエルには王子を生んでもらわなくてならない」
「それでは、他の者を探してください。
私では無理でしょう」
「……わかった」
オディロン様の婚約問題も解決してしまったらしい。
婚約を断ることができてオディロン様はうれしそうだけど、
王女様があきらめてくれるのかな。
謁見が終わり、屋敷に戻れることになったけれど、
オトニエル国から使者が来るまで王都に滞在しなければならない。
使者にははっきり断って、ランとレンを解放してもらって、
早くパジェス侯爵家に帰りたい。
それなら問題ないのだろう?」
「ジョージア様だけがそう決めても意味がないのですよ?
背後にはウダール侯爵家とカトリーヌ嬢がいるでしょう。
それにオトニエル国には何と言って断るつもりですか?」
「う……それは。オディロンなら良い策があるんだろう?」
「ありません。だから困っているのですよ。
こちらは対応を考えるのに忙しいので帰ってください」
「だが、お前がいないと仕事が」
「私の仕事ではありません。お帰りください」
にっこり笑ったオディロン様が怖かったのか、
ジョージア様の顔がひくついている。
さすがに今は説得できないとわかると大きくため息をついた。
「……また来る」
「もう来なくてけっこうです。邪魔しないでください」
がっくりうなだれたままジョージア様は帰っていった。
「兄上、これで王家は味方についたと思うか?」
「いや、どうだろうな。楽観的な人だからな。
どうにかなると思っていそうだ」
「……苦労していたんだな」
「そうだな」
涼しい顔で受け答えしているオディロン様からは苦労は感じない。
だけど、あのジョージア様の下で働くとなると……大変だろうな。
次の日からもジョージア様から手紙が届いていたが、
オディロン様は読むとすぐに燃やしてしまっていた。
帰ってきてほしいのはわかるけど一日に四度も手紙が届くなんて、
問題が解決するまで待てないのだろうかと思う。
三日過ぎて、いよいよ王宮に上がる日。
緊張しながらもドレスに着替える。
正式なドレスを着るのは久しぶりで重く感じる。
王宮に住んでいたころはこれが当たり前だったのに、
一度自由を知ってしまったら戻れるわけがない。
ハーヤネン国の王宮は広いのに騎士の数は少ない。
それだけ平和な国だと言うことなのか。
私たちはオディロン様の案内で謁見室に向かう。
呼ばれたのはシル兄様と私だけだったのだけど、
オディロン様は強引に謁見室までついてきてくれた。
ハーヤネン国王もオディロン様がいるのは想定外だったようで、
驚いているのがわかる。
「参上いたしました。シルヴァン・パジェスです」
「ああ、呼んだのはシルヴァンのほうだよな。
どうしてオディロンがいるんだ?」
「どうしてと言われましても。
なぜ私が関係しないと思われているのかわかりません」
「なんだと?」
オディロン様はジョージア様にしたのと同じように説明する。
それを聞いた国王はジョージア様と違って納得しないようだった。
「そんなのはシルヴァンがカトリーヌと結婚すれば済む話だろう?」
「それではパジェス侯爵家の金細工は途絶えることになりますが、
それでもよろしいですか?」
「は?」
「パジェス家の男は惚れた女性にのみ、魔術を授けることができます。
その相手とでなければ、パジェス家の才能は受け継がれません」
え?魔力の糸を授けた相手とでなければ、受け継がれない?
それって、あの魔術を使えないってことだよね。
パジェス家に生まれたのなら使えるわけじゃないの?
「それならオディロンとミュリエルの子に継がせればいいだろう」
「それも無理です」
「なぜだ?」
「私がミュリエル様に惚れていないからです」
「は?」
「私とミュリエル様がパジェス家を継いだ場合は形だけの結婚になります。
金細工についてはシルヴァンたちの子に継いでもらうつもりでした。
パジェス家と金細工を切り離せば問題はなくなります」
「ミュリエルに惚れていないだと……」
知らない話が出てきているけれど、シル兄様も平然としている。
もしかして、これはオディロン様の嘘?
そうだよね、惚れていないと授けられないとかはさすがにないよね。
「ですが、シルヴァンがパジェス家の籍から外れれば、
陛下の命令に従う必要はなくなります。
アンリエット嬢と二人で逃げてしまったら、
金細工を受け継ぐものがいなくなります。
陛下がそう判断したことですから、仕方がありませんが」
「いや……ちょっと待て。
まさか金細工に影響があるとは思わなかったんだ。
ただの令嬢だと思って、オトニエルに帰せば済む話だと……」
「そうなればパジェス家は終わりです。
もしかしたら、父上は爵位を返上するかもしれませんね」
「……金細工ができなくなれば、爵位など邪魔なだけか」
パジェス家の金細工はこの国の大事な輸出品だ。
他国に売る分は王家が管理しているので、
それがなくなればかなりの痛手になるはず。
「わかった。その令嬢を無理に帰すことはしない。
だが、こちらに迎えに来た使者と話をして断ってくれ。
そのくらいなら問題ないだろう?」
「ええ、断ってかまわないのでしたら」
「はぁ……なぁ、オディロン。
ミュリエルとは結婚したくないのか?」
「私と結婚しても形だけになりますが、
それでミュリエル様は幸せになれると思われますか?」
「ミュリエルはそれでいいかもしれないが、王家としてはそれでは困る。
ミュリエルには王子を生んでもらわなくてならない」
「それでは、他の者を探してください。
私では無理でしょう」
「……わかった」
オディロン様の婚約問題も解決してしまったらしい。
婚約を断ることができてオディロン様はうれしそうだけど、
王女様があきらめてくれるのかな。
謁見が終わり、屋敷に戻れることになったけれど、
オトニエル国から使者が来るまで王都に滞在しなければならない。
使者にははっきり断って、ランとレンを解放してもらって、
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