あなたにはもう何も奪わせない

gacchi

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4.変わり始める運命

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私が帰ったのに気がついたのかリーナが玄関先まで出てきてくれた。
なぜかベンも一緒に。
リーナでは私を抱き上げるのが難しいのか、ベンが抱き上げて運んでくれる。

騎士に手を振ると、何かあったらいつでも言いに来てと言い残して帰った。

私室に戻るとソファに座らされ、リーナが頬の治療をしてくれる。
腫れているのか熱を持っている気がする。

「申し訳ありませんでした!」

「…?」

大声で謝られ、見るとベンが土下座していた。

「ベン、それではジュリア様には伝わりませんわ。
 ちゃんと説明したうえで謝りなさい!」

「はい!あの時、アンディ様を追いかけて、何とか捕まえて、
 ジュリア様を迎えに戻ったのですが、その時にはもう姿はなく……。
 アンディ様に騎士団に連絡するように言ったのですが、
 めんどくさいからほうっておけと……」

「……」

あーなるほど。気まぐれで私を連れて行ったけれど、
騎士団とか言われて面倒になったんだ。
お兄様らしいと言えばらしいけれど、
私が帰って来なかったらどうするつもりだったんだろう。

「これから旦那様に事情を説明して、
 侍従の仕事を辞めさせてもらうつもりです」

ついにベンも付き合いきれなくなったんだ。
これで辞めるの何人目なのかわからないくらいだもの。
お兄様に専属の護衛がついていないのも、
みんな嫌がって辞めてしまったからなんだよね。

気持ちはわかる。
いくら給金が高くても、
何かあったら責任を取らなくちゃいけない仕事は嫌だもの。

「ジュリア様が無事じゃなかったらどうするつもりだったのよ!」

「はい……本当に申し訳なく」

これ以上ベンを責めても仕方ない。
リーナの服を引っ張って、首を横にふる。

「ですが……」

怒りたい気持ちはわかるけど、責める相手が違うと思う。

「……わかりました」

リーナが責めるのをやめたので、ベンはもう一度頭を下げて部屋から出て行った。
これからお父様に報告に行くのだろう。

多分、本当のことを知ったとしても、お父様は私を叱りそうだけど。


次の日、私はしばらく外出禁止で、部屋からも出ないようにと言い渡された。
やっぱりと思いながら、今までも外出なんてできなかったし、
あまり変わらないと思って気にならなかった。

お兄様は少しは悪いと思っていたのか、私の部屋には来なくなった。
もうあんなことに巻き込まれるのはごめんだと思っていたから、
それだけはほっとした。

あの時私を助けてくれた少年が誰なのか気になって、
リーナに騎士団にお礼を渡しに行って聞いてもらった。
お礼と言っても、料理長に頼んで作ってもらった焼き菓子とかだ。
私は買い物するためのお金をもっていないから。

帰ってきたリーナの話では、少年の身元はわからないという。
赤い髪だったという騎士と茶色の髪だったという騎士がいて、
はっきりとした情報が得られなかった。

だけど、私と同じくらいの年の少年だったということと、
おそらく貴族なのだろうということはわかった。
少年を護衛していると思われる男性が何人も付き添っていたらしい。

手元に残されていたものは紫色の宝石がついたブローチだった。
こんな綺麗な石は見たことがない。
侯爵夫人であるお母様も持っていないくらい貴重なもの。
こんなものを簡単に渡せるのだから、高位貴族かもしれない。

それならきっといつか会ってお礼を言えるはず。
この国の貴族なら学園に通うのが義務付けられている。
十五歳になったら学園で探してみよう。
同じくらいの年なら、年下だったとしても学園にいる間に見つかると思う。

その時にはブローチは返さないと。
お守り代わりに渡されるにはあまりにも高価すぎる。

だけど、このブローチにふれると力をもらえる気がした。
どれだけ落ち込んでいても、少しずつ心が温まる気がして、
手放せない、大事な大事な宝物になっていった。



それから数か月が過ぎ、クラルティ王国ではある病気が流行り始めた。
なぜか男性だけが重症化するもので、女性はかかってもすぐに治る。
特に学園に通う前の男の子がかかると一週間以上高熱が続き、
亡くなることもあるというものだった。

これを知ったお父様は人の出入りを減らし、病気の者は離れに行くようにと命じた。
動けるのは女性の使用人ばかりになり、男性は部屋にこもるようになる。
お兄様も部屋にいるようにと命じられたはずなのだが、
じっとしているのが苦手なお兄様は三日もたたずに外出してしまう。

侍従も護衛もついていないために、誰も止めるものがいなかったからだ。

一度目の外出で何もなかったことで安心したのか、
お兄様はお父様の言うことは聞かず、毎日のように遊び歩いていた。

二か月が過ぎたころ、屋敷に帰ってきたお兄様は急に倒れた。
すごい高熱で医師を呼ぼうとしたが、この病気に薬は存在しなかった。
十日間が過ぎたころ、意識が無くなり、そのまま。

この病気の特効薬ができのは、お兄様が亡くなった半年後のことだった。

お兄様が亡くなった後、葬式すら出すことはできなかった。
これ以上の感染者が出ないように、お兄様は王都の外に埋葬された。
どこに埋葬されたのかもわからない。

それからしばらくしてお父様に会うことがあった。
お前のせいだと罵倒されるのを覚悟していたが、何も言わずに通り過ぎて行った。
お母様はお兄様がいなくなった悲しみに耐えきれず、部屋から出てこなくなった。

今まで私にたいして無関心だった両親は、
すべてに関して無関心になったように見えた。
無気力と言ったほうがあっているかもしれない。

そうして喪が明けたころ、私は十歳の誕生日を迎えていた。
両親からお祝いされることはなかったけれど、
今までとは変ったことが一つあった。

侯爵家の嫡子として、王宮でのお茶会への招待状が届けられていた。




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