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3.ハンスのお茶

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ハンスが入れてくれたお茶を飲み、チョコレートをつまんでいると、
少しずつ気持ちが落ち着いてきた気がした。
やっぱり急に言われて、思ってたより動揺していたみたい。
今まで考えていたのとは全く違う将来が待っていることに、
もちろん不安ではあるが、少しだけ期待が混じっている。


「ねぇ、逃げる気はないけど、聞いていいかしら?
 お父様は、逃げた方が良いと思っているの?」

「…そういうわけではないでしょうが、
 シルヴィア様が逃げたいと思うのではないかと、そう考えたのでしょう。」

「私が知ったら逃げたくなるってこと?
 ねぇ、ハンス。もし私が一人で逃げたらどうなるのかしら。」

「…お一人で、ですか?
 それは結婚相手もなく、ただ逃げるってことですよね。
 それでしたら、無駄なことだと思います。きっと後悔するでしょう。」

「無駄って?」

「おそらく、国内だけでなく、近隣国中を探してでも、
 シルヴィア様を見つけ出すでしょう。
 そうなったら、その間の王政は荒れることになります。
 どうせ同じ結果になるのなら、そんなことは望まないでしょう?」

「それは…そうだけど。
 そこまでして私を探すの?」

「探します。必ず。
 この結婚の話は、お相手がシルヴィア様を望んだからです。
 王になる条件として、シルヴィア様との結婚をあげました。
 どうしてもその方に王になってもらいたい陛下は、
 泣く泣くその条件を呑みました。
 
 というわけで、本当にシルヴィア様が消えてしまったら、
 この国の王はいなくなるかもしれません。」

あまりのことに、両手で抱きしめるように身体をさする。なんだか寒気を感じた。
どこまでも探し出してまで結婚する?
私と結婚することが王になる条件?理由が全くわからない。

「…わかったわ。ハンス、安心していいわ。
 逃げたりしない。この国がめちゃめちゃになって後悔したくないもの。
 どんな相手であっても、ちゃんと王女としての務めを果たすから。」

いつも穏やかなハンスの顔が少しだけ歪んだのだが、
それには気が付かなかった。

少しぬるくなってしまったお茶を飲んで、またチョコレートをつまんだ。
口の中で少しずつ溶かして、甘さを楽しんでいると、
ここで私が悩んでも無駄な気がしてきた。

もう結婚相手を想像するのはやめようと思った。
考えたら怖くなりそうだし、結婚することには変わらない。
午後には会うのだし、まっさらな気持ちでお会いしてみよう。
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