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26.姿を取り戻そう
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日が落ちて、精霊の幼生たちが騒ぎ始める時間。
そろそろ精霊王に会いに行く時間になるのに、言い出せないでいた。
また呪いは解けないと言われてしまったらどうしたらいいんだろう。
アロルドは落ち込まないだろうか。
隣に座るアロルドを見上げたら、私の視線に気がついてふわりと笑う。
その優しさが逆につらくなりそうで怖い。
「どうかした?」
「……ううん。
どうかしたわけじゃないけど、この生活も終わりになるのかな」
アロルドがこの離れに来てから、ずっと一緒にいた。
呪いが解ければこの生活も終わる。
わかっていたことだけど、言葉にしたらさみしくて仕方ない。
「エルヴィラが望むならいつでもそばにいる。
さっきも言っただろう?」
「うん……」
「そろそろ行こうか」
「うん、行こう」
アロルドから言われて、気持ちを切り替えようと思った。
今はアロルドの姿を取り戻すことだけを考えよう。
ソファから立ち上がり、離れから外に出る。
すぐにたくさんの光が群がるように私たちを囲む。
「え?呼んでる?」
「え?」
精霊王が呼んでいるからと精霊たちに運ばれ、湖の前に立つ。
私たちが来るのが待ちきれなかったらしい。
「やっと来たか。問題は片付いたのだろう?」
「はい。私が当主として認められました。
アロルドとの婚約も許可されました。これでもう大丈夫だと思います」
「そうか。ならばよい」
満足そうな精霊王にアロルドが問いかける。
「俺の呪いは解けそうですか?」
「そうだな。もう解けるだろう」
ほっとしたのも束の間で、思いもしなかったことを告げられる。
「アロルドの影を持っているのは小さき加護を持つ者だ」
「小さき加護を持つ者?」
「その者が願った結果、呪いとなった。
けっして呪いをかけようとしたのではない。それは願いだ」
「願い?」
アロルドを見ても不思議そうにしている。
アロルドにも心当たりはないらしい。
「どういう願いですか?」
「アロルドとエルヴィラの幸せだ」
「私たちの?」
「それを叶えようとして精霊に願った結果、精霊が暴走した。
だから、お前たちが婚約したことを知れば願いは叶う。
呪いも消えるだろう。
影を取り返せば姿も戻る。オーケルマン公爵家で探すがよい」
「オーケルマン公爵家?」
「それって……もしかして」
精霊に願ったのが誰なのかわかり、アロルドと顔を見合わせる。
その間に精霊王は消えてしまっていた。
「ふふふ。そうだったのね」
「あいつの願いじゃ怒れないな」
「そうね。明日、オーケルマン公爵家に行きましょう。
きっとアロルドが帰ってくるのを待っているわ」
「そうだな」
手をつないで離れへと戻ると、いつものように一緒に眠る。
もうこんな日々は当たり前ではなくなってしまう。
それがわかっているから、なおさらいつも通りに眠った。
朝、オーケルマン公爵家に使いを出して、午後に訪問する約束を取りつける。
馬車に乗ってオーケルマン公爵家に着くと、公爵と夫人が待っていた。
「エルヴィラ、今回は災難だったな」
「本当だわ。エルヴィラ、大変だったわね」
「いいえ、ご助力ありがとうございました」
「なに、私はたいしたことはしていない」
「川の氾濫を防ぐように対策してくださったと聞いています。
ありがとうございます。助かりました」
「あの馬鹿者たちのせいで平民が苦しむのは見過ごせないからな。
エルヴィラのせいじゃないよ。さぁ、中で話そうか」
「はい」
前回と同じで家族用の団欒室に案内されると、お茶が用意される。
ふと、私の隣にお茶が一つ多く出されているのに気がつく。
見えないはずのアロルドの分まで用意されている。
ここでも呪いの効果があるのかと笑いそうになる。
「ん?なんだか良い報告なのかな?
そんな風に楽しそうに笑うのは久しぶりに見たね」
「……そうですね。良い報告です。
私とアロルドの婚約を陛下から認めてもらえました」
「何!本当か!」
「はい」
「ちょっと待て!すぐに書類を用意する。
陛下の考えが変わらないうちに受理させよう!」
慌てて廊下に出て行く公爵に驚いていると、嬉しそうな夫人に手を握られる。
「……ついに、ついになのね!
やっとエルヴィラが娘になるのね!」
「ええ、おばさま」
「ううん、もうお義母様って呼んでくれる?」
「ふふふ。そうですね、お義母様」
「うれしいわ。本当に良かった……アントンも喜ぶわね」
そのアントンに会いたくて来たのに、アントンはいない。
前回は一緒に談話室で話をしたのに、今日はどこにいるんだろう。
「今日はアントンはどうしたのですか?」
そろそろ精霊王に会いに行く時間になるのに、言い出せないでいた。
また呪いは解けないと言われてしまったらどうしたらいいんだろう。
アロルドは落ち込まないだろうか。
隣に座るアロルドを見上げたら、私の視線に気がついてふわりと笑う。
その優しさが逆につらくなりそうで怖い。
「どうかした?」
「……ううん。
どうかしたわけじゃないけど、この生活も終わりになるのかな」
アロルドがこの離れに来てから、ずっと一緒にいた。
呪いが解ければこの生活も終わる。
わかっていたことだけど、言葉にしたらさみしくて仕方ない。
「エルヴィラが望むならいつでもそばにいる。
さっきも言っただろう?」
「うん……」
「そろそろ行こうか」
「うん、行こう」
アロルドから言われて、気持ちを切り替えようと思った。
今はアロルドの姿を取り戻すことだけを考えよう。
ソファから立ち上がり、離れから外に出る。
すぐにたくさんの光が群がるように私たちを囲む。
「え?呼んでる?」
「え?」
精霊王が呼んでいるからと精霊たちに運ばれ、湖の前に立つ。
私たちが来るのが待ちきれなかったらしい。
「やっと来たか。問題は片付いたのだろう?」
「はい。私が当主として認められました。
アロルドとの婚約も許可されました。これでもう大丈夫だと思います」
「そうか。ならばよい」
満足そうな精霊王にアロルドが問いかける。
「俺の呪いは解けそうですか?」
「そうだな。もう解けるだろう」
ほっとしたのも束の間で、思いもしなかったことを告げられる。
「アロルドの影を持っているのは小さき加護を持つ者だ」
「小さき加護を持つ者?」
「その者が願った結果、呪いとなった。
けっして呪いをかけようとしたのではない。それは願いだ」
「願い?」
アロルドを見ても不思議そうにしている。
アロルドにも心当たりはないらしい。
「どういう願いですか?」
「アロルドとエルヴィラの幸せだ」
「私たちの?」
「それを叶えようとして精霊に願った結果、精霊が暴走した。
だから、お前たちが婚約したことを知れば願いは叶う。
呪いも消えるだろう。
影を取り返せば姿も戻る。オーケルマン公爵家で探すがよい」
「オーケルマン公爵家?」
「それって……もしかして」
精霊に願ったのが誰なのかわかり、アロルドと顔を見合わせる。
その間に精霊王は消えてしまっていた。
「ふふふ。そうだったのね」
「あいつの願いじゃ怒れないな」
「そうね。明日、オーケルマン公爵家に行きましょう。
きっとアロルドが帰ってくるのを待っているわ」
「そうだな」
手をつないで離れへと戻ると、いつものように一緒に眠る。
もうこんな日々は当たり前ではなくなってしまう。
それがわかっているから、なおさらいつも通りに眠った。
朝、オーケルマン公爵家に使いを出して、午後に訪問する約束を取りつける。
馬車に乗ってオーケルマン公爵家に着くと、公爵と夫人が待っていた。
「エルヴィラ、今回は災難だったな」
「本当だわ。エルヴィラ、大変だったわね」
「いいえ、ご助力ありがとうございました」
「なに、私はたいしたことはしていない」
「川の氾濫を防ぐように対策してくださったと聞いています。
ありがとうございます。助かりました」
「あの馬鹿者たちのせいで平民が苦しむのは見過ごせないからな。
エルヴィラのせいじゃないよ。さぁ、中で話そうか」
「はい」
前回と同じで家族用の団欒室に案内されると、お茶が用意される。
ふと、私の隣にお茶が一つ多く出されているのに気がつく。
見えないはずのアロルドの分まで用意されている。
ここでも呪いの効果があるのかと笑いそうになる。
「ん?なんだか良い報告なのかな?
そんな風に楽しそうに笑うのは久しぶりに見たね」
「……そうですね。良い報告です。
私とアロルドの婚約を陛下から認めてもらえました」
「何!本当か!」
「はい」
「ちょっと待て!すぐに書類を用意する。
陛下の考えが変わらないうちに受理させよう!」
慌てて廊下に出て行く公爵に驚いていると、嬉しそうな夫人に手を握られる。
「……ついに、ついになのね!
やっとエルヴィラが娘になるのね!」
「ええ、おばさま」
「ううん、もうお義母様って呼んでくれる?」
「ふふふ。そうですね、お義母様」
「うれしいわ。本当に良かった……アントンも喜ぶわね」
そのアントンに会いたくて来たのに、アントンはいない。
前回は一緒に談話室で話をしたのに、今日はどこにいるんだろう。
「今日はアントンはどうしたのですか?」
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