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10.専属侍女
お兄様は思ったよりも早く戻ってきた。
寝台で休んでいた私とレオンはお兄様のお叱りで目を覚ました。
「婚約もしていないのに何をしているんだ!!」
「……仕方ないだろう。ここが一番安全なんだから」
「だからと言って、醜聞になるだろうが!!」
「大丈夫。絶対に手放さないから」
「……はぁ」
叱っても無駄だとわかったのか、お兄様があからさまにため息をついた。
「ルシール、レナとユーリを連れてきた。
起き上がれそうか?」
「自分ではまだ動けないの」
「俺が抱き上げる。侍女を連れてきていいよ」
レオンに抱き上げてもらい、応接間まで連れていかれる。
一度外に出たお兄様がレナとユーリを連れて部屋に入ってきた。
レナとユーリは泣いたのか、目を真っ赤にしている。
レオンの前に来た二人は臣下の礼をとった。
お兄様も人前ではレオンを陛下として敬っているのか、
臣下の礼をして声がかかるのを待っている。
「顔をあげていい。ユリウス、この二人は覚えている。
ルシールを任せても大丈夫なんだな?」
「問題ありません。この者たちはアルベール公爵家に隷属させています。
私の命令に逆らうことはできません」
「それなら問題ないか」
レナとユーリを隷属させている!?
アルベール公爵家がそんな契約はしていなかったはずなのに。
侍女を奴隷化させるなんて、いったいどうして……。
「それで陛下、仕事がたまっています。
緊急に処理しなければいけないものもあるので、執務室に行きましょう」
「はぁ……そうだな。四日も放っておけばそうなるか。
ルシール、少し仕事してきてもいいか?」
「え、ええ。緊急の仕事があるならそちらを優先して」
「すぐに戻る」
「レナ、ユーリ、ルシールのことを守るように」
「「はい。おまかせください」」
レオンは本当に嫌そうな顔をしたまま私をソファに座らせた。
レオンと離れるのは四日ぶり。
さみしい気持ちはあるけれど、仕事なら仕方ない。
レオンとお兄様が部屋から出て行き、私とレナとユーリが残される。
「レナ、ユーリ。お兄様から事情は聞いたかしら?」
「はい……リアーヌ様、申し訳ございませんでしたっ」
「あの時、お守りできず……申し訳ございません」
泣きながら平伏した二人に駆け寄りたいけれど、うまく動けない。
「謝らなくていいから、話をしてくれない?」
「ですがっ……私たちはリアーヌ様を」
「うん、でもね、ルシールに謝られても困るの」
もうリアーヌは亡くなっているし、ルシールとして生まれ変わっている。
事実は変わらないのだし、謝られても許すべきなのかどうかもわからない。
私が困っているのに気づいたのか、二人は慌てて顔をあげた。
「それにしても、どうして隷属なんてひどいことを」
「それは違うのです。私たちを守るためにしてくださったのです」
「二人を守るため?どうして?」
「私たちはリアーヌ様をお守りできませんでした。
責任をとって処刑するべきだという声もありました」
「そんなっ……」
「ですが、ユリウス様が隷属した状態で事情を聞いて、
私たちが犯人でなかったのなら、一生公爵家に仕えることで許す、と」
「隷属することで嘘がつけなくなっています。
そうすることで私たちは無実だと証明してくださったのです」
言われてみれば、王太子の正妃に内定していた私を守れなかったとなれば、
専属侍女だった二人は罪に問われていたはずだ。
処刑までいかなかったとしても、重労働の刑にされていた。
少なくとも公爵家で仕える生活よりもひどかったに違いない。
「二人はお兄様を恨んではないのね?」
「助けていただいたのです。恨むわけありません。
そして、またリアーヌ様にお仕えできるのなら、
これ以上の幸せはありません」
「今度こそ、リアーヌ様を守らせてください」
「こちらこそお願いするわ。
でも、これからはルシールって呼んでね?
リアーヌだったことはできるだけ内緒にするから」
「わかりました」
「これからはルシール様にお仕えいたします」
話したことで落ち着いたのか、二人はすぐに侍女として動き始める。
部屋の中を確認すると、お茶を淹れてひざ掛けを持ってきてくれる。
久しぶりにレナが淹れてくれたお茶を飲んだら、
アルベール公爵家で過ごしていた日々を思い出した。
帰れるのなら屋敷に帰りたい。
「ねぇ、お父様とお母様はどうしているの?
お兄様は事情を話したのかしら」
「前公爵様と奥様は領地にいらっしゃいます。
ユリウス様はさきほど手紙を出されていたようです」
「え?領地に?」
「……リアーヌ様が亡くなって、奥様が体調を崩しがちになられ、
二年前にユリウス様に爵位を譲られるとお二人で領地のほうへ」
「お母様が体調を?」
リアーヌほどではなかったけれど、お母様も身体が強い人ではなかった。
お父様も付き添わなくてはいけないほど、体調を崩しているのだろうか。
お兄様が戻ってきたら聞いてみなければ。
それからレナとユーリの手を借りて湯あみをしたけれど、
体力がもたなくて、終わるころにはぐったりしていた。
寝台に横になり髪を乾かしてもらっていると、
気持ちよさにそのまま眠っていたようだ。
気がつくと、次の日の朝になっていた。
隣には眠っているレオン。
レナとユーリは下がっているようだ。
「……ん?あぁ、起きたのか」
「いつ戻ってきていたの?」
「夜中に戻ってきた。
まだ仕事は終わっていないから、あとで行かなくてはならないけど。
あまりルシールを一人にしたくないんだがな」
「仕方ないわ。レナとユーリがいてくれるから、心配しないで」
「問題ないのならいいが、侍女の人数を増やさなくては。
二人では何かあった時に対処できないだろう」
「それはそうね」
レオンがいない間だけいればいいというわけでもないし、
侍女が二人だけというのは足りないと思う。
「今更だけど、アルベール公爵家から侍女を派遣して大丈夫なの?」
「それについてはユリウスと話し合ってきた。
ルシールの後見をアルベール公爵家にする」
「え?ペルラン公爵家が黙っていないわよね?」
「それも任せておけ」
アルベール公爵家の後見にできるのなら、
私としてもうれしいけれど。
異母兄のために私を正妃にするつもりのペルラン公爵が黙っているだろうか。
不安に思っていたけれど、それから五日後。
レオンは本当にそれを実現してしまっていた。
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