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絡み合う運命

24.隠し事

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「王族に言われて無理やり妃にされたってこと?」

「多分ね。そういうことは当時の隊長でもあったことなんだ。
 貴族らしい考えや男尊女卑、そんなのが当たり前だった時代。
 聖女は隊長に従っていればいい、そう思っていたんだろう。
 少しずつ聖女の地位が高くなって、聖女自身の気持ちが重要視されるようになって、
 聖女の仕事が終えるまでは誰も口説いてはいけないことになった。
 …って、昨日俺がその規則を破っちゃったんだけど。」

またちょっと落ち込みそうなキリルの額を合わせて、コツンとする。

「規則を破ったのは私のためなんでしょ?」

「うん。」

「じゃあ、いいよ。
 私を守るためにある規則なんだとしたら、そんなのいらない。
 キリルの気持ちが聞けてうれしかったもん。」

「そっか。良かった…。」

「あぁ、でも。すでに一度破ってるのに、って、何したの?」

昨日の会話を思い出し、キリルが最初に言ってたことが気になった。
一度規則を破ってしまっていたから言えなかったって。

「あ…うん。ユウリは怒ってくれていいんだが…。」

「うん、何をしたの?」

「聖女の仕事を終えた後、隊長と結ばれることになったら神の住処に行くんだ。
 神がそこで認めてくれたら一緒になれる。」

「結婚の儀式みたいなもの?
 向こうでも教会とかで誓うけど、そんな感じ?」

「あぁ、うん。そんな感じだと思っていい。
 で、聖女が他の人間と一緒に神の住処に行くことは無い。」

「え?」

「…ごめん。」

聖女が他の人と神の住処に行くことは無い?
神の住処って、あの鍾乳洞みたいなところだよね。
真名を教えてくれて、身体を作り直してくれた…え?

「…私、キリルと一緒に行ったよね?」

「うん…忘れていたわけじゃないんだけど、
 あの時のユウリを一人にできなくて…一緒に行ってしまって。
 後から考えて、何てことしてしまったんだろうって…。」

「え?私…もうキリルと結婚していることになるの?」

「いや、そうじゃないんだ…。
 隊長という立場上、聖女に無理に結婚を承諾させることも可能だろう?
 お互いに一緒にいたいと思っているかどうか、
 聖女がそれを嫌がっていないかを確認するための儀式なんだ。
 これをしないと聖女と隊長の結婚が認めてもらえない。
 …ユウリと俺の場合は、神には認めてもらえたけど、
 聖女の仕事が終わるまでは結婚できない感じ。
 神に言われただろう?導く役目、最後まで遂げるように、って。」

「そういえば言われてたね…。」

「だから、ユウリが聖女の仕事を終えたら、ちゃんと話そうって思ってて。
 全部謝って、それでも俺のことを選んで欲しいって言おうと思ってたんだ。」

誤魔化していたのが全部バレたみたいな、そんな顔しているキリルに、
たしかに隠していたのはダメかもしれないけれど、笑いそうになる。

「もしかして、それがあったから、
 律に騙しているって言われたときに何も言えなかったの?」

「そうだ。黙ってて卑怯だという自覚はあったから。
 騙していると言われても否定できなかった。」


「…って、そうだった!律はあの後どうなったの!?」

あんなことがあったのに、律のことをすっかり忘れていた。
あの馬車の御者や女性のこともキリルに何も話していない。
思わずベッドから起き上がって、キリルの肩を揺らす。

「リツは隊員たちが確保して、王都に送ってる。
 詳しい話を聞いて、それなりに処罰をしなきゃいけない。
 二度目の誘拐未遂だし、ナイフをユウリの首にあててたしね…。
 少しでも動けば危ないところだった…。」

「…処罰か…でも、そうだよね…誘拐されそうになってた。」

あまり厳しい処罰にしないで欲しいという気持ちはあるけれど、
あのまま誘拐されていたらどうなっていたのかわからない。
この世界にも法律があるようだし、それに従うのがいい気がした。

「共犯らしきものたちの遺体と馬車も見つけたから、協力者についても調べている。
 すぐにわかると思うが…まずはこの領地の浄化が先だな。
 終わって王都に行ってから、共犯者を捕まえて、処罰する。
 その時にまたくわしく話せると思う。
 …今はゆっくり休んで。ほら。」

「うん。」

起き上がった身体を優しく包み込むようにされ、またキリルの腕の中にすっぽりと入る。
暖かい魔力が流れてきて、そのまま身体中を熱がぐるぐると回る。
もうキリルの魔力を私の魔力が冷やすことは無い。
二人分の熱が重なって、陽だまりにいるような幸せを感じる。

「魔力が気持ちいい…。」

「俺も。ユウリの壁が無くなって、こんなにもすぐ近くに感じられる。
 俺の気持ちをそのまま受け入れてくれて…ありがとう。」

「うん。」


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