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聖女ではない新しい私へ

12.終わりから始まる

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「次はどこにいく?」

地図を出そうとしているキリルの手を押さえ、出さなくていいと伝える。
次に行く場所はもう決めてあった。

「ううん、もうどこにも行かない。」

「え?」

後ろから私を抱え込んでいたキリルが、私の顔を覗き込んでくる。
いつも通りの穏やかな目が少しだけ心配そうなものに見える。
腕の力が緩んだすきにくるりと後ろを向いて、キリルに抱き着いた。

「…ユウリ?どうした?」

「私ね、何か見つけられたら、いろんなことを知れたら、
 私じゃない私になるんだと思ってた。
 そうなるはずだった私だったのか、全然違う私だったのか、
 もうわからないけれど…私自身を探したかったんだと思う。」

「…三年間で何か変わった?」

「ううん。何も変わらなかった。
 何を見ても、何を知っても、私は私でしかない。
 全く同じではないとは思うけど、そんな変わるものじゃないんだってわかった。」

「そうだね。ユウリは最初からずっとユウリだ。
 どんなことがあっても、芯の部分は変わりようがない。」

「うん…だから、安心した。
 きっと、私がこの世界に産まれてきていたとしても、何も変わらなかったと思う。
 同じように生きて、同じように感じて、キリルのこと好きになったと思う。
 小さいころの思い出が共有できないのはさみしいけど、
 これからでもいっぱい作ればいいよね。」


ずっと変わらないキリルの優しい目に私の姿が映ってる。
目立たないように茶色の髪と目になっているからか、
まるで向こうの世界にいた頃の私のようだ。
もう平凡だとは思わないけれど、そこまで変わったとも思えなくなった。

あれも、あの頃の窮屈な私も、私だ。
今ならあれも同じ私だったと感じられる。
三年前も、今も。

私は私で、何かすごいことができるわけでも、すごくいい人なわけじゃない。
美味しいものを食べるのが好きで、甘いお茶に癒されて、
人と話す時にちょっと緊張して、人前に出るのは苦手で。
柔らかいもの、ふわふわしたものになりたくて、
でもどちらかといえば硬くてまっすぐな性質で。

それでいい。
というよりも、そうでしかないことをやっと受け入れられた。

いつか変わったと思う時が来るかもしれないけど、
その時はその時で悩んで受け入れるしかないんだと思う。


「私は思った以上に小さな私だった。
 だけど、キリルと一緒にいたい。
 キリルのことが大好きなのは本当。
 三年も振り回して、待たせてごめんね。

 …リアム、私と結婚して、公爵領に帰ってくれますか?」

受け入れてくれると信じているけれど、やっぱり少し怖くて声が震える。
私からのプロポーズに、キリルが目を瞬かせた。
驚かせてしまったかもしれない。こんなに長い間待たせてしまっていたのだし。

少しだけ間を置いて、キリルが私の目の前に跪いた。

「リディーヌ、もちろんだ。
 俺と結婚して、これからも一緒にいて欲しい。
 公爵領に、兄さんと美里のところへ帰ろう?」

「うん!」

跪いているキリルの首に抱き着いたら、そのまま抱き上げられた。
急に高くなってふらついても、キリルがしっかり受け止めてくれる。

私が考えすぎて迷っている間、キリルはずっと見守っていてくれた。
本当は答えなんかないってわかっていたのかもしれないけれど、
私がやりたいようにさせてくれていた。
三年間のことが全く無駄だとは思っていない。
だけど、一番大事なことはずっとそばにあったと気が付いた。


「これからもよろしくね。キリル。」

「あぁ。」


まだ遠くで羊がめぇめぇ鳴いている。
雪が降る前に早くここを出よう。

みんなが待ってる場所へ帰るために。

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