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聖女ではない新しい私へ

11.自分を見つける

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「この世界に来て、キリルに会って、
 ようやく足りなかったものが埋められた気がした。
 だけど、私自身には何もない。空っぽなままだった。
 私が何をしたかったのかわからないまま、ここでも流されている。
 …このまま公爵領に行って、平和に暮らして終わりで、
 本当にそれでいいのかって思ってしまったの。」

幸せだけど、こんなに幸せだと思えるんだけど、
そう思っている私自身は何も持っていなくて。
こんな私でいいのかって、迷いが消えない。

あぁ、こんなこと言ってどうするんだろう。
キリルに呆れられてしまわないだろうか。

「ユウリは…まだこの世界を知らない。
 自分自身もそうだろうけど、経験値が圧倒的に足りていないんだ。
 周りを知らないから、自分のこともよくわからない。
 基準がわからなければ、計ることもできない。」

「経験値が足りてない…そうだよね。
 聖女の仕事をしてたとしても、鈴振ってただけだし。」

「いや、あれはユウリたちにしかできない仕事だったから、
 それはそれですごいことなんだけど。
 この世界で生まれていたとしたら、知ってるはずのことがあるだろう。
 当たり前のように経験してきたことがあるはずなんだ。
 それがすっぽりと抜けてしまっているのだから、
 ユウリが不安に思ったとしても仕方ない。」

「そっか。あるはずのものが無いから不安になるんだ。」

この世界で、王女として生まれてきていたら、どう過ごしてきたんだろう。
きっと王女として生まれてきたとしても、キリルと出会ったのは間違いないと思う。
王女と公爵家長男として出会っても、お互いに魅かれ合ったと思っている。

だけど、私自身は違う人になっていただろうな。
王族なのよって、偉そうなこと言うような人間になっていただろうか。
カインお兄ちゃんにべったり甘えるような妹キャラになっていただろうか。
その辺は想像でしかないけど、
本来あったはずのことが抜けているというのはすごくよくわかる。

…私には何もない。
律と一花と離れて、ようやく一人で歩けると思ったけれど、
そこから一歩も動けずに…ただ流されるように生きている。
だけど、このままでいるのは嫌だと思った。

「好きに言っていいんだ。どうしたい?」

「…私、この世界を知りたい。
 もっと、いろんなことを見て知って、考えたい。
 私が、私って人間がどういうものなのか、わかりたい。」

「うん。それでいい。
 ユウリがしたいようにしよう。
 気が済むまで、この世界を見に行こう。」

勢いで言ってしまったのに、あっさりと許可を出されて驚いてしまう。
本当にそんなことできるんだろうか?

「…いいの?」

「もちろん。あぁ、俺もついていくからね。
 ユウリを一人で旅に行かせるのは許可できない。
 俺が一緒に行けば、カイン兄さんも許してくれるだろう。
 身分を隠して、あちこち行こう。
 学校に行ったり仕事をしてみたりしても楽しいと思うよ。」

「ありがとう…。」

こうして私たちの旅が決まったのだけど、美里の許可を得るのが一番大変だった。
悠里と一緒にやりたいこといっぱいあるのになんでよって。
それでも最終的には私が向こうの世界で苦しんでいたことを思い出し、
好きなように行ってきていい、だけど帰って来てねと言ってくれた。



それから三年間。
あっという間の旅だった。
髪と目の色を変え、下位貴族を装って旅をしていた。
聖女として浄化した場所にも行ってみたけれど、そこは全く違う場所に見えた。
平民になってパン屋で一か月間働いたこともあった。
教会の診療所で治療を手伝っていたこともあった。

山川悠里でもなく、聖女でもなく、ただの私になって。
何か見つけられるかもしれない、なりたい私になれるかもしれない。
そんな期待と共に過ごした三年間だった。
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