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2.婚約者との仲
「……仕方ないわ。持ち帰ります」
この部屋はアンジェラ様の部屋だ。
アンジェラ様がいなくなってしまった以上、私が居続けることはできない。
仕方なく、マントを丁寧にたたんで持ち帰ることにする。
「リンネア様、私がお持ちいたします」
「いえ、これは任せることはできないわ」
「わかりました」
侍女のカルラがマントを持とうとしてくれたけれど断る。
うっかり汚してしまったり、傷つけてしまったとしたら、
伯爵令嬢のカルラでは罪を償いきれない。
公爵令嬢の私でも償えるかは微妙なところだけど、
一応は王太子の婚約者という肩書はある。
それも属国の一つでしかないエルドレド国の次期王太子妃くらいでは、
皇太子のマントとは比べ物にならないくらい軽いけれど。
馬車に戻ると、そこには護衛騎士、カルラの双子の弟クルスが待っていた。
薄茶色の髪と目はまったく同じだけど、印象はかなり違う。
小さい頃は何から何までそっくりだったのに、今では大違い。
カルラの分まで大きくなったのかしらとクルスを見上げる。
「ずいぶんと早いお戻りでしたね?」
「ええ、いろいろとあって。とりあえず帰りましょう」
「わかりました」
三人で馬車に乗り、王宮を出てしまうといつものようにカルラが怒り出した。
ついでに事情を知ったクルスまで怒り出してしまったものだから、
二人を落ち着かせるのに苦労する。
「またわがまま言ったのか!あの王女は!」
「そうよ!本当に腹が立って仕方がないわ!」
二人は公爵家の分家の出身で、幼いころからよく知っている。
そのせいでこうして他に人がいない場合は気安く話すこともある。
「リンネア様はもう少し怒った方がいい!」
「そうよ!義姉になるんだから!」
「そう言われてもね、アンジェラ様のことならいつものことだわ」
「王女だけじゃないわ、王太子もよ!
大国に嫁ぐ王女をあんなに甘やかしていていいの!?」
「本当ね……あと二週間後には帝国に向けて出発するというのに、
あんな調子で大丈夫なのかしら」
カルラの心配はもっともなことだった。
アンジェラ様の輿入れはもう八年前から決まっていた。
当時八歳だった王女へ婚約の申し入れが来た時は、誰もが驚いていたそうだ。
この世界の中心にあるアリアトス帝国は五つの国を従えている。
この国もその一つだが、五つの国の中では下位のほうになる。
そんな国から次期皇太子妃、ゆくゆくは帝王の正妃となるのだから、
アンジェラ様の教育は帝国から送られて来た教育係が行うことになった。
それなのに……アンジェラ様は学ぶことが嫌いで、礼儀作法もあやしい。
なぜかアンジェラ様と共に私も学ぶことになってしまったけれど、
出された課題はいつも私がすることになっていた。
それもこれも、すべては甘やかしてしまうナタニエル様のせいで。
「でも、アンジェラ様が輿入れしてしまえば、困ることはなくなるわ。
ナタニエル様自身は優秀なのだし、問題はなくなるでしょう」
「早く輿入れの日になってほしいわ~」
「あら、でも、その前にこのマントを仕上げてしまわなくてはならないのよ?」
「私も手伝うわ!」
「いえ、止めておいた方がいいわ。帝国側に発覚した時に罪に問われかねないもの」
「……そんなぁ。二週間しかないのに無理だわ。
本当に、どうしてリンネア様が引き受けなくちゃいけないの……」
「仕方ないわ。言い出したら聞かない人たちだもの」
残念ながら、あの二人に振り回されるのには慣れている。
だが、こんな生活もあと二週間で終わる。
いつも甘えて助けを求めてしまうアンジェラ様のせいで、
私とナタニエル様との関係は良くない。
私たちの結婚まであと一年。
その間に関係を修復できるといいのだけど……。
この部屋はアンジェラ様の部屋だ。
アンジェラ様がいなくなってしまった以上、私が居続けることはできない。
仕方なく、マントを丁寧にたたんで持ち帰ることにする。
「リンネア様、私がお持ちいたします」
「いえ、これは任せることはできないわ」
「わかりました」
侍女のカルラがマントを持とうとしてくれたけれど断る。
うっかり汚してしまったり、傷つけてしまったとしたら、
伯爵令嬢のカルラでは罪を償いきれない。
公爵令嬢の私でも償えるかは微妙なところだけど、
一応は王太子の婚約者という肩書はある。
それも属国の一つでしかないエルドレド国の次期王太子妃くらいでは、
皇太子のマントとは比べ物にならないくらい軽いけれど。
馬車に戻ると、そこには護衛騎士、カルラの双子の弟クルスが待っていた。
薄茶色の髪と目はまったく同じだけど、印象はかなり違う。
小さい頃は何から何までそっくりだったのに、今では大違い。
カルラの分まで大きくなったのかしらとクルスを見上げる。
「ずいぶんと早いお戻りでしたね?」
「ええ、いろいろとあって。とりあえず帰りましょう」
「わかりました」
三人で馬車に乗り、王宮を出てしまうといつものようにカルラが怒り出した。
ついでに事情を知ったクルスまで怒り出してしまったものだから、
二人を落ち着かせるのに苦労する。
「またわがまま言ったのか!あの王女は!」
「そうよ!本当に腹が立って仕方がないわ!」
二人は公爵家の分家の出身で、幼いころからよく知っている。
そのせいでこうして他に人がいない場合は気安く話すこともある。
「リンネア様はもう少し怒った方がいい!」
「そうよ!義姉になるんだから!」
「そう言われてもね、アンジェラ様のことならいつものことだわ」
「王女だけじゃないわ、王太子もよ!
大国に嫁ぐ王女をあんなに甘やかしていていいの!?」
「本当ね……あと二週間後には帝国に向けて出発するというのに、
あんな調子で大丈夫なのかしら」
カルラの心配はもっともなことだった。
アンジェラ様の輿入れはもう八年前から決まっていた。
当時八歳だった王女へ婚約の申し入れが来た時は、誰もが驚いていたそうだ。
この世界の中心にあるアリアトス帝国は五つの国を従えている。
この国もその一つだが、五つの国の中では下位のほうになる。
そんな国から次期皇太子妃、ゆくゆくは帝王の正妃となるのだから、
アンジェラ様の教育は帝国から送られて来た教育係が行うことになった。
それなのに……アンジェラ様は学ぶことが嫌いで、礼儀作法もあやしい。
なぜかアンジェラ様と共に私も学ぶことになってしまったけれど、
出された課題はいつも私がすることになっていた。
それもこれも、すべては甘やかしてしまうナタニエル様のせいで。
「でも、アンジェラ様が輿入れしてしまえば、困ることはなくなるわ。
ナタニエル様自身は優秀なのだし、問題はなくなるでしょう」
「早く輿入れの日になってほしいわ~」
「あら、でも、その前にこのマントを仕上げてしまわなくてはならないのよ?」
「私も手伝うわ!」
「いえ、止めておいた方がいいわ。帝国側に発覚した時に罪に問われかねないもの」
「……そんなぁ。二週間しかないのに無理だわ。
本当に、どうしてリンネア様が引き受けなくちゃいけないの……」
「仕方ないわ。言い出したら聞かない人たちだもの」
残念ながら、あの二人に振り回されるのには慣れている。
だが、こんな生活もあと二週間で終わる。
いつも甘えて助けを求めてしまうアンジェラ様のせいで、
私とナタニエル様との関係は良くない。
私たちの結婚まであと一年。
その間に関係を修復できるといいのだけど……。
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