もう二度と助けを求めないでください

gacchi(がっち)

文字の大きさ
16 / 102

16.謁見

その日のうちにマリアから謁見が明日に決まったことを知らされる。
いよいよ皇帝陛下と正妃様に会うと思うと緊張してくる。

この大陸のほとんどを支配していると言っても過言ではないほど、
皇帝陛下が持つ権力は強い。

今までエルドレドの王族としか謁見したことがないので、
帝国の謁見の作法は学んであるとはいえ、失敗しなければいいと不安になる。


次の日は朝食を取った後から準備が始まった。

湯あみをした後、数人がかりで身体を磨かれ、髪を香油で整えてもらい、
ドレスを身につけた後で化粧をされる。

謁見するためだけにここまでされるのは初めてだけど、
少しでも見栄えが良くなるようにと祈る。

アンジェラ様が選ばれた理由がわからない以上、
どこでお二人に嫌われてしまうかわからない。

金の髪で選ばれたのなら、私でも問題ないだろうけど。
顔立ちや瞳の色で選ばれたのなら気に入ってもらえないかもしれない。

緊張しながら着替えが終わると、すぐに私室の扉が開けられ、
マティアス様が迎えに来てくれたのが知らされる。

少しして、部屋に入って来たマティアス様は正装をしていた。
真っ白な王族衣装には紫の差し色。そして金の肩章も光り輝いている。

座っている私に微笑もうと顔を傾けたから、
私を見つめたまま、頬にさらりと銀色の髪が流れ落ちる。

そのしぐさが見惚れるほど美しくて、ぼうっとしてしまう。

「リンネア、大丈夫か?」

「え、あ、はい!」

「ああ、そのドレスも似合っている。とても綺麗だ。
 何も問題はなさそうだな。行こうか」

「あ、ありがとうございます」

私も何か返せればよかったと思ったけれど、
見惚れるほど美しかったなんて恥ずかしくて言えなかった。



マティアス様の手を取って、東の宮を奥に進む。
中庭に出る扉を通り過ぎ、まだ奥へと進む。

建物の一番奥まで進むと、扉が開かれる。
外に出るとすぐに大きな赤い門があった。

東の宮に入る時の門よりも門番が多い。
門番たちはマティアス様の顔を見て、すぐさま門を開く。

「この先は本宮だ」

門をくぐると、そこは東の宮よりもさらに大きな帝国風の建物があった。
警備の者が多いのか、そこかしこに騎士が配置されている。

見慣れない場所できょろきょろしたくなるけれど、
皇太子の婚約者として来ているのに恥ずかしい真似はできない。

失礼のないようにと心の中でつぶやきながら進んでいく。

謁見室の前にはまた騎士たちがいたけれど、
知らされてあったのか、何も聞かれずに扉が開けられる。

もうすでに皇帝陛下と正妃様は来ていたようで、
玉座に座っているのが見えた。

皇帝の直系一族は皆、銀色の髪だからわかりやすい。

正妃様は出身国のポスニルアの王族らしく黒髪黒目で、
マティアス様を産んだとは思えないほど若々しく美しかった。

たしかマティアス様の下に第二皇子がいるはずだ。

「父上、母上、遅くなりました」

「いや、かまわない。我らが時間よりも先に来てしまっただけだ。
 ようやく会わせてもらえると思ったら楽しみでな」

「……正式に婚約してからと思いまして」

「そうか。調ったか」

「はい。書類を」

マティアス様は近くにいた皇帝付きの者に書類を渡す。
書類を受け取った皇帝陛下はにやりと笑った。

「それでは俺の婚約者を紹介します。
 エルドレド国の公爵令嬢リンネアです」

「神に愛されしアリアトス帝国の偉大な皇帝陛下に謹んでご挨拶申し上げます」

「ああ、よい。娘になるのだから、そう固いことは言わなくていい。
 顔をあげて、よく見せてくれ」

「は、はい」

属国の者として、皇帝陛下に臣下の礼をしようとしたら途中で止められてしまった。

どうやら好意的に迎え入れてもらえているようでほっとしていたら、
皇帝陛下の隣に座る正妃様ににらまれているのに気づいた。

もしや、正妃様には嫌われている?

「マティアスの妃はどうなることかと思ったが、
 収まるところに収まってよかった」

「いいものですか!こちらは心配して振り回されて!」

やはりこの婚約が気に入らないのか、正妃様は不機嫌さを隠さない。

「母上、俺は心配しなくてもいいと言いました」

「でも、報告書を見たら心配するに決まっているでしょう!
 あんな王女を婚約者候補にしておくんだから!」

ああ、アンジェラ様の件でお怒りのようだ。
それもそうだ。私だって、謝罪のためにここに来たのだから。

「あの……我が国のアンジェラ王女が大変失礼なことを……」

「リンネアは謝罪しなくていい。君は振り回されたほうだろう」

「そうだな。リンネアのことも報告書に載っていたよ。
 王女の課題を代わりにし、献上するマントの刺繍まで。
 身分の差もあって何も言えなかったのだろうが、大変だったな」

……マントの刺繍のことまで知られていたとは。
完全にアンジェラ様のことは報告されていたようだ。

「私だって、その娘が悪いのではないとわかっています!
 ですが、あんな王女を妃にするくらいならディアナのほうがいいと、
 期待してしまった私が悪いって言うのですか!」

あなたにおすすめの小説

悪役令嬢にされたので婚約破棄を受け入れたら、なぜか全員困っています

かきんとう
恋愛
 王城の大広間は、いつも以上に華やいでいた。  磨き上げられた床は燭台の光を反射し、色とりどりのドレスが揺れるたびに、まるで花畑が動いているかのように見える。貴族たちの笑い声、楽団の優雅な旋律、そして、ひそやかな噂話が、空気を満たしていた。  その中心に、私は立っていた。  ――今日、この瞬間のために。 「エレノア・フォン・リーベルト嬢」  高らかに呼ばれた私の名に、ざわめきがぴたりと止む。

第一王子様が最後に選んだのは、妹ではなく私だったようです

睡蓮
恋愛
姉であるオルシナと、妹のマリーシア。マリーシアは小さな時から周囲の人物を次々と味方につけ、オルシナの事を孤立させていった。マリーシアに対しては誰もがちやほやと接してくるのに、オルシナに対しては冷たい態度を取る者がほとんどで、それがこれから先も続くものと思われていた。そんな中、二人のもとに一通の手紙が届く。差出人はフォルグ第一王子であり、二人のうちのいずれかを婚約者として迎え入れるということが書かれていた…。

「退屈な女だ」と婚約破棄されたので去りましたが、翌日から国政が止まったそうです。え、私はもう存じませんけど?

にたまご
恋愛
公爵令嬢クラーラは、ユリウス王太子殿下に婚約を破棄された。 「退屈な女だ」「何の取り柄もない」と。 否定はしない。 けれど殿下が知らないだけで、通商条約も予算案も外交書簡も、この国の政務の大半を六年間匿名で回していたのは──この「退屈な女」だ。 婚約破棄の翌朝、宰相補佐官のレオンが焼き菓子と四十二件の緊急報告を携えて公爵邸を訪れる。 「貴女がいなくなった王宮は、控えめに申し上げて、地獄です」 ──存じません。私はもう、ただの無職ですので。

さようなら、わたくしの騎士様

夜桜
恋愛
騎士様からの突然の『さようなら』(婚約破棄)に辺境伯令嬢クリスは微笑んだ。 その時を待っていたのだ。 クリスは知っていた。 騎士ローウェルは裏切ると。 だから逆に『さようなら』を言い渡した。倍返しで。

侍女から第2夫人、そして……

しゃーりん
恋愛
公爵家の2歳のお嬢様の侍女をしているルイーズは、酔って夢だと思い込んでお嬢様の父親であるガレントと関係を持ってしまう。 翌朝、現実だったと知った2人は親たちの話し合いの結果、ガレントの第2夫人になることに決まった。 ガレントの正妻セルフィが病弱でもう子供を望めないからだった。 一日で侍女から第2夫人になってしまったルイーズ。 正妻セルフィからは、娘を義母として可愛がり、夫を好きになってほしいと頼まれる。 セルフィの残り時間は少なく、ルイーズがやがて正妻になるというお話です。

えっ「可愛いだけの無能な妹」って私のことですか?~自業自得で追放されたお姉様が戻ってきました。この人ぜんぜん反省してないんですけど~

村咲
恋愛
ずっと、国のために尽くしてきた。聖女として、王太子の婚約者として、ただ一人でこの国にはびこる瘴気を浄化してきた。 だけど国の人々も婚約者も、私ではなく妹を選んだ。瘴気を浄化する力もない、可愛いだけの無能な妹を。 私がいなくなればこの国は瘴気に覆いつくされ、荒れ果てた不毛の地となるとも知らず。 ……と思い込む、国外追放されたお姉様が戻ってきた。 しかも、なにを血迷ったか隣国の皇子なんてものまで引き連れて。 えっ、私が王太子殿下や国の人たちを誘惑した? 嘘でお姉様の悪評を立てた? いやいや、悪評が立ったのも追放されたのも、全部あなたの自業自得ですからね?

結婚後、訳もわからないまま閉じ込められていました。

しゃーりん
恋愛
結婚して二年、別邸に閉じ込められていたハリエット。 友人の助けにより外に出ることができ、久しぶりに見た夫アルバートは騎士に連行されるところだった。 『お前のせいだ!』と言われても訳がわからなかった。 取り調べにより判明したのは、ハリエットには恋人がいるのだとアルバートが信じていたこと。 彼にその嘘を吹き込んだのは、二人いたというお話です。

婚約者に突き飛ばされて前世を思い出しました

天宮有
恋愛
伯爵令嬢のミレナは、双子の妹キサラより劣っていると思われていた。 婚約者のルドノスも同じ考えのようで、ミレナよりキサラと婚約したくなったらしい。 排除しようとルドノスが突き飛ばした時に、ミレナは前世の記憶を思い出し危機を回避した。 今までミレナが支えていたから、妹の方が優秀と思われている。 前世の記憶を思い出したミレナは、キサラのために何かすることはなかった。