もう二度と助けを求めないでください

gacchi(がっち)

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21.サンドラ様の自信

サンドラ様に確認しようと口を開きかけたら、
その前にセシリア様が説明してくれた。

「サンドラ様は皇太子殿下と幼いころから想い合っているのです!
 ですが、正妃は他国のものでなくてはならないという決まりのせいで、
 婚約者に選ぶことができなかっただけで!」

「まぁ……」

「だから、側妃制度を帝国でも取り入れ、サンドラ様と結ばれるようにすれば、
 皇太子殿下も喜ばれると思います!」

「そういうことだから、リンネア様も賛同してくれますよね?」

ねっとりとした微笑みでそう言われたけれど、疑問が増えるばかりだった。

どう答えたものかと思案していたら、アデリナ様の呆れたような声が聞こえた。

「いつからサンドラ様と皇太子殿下が想い合っていたなんて話になっているのですか?」

「いつからって、ずっとそうよ?」

「私が知っている話とは違うようですが?
 サンドラ様が皇太子殿下と遊んでいたのは幼少期だけですよね?
 今では二の宮に行くだけで、皇太子殿下とは会えてもいないのでは?」

「マティアス様がお忙しいから会えないのは仕方ないわ。
 ほとんど東の宮から出られないくらい忙しいのよ?」

「その東の宮にリンネア様は部屋を用意されているのです。
 そして、ポスニルアの王族がいるのは本宮で、東の宮には招かれていません」

「それがどうしたというのよ。
 今はリンネア様と婚約したばかりで気を使われているのでしょう。
 側妃の話が進めば、私とも自由に会えるようになるはずよ」

よほど自信があるのか、サンドラ様はにっこりと笑う。

「……私はそうは思えません。
 歴代の皇帝が側妃を持たなかったのなら、理由があると思います。
 聡明だと評価される皇太子殿下がそれを変えるとは思えません」

「あなたがそう思わなくてもけっこうよ。
 だけど、私の邪魔はしないでちょうだいね」

「そうですか……」

アデリナ様は隠しもせずに大きくため息をついた。
それが気に障ったのか、サンドラ様が笑みを消す。

そういえば、サンドラ様とセシリア様はアデリナ様と仲が悪いようだった。

「もういいわ。言いたいことは言ったし。
 はっきり言っておくけれど、私とマティアス様のことは邪魔しないでね」

「あ、サンドラ様、お待ちください」

アデリナ様が意見を変えないとわかったのか、
サンドラ様が席を立ち、セシリア様がそれを追っていく。

そのまま二人は茶話室から出ていってしまった。
まだお茶会の時間は始まったばかりだというのに。

少しして、アデリナ様に深く頭を下げられる。

「申し訳ありません。
 サンドラ様とセシリア様が大変失礼なことをいたしました」

「いいえ、アデリナ様が謝ることじゃないわ」

「ですが……。サンドラ様は二の宮の妃様の姪なのです。
 そのため、二の宮に出入りしているのは有名な話ですが、
 皇太子殿下と想い合っているというのは嘘だと思います」

「そうなのね……わかったわ」

皇帝の弟君の妃の姪ということは、マッケート様とは従兄弟になる。
公爵家ということもあるし、冗談で済ますわけにはいかなそう。

「サンドラ様たちへの対応は後で考えるわ。
 だけど、先ほどの話、理解できないところもあったのよね。
 皇帝の正妃は他国のものでなくてはならない、なんて法は、
 帝国のどこにも存在しないのだけど」

皇太子妃教育で帝国の法はすべて習っている。
その中に正妃の条件というのは、伯爵家以上の貴族であること、
それだけしか書かれていなかったはず。

「そうなのですか?
 私たち帝国の令嬢は幼いころからそう言われて育ちます。
 皇帝の妃に選ばれるのは他国のものだからあなたたちはなれない、と」

「法にはないけれど、決まっているということなのかしら」

「わかりません……なので、サンドラ様があんなことを願っているとは思わず」

「側妃制度ね……王族の数が足りないのであれば、
 その前に直系以外の子孫も王族に残れるように法改正するほうが先だと思うけど」

「私もそう思います。
 二の宮にいるマッケート様を王族にするほうが先だと思います」

「そうよね」

今の帝国法では直系の子孫しか王族になれない。
この法を改正すれば、マッケート様も王族になるし、
マティアス様の兄弟の子も王族に残れる。

マティアス様には十四歳の弟君がいるが、
現在は他国に遊学中ということでまだ会えていない。

国王に側妃を持たせる理由は王族が足りない場合が多い。
これだけ王族の血を持つ者がいる帝国では必要ないように思う。

とりあえず、この件はマティアス様にも報告しておこう。
私が報告しなくても壁際に控えているリーアとラランが報告する気がする。
二人が怒っているのが気配で感じる。

「さて、二人きりになってしまったけれど、お茶会を続けましょう?」

「はい。私、リンネア様のことはアラン様から聞いていまして、
 会えるのを楽しみにしていたのです」

「まぁ、アラン様から?」

「はい。アラン様のナビエ侯爵家とは親戚なので、会う機会が多いのです」

「そうなのね」

話を聞けば、帝国の貴族たちは爵位が同じものと結婚をすることが多いため、
ほとんどの侯爵家は親戚関係にあるらしい。

中でもナビエ侯爵家とジルロン侯爵家は屋敷も隣り合っているそうで、
会う機会が他の貴族よりも多いという。

真面目なアラン様と親戚というだけあって、
アデリナもまっすぐな性格のようだ。

だからこそ、公爵家のサンドラ様に媚びるような発言ができないため、
仲がよくないのだと思う。

だけど、そんなアデリア様と話すのは心地よくて、
学園に通えてよかったと思い始めていた。



学園から東の宮に帰ると、リーアとラランは私を私室まで送り届けた後、
ものすごい勢いでどこかに行ってしまった。

あまりの勢いに迎え入れてくれたカルラも驚いている。

「おかえりなさいませ、リンネア様。
 彼女たちはいったいどうしたのですか?」

「えっと……多分、マティアス様に報告しに行ったのかしら」

「報告?まさか学園で何かあったのですか?」

「そうね……ちょっとね」

カルラに正直に説明すれば、怒り出してしまうだろう。
さすがに他の侍女もいる前でそんな態度を見せるのはまずい。

説明するにしても後だと思い、とりあえず着替えることにする。

学園が始まってからはマティアス様とお茶の時間を共にするのは難しい。
話すのは晩餐の時だろうかと考えていると、
廊下の方が騒がしいことに気づいた。

バタバタと人が走ってくる音がする。

突然、バーンとドアが開かれたと思ったら、飛び込んできたのはマティアス様だった。

「リンネア!!」

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