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39.前夜祭
夜会の前日には前夜祭が開かれる。
これには帝国の王族や高位貴族の当主は参加しない。
そのため、あまり堅苦しい場ではなく、
まだ婚約者がいない令息令嬢が相手を探す場となっている。
前夜祭にはマティアス様も私も参加しないので、
その日は西の宮に行く予定はなかった。
だが、ナタニエル様とアンジェラ様が王宮の使用人たちに迷惑をかけていると聞き、
前夜祭でも何かしでかすのではないかと心配になった。
それに気づいたお兄様が自分が様子を見に行こうかと言ってくれたけれど、
お兄様がアンジェラ様と会ってしまえば騒ぎになりかねない。
代わりに側近のアラン様とアデリナ様が様子を見に行ってくれることになった。
「ごめんなさいね、アデリナ様。エルドレドの事情に巻き込んでしまって」
「いえ、もともとアラン様と一緒に参加する予定だったので問題ありませんわ」
「そう言ってくれると助かるけれど」
親戚関係にある二人は、これまでも夜会に一緒に参加したことがあるという。
結婚願望がないアラン様だが、アデリナ様と参加しているということは、
そういうことなのだろうか?
「ねぇ、アラン様と婚約するとか、そういう話はあるのかしら?」
「両親はそれを望んでいるようですが、まだそこまでは。
私としてはアラン様と婚約できるのならうれしいのですが」
「あら、そうなのね」
アラン様に聞こえないようにアデリナ様に聞いたら、
うふふと楽しそうに答えてくれる。
アデリナ様はアラン様がその気になってくれるのを待つつもりらしい。
前夜祭が終わったら報告してもらう予定で待っていたら、
まだ始まったばかりの時間なのに二人は戻って来た。
予想外の早さで退席してきた二人にマティアス様が声をかける。
「何かあったのか?」
「はい……あの王太子は野放しにしないほうがいいかもしれません」
めずらしく怒っているのか、アラン様の表情が険しい。
「会場に入った後、アラン様が知り合いに声をかけられたので、
私は少し離れていたんです。
そこにエルドレドの王太子が来て、話しかけられたのですが……」
「私が気がついた時にはアデリナがからまれていて」
「からまれたというか、声をかけられたので挨拶をしたのですが、
家名を名乗っているのに爵位を聞かれて」
「は?」
マティアス様が驚くのは無理もない。
帝国貴族の家名を知らない属国の王太子はありえない。
しかも、アデリナ様のジルロン侯爵家は帝国でも力のある家の一つだ。
名前を聞けば爵位や家族構成がわかるのが当然。
アデリナ様も爵位を聞かれるなんて初めての経験だろう。
「アデリナに爵位を聞いただけじゃありません。
侯爵家だとわかると、お前は婚約者がいないのか?と言い出したのです」
「まぁ……まさかアデリナ様をエルドレドの王太子妃にしようと?」
「そのようです。妃にしてやってもいいが、とまるで値踏みするような目で。
あまりにも失礼すぎたので私が間に入りました」
「アランが止めにはいるのは当然だな。
それで相手はすぐに引いたのか?」
「不機嫌そうでしたが、なんとか」
せっかくの前夜祭なのになんてことを。
アデリナ様もさぞかし不快だっただろうと思ったが、
なぜか頬を赤く染めている。
怒っているようには見えない。むしろ、うれしそう……?
「アデリナ様、大丈夫でしたか?」
「はい……あの……」
アデリナ様が私の耳元に顔を寄せてきたと思ったら、
小声で何があったのか教えてくれる。
「エルドレドの王太子が私に妃にしてやってもいいと言った瞬間、
アラン様が間にはいってくれて、この子は私の婚約者だと言ってくれたのです」
「まぁ!」
「前夜祭とはいえ、他の令息令嬢たちにも聞こえていたと思います」
「それじゃあ、本当に?」
「この後、アラン様がうちに送り届けてくれる時にお父様と話すと」
「ふふふ。それは良かったわ。
でも、変なことに巻き込んでしまってごめんなさい」
「いえ、大丈夫です。ですが、あの王太子だと明日も騒ぎを起こしそうですね」
「そうね……」
アラン様の報告を聞いたマティアス様は、
ナタニエル様の近くに近衛兵を置くようにと命じていた。
令嬢たちに不快な思いをさせるようなら警告していいと言ってたが、
ナタニエル様も相手は誰でもいいわけではなかったようで、
声をかけたのはアデリナ様だけだった。
結果的にアデリナ様とアラン様が婚約するきっかけにはなったが、
不愉快だったことには変わりない。
これ以上、不快な思いをする令嬢が出ないようにするため、
夜会当日もナタニエル様の近くには近衛兵を配置することが決まった。
次の日、夜会の本番を迎えるために朝から準備が始まる。
夜会のために私に用意されたのは青いドレスだった。
この国で青いドレスを着れるのは王族の妃と婚約者だけ。
今なら、皇帝の正妃様と二の宮の妃コリンナ様。
そして、マティアス様の婚約者になった私。
特別に仕立てられたドレスに着替えると身が引き締まるような気がした。
婚約者としてのお披露目が終われば、正式に婚約者として認められる。
緊張して待っていたら、時間となりマティアス様が迎えにくる。
これには帝国の王族や高位貴族の当主は参加しない。
そのため、あまり堅苦しい場ではなく、
まだ婚約者がいない令息令嬢が相手を探す場となっている。
前夜祭にはマティアス様も私も参加しないので、
その日は西の宮に行く予定はなかった。
だが、ナタニエル様とアンジェラ様が王宮の使用人たちに迷惑をかけていると聞き、
前夜祭でも何かしでかすのではないかと心配になった。
それに気づいたお兄様が自分が様子を見に行こうかと言ってくれたけれど、
お兄様がアンジェラ様と会ってしまえば騒ぎになりかねない。
代わりに側近のアラン様とアデリナ様が様子を見に行ってくれることになった。
「ごめんなさいね、アデリナ様。エルドレドの事情に巻き込んでしまって」
「いえ、もともとアラン様と一緒に参加する予定だったので問題ありませんわ」
「そう言ってくれると助かるけれど」
親戚関係にある二人は、これまでも夜会に一緒に参加したことがあるという。
結婚願望がないアラン様だが、アデリナ様と参加しているということは、
そういうことなのだろうか?
「ねぇ、アラン様と婚約するとか、そういう話はあるのかしら?」
「両親はそれを望んでいるようですが、まだそこまでは。
私としてはアラン様と婚約できるのならうれしいのですが」
「あら、そうなのね」
アラン様に聞こえないようにアデリナ様に聞いたら、
うふふと楽しそうに答えてくれる。
アデリナ様はアラン様がその気になってくれるのを待つつもりらしい。
前夜祭が終わったら報告してもらう予定で待っていたら、
まだ始まったばかりの時間なのに二人は戻って来た。
予想外の早さで退席してきた二人にマティアス様が声をかける。
「何かあったのか?」
「はい……あの王太子は野放しにしないほうがいいかもしれません」
めずらしく怒っているのか、アラン様の表情が険しい。
「会場に入った後、アラン様が知り合いに声をかけられたので、
私は少し離れていたんです。
そこにエルドレドの王太子が来て、話しかけられたのですが……」
「私が気がついた時にはアデリナがからまれていて」
「からまれたというか、声をかけられたので挨拶をしたのですが、
家名を名乗っているのに爵位を聞かれて」
「は?」
マティアス様が驚くのは無理もない。
帝国貴族の家名を知らない属国の王太子はありえない。
しかも、アデリナ様のジルロン侯爵家は帝国でも力のある家の一つだ。
名前を聞けば爵位や家族構成がわかるのが当然。
アデリナ様も爵位を聞かれるなんて初めての経験だろう。
「アデリナに爵位を聞いただけじゃありません。
侯爵家だとわかると、お前は婚約者がいないのか?と言い出したのです」
「まぁ……まさかアデリナ様をエルドレドの王太子妃にしようと?」
「そのようです。妃にしてやってもいいが、とまるで値踏みするような目で。
あまりにも失礼すぎたので私が間に入りました」
「アランが止めにはいるのは当然だな。
それで相手はすぐに引いたのか?」
「不機嫌そうでしたが、なんとか」
せっかくの前夜祭なのになんてことを。
アデリナ様もさぞかし不快だっただろうと思ったが、
なぜか頬を赤く染めている。
怒っているようには見えない。むしろ、うれしそう……?
「アデリナ様、大丈夫でしたか?」
「はい……あの……」
アデリナ様が私の耳元に顔を寄せてきたと思ったら、
小声で何があったのか教えてくれる。
「エルドレドの王太子が私に妃にしてやってもいいと言った瞬間、
アラン様が間にはいってくれて、この子は私の婚約者だと言ってくれたのです」
「まぁ!」
「前夜祭とはいえ、他の令息令嬢たちにも聞こえていたと思います」
「それじゃあ、本当に?」
「この後、アラン様がうちに送り届けてくれる時にお父様と話すと」
「ふふふ。それは良かったわ。
でも、変なことに巻き込んでしまってごめんなさい」
「いえ、大丈夫です。ですが、あの王太子だと明日も騒ぎを起こしそうですね」
「そうね……」
アラン様の報告を聞いたマティアス様は、
ナタニエル様の近くに近衛兵を置くようにと命じていた。
令嬢たちに不快な思いをさせるようなら警告していいと言ってたが、
ナタニエル様も相手は誰でもいいわけではなかったようで、
声をかけたのはアデリナ様だけだった。
結果的にアデリナ様とアラン様が婚約するきっかけにはなったが、
不愉快だったことには変わりない。
これ以上、不快な思いをする令嬢が出ないようにするため、
夜会当日もナタニエル様の近くには近衛兵を配置することが決まった。
次の日、夜会の本番を迎えるために朝から準備が始まる。
夜会のために私に用意されたのは青いドレスだった。
この国で青いドレスを着れるのは王族の妃と婚約者だけ。
今なら、皇帝の正妃様と二の宮の妃コリンナ様。
そして、マティアス様の婚約者になった私。
特別に仕立てられたドレスに着替えると身が引き締まるような気がした。
婚約者としてのお披露目が終われば、正式に婚約者として認められる。
緊張して待っていたら、時間となりマティアス様が迎えにくる。
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