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52.ユグドレアの民
道が悪いせいかこまめに休憩を取りながら馬車は進む。
マティアス様は私を抱き上げたままおろしてはくれない。
もう抵抗する気力もなく、抱き上げられるのにも慣れてきた。
ふと、何もないところで馬車が止まる。
休憩するには早すぎるけれど、道に何か異常でもあったのだろうか。
「何かあったのでしょうか」
「……すぐに報告が来るだろう」
報告が来るよりも先に遠くで誰かが怒鳴っているのが聞こえた。
帝国の馬車だとわかる車列に対して怒鳴るだなんて無礼、
あるわけないと思いながらも少し不安になる。
「大丈夫だ。ここには近づけさせない」
「あれが何かわかっているのですか?」
「おそらくこの近くの村に住む者だろう」
「そんな者がどうして……」
それを証明するように報告の騎士が馬車に近づいてくる。
マティアス様が窓を開けると報告される。
「予想通り、近くの村の者たちが集まってきました」
「指示通りにしたか?」
「はい……ですが、納得しないようで立ち去らないのです」
「それでも納得させるしかない。
これ以上、邪魔をするようなら捕縛すると伝えろ。
その上でどかなければ捕まえて王都まで連れていくしかないな」
「わかりました」
指示を受け取った騎士がまた走っていく。
それから少しして馬車は動き出した。
窓から外を見ていると、道のわきに平民たちが避けているのが見える。
その手には皆、同じような包みを持っている。あれは……?
「マティアス様、今のはなんだったのですか?」
「前回、ユグドレアに救助に来た時、あまりに飢えているものだから……
つい、食料などを渡してしまったんだ」
「まぁ……」
「ユグドレアは民から厳しく税を取り立て、自分たちは裕福な生活を送っている。
魔獣の大発生が起きても関係ない地域ですら、
食べるものがなくて飢えている状況だった」
「なんてこと……」
「それを見かねて、王都に向かう途中で寄った村には食料などを分けてやった。
だが、王都の救助を終えて帰ろうとした時、他の村からも食料が欲しいと、
たくさんの民が馬車に押し寄せてきてしまった」
「そのすべての者に食料を渡したのですか?」
「いや、無理だった。最終的には兵に食べさせるものがなくなると思い、
民に捕まらないように馬車の速度を速めて通り過ぎた」
「それが正解だと思います」
いくらなんでもすべての民に応えられるほど、
食料を持ってきているわけではなかったはずだ。
王都で救助をした後ならなおさら。
帰りの日程の分しか残していなかっただろう。
「今なら最初に施したのがまずかったとわかる。
全員を助けられないのなら、手を差し伸べてはいけなかったんだと」
「さきほど納得させるというのは、食料を渡さないことをですか?」
「いや、何も渡さないのでは納得しないだろうと思い、
一人につき一食分の食料だけ渡すように命じた。
苦労して馬車を止めても、それだけしかもらえないのであれば、
帰り道で止めることはないだろうと」
「……そうですか」
果たしてそうだろうか。
ユグドレアの民が本当に飢えているのであれば、
一食分の食料であっても受け取りに来るのではないだろうか。
そんなことを思っていたら、また馬車が止まる。
止めたのは違う村の民だった。
先頭を走る騎士たちはまた一食分の食料だけを与え、
無理やり納得させて通り過ぎる。
そんなことが三度も続いた。
誰かが帝国の馬車が通ることを知らせているのかもしれない。
あきらかに狙って止めていると感じた。
何度も馬車が止められたからか、予定よりもあまり先には進めないまま、
野営の準備をしなければいけない時間になる。
騎士たちがテントを張って野営の準備をしていると、
アラン様とお兄様がこちらの馬車に来た。
窓越しに話しかけてきたお兄様の表情がおかしい……。
ものすごく怒っている気がする。
「マティアス様、少し話したいのですがいいですか?」
「ああ、かまわない。馬車に乗ってくれ」
お兄様が先に馬車に乗り、そのあとアラン様も乗ってくる。
アラン様は気まずそうな表情をしている。
「さきほどアランから話は聞きました。
ユグドレアの民に施しをしているそうですね?」
「ああ」
「明日はそれを止めさせてください」
「どうしてだ?」
「それではまた今日と同じように止められてしまいます。
本来、皇太子の車列を平民が止めるだなんて、
同じ属国であるエルドレドであれば処刑されてもおかしくないのですよ!?」
「……それは」
「ユグドレアの王族が帝国をなめているのはわかりました。
ですが、マティアス様がそれに従う必要などないのです!」
やはりお兄様は怒っていた。
初めて怒っているお兄様を見たせいか、マティアス様もアラン様も焦っているようだ。
だけど、お兄様の言っていることが正しいと思う。
「だが……食料を渡さない限り納得しないだろう」
「納得などさせる必要がないと言っているのです。
ユグドレアの民を救うのはユグドレアの王族の仕事です。
帝国が救いたいのなら、今すぐに属国ではなく帝国の一部にしてください!」
「それは無理だろう」
「なら、中途半端なことはしないでください。
食料を渡したりするからユグドレアの王族が自分たちの責任を放棄するのです。
餓死したとしても帝国の責任ではありません。
それが嫌なら、ユグドレアの王族に命じてください。
それが主国としての責任です」
「……そうだな」
マティアス様は私を抱き上げたままおろしてはくれない。
もう抵抗する気力もなく、抱き上げられるのにも慣れてきた。
ふと、何もないところで馬車が止まる。
休憩するには早すぎるけれど、道に何か異常でもあったのだろうか。
「何かあったのでしょうか」
「……すぐに報告が来るだろう」
報告が来るよりも先に遠くで誰かが怒鳴っているのが聞こえた。
帝国の馬車だとわかる車列に対して怒鳴るだなんて無礼、
あるわけないと思いながらも少し不安になる。
「大丈夫だ。ここには近づけさせない」
「あれが何かわかっているのですか?」
「おそらくこの近くの村に住む者だろう」
「そんな者がどうして……」
それを証明するように報告の騎士が馬車に近づいてくる。
マティアス様が窓を開けると報告される。
「予想通り、近くの村の者たちが集まってきました」
「指示通りにしたか?」
「はい……ですが、納得しないようで立ち去らないのです」
「それでも納得させるしかない。
これ以上、邪魔をするようなら捕縛すると伝えろ。
その上でどかなければ捕まえて王都まで連れていくしかないな」
「わかりました」
指示を受け取った騎士がまた走っていく。
それから少しして馬車は動き出した。
窓から外を見ていると、道のわきに平民たちが避けているのが見える。
その手には皆、同じような包みを持っている。あれは……?
「マティアス様、今のはなんだったのですか?」
「前回、ユグドレアに救助に来た時、あまりに飢えているものだから……
つい、食料などを渡してしまったんだ」
「まぁ……」
「ユグドレアは民から厳しく税を取り立て、自分たちは裕福な生活を送っている。
魔獣の大発生が起きても関係ない地域ですら、
食べるものがなくて飢えている状況だった」
「なんてこと……」
「それを見かねて、王都に向かう途中で寄った村には食料などを分けてやった。
だが、王都の救助を終えて帰ろうとした時、他の村からも食料が欲しいと、
たくさんの民が馬車に押し寄せてきてしまった」
「そのすべての者に食料を渡したのですか?」
「いや、無理だった。最終的には兵に食べさせるものがなくなると思い、
民に捕まらないように馬車の速度を速めて通り過ぎた」
「それが正解だと思います」
いくらなんでもすべての民に応えられるほど、
食料を持ってきているわけではなかったはずだ。
王都で救助をした後ならなおさら。
帰りの日程の分しか残していなかっただろう。
「今なら最初に施したのがまずかったとわかる。
全員を助けられないのなら、手を差し伸べてはいけなかったんだと」
「さきほど納得させるというのは、食料を渡さないことをですか?」
「いや、何も渡さないのでは納得しないだろうと思い、
一人につき一食分の食料だけ渡すように命じた。
苦労して馬車を止めても、それだけしかもらえないのであれば、
帰り道で止めることはないだろうと」
「……そうですか」
果たしてそうだろうか。
ユグドレアの民が本当に飢えているのであれば、
一食分の食料であっても受け取りに来るのではないだろうか。
そんなことを思っていたら、また馬車が止まる。
止めたのは違う村の民だった。
先頭を走る騎士たちはまた一食分の食料だけを与え、
無理やり納得させて通り過ぎる。
そんなことが三度も続いた。
誰かが帝国の馬車が通ることを知らせているのかもしれない。
あきらかに狙って止めていると感じた。
何度も馬車が止められたからか、予定よりもあまり先には進めないまま、
野営の準備をしなければいけない時間になる。
騎士たちがテントを張って野営の準備をしていると、
アラン様とお兄様がこちらの馬車に来た。
窓越しに話しかけてきたお兄様の表情がおかしい……。
ものすごく怒っている気がする。
「マティアス様、少し話したいのですがいいですか?」
「ああ、かまわない。馬車に乗ってくれ」
お兄様が先に馬車に乗り、そのあとアラン様も乗ってくる。
アラン様は気まずそうな表情をしている。
「さきほどアランから話は聞きました。
ユグドレアの民に施しをしているそうですね?」
「ああ」
「明日はそれを止めさせてください」
「どうしてだ?」
「それではまた今日と同じように止められてしまいます。
本来、皇太子の車列を平民が止めるだなんて、
同じ属国であるエルドレドであれば処刑されてもおかしくないのですよ!?」
「……それは」
「ユグドレアの王族が帝国をなめているのはわかりました。
ですが、マティアス様がそれに従う必要などないのです!」
やはりお兄様は怒っていた。
初めて怒っているお兄様を見たせいか、マティアス様もアラン様も焦っているようだ。
だけど、お兄様の言っていることが正しいと思う。
「だが……食料を渡さない限り納得しないだろう」
「納得などさせる必要がないと言っているのです。
ユグドレアの民を救うのはユグドレアの王族の仕事です。
帝国が救いたいのなら、今すぐに属国ではなく帝国の一部にしてください!」
「それは無理だろう」
「なら、中途半端なことはしないでください。
食料を渡したりするからユグドレアの王族が自分たちの責任を放棄するのです。
餓死したとしても帝国の責任ではありません。
それが嫌なら、ユグドレアの王族に命じてください。
それが主国としての責任です」
「……そうだな」
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