もう二度と助けを求めないでください

gacchi(がっち)

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62.裕福な者たち

翌日、マティアス様と私は式典と夜会に出席したが、
うんざりした気持ちでいっぱいだった。

あきらかにお金をかけすぎの式典が終わり、
夜会に出れば出席者の装いが金糸の刺繍だらけでまぶしい。

その国ならではの流行りというものがあるのは理解できるが、
貧しい国として有名なユグドレアでこれはありえない。

マティアス様と私は帝国で仕立てた夜会用の王族服とドレスだが、
金糸の刺繍はもちろん入っていない。

そのせいかとても地味な服装に見えるようだ。
時折、ユグドレアの貴族が私たちを見て笑っているのに気づく。

「おや、皇太子殿下と婚約者様。楽しんでおられますかな」

酒を片手に顔を赤らめたユグドレアの国王が近づいてきたが、
目が落ちくぼんでやつれたように見える。
なんだか動きも弱弱しく、一気に老け込んだかのようだ。

昨日の朝に会った時にはそんなことはなかったのに、
たった一日でこれほど様相が変わるのはおかしい。

「ああ、楽しんでいる。
 ずいぶんと豪華な夜会だな」

「それはようございました。
 帝国でもこれほどまで豪華な催しはそうそうないのではないですかな」

その言葉に周りの貴族たちも満足げにうなずいている。
マティアス様は表情一つ変えずにあたりを見回した。

「そうだな。ユグドレアは豊かな国になったようだ。
 今年から税の免除は必要ないだろう。元に戻そう」

「はっ!?」

「王族だけでなく、領主である貴族たちまで、
 これほど金のかかる服を仕立てているんだ。
 他の属国と同じように税を支払ってもらっても問題ないはずだ」

「いや、それはっ」

「帝国では自分の領地に問題が起きて餓死者が一人でも出たなら、
 社交の場に出られないほど恥だと思う。
 領主というのはそれほど責任が重いものだ」

その言葉に貴族たちがそっと視線をそらした。
この王都に着くまで、貧しい村を何度も見てきた。
食料を求めて車列を止めようとした者たちが何人もいた。

それらの領地の責任者はここにいる。
だが、つつましい服装の者は見当たらない。

誰もが金糸できらびやかになった服を着ている。

「皇太子殿下……急に税をと言われても困ります」

「なぜ困るのだ?皆、金を持っているのだろう。
 そうでなければ、今着ている服はどうやって仕立てたのだ?」

「それは……」

「領地がうるおって、領民が豊かな生活を送ったうえで、
 この服を仕立てているのだろう?
 魔獣の大発生があったから一時的に免除していただけだからな。
 これだけ復興したのなら、もとに戻そうと思う」

「いえ、お待ちください。せめてあと五年は……」

「話にならん。帰ろうか、リンネア」

「はい、マティアス様」

国王が引き留めようとしていたけれど、
マティアス様の手を取って大広間から出る。

周りにいた貴族たちは青ざめていた。
さっきまで私たちを見下すように笑っていたのに。

ここが属国だということを忘れていたのだろうか。
一番、帝国の助けを必要とする国なのに。


翌朝、国王が引き留めに来るかと思ったが、来たのは国王の使者だった。

聞けば、昨日の夜から国王が寝込んでいるという。

「そういうわけでして、税のことは考え直していただけると……」

「無理だな。この王宮には金がかかりすぎている。
 それで税を納められないというのは意味がわからない」

「ですが……」

「税を納められなければ、王族を変えるだけだ」

「……失礼いたしました」

これ以上は無理だと悟ったのか、使者は深く頭を下げて戻っていった。


来た時と同じように車列を組んで帝国を目指す。
帰るとなれば、気持ちは軽い。

来た時と同じようにマティアス様に抱き上げられながら、
窓の外の王都をながめる。

王宮や貴族の屋敷は綺麗に造られているけれど、平民の家との差が激しい。

「マティアス様、税を取り立てて、平民は大丈夫でしょうか」

「このままでは無理だろうな。
 だから、税を取り立てるという名目で正式な監視を置く。
 正常な範囲で税を取り立て、それを貴族に使わせないで帝国に送らせる」

「なるほど……」

それなら平民の暮らしは今よりも楽になるはずだ。
あれほど王族や貴族が裕福に暮らしているのなら、
必要以上の税を取り立てているはずだから。

「それにしても国王が寝込んだか……」

「もしかして、治癒術が原因でしょうか」

「おそらくな。長くはもたないかもしれない」

「まぁ……」

「もともと高齢なんだ。いつ倒れてもおかしくない。
 治癒術で長らえていたのだろう」

たしかに国王はかなりの高齢のようだった。
最初に会った時はそれでも元気そうに見えたけれど、
夜会では今にも倒れそうなほど弱弱しかった。

寿命だと言われてもおかしくはない。
そう自分に言い聞かせた。




五日後、ようやく帝国に戻ってきて、東の宮に着いた。
マリアに迎え入れられ、戻ってこられたことにほっとする。

「お疲れ様でした、リンネア様。湯あみの準備はできております」

「ええ、ありがとう」

帝国の宿で湯あみはしたけれど、やはり王宮でするようには難しい。
マリアや他の侍女たちに囲まれ、湯あみで磨き上げられ、室内用のドレスに着替える。

私室でゆっくりしようかと思ったけれど、
マティアス様が仕事に戻ったと聞いて、マリアにお茶の用意をさせる。

執務室に入ると、マティアス様だけでなく、アラン様とお兄様もいて、
ケイン様から報告を受けていた。

何か困ったことでも起きたのか、全員が眉間にしわをよせていた。

「お疲れでしょう。お茶の用意をお持ちしました」

「ああ、ありがとう。頼む」

全員のお茶を淹れて出すと、マティアス様は一口飲んでため息をついた。

「何かあったのですか?」

「ああ。ユーリイスとクララの報告を聞いていた」

「あの二人の……」

「王都から出る前に、自分たちが住んでいた娼館に寄ったらしい」

「え……?寄った?帝国の馬車でですか?」

「そうだ」

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