100 / 102
100.石打ちの刑(クララ)
「もう!せっかく解放されたと思ったのに、なんなのよ!」
離宮から連れ出されたと思ったら馬車に放り込まれ、
次の朝には出発していた。
これであいつらから逃げられる。
最期を見届けられないのは残念だけど、あいつらが死んだ後、
私がどうなるのかわからなかった。
これで帝国に戻れる。
ウキウキした気持ちで馬車の窓から外を眺める。
帝国に着くまで、ほとんどの時間を馬車の中で過ごしたけれど、
離宮に連れて行かれた馬車と比べたら段違いだ。
多少身体は痛んだけれど、快適な旅だった。
なのに、帝国に着いたと思ったら、大きな建物に連れて行かれ、
そのまま牢の中に入れられた。
ひやりとした土の床に小さなベッドがあるだけ。
他には何もないところに入れられ、意味がわからない。
「私をどうする気なのよ!外に出して!」
「外に出せるわけないだろう。お前は何人も殺したんだ。
処罰が決まるまではここにいろ。いいな」
「は?こんなところ嫌よ!ちょっと!
皇太子を呼んでちょうだい! 」
「お前は何を言っているんだ。皇太子殿下を呼んでどうする気だ?」
「直接文句を言うのよ。ここから出しなさいって。
皇太子じゃなくて、その婚約者でもいいわ」
皇太子はユグドレアで話しただけだけど、
皇太子の婚約者は帝国でも会っている。
優しそうな、人に甘そうな顔をしていた。
老婆のようになってしまった私を見たら同情するに違いない。
残り少ない人生を穏やかに暮らさせてほしい。
そう願ったら、帝国の王宮でのんびり生活させてくれるんじゃないだろうか。
「何を言っているんだ。皇太子殿下も妃殿下も来るわけない。
いいから、黙っておとなしくしておけ」
「もう!そのくらいしてくれてもいいでしょう!
私を誰だと思っているのよ!」
叫んだけれど、その時にはもう近くに誰もいなくなっていた。
仕方ない。食事の時にでもまた言ってみよう。
こんなじめじめしたところに長時間いるのは嫌だ。
それから食事の度に来た男に訴えてみたが、
部屋の交換もしてもらえなかったし、皇太子も呼んでもらえなかった。
どうにかして呼べたら交渉することもできるのに。
何かいい手はないかと考えていたら、二日目の昼に外に出された。
ようやく自由になれる。
だけど、無一文で出されても何もできない。
住むところと食事は保障してもらわないと。
「ほら、早く乗れ」
「何よ。乗るわよ。うるさいわね」
乗せられたのは小さな馬車だった。
貨物用ではないけれど、客を乗せるような馬車でもない。
使用人が使うにしても粗末なものだ。
嫌だと言ったらまた牢に入れられるかもしれないと、おとなしく乗り込む。
馬車は帝国の下町の広場前に止まった。
「降りるんだ」
「ええ?こんなとこで?」
「いいから降りろ」
「わかったわよ。どこに連れて行く気なのよ。
ちゃんとした場所じゃないと嫌よ。綺麗な部屋にしてよね」
「……」
不愛想な騎士たちに追い立てられるように馬車から出されると、
目の前には大きな檻があった。
「なにこれ?」
なんで広場にこんな檻があるの?
人が横になったとしても余るくらい大きな檻。
「そこに入るんだ」
「え?」
騎士たちに両腕を取られ、檻の中に放り込まれる。
抵抗したけれど、勢いよく投げ出された。
「痛い!何をするのよ!」
騎士たちは私が怒っていても反応せず、何か大きな包みを運んでくる。
そして、その包みも檻の中に放り込んで、鍵をかけた。
「こんなところに入れてどうするのよ!早く出して!」
「クララ、お前の罪は石打ちの刑に決まった」
「は?……石打ち?」
「ここにはお前の被害にあった家族たちが来ている。
十分に悔い改めるように」
「え……どういうこと?」
「そこに、お前の父親もいる。二人とも石打ちの刑だ。
……死んだ後も親子で仲良くな」
父親……お父様!?
騎士が投げ込んできた包みに駆け寄る。
おそるおそる布を開いたら、そこにはお父様の遺体があった。
「お父様まで……どうしてっ」
もう亡くなっているのに、なんてひどいことをするの!?
抗議しようと思った私のこめかみに衝撃があった。
「っ!!痛いっ!」
たらりと血が流れて来る。
今のは何?確かめる前にまた新たな衝撃がくる。
「この化け物め!お前のせいで妻が死んだんだ!」
「やめて!ひどいことしないで!」
私にも石がぶつかってくるけれど、お父様にも石がぶつけられていた。
かばうようにすると、石が飛んでこなくなる。
ほっとしていると、周りの群衆から声が聞こえる。
「なぁ、治療していたのは若い娘だったよな。
あの老婆ではないんじゃないか?」
「そうよね。私も覚えているわ。父親と娘だったもの」
そうだ……今の私なら別人に思われるはずだ。
このまま他人のふりをしてしまおう。
「わ、私は」
「いや!お前たち誤魔化されるな!
そこに倒れている男は、あの時の父親で間違いない。
そいつをお父様と呼んでいた!外見が違っても、あの時の娘に違いない!」
「っ!!」
さっきお父様と呼んでいたのを聞かれたらしい。
まだ間に合うかとお父様から離れる。でも、もう遅かった。
「何十人という人間を不思議な術を使って殺すような女だ!
あの時娘のように見えていたのは幻術だったに違いない!」
「そうだそうだ!化け物を殺せ!」
間違いないとばかりにまた石が飛んでくる。
広場にこんなに石があるのと思ったら、騎士たちが石を積み上げている。
なんなの!?私が何をしたっていうの!?人殺しはそいつらじゃない!
何か言い返そうと、一番汚く私を罵っている中年の女を見る。
あれ……この女の顔はなんとなく見覚えがある。
「私の娘を返しやがれ!この化け物!!」
そうだ。治療したのは十歳の娘だった。
生まれつき歩けないという娘は、治療した後は立ち上がることができた。
これから歩く練習をすると言って、喜んで帰って行った。
そっか。あの娘も死んじゃったんだ。
というか、私が殺しちゃったんだ。
私が殺したんだと一度わかってしまったら、
ここに集まっている者たちの家族も私が殺したんだと理解できた。
皆、石を投げながら泣いている。
返せ、家族を返せと叫んでいる。
お父様が殺された時、とても理不尽だと思っていた。
どうしてお父様があんなひどい目にあわなきゃいけないのって。
きっと、この人たちもそう思っている。
どうして私に殺されなきゃいけなかったのって。
投げられた石の痛みが心まで傷つけていく。
痛い……でも、また死ねない。
痛い、痛い、痛い、痛い。どうしてあんなことしちゃったんだろう。
もう何かを考える余裕なんてどこにもなかった。
あなたにおすすめの小説
片思いの貴方に何度も告白したけど断られ続けてきた
アリス
恋愛
幼馴染で学生の頃から、ずっと好きだった人。
高校生くらいから何十回も告白した。
全て「好きなの」
「ごめん、断る」
その繰り返しだった。
だけど彼は優しいから、時々、ご飯を食べに行ったり、デートはしてくれる。
紛らわしいと思う。
彼に好きな人がいるわけではない。
まだそれなら諦めがつく。
彼はカイル=クレシア23歳
イケメンでモテる。
私はアリア=ナターシャ20歳
普通で人には可愛い方だと言われた。
そんなある日
私が20歳になった時だった。
両親が見合い話を持ってきた。
最後の告白をしようと思った。
ダメなら見合いをすると言った。
その見合い相手に溺愛される。
侍女から第2夫人、そして……
しゃーりん
恋愛
公爵家の2歳のお嬢様の侍女をしているルイーズは、酔って夢だと思い込んでお嬢様の父親であるガレントと関係を持ってしまう。
翌朝、現実だったと知った2人は親たちの話し合いの結果、ガレントの第2夫人になることに決まった。
ガレントの正妻セルフィが病弱でもう子供を望めないからだった。
一日で侍女から第2夫人になってしまったルイーズ。
正妻セルフィからは、娘を義母として可愛がり、夫を好きになってほしいと頼まれる。
セルフィの残り時間は少なく、ルイーズがやがて正妻になるというお話です。
夫と息子に捨てられたので、全部置いて出て行きます。明日から、タオルがなくても知りません。
夢窓(ゆめまど)
恋愛
夫と息子に裏切られ、すべてを奪われた女は、何も言わずに家を出た。
「どうせ戻ってくる」
そう思っていた男たちの生活は、あっけなく崩壊する。
食事も、金も、信用も失い、
やがて男は罪に落ち、息子は孤独の中で知る。
――母がいた日常は、当たり前ではなかった。
後悔しても、もう遅い。
君は妾の子だから、次男がちょうどいい〜long version
月山 歩
恋愛
侯爵家のマリアは婚約中だが、彼は王都に住み、彼女は片田舎で遠いため会ったことはなかった。でもある時、マリアは妾の子であると知られる。そんな娘は大事な子息とは結婚させられないと、病気療養中の次男との婚約に一方的に変えさせられる。そして次の日には、迎えの馬車がやって来た。
*こちらは元の小説の途中に、エピソードを追加したものです。
文字数が倍になっています。
婚約破棄された悪役令嬢ですが、面倒なので全部放置します
かきんとう
恋愛
王都の大広間に、どよめきが広がった。
天井から吊るされた巨大なシャンデリアが、何百もの蝋燭の光を反射し、きらきらと輝いている。その光の中心に立つ私は、妙に他人事のような気分で、その場の空気を眺めていた。
「エレノア・フォン・リーベルト! 私は貴様との婚約をここに破棄する!」
高らかに宣言したのは、第一王子であり私の婚約者でもあったアルベルト殿下だった。
周囲の貴族たちが一斉に息を呑み、次の瞬間には小声のざわめきが連鎖のように広がっていく。
――ああ、ついに来たのね。
【完結】「まずい」と騒ぐだけの毒見役は不要だと追い出されましたが、隣国王子の食卓を守ったら手放してもらえなくなりました
にたまご
恋愛
「穢れた血の孤児が王族の食に触れるな」
七年間、王宮の毒見役として「まずい」と言い続けた少女は、ある日追い出された。
誰も知らなかった。彼女が「まずい」と言うたびに足していた調味料が、食事に混ぜられた毒を中和していたことを。
辿り着いた国境の村の宿屋で、フィーアは初めて自分の料理を作った。
毎日通い詰める無口な旅の商人は、体調が悪そうなのに、フィーアの料理だけは「美味い」と言ってくれて——
彼の銀杯のワインを一口もらった時、フィーアの舌が反応した。
「……にがい」
※短編完結/追放/ざまぁ/溺愛
えっ「可愛いだけの無能な妹」って私のことですか?~自業自得で追放されたお姉様が戻ってきました。この人ぜんぜん反省してないんですけど~
村咲
恋愛
ずっと、国のために尽くしてきた。聖女として、王太子の婚約者として、ただ一人でこの国にはびこる瘴気を浄化してきた。
だけど国の人々も婚約者も、私ではなく妹を選んだ。瘴気を浄化する力もない、可愛いだけの無能な妹を。
私がいなくなればこの国は瘴気に覆いつくされ、荒れ果てた不毛の地となるとも知らず。
……と思い込む、国外追放されたお姉様が戻ってきた。
しかも、なにを血迷ったか隣国の皇子なんてものまで引き連れて。
えっ、私が王太子殿下や国の人たちを誘惑した? 嘘でお姉様の悪評を立てた?
いやいや、悪評が立ったのも追放されたのも、全部あなたの自業自得ですからね?
愛人を連れて帰ってきた翌朝、名前すら呼ばれなかった私のもとに王太子殿下が迎えに来ました 〜三年間冷遇された妻、今は毎日名前を呼ばれています〜
まさき
恋愛
侯爵家に嫁いで三年。
夫に名前を呼ばれたことは、一度もなかった。
社交の場ではただ隣に立つだけ。
屋敷では「妻」としてすら扱われない。
それでも、いつかは振り向いてもらえると信じていた。
――けれど、その期待はあっさりと壊れる。
夫が愛人を伴って帰宅した、その翌朝。
私は離縁状を残し、静かに屋敷を出た。
引き止める者は、誰もいない。
これで、すべて終わったはずだった――
けれどその日、私のもとに現れたのは王太子殿下。
「やっと手放してくれたか。三年も待たされました」
幼い頃から、ただ一人。
私の名前を呼び続けてくれた人。
「――アリシア」
その一言で、凍りついていた心がほどけていく。
一方、私を軽んじ続けた元夫は、
“失ってはいけないもの”を手放したことに、まだ気づいていない。
これは、三年間名前を呼ばれなかった私――アリシアが、
本当の居場所と愛を取り戻す物語。