75 / 79
75.薬茶
「この材料には見覚えがあります。でも、一つだけ違いますね。」
「見覚えが?どこで?」
王宮に来てもうすぐ一年が経とうとしていた。
修業も本格的になって、魔力の器を育てる薬茶の処方を学ぶ時だった。
ならべられた薬草の種類と組み合わせが、見たことのあるものだった。
「母様とお茶していた時に飲んでいた薬茶です。
成長を促すとか言ってたのですが、一つだけ違います。」
「なんだと。どれが違うかわかるか?」
「はい。リーニャの実ですが、実のまま使うのではなくて、
完熟して木から落ちたものの種だけを乾燥させて使っていました。」
「リーニャの実か。それも完熟したものの種。
すぐに手に入れるのは難しいか。」
「あぁ、薬屋の裏の畑にリーニャの木がありますよ。
収穫せずに放っておいてますから、完熟して落ちてるんじゃないでしょうか。」
「そうか。じゃあ、取りに行かせるか。」
近くにいたユキ様の護衛はそれを聞くと、外に待機している侍従に伝えた。
誰かに取りに行ってもらうのだろう。
リーニャの木はいつもなら二か月前には収穫時期になっている。
今年は誰も収穫していないだろうから、そのまま完熟して落ちて残っているはずだ。
でも、それを試してどうするんだろう。
昼食を食べてお茶を飲んでいると、薬屋に取りに行ったものが戻ってきたようだ。
袋にリーニャの種だけをつめたものをユキ様に手渡している。
「ルーラ、乾燥はこんなもので大丈夫か?」
「そうですね。いつもはもう少し天日干ししますが、
このくらい乾燥していれば大丈夫だと思います。」
「よし、じゃあ、その薬茶を処方してみてくれるか?」
「はい。」
母様が処方する横に椅子を持っていき、その椅子の上に立って見ていた。
魔力が吸いこまれて行くように消えて、薬の色が変わっていく。
魔法使いのようだねって言ったら、母様は魔女なのよ!って楽しそうに言ってた。
思い出しながら、丁寧に処方していく。
母様が亡くなって、一人でお茶をするのが耐えられなくて、処方できなかった。
だけど記憶の中にはいつも母様の処方する姿が残っている。忘れるわけが無い。
ゆっくりとすべての薬草に魔力がいきわたり、色が定着した。
あぁ、懐かしい匂い。あの頃の小さなテーブル、水色のティーカップ。
たまに焼いてくれたマシュマロ入りのサンドクッキー。
薬茶と共にいろんなことが思い出された。
「…できました。母様とよく飲んでた薬茶です。」
ユキ様に差し出すと、手でつまんだり匂いを嗅いだりして確認している。
薬茶を入れると、少しだけもわっとした匂いと魔力が立ち上がる。
口に入れたユキ様が、そのまま少し止まった。
「ユキ様?」
「これは…改良されている。」
「え?」
「ミカエルに教えた、魔力の器を成長させる薬茶が改良されているんだ。
これならもっと効率よく器を育てられるかもしれない。
ルーラ、まだ王子たちに間に合うかもしれない。
陛下たちよりも器を大きくすることができるかもしれん。」
「本当ですか!」
「ああ。なんてすばらしいんだ。
ミカエルはやっぱり研究を続けていたんだな。
そうか…ルーラがいたからか。」
「私ですか?」
ふとユキ様が私を見て何かに気が付いたようだ。
私がいたから?
「最初会ったとき、魔力の器の成長が止まっていただろう?
おそらくルーラは産まれた後で器の成長が遅いことがわかったんだ。
だから魔力の器を育てる薬茶を与え、ルーラのために改良し続けたんだ。」
「…父様が。私のために?」
父様が亡くなったのは幼いころ、確か私が4歳の時だったはず。
いつも本を読んでいる人だった。
今考えれば片足が不自由だったから歩けなかったのだろう。
その分母様がいろんなところに連れて行ってくれた。主に薬草を取りにだけど。
取ってきた薬草を父様に見せると、うれしそうに一つずつ説明してくれた。
薬草じゃないものもたまに混ざっていて、それも面白がって説明してた。
父様が教え、母様が処方し、私に受け継がれて来たもの。
今ここに私がいるのは両親がいたから、両親から受け継がれたものがあったから。
「明日から王子に飲ませる薬茶はルーラの処方に変えよう。
王宮薬師としての初めての担当だな。」
「本当ですか!」
「ああ。この処方で間違いない。私よりも優れているんだ。自信を持っていい。
明日、王子たちに会わせよう。
直接ルーラが薬茶を出すことは無いが、
誰が処方しているのかは教えておかなければいけないからね。
公爵の時のようなことがあっては困る。」
「わかりました。」
「見覚えが?どこで?」
王宮に来てもうすぐ一年が経とうとしていた。
修業も本格的になって、魔力の器を育てる薬茶の処方を学ぶ時だった。
ならべられた薬草の種類と組み合わせが、見たことのあるものだった。
「母様とお茶していた時に飲んでいた薬茶です。
成長を促すとか言ってたのですが、一つだけ違います。」
「なんだと。どれが違うかわかるか?」
「はい。リーニャの実ですが、実のまま使うのではなくて、
完熟して木から落ちたものの種だけを乾燥させて使っていました。」
「リーニャの実か。それも完熟したものの種。
すぐに手に入れるのは難しいか。」
「あぁ、薬屋の裏の畑にリーニャの木がありますよ。
収穫せずに放っておいてますから、完熟して落ちてるんじゃないでしょうか。」
「そうか。じゃあ、取りに行かせるか。」
近くにいたユキ様の護衛はそれを聞くと、外に待機している侍従に伝えた。
誰かに取りに行ってもらうのだろう。
リーニャの木はいつもなら二か月前には収穫時期になっている。
今年は誰も収穫していないだろうから、そのまま完熟して落ちて残っているはずだ。
でも、それを試してどうするんだろう。
昼食を食べてお茶を飲んでいると、薬屋に取りに行ったものが戻ってきたようだ。
袋にリーニャの種だけをつめたものをユキ様に手渡している。
「ルーラ、乾燥はこんなもので大丈夫か?」
「そうですね。いつもはもう少し天日干ししますが、
このくらい乾燥していれば大丈夫だと思います。」
「よし、じゃあ、その薬茶を処方してみてくれるか?」
「はい。」
母様が処方する横に椅子を持っていき、その椅子の上に立って見ていた。
魔力が吸いこまれて行くように消えて、薬の色が変わっていく。
魔法使いのようだねって言ったら、母様は魔女なのよ!って楽しそうに言ってた。
思い出しながら、丁寧に処方していく。
母様が亡くなって、一人でお茶をするのが耐えられなくて、処方できなかった。
だけど記憶の中にはいつも母様の処方する姿が残っている。忘れるわけが無い。
ゆっくりとすべての薬草に魔力がいきわたり、色が定着した。
あぁ、懐かしい匂い。あの頃の小さなテーブル、水色のティーカップ。
たまに焼いてくれたマシュマロ入りのサンドクッキー。
薬茶と共にいろんなことが思い出された。
「…できました。母様とよく飲んでた薬茶です。」
ユキ様に差し出すと、手でつまんだり匂いを嗅いだりして確認している。
薬茶を入れると、少しだけもわっとした匂いと魔力が立ち上がる。
口に入れたユキ様が、そのまま少し止まった。
「ユキ様?」
「これは…改良されている。」
「え?」
「ミカエルに教えた、魔力の器を成長させる薬茶が改良されているんだ。
これならもっと効率よく器を育てられるかもしれない。
ルーラ、まだ王子たちに間に合うかもしれない。
陛下たちよりも器を大きくすることができるかもしれん。」
「本当ですか!」
「ああ。なんてすばらしいんだ。
ミカエルはやっぱり研究を続けていたんだな。
そうか…ルーラがいたからか。」
「私ですか?」
ふとユキ様が私を見て何かに気が付いたようだ。
私がいたから?
「最初会ったとき、魔力の器の成長が止まっていただろう?
おそらくルーラは産まれた後で器の成長が遅いことがわかったんだ。
だから魔力の器を育てる薬茶を与え、ルーラのために改良し続けたんだ。」
「…父様が。私のために?」
父様が亡くなったのは幼いころ、確か私が4歳の時だったはず。
いつも本を読んでいる人だった。
今考えれば片足が不自由だったから歩けなかったのだろう。
その分母様がいろんなところに連れて行ってくれた。主に薬草を取りにだけど。
取ってきた薬草を父様に見せると、うれしそうに一つずつ説明してくれた。
薬草じゃないものもたまに混ざっていて、それも面白がって説明してた。
父様が教え、母様が処方し、私に受け継がれて来たもの。
今ここに私がいるのは両親がいたから、両親から受け継がれたものがあったから。
「明日から王子に飲ませる薬茶はルーラの処方に変えよう。
王宮薬師としての初めての担当だな。」
「本当ですか!」
「ああ。この処方で間違いない。私よりも優れているんだ。自信を持っていい。
明日、王子たちに会わせよう。
直接ルーラが薬茶を出すことは無いが、
誰が処方しているのかは教えておかなければいけないからね。
公爵の時のようなことがあっては困る。」
「わかりました。」
あなたにおすすめの小説
【完結】何もできない妻が愛する隻眼騎士のためにできること
大森 樹
恋愛
辺境伯の娘であるナディアは、幼い頃ドラゴンに襲われているところを騎士エドムンドに助けられた。
それから十年が経過し、成長したナディアは国王陛下からあるお願いをされる。その願いとは『エドムンドとの結婚』だった。
幼い頃から憧れていたエドムンドとの結婚は、ナディアにとって願ってもいないことだったが、その結婚は妻というよりは『世話係』のようなものだった。
誰よりも強い騎士団長だったエドムンドは、ある事件で左目を失ってから騎士をやめ、酒を浴びるほど飲み、自堕落な生活を送っているため今はもう英雄とは思えない姿になっていた。
貴族令嬢らしいことは何もできない仮の妻が、愛する隻眼騎士のためにできることはあるのか?
前向き一途な辺境伯令嬢×俺様で不器用な最強騎士の物語です。
※いつもお読みいただきありがとうございます。中途半端なところで長期間投稿止まってしまい申し訳ありません。2025年10月6日〜投稿再開しております。
【完結】身を引いたつもりが逆効果でした
風見ゆうみ
恋愛
6年前に別れの言葉もなく、あたしの前から姿を消した彼と再会したのは、王子の婚約パレードの時だった。
一緒に遊んでいた頃には知らなかったけれど、彼は実は王子だったらしい。しかもあたしの親友と彼の弟も幼い頃に将来の約束をしていたようで・・・・・。
平民と王族ではつりあわない、そう思い、身を引こうとしたのだけど、なぜか逃してくれません!
というか、婚約者にされそうです!
【完結】白い結婚成立まであと1カ月……なのに、急に家に帰ってきた旦那様の溺愛が止まりません!?
氷雨そら
恋愛
3年間放置された妻、カティリアは白い結婚を宣言し、この結婚を無効にしようと決意していた。
しかし白い結婚が認められる3年を目前にして戦地から帰ってきた夫は彼女を溺愛しはじめて……。
夫は妻が大好き。勘違いすれ違いからの溺愛物語。
小説家なろうにも投稿中
【完結】愛を知らない伯爵令嬢は執着激重王太子の愛を一身に受ける。
扇レンナ
恋愛
スパダリ系執着王太子×愛を知らない純情令嬢――婚約破棄から始まる、極上の恋
伯爵令嬢テレジアは小さな頃から両親に《次期公爵閣下の婚約者》という価値しか見出してもらえなかった。
それでもその利用価値に縋っていたテレジアだが、努力も虚しく婚約破棄を突きつけられる。
途方に暮れるテレジアを助けたのは、留学中だったはずの王太子ラインヴァルト。彼は何故かテレジアに「好きだ」と告げて、熱烈に愛してくれる。
その真意が、テレジアにはわからなくて……。
*hotランキング 最高68位ありがとうございます♡
▼掲載先→ベリーズカフェ、エブリスタ、アルファポリス
【完結】断頭台で処刑された悪役王妃の生き直し
有栖多于佳
恋愛
近代ヨーロッパの、ようなある大陸のある帝国王女の物語。
30才で断頭台にかけられた王妃が、次の瞬間3才の自分に戻った。
1度目の世界では盲目的に母を立派な女帝だと思っていたが、よくよく思い起こせば、兄妹間で格差をつけて、お気に入りの子だけ依怙贔屓する毒親だと気づいた。
だいたい帝国は男子継承と決まっていたのをねじ曲げて強欲にも女帝になり、初恋の父との恋も成就させた結果、継承戦争起こし帝国は二つに割ってしまう。王配になった父は人の良いだけで頼りなく、全く人を見る目のないので軍の幹部に登用した者は役に立たない。
そんな両親と早い段階で決別し今度こそ幸せな人生を過ごすのだと、決意を胸に生き直すマリアンナ。
史実に良く似た出来事もあるかもしれませんが、この物語はフィクションです。
世界史の人物と同名が出てきますが、別人です。
全くのフィクションですので、歴史考察はありません。
*あくまでも異世界ヒューマンドラマであり、恋愛あり、残業ありの娯楽小説です。
〖完結〗終着駅のパッセージ
苺 迷音
恋愛
過去、使用人に悪戯をされそうになった事がきっかけとなり、分厚い眼鏡とひっつめた髪を編み帽で覆い、自身の容姿を隠すようになった女性・カレン。
その事情を知りながらも夫ローランは、奇妙で地味な姿の妻を厭い目を逸らし続けた。
婚姻してからわずか三日後の朝。彼は赴任先の北の地へと旅立ちその後、カレンの元へと帰省してきたのは、片手で数えるほどだった。
孤独な結婚生活を送る中。
ある冬の日に、ローランの上官であり北の地を治める領主ハルシオン公爵が、カレン夫妻の邸にやってきた。
始まりは、部下の家族を想う上司としての気遣いだった。
他愛もない会話と、節度を守ったやり取り。ほんの僅かな時間を重ねていく。
そのうちに、お互いに灯り始めた小さな心の想い。
だが二人は、それを決して明かさず語ることはなかった。
それから一年ほどたった冬の夜。
カレンから届いた手紙に、たった一度だけハルシオンは返事を書く。
そこには彼の想いが書かれてあった。
月日は流れ、カレンとローランが婚姻して三年目の冬の日。
カレンはひとつの決意と想いを胸に、北へ向かう汽車に乗った。
※微さまぁか、もしくはざまぁになっていないかもしれないです。
※舞台は近世・産業革命初頭を基にした架空世界だと思っていただけましたら有難いです。
稚拙な作品ではありますがご覧くださいましたら凄く嬉しいです。よろしくお願い致します。
狂おしいほど愛しています、なのでよそへと嫁ぐことに致します
ちより
恋愛
侯爵令嬢のカレンは分別のあるレディだ。頭の中では初恋のエル様のことでいっぱいになりながらも、一切そんな素振りは見せない徹底ぶりだ。
愛するエル様、神々しくも真面目で思いやりあふれるエル様、その残り香だけで胸いっぱいですわ。
頭の中は常にエル様一筋のカレンだが、家同士が決めた結婚で、公爵家に嫁ぐことになる。愛のない形だけの結婚と思っているのは自分だけで、実は誰よりも公爵様から愛されていることに気づかない。
公爵様からの溺愛に、不器用な恋心が反応したら大変で……両思いに慣れません。
一途な皇帝は心を閉ざした令嬢を望む
浅海 景
恋愛
幼い頃からの婚約者であった王太子より婚約解消を告げられたシャーロット。傷心の最中に心無い言葉を聞き、信じていたものが全て偽りだったと思い込み、絶望のあまり心を閉ざしてしまう。そんな中、帝国から皇帝との縁談がもたらされ、侯爵令嬢としての責任を果たすべく承諾する。
「もう誰も信じない。私はただ責務を果たすだけ」
一方、皇帝はシャーロットを愛していると告げると、言葉通りに溺愛してきてシャーロットの心を揺らす。
傷つくことに怯えて心を閉ざす令嬢と一途に想い続ける青年皇帝の物語