ひとりぼっちだった魔女の薬師は、壊れた騎士の腕の中で眠る

gacchi(がっち)

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75.薬茶

「この材料には見覚えがあります。でも、一つだけ違いますね。」

「見覚えが?どこで?」

王宮に来てもうすぐ一年が経とうとしていた。
修業も本格的になって、魔力の器を育てる薬茶の処方を学ぶ時だった。
ならべられた薬草の種類と組み合わせが、見たことのあるものだった。

「母様とお茶していた時に飲んでいた薬茶です。
 成長を促すとか言ってたのですが、一つだけ違います。」

「なんだと。どれが違うかわかるか?」

「はい。リーニャの実ですが、実のまま使うのではなくて、
 完熟して木から落ちたものの種だけを乾燥させて使っていました。」

「リーニャの実か。それも完熟したものの種。
 すぐに手に入れるのは難しいか。」

「あぁ、薬屋の裏の畑にリーニャの木がありますよ。
 収穫せずに放っておいてますから、完熟して落ちてるんじゃないでしょうか。」

「そうか。じゃあ、取りに行かせるか。」

近くにいたユキ様の護衛はそれを聞くと、外に待機している侍従に伝えた。
誰かに取りに行ってもらうのだろう。
リーニャの木はいつもなら二か月前には収穫時期になっている。
今年は誰も収穫していないだろうから、そのまま完熟して落ちて残っているはずだ。
でも、それを試してどうするんだろう。


昼食を食べてお茶を飲んでいると、薬屋に取りに行ったものが戻ってきたようだ。
袋にリーニャの種だけをつめたものをユキ様に手渡している。

「ルーラ、乾燥はこんなもので大丈夫か?」

「そうですね。いつもはもう少し天日干ししますが、
 このくらい乾燥していれば大丈夫だと思います。」

「よし、じゃあ、その薬茶を処方してみてくれるか?」

「はい。」

母様が処方する横に椅子を持っていき、その椅子の上に立って見ていた。
魔力が吸いこまれて行くように消えて、薬の色が変わっていく。
魔法使いのようだねって言ったら、母様は魔女なのよ!って楽しそうに言ってた。
思い出しながら、丁寧に処方していく。
母様が亡くなって、一人でお茶をするのが耐えられなくて、処方できなかった。
だけど記憶の中にはいつも母様の処方する姿が残っている。忘れるわけが無い。

ゆっくりとすべての薬草に魔力がいきわたり、色が定着した。
あぁ、懐かしい匂い。あの頃の小さなテーブル、水色のティーカップ。
たまに焼いてくれたマシュマロ入りのサンドクッキー。
薬茶と共にいろんなことが思い出された。

「…できました。母様とよく飲んでた薬茶です。」

ユキ様に差し出すと、手でつまんだり匂いを嗅いだりして確認している。
薬茶を入れると、少しだけもわっとした匂いと魔力が立ち上がる。
口に入れたユキ様が、そのまま少し止まった。

「ユキ様?」

「これは…改良されている。」

「え?」

「ミカエルに教えた、魔力の器を成長させる薬茶が改良されているんだ。
 これならもっと効率よく器を育てられるかもしれない。
 ルーラ、まだ王子たちに間に合うかもしれない。
 陛下たちよりも器を大きくすることができるかもしれん。」

「本当ですか!」

「ああ。なんてすばらしいんだ。
 ミカエルはやっぱり研究を続けていたんだな。
 そうか…ルーラがいたからか。」

「私ですか?」

ふとユキ様が私を見て何かに気が付いたようだ。
私がいたから?

「最初会ったとき、魔力の器の成長が止まっていただろう?
 おそらくルーラは産まれた後で器の成長が遅いことがわかったんだ。
 だから魔力の器を育てる薬茶を与え、ルーラのために改良し続けたんだ。」

「…父様が。私のために?」

父様が亡くなったのは幼いころ、確か私が4歳の時だったはず。
いつも本を読んでいる人だった。
今考えれば片足が不自由だったから歩けなかったのだろう。
その分母様がいろんなところに連れて行ってくれた。主に薬草を取りにだけど。
取ってきた薬草を父様に見せると、うれしそうに一つずつ説明してくれた。
薬草じゃないものもたまに混ざっていて、それも面白がって説明してた。
父様が教え、母様が処方し、私に受け継がれて来たもの。
今ここに私がいるのは両親がいたから、両親から受け継がれたものがあったから。

「明日から王子に飲ませる薬茶はルーラの処方に変えよう。
 王宮薬師としての初めての担当だな。」

「本当ですか!」

「ああ。この処方で間違いない。私よりも優れているんだ。自信を持っていい。
 明日、王子たちに会わせよう。
 直接ルーラが薬茶を出すことは無いが、
 誰が処方しているのかは教えておかなければいけないからね。
 公爵の時のようなことがあっては困る。」

「わかりました。」


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