ひとりぼっちだった魔女の薬師は、壊れた騎士の腕の中で眠る

gacchi(がっち)

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79.家族になる

あれから5年の月日が流れた。
ノエルさんが訓練中なのを良いことに、こっそりと薬師室に入ると、
すぐさま注意を受ける。

「あールーラ様!またこんなところに来ちゃダメじゃないですか!」

2年前に入ってきた王宮薬師見習いのルカに見つかり、呆れたように注意される。
それに気が付いた作業中の薬師たちも作業をやめて寄って来た。

「また来ちゃったんですか、ルーラ様。
 レミーラ様の出産が終わったら、しばらくは休むって約束したでしょう?」

「ごめんなさい、フォゲルさん。やっぱり心配で。」

「フォゲル~そんなに心配しなくても大丈夫よ。
 もうノエル様も心配し過ぎるのよ。
 ルーラ様、少しここで休んでお茶飲んだら戻りましょう?」

もうお茶の準備をしてくれたらしいジュリアさんが、
笑ってフォゲルさんとルカを止めてくれた。
もう出産予定日を過ぎていて、大きいお腹を抱えて歩くのは大変だけど、
それでも塔にずっとこもっていると飽きてしまう。
それに王宮薬師長としての処方は2か月分してあるが、
不備はないのか心配で仕方なかった。
足りなくなればユキ様が処方してくれるのはわかっているのだが、
初めて長期で休みをもらうこともあって、何となく落ち着かなかった。

つい先日に出産したレミーラ様のお子は緑色の髪の王子だった。
三年前に産まれた王女が赤い髪だったこともあり、今度も色付きだと予想されていた。
色付きだったら王宮薬師長の処方量は増えない。
だけど、産まれてくるまでは安心できなかった。
それもあってレミーラ様の出産後に休むという約束で仕事を続けていた。

あれほどまで色付きが産まれてくることを望んでいた陛下だが、
レミーラ様と心を通わせたと実感できた後での妊娠だったこともあり、
赤の王女が産まれてもそう驚かなかった。
むしろ出産で体調を崩したレミーラ様から離れずにユキ様に叱られたくらいだった。
王太子には第一王子のジョージア様が立位し、
王弟として第二王子のシュダイト様が王族に残ることになっている。
第三王子のケイン様はリリアン様が継げなくなって王領となっていた、
ランゲル公爵家を継ぐ予定になっている。
赤の王女と緑の王子が王政に関わることは無い。
レミーラ様は恩赦を断り、今も離宮に幽閉されている。
過去の自分の行いを反省し、死ぬまで離宮で祈り続けるおつもりだそうだ。
レミーラ様を許す気にはなれないけれど、もう憎むこともできなくなりそうだ。






「予定日過ぎてるけど、初産だし、そんなものよ。
 動いていた方が安産になるって話もあるし、そんなに心配しなくてもいいのよ。」

子どもを産んだことがあるジュリアさんはそう言ってくれるのだけど、
他の王宮薬師は全員が男性で、ユキ様は出産経験がない。
多数の心配する声におされ、どうしても行動を制限されがちだった。
そのためこうして目を盗んでは動き回っているのだけど、
必ずノエルさんに見つかって怒られている。

「もう塔にいても落ち着かなくて。
 早く産まれてきてほしいんですけどね~。」

「まぁ、産まれたらしばらくは仕事できないと思うし、
 今のうちにやっておきたいのはわかるわ。
 でも、そろそろお迎えが来るんじゃないかしら。」

産後は魔力が安定しないそうで、ジュリアさんも二か月ほど休んだと聞いている。
今ならユキ様がいるし、産むなら早いうちに産んじゃってと言われているが…。

のんびりと4人でお茶をしていると、荒々しくドアが開けられる。
訓練の格好をしたままのノエルさんが入ってきて、
やっぱり見つかったとジュリアさんにつぶやかれた。

「ルーラ。今日はサージュさんとお茶して待ってるって言ったよな?」

「えーっと。
 サージュさんはレミーラ様にお祝いの品を届けに行ってもらって…。」

「もう、帰るぞ。」

有無を言わさずに抱き上げられて、そのまま廊下に連れ出される。
部屋を出る時に見えなかったけど、手を振って薬師たちに挨拶をしたら、
またね~、ちゃんと休んでくださいよ~、挨拶に応えるようにいくつかの声が聞こえた。

「ごめんね。どうしても気になって。」

「わかるけど、もう予定日過ぎてるんだから、俺に内緒で動かないで。
 何かあった時に困るでしょ?」

「はーい…ん?」

「どうした?」

「なんとなく、お腹が痛くなってきたような気がする?」

「本当か。もう少しで塔だから、頑張って。」

「大丈夫…痛くなっても、すぐに産まれないって…。」

「わかった。」







「ルーラは大丈夫か?」

「ユキ様、まだ産まれてません。今、産婆が中に入ってます。
 女官たちがその手伝いでいますが、他は入ってこないようにと。」

「ああ、そうか。待つしかないか…。じゃあ、また来る。」

どのくらい塔の隣の部屋で待っただろう。
慣れ親しんだ部屋なら安心できるからと、いつもの寝台がある部屋で出産していた。
初めての出産だし、時間がかかるとは最初から言われていた。
昨日の昼すぎから陣痛が始まり、今は明け方近くになっている。

もうすぐ日が昇り始めると思った頃、小さな泣き声が聞こえた。
それにもう一つ重なるように泣き声が。

もういいですよ、と声をかけられ入った部屋には寝台の上にルーラが。
その隣に小さな寝台が二つ並べられている。
のぞきこむと黒い髪と青い髪の子がすやすやと寝ている。
お腹が大きいとは思っていたが、双子だったのか…。
二人ともルーラにそっくりで、男なのか女なのかわからない。

ぐったりしているルーラのそばによって、寝台の横の椅子に座った。

「ルーラ、双子だったんだな。よく頑張ってくれた。
 大変だっただろう。ありがとう…。」

「見たぁ?かわいいの。
 二人もいっぺんに産まれてくるなんて思わなくて驚いちゃった。
 家族が倍になったね。うれしい。」

「うん、俺もうれしい。…今はゆっくり休んで。
 起きたらまた話そう。」

「うん…。」

少しだけ話すと安心したのか、すうっと眠ってしまった。
小柄なルーラが出産に耐えきれるのか心配だったけど、元気な子を二人も産んでくれた。
今はとにかく疲れているだろうから、ゆっくり休んでほしかった。


「あ。男か女か聞くの忘れたな。
 まぁ、起きてからでいいか。」




この日生まれた黒髪の子はジャニス。青髪の子はリニアスと名付けられた。
どちらも元気のいい男の子だった。

「薬師を目指すかな。」

「騎士になるんじゃない?」

「どちらでも好きにしていいと思うよ。」

「それもそうね。」







「俺に家族をくれてありがとう、ルーラ。」

いつものように俺の腕の中で眠るルーラにこっそり話しかける。
起こさないようにそっと。
この幸せが壊れないように願いながら。

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