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転移成功!第二の人生スタート!
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覚えていない。
飛ばされる寸前の記憶も。
飛ばされた直後の記憶も。
段々と記憶が濃厚に。濃厚に。
ゆっくりと戻ってくる。
そして肌寒い感覚が記憶と同じようにゆっくりと脳へ伝わる。
目が開き、口が開き、鼻で嗅いだことのないような落ち着く匂いを嗅ぎ、耳で薄っすらと騒然な人々の声を聞き取った。
電気が付いていない電球が真上にぶらぶらとぶら下がっており、またその部屋の雰囲気から相当古いということを実感させられる。
「…………ここは」
身体を軽く起こし、右目玉を左から右へ移すと、一枚の大きな紙が落ちていた。
私はそれを拾い、上から下へと目線を落としながら読む。
「……東京」
神から告げられた都市の名前。
そういえば、お気に入りの街なんだっけ。
「……もう、夕暮れ時なのね」
窓に夕日が沈む直前を示す紅炎の太陽の光が差し込む。訳の分からない不快な電子音に混じって止む気配もない人々の声が滞りなく耳に入る。
「……これが」
緑色の紙入れ。
中身を見ると数字の羅列が目に入った。
「……これが銀行通帳」
あの神様が念押しに説明していたブツだ。
前世で稼いだお金がそのまま受け継がれているらしい。
「……」
そして気になるであろうその有金。
桁をじっくりと確認する。
「……一三○○万円」
思ったより少ない。
女王ならもう何桁かはあるはずだと——。
「……え」
そう思った瞬間、後ろを振り返るとその銀行通帳が山のように積まれていた。言葉は出ず、ただ目を、大きく、大きく、見開くだけだった。
「……これも一三〇〇万円、これも一三〇〇万円、これも——」
目は笑っていないのに、口は笑っていた。
手が震えていた。
おかしい。
さっきまで一三〇〇万円を見て金額の少なさに肩をすくめていたのに——。
普段、日常でお金なんて触れる機会なんてものはなかったからか、いざこうして見せつけられると、何故か震えてしまう。
それが、新鮮な気持ちだからなのか、またはお金に関してではなく、何かに対する恐怖心なのか。それとも——。
「………………ふぅ」
大きく深呼吸をし、心を落ち着かせる。
通帳の数は三○○程。
この世界に職業の文化はあるようだが、わざわざ仕事に就く必要は無さそうだ。
「さて、どうしようかしら」
今までのことは一旦脳内の端に一旦置き、これからどうするかに目を置くことにする。
「……確か、銀行という所にいけばお金を引き落とせるんだっけ」
——銀行。
お金を振り込んだり、引き出したりするところ、と神様から聞いている。安全性とか大丈夫なのか、と聞き返したが、この国に限っては大丈夫らしい。
「とりあえず、銀行まで行ってみようかしら。そこ行かないと何も始まらなさそうだし」
私は玄関口を見る。鍵らしき物が壁に掛かっていたのが見えた。
銀行手帳を一つ取り出し、ポケットの中に突っ込む。
鍵を手にし、玄関鏡を見ながら、服装の乱れを整える。
「……これから、第二の人生……か」
不安混じりのため息をつくも、どうやら心の奥底に吹く期待の風の方が勝っているらしい。
私のことを誰一人として知らないこの世界で、私は、絶対に生き延びてみせる。
「…………っ!」
私は勇気を振り絞って、錆びたドアノブを思い切って引いた。
飛ばされる寸前の記憶も。
飛ばされた直後の記憶も。
段々と記憶が濃厚に。濃厚に。
ゆっくりと戻ってくる。
そして肌寒い感覚が記憶と同じようにゆっくりと脳へ伝わる。
目が開き、口が開き、鼻で嗅いだことのないような落ち着く匂いを嗅ぎ、耳で薄っすらと騒然な人々の声を聞き取った。
電気が付いていない電球が真上にぶらぶらとぶら下がっており、またその部屋の雰囲気から相当古いということを実感させられる。
「…………ここは」
身体を軽く起こし、右目玉を左から右へ移すと、一枚の大きな紙が落ちていた。
私はそれを拾い、上から下へと目線を落としながら読む。
「……東京」
神から告げられた都市の名前。
そういえば、お気に入りの街なんだっけ。
「……もう、夕暮れ時なのね」
窓に夕日が沈む直前を示す紅炎の太陽の光が差し込む。訳の分からない不快な電子音に混じって止む気配もない人々の声が滞りなく耳に入る。
「……これが」
緑色の紙入れ。
中身を見ると数字の羅列が目に入った。
「……これが銀行通帳」
あの神様が念押しに説明していたブツだ。
前世で稼いだお金がそのまま受け継がれているらしい。
「……」
そして気になるであろうその有金。
桁をじっくりと確認する。
「……一三○○万円」
思ったより少ない。
女王ならもう何桁かはあるはずだと——。
「……え」
そう思った瞬間、後ろを振り返るとその銀行通帳が山のように積まれていた。言葉は出ず、ただ目を、大きく、大きく、見開くだけだった。
「……これも一三〇〇万円、これも一三〇〇万円、これも——」
目は笑っていないのに、口は笑っていた。
手が震えていた。
おかしい。
さっきまで一三〇〇万円を見て金額の少なさに肩をすくめていたのに——。
普段、日常でお金なんて触れる機会なんてものはなかったからか、いざこうして見せつけられると、何故か震えてしまう。
それが、新鮮な気持ちだからなのか、またはお金に関してではなく、何かに対する恐怖心なのか。それとも——。
「………………ふぅ」
大きく深呼吸をし、心を落ち着かせる。
通帳の数は三○○程。
この世界に職業の文化はあるようだが、わざわざ仕事に就く必要は無さそうだ。
「さて、どうしようかしら」
今までのことは一旦脳内の端に一旦置き、これからどうするかに目を置くことにする。
「……確か、銀行という所にいけばお金を引き落とせるんだっけ」
——銀行。
お金を振り込んだり、引き出したりするところ、と神様から聞いている。安全性とか大丈夫なのか、と聞き返したが、この国に限っては大丈夫らしい。
「とりあえず、銀行まで行ってみようかしら。そこ行かないと何も始まらなさそうだし」
私は玄関口を見る。鍵らしき物が壁に掛かっていたのが見えた。
銀行手帳を一つ取り出し、ポケットの中に突っ込む。
鍵を手にし、玄関鏡を見ながら、服装の乱れを整える。
「……これから、第二の人生……か」
不安混じりのため息をつくも、どうやら心の奥底に吹く期待の風の方が勝っているらしい。
私のことを誰一人として知らないこの世界で、私は、絶対に生き延びてみせる。
「…………っ!」
私は勇気を振り絞って、錆びたドアノブを思い切って引いた。
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