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二十七、ブーニャンの秘密
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「ご趣味は?」と問われれば、だいぶ前は「読書と薬膳料理をつくること」と答えていた。
本当のことだから。
けど、それを教育係の女官に駄目だしをされたのはいつだったかしら。
たしか社交界デビューの年だったと思う。
「薬膳料理だなんて貧乏くさくて、一国の王女のイメージにそぐいません。
そうですね。
趣味は読書と刺繍ということにしましょう」
「けど刺繍は好きになれない。
あなたは私に嘘つきになれと言うのね」
「はい。それが王族の為になるのなら」
「自分でとってきた野草や木の実を自ら料理することが、そんなに悪いことなのかしら。
きっと国民は親しみを抱いてくれるわよ」
「それが怖いのです。
親しみの次にくるのは、批判です。
王族はベールに包まれた、気高く神秘的な存在じゃないといけません」
「そうなのね。わかりました」
あの教育係は誠実で聡明で、王族からの信頼もあつかった。
私もそんな彼女の言葉どおり、今では読書と刺繍好きの王女のフリをしている。
けど、私はもうすぐこの国の王女じゃなくなるのだ。
嫁ぐまで好きにさせてもらうわね。
だから毎日、王宮の庭園に咲く薔薇をもぎ、村の野原にゆれる小菊をつみ、それらを干したり煮たりする作業に没頭していた。
そういうわけで、六日間はあっというまに過ぎていく。
「ローズ様。
きっとこれが王女様とお過ごしになる最後の夜ですよ。
今晩はゆっくり甘えてきて下さい」
こうグラスに声をかけられるまで、うっかり約束を忘れていたほどに。
「ありがとう」
そう言うと、玄関扉の前で待機していた一人の護衛騎士に守られながら、夜の本宮へ到着した。
お母様の私室は王宮の最奥にある。
そこまで騎士と歩いていくが、すっぽりと夜に覆われた王宮内は驚くほど静まりかえっていた。
「なにも行事がない夜はこうだったかしら。
離宮ぐらしが長いから、すっかり忘れていたわ。
廊下に飾られているご先祖様達の肖像画も、今夜はまるで亡霊のようね」
少し後ろを歩く騎士をふりかえった。
「プッ」
夜目にもイケメンだとわかる騎士は、一瞬吹き出しそうになっていたが、すぐに低い声で否定する。
「亡霊だんなんて。
とんでもございません」
そう言うと口をひき結ぶ。
それからは二人とも沈黙したする。
カツカツという騎士の靴音だけが、いやに大きく廊下に響く。
数分後位して、お母様の私室の前に到着した。
「ローズウッド王女様。
では私はここで失礼いたします」
先ほどの騎士は胸に手をあてて礼をし、来た道を帰ってゆく。
「王女様。女王様がお待ちでございます」
今度はお母様の扉の前に控えていた、これまたイケメン騎士が丁寧に頭を下げる。
自分の親だもん。
本当はもっと気楽に会いにいきたい。
けどこれが王族なのね。
そう思った時、重厚な扉がおもむろに開かれた。
「いらっしゃい。ローズウッド。
今夜はね。
あなたにブーニャンの秘密をあかそうと思ってます」
ゆったりとした部屋着に着替えたお母様が柔和に微笑みながら、こちらへ向かってきた。
ブーニャンの秘密?
黒い魔法の秘密じゃなくて。
よくわからないけれど、お母様とブーニャンはどうやら私に何か隠しているみたい。
本当のことだから。
けど、それを教育係の女官に駄目だしをされたのはいつだったかしら。
たしか社交界デビューの年だったと思う。
「薬膳料理だなんて貧乏くさくて、一国の王女のイメージにそぐいません。
そうですね。
趣味は読書と刺繍ということにしましょう」
「けど刺繍は好きになれない。
あなたは私に嘘つきになれと言うのね」
「はい。それが王族の為になるのなら」
「自分でとってきた野草や木の実を自ら料理することが、そんなに悪いことなのかしら。
きっと国民は親しみを抱いてくれるわよ」
「それが怖いのです。
親しみの次にくるのは、批判です。
王族はベールに包まれた、気高く神秘的な存在じゃないといけません」
「そうなのね。わかりました」
あの教育係は誠実で聡明で、王族からの信頼もあつかった。
私もそんな彼女の言葉どおり、今では読書と刺繍好きの王女のフリをしている。
けど、私はもうすぐこの国の王女じゃなくなるのだ。
嫁ぐまで好きにさせてもらうわね。
だから毎日、王宮の庭園に咲く薔薇をもぎ、村の野原にゆれる小菊をつみ、それらを干したり煮たりする作業に没頭していた。
そういうわけで、六日間はあっというまに過ぎていく。
「ローズ様。
きっとこれが王女様とお過ごしになる最後の夜ですよ。
今晩はゆっくり甘えてきて下さい」
こうグラスに声をかけられるまで、うっかり約束を忘れていたほどに。
「ありがとう」
そう言うと、玄関扉の前で待機していた一人の護衛騎士に守られながら、夜の本宮へ到着した。
お母様の私室は王宮の最奥にある。
そこまで騎士と歩いていくが、すっぽりと夜に覆われた王宮内は驚くほど静まりかえっていた。
「なにも行事がない夜はこうだったかしら。
離宮ぐらしが長いから、すっかり忘れていたわ。
廊下に飾られているご先祖様達の肖像画も、今夜はまるで亡霊のようね」
少し後ろを歩く騎士をふりかえった。
「プッ」
夜目にもイケメンだとわかる騎士は、一瞬吹き出しそうになっていたが、すぐに低い声で否定する。
「亡霊だんなんて。
とんでもございません」
そう言うと口をひき結ぶ。
それからは二人とも沈黙したする。
カツカツという騎士の靴音だけが、いやに大きく廊下に響く。
数分後位して、お母様の私室の前に到着した。
「ローズウッド王女様。
では私はここで失礼いたします」
先ほどの騎士は胸に手をあてて礼をし、来た道を帰ってゆく。
「王女様。女王様がお待ちでございます」
今度はお母様の扉の前に控えていた、これまたイケメン騎士が丁寧に頭を下げる。
自分の親だもん。
本当はもっと気楽に会いにいきたい。
けどこれが王族なのね。
そう思った時、重厚な扉がおもむろに開かれた。
「いらっしゃい。ローズウッド。
今夜はね。
あなたにブーニャンの秘密をあかそうと思ってます」
ゆったりとした部屋着に着替えたお母様が柔和に微笑みながら、こちらへ向かってきた。
ブーニャンの秘密?
黒い魔法の秘密じゃなくて。
よくわからないけれど、お母様とブーニャンはどうやら私に何か隠しているみたい。
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