お飾り王妃のはずなのに、黒い魔法を使ったら溺愛されてます

りんりん

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二十八、魔道具のオルゴール

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「お招きありがとうございます」

ドレスのスカートをつまみ、大げさなカーテシーをとる。

「そうやっていると、幼いころダリアと王女ごっこをしていたのを思い出すわ。
二人とも本物の王女なのに、王女ごっこだなんて。
ずいぶん笑わせてもらったわ」

「私は何も覚えてないけれど、それは面白いわね」

そう言いながら、お母様に視線で指示されたテーブルへつく。

金箔に縁取られた猫足の丸テーブルは、一目で高級品だとわかる。

「ついこないだまで子供だと思っていたのに、大きくなったわね」

私の真向かいに座ったお母様は両手で、テーブルの上に置いていた私の手を包みこんだ。 

すんなりと伸びた指。

ふんわりとした白い手は、ほのかに温かい。

「今夜は女官達も下がらせているの」 

お母様はそう言いながら、テーブルの上にあるお洒落な形のガラス瓶の蓋をあける。

とたんに芳醇な果実のような香りがたつ。

「これはね。レオ王様からいただいたのよ。
王室専用の果樹園になる葡萄でつくったお酒ですって」

お母様がそう言いながら、用意されていたグラスにとろりとした飲み物を注いでゆく。

「とても華やかな香りね。
あの方はお元気でしたか」

「あなたをとても恋しがっていたわ。
王様は明日にでも、婚礼をあげたいご様子だったけど、結局日取りは今日から二週間後に決まりました。
十日後にストーン国からお迎えの馬車がくる手筈です」

お母様はサラリと報告すると、グラスに口をつけ目を細めている。

「やはりひと味違うわね。
これは市場にだしてないそうだけど、これからは毎年贈っていただけることになったの。
クールに見えるけど、案外あの王様はいい人なのね。
ストーン国内も非常に落ちついて見えたわ。
ローズは何も心配することはありません」

薔薇色に頬を染めたお母様は、はやいピッチで杯を重ねてゆく。

日頃の重責から解放されて、実に気分がよさそうだ。

そこにはしっかり者の女王の面影はまったくない。

「いくらなんでも二週間後は急すぎでしょ。
こんな葡萄酒なんかで、懐柔されるなんてどうかしてる」

ドンとテーブルを叩いて立ち上がった。

「あちらはね。
支度なんかしなくていい。
ローズの身一つでいいって、おっしゃってくれてるのよ。
ありがたいじゃないの。
わたくしはね。 
心から喜しいのです。
ローズを、あんなに思ってくれる王様がいたのを」

少し酔っているようなお母様の瞳は、うっすらと濡れている。

「しかたないわね。
それなら本当に身体一つで嫁がせてもらいますからね」

「けどね。先祖代々伝わるお道具だけは持参してね。
ローズにはね。オルゴールをあげましょう」

ポプリ国には王女が嫁ぐとき、王家所有の魔道具を一つ授けるしきたりがある。

「それにはどんな魔力があるの?」

「残念ながら、それは教えてあげられないルールになっているの。
必要な時がくれば、おのずとわかります」

母様は意味深な言葉を発すると、立ち上がりクローゼットの扉をあけた。

「ローズに手渡すのはまだまだ先のことだと思っていたのに、こんなにはやく出番がくるなんて意外だったわ」 

しばらくクローゼットの中を眺めていたお母様は、少し淋しげに呟く。

「なんだか少し眠たくなったわ。
ローズ。
あとはベッドで休みながら、お話ししまりょう」

白い小さな箱を手にするとお母様は、こちらに目配せする。

「いいけど、すぐに眠ったりしないでくださいよ。
酔っ払いの女王様」

笑いながら、四隅に金色の龍の飾りが施されている豪華な天蓋付きベッドにもぐりこむ。

「まあ。こういう時だけ早いのね」

隣に横になったお母様が目を細める。

「だって、はやく見たいもの。
私のオルゴールを」

王女といえども、貴重な魔道具を触らせてもらえる機会はほとんどなかった。

何かの展示のさいに、遠目から目にする位だ。

「せっかちね。誰に似たのかしら」

お母様はそう言うと、オルゴールの蓋をパチンと開けた。

その時、一瞬ポロポロポロンと金属的な音が鳴る。

けど、何も変わった様子はない。

「お母様。これって本当に魔道具なの?」

「ええ。わたくしがね。
ここにあなたの魔力を封じているのよ」

お母様は、蓋の裏にはられた赤いハートの飾りをそっとなでる。

私の魔力ですって。

呼吸をするのが苦しくなるほど驚いた。
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