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三十七、オニキス女官オニキス視点4
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「その願いとはなんですか」
馬車の入り口が目映く輝いたと思ったら、王様が乗り込んできた。
やば。さっきのを聞かれていたみたいだ。
「実はあたい、すでに両親を失っていて農園で働いているんだ」
と言ってから、とっさに両手で口をふさぐ。
「すいません。
あたいったら、王様にため口をきいてしまって」
この国の者なら、王様の名前は誰でも知っている。
レオ王。
レオ王の両親、つまり前王様とお妃様は突然馬車の事故で亡くなった。
それで若くして王となった男としても有名だ。
けれど、そのお顔をはっきりと知っている平民はいない。
もちろんあたいも。
そんな神様みたいな存在なのにレオ王は、あたいなんかにも温かく接してくれた。
それでつい調子にのってしまったんだ。
「でも、その身体で農園仕事は無理だろうな」
「はい」
「もしあなたが嫌でなかったら、王宮で女官として働いてもらいたいのだか。
どうだろうか」
「あたいが。王宮の女官にだって!」
思いがけない提案に目を丸くする。
いくら王様があたいに罪悪感を感じているとはいえ、こんなことってあるのだろうか。
「でも、あたいは貧乏平民だから王宮の皆とうまくやっていけないよ。
王宮内には難しいマナーが、いっぱいありそうだし」
ガクリと肩を落としてうつむく。
その時、偶然視界に入ったあたいの手首のアザが青白く発光した。
妖しい光を眺めていると、不思議と力がわいてくる。
せっかくのチャンスだ。
何をとまどっているんだよ。
自分で自分を鼓舞した時だった。
「そんなに不安なら、私の専属女官として働いたらどうだろうか。
そうすれば、他の者とのつきあいも減る。
マナーなどは、ゆっくりと覚えてゆけばいいだろう」
王様は真剣な眼差しをむけてくるのだ。
「ひぇええ。王様の専属女官だなんて、めっそうもない」
動揺して椅子から落ちそうになる。
「そんなに優しくされると、泣いちゃうじゃないか」
まるで子供のようにあふれてくる涙を、腕でぬぐう。
「王宮にいても色々とある。
日頃の憂さ晴らしに、王宮を抜けだし馬を走らせた私がおこした事故で、あなたの人生を狂わせた。
そのぐらい当然だろう」
当然なもんか。
お金を投げつけて、チャラにする人間だってたくさんいるはずだ。
レオ王は美しく、心根の真っ直ぐな人なのだろう。
こんな人めったにいないよ。
そう思ったとたん、ドクンと心臓が跳ねた。
ひょっとしたら、あたいは王様の心を一瞬でつかんだりして。
馬鹿。なに言ってるんだよ。
けど、このチャンスにかけてみよう。
「そこまで言ってもらえるなら、よろしくお願いするよ。
じゃないね。お願いします」
ドギマギしながらそう言うと、王様は楽しそうな笑い声をあげてうなずいた。
「あたいは王様のおかげで、傷物になっちまったんだ。
きっと結婚もできない。
だから王様も、絶対結婚なんてしちゃ駄目だよ。
本当に、あたいに悪いと思ってるんだったらね」
「それは約束できないな。
王にとっては、結婚も仕事だからだ」
「政略結婚ってやつだね。
じゃあ、結婚しても王妃様を愛しちゃ駄目だよ。
もし、王様が王妃様を愛したら、その瞬間王妃様は死ぬからね。
たった今、あたいが呪いをかけたんだ」
あたいの身体の中に潜んでいる誰かが、こんなセリフをはかせたような気がする。
無意識に口が動いたんだもん。
なんて言うのは、勝手な言い訳だろうか。
「ハハハ。
これは怖ろしいな。
なら。約束しよう。
私は妻を絶対愛さない」
王様は頬をほころばせて、小指をあたいの目の前にさしだした。
「え、でも」
さすがにとまどっていると、王様が悪戯っぽい視線でせかしてくる。
しかたなく、王様のしなやかな小指にあたいの小指をからめた。
「これで約束成立だな」
レオ王は子供っぽく笑う。
あの時、あたいは王様に本気で恋した。
女官のままでもいい。
ずーと王様のお側にいたかった。
だから、王様の拾ってきたドブネズミと陰口をたたかれようが、歯をくいしばり王宮のマナーを身につけた。
話し方、立たずまい、教養、どれも大変だったけど必死で勉強したのだ。
けど、目の前のこの女は生まれた瞬間にすべてを手にしていた。
その女の名はローズウッドだ。
「あなととも、以前どこかでお会いしたことがあったかしら」
ローズウッド王女は優しい声でそう言うと、ぎこちない笑顔をうかべている。
「いえ」
短く冷たい返事をかえす。
胸に渦巻く嫉妬をどうにか抑えながら。
馬車の入り口が目映く輝いたと思ったら、王様が乗り込んできた。
やば。さっきのを聞かれていたみたいだ。
「実はあたい、すでに両親を失っていて農園で働いているんだ」
と言ってから、とっさに両手で口をふさぐ。
「すいません。
あたいったら、王様にため口をきいてしまって」
この国の者なら、王様の名前は誰でも知っている。
レオ王。
レオ王の両親、つまり前王様とお妃様は突然馬車の事故で亡くなった。
それで若くして王となった男としても有名だ。
けれど、そのお顔をはっきりと知っている平民はいない。
もちろんあたいも。
そんな神様みたいな存在なのにレオ王は、あたいなんかにも温かく接してくれた。
それでつい調子にのってしまったんだ。
「でも、その身体で農園仕事は無理だろうな」
「はい」
「もしあなたが嫌でなかったら、王宮で女官として働いてもらいたいのだか。
どうだろうか」
「あたいが。王宮の女官にだって!」
思いがけない提案に目を丸くする。
いくら王様があたいに罪悪感を感じているとはいえ、こんなことってあるのだろうか。
「でも、あたいは貧乏平民だから王宮の皆とうまくやっていけないよ。
王宮内には難しいマナーが、いっぱいありそうだし」
ガクリと肩を落としてうつむく。
その時、偶然視界に入ったあたいの手首のアザが青白く発光した。
妖しい光を眺めていると、不思議と力がわいてくる。
せっかくのチャンスだ。
何をとまどっているんだよ。
自分で自分を鼓舞した時だった。
「そんなに不安なら、私の専属女官として働いたらどうだろうか。
そうすれば、他の者とのつきあいも減る。
マナーなどは、ゆっくりと覚えてゆけばいいだろう」
王様は真剣な眼差しをむけてくるのだ。
「ひぇええ。王様の専属女官だなんて、めっそうもない」
動揺して椅子から落ちそうになる。
「そんなに優しくされると、泣いちゃうじゃないか」
まるで子供のようにあふれてくる涙を、腕でぬぐう。
「王宮にいても色々とある。
日頃の憂さ晴らしに、王宮を抜けだし馬を走らせた私がおこした事故で、あなたの人生を狂わせた。
そのぐらい当然だろう」
当然なもんか。
お金を投げつけて、チャラにする人間だってたくさんいるはずだ。
レオ王は美しく、心根の真っ直ぐな人なのだろう。
こんな人めったにいないよ。
そう思ったとたん、ドクンと心臓が跳ねた。
ひょっとしたら、あたいは王様の心を一瞬でつかんだりして。
馬鹿。なに言ってるんだよ。
けど、このチャンスにかけてみよう。
「そこまで言ってもらえるなら、よろしくお願いするよ。
じゃないね。お願いします」
ドギマギしながらそう言うと、王様は楽しそうな笑い声をあげてうなずいた。
「あたいは王様のおかげで、傷物になっちまったんだ。
きっと結婚もできない。
だから王様も、絶対結婚なんてしちゃ駄目だよ。
本当に、あたいに悪いと思ってるんだったらね」
「それは約束できないな。
王にとっては、結婚も仕事だからだ」
「政略結婚ってやつだね。
じゃあ、結婚しても王妃様を愛しちゃ駄目だよ。
もし、王様が王妃様を愛したら、その瞬間王妃様は死ぬからね。
たった今、あたいが呪いをかけたんだ」
あたいの身体の中に潜んでいる誰かが、こんなセリフをはかせたような気がする。
無意識に口が動いたんだもん。
なんて言うのは、勝手な言い訳だろうか。
「ハハハ。
これは怖ろしいな。
なら。約束しよう。
私は妻を絶対愛さない」
王様は頬をほころばせて、小指をあたいの目の前にさしだした。
「え、でも」
さすがにとまどっていると、王様が悪戯っぽい視線でせかしてくる。
しかたなく、王様のしなやかな小指にあたいの小指をからめた。
「これで約束成立だな」
レオ王は子供っぽく笑う。
あの時、あたいは王様に本気で恋した。
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ずーと王様のお側にいたかった。
だから、王様の拾ってきたドブネズミと陰口をたたかれようが、歯をくいしばり王宮のマナーを身につけた。
話し方、立たずまい、教養、どれも大変だったけど必死で勉強したのだ。
けど、目の前のこの女は生まれた瞬間にすべてを手にしていた。
その女の名はローズウッドだ。
「あなととも、以前どこかでお会いしたことがあったかしら」
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