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四十、お茶しましょ
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「ブーニャン。
着いたそうそう、一体どこで油を売ってたのよ。
心配してたんだら」
ストーン国へ到着するなり、馬車から勝手に飛び出していった気ままな猫に眉をひそめる。
「無事ブーニャンも戻ったことだし、まずはお茶でも飲みませんか」
「大賛成よ」
グラスにニッコリ微笑み、部屋の中心に置かれた丸テーブルへ着く。
真っ白なテーブルとお揃いの真っ白な椅子は、身体に沿うように設計されていて座りごごちが最高だった。
テーブルの上には花瓶が一つ。
花瓶の中では、華やかな薔薇が美しさを競っている。
「生きたお花は特にいいわね」
しみじみと花々を眺めていると、花瓶の下に置かれている小さな封筒に気がついた。
「誰からかしら」
封筒にソッと手をのばす。
封筒は一見して上質な紙でできていた。
こんな高級品を無造作に使える人は、限定されている。
「きっとレオ王様からよ」
「あまり期待しない方がいいわよ。
ひょっとしたらさっきの女官からかもよ。
だとしたら、手紙の内容はローズへの嫌味ばかりね」
「ブーニャン。
まだよくわからない人の悪口を言うものじゃないわ」
「いいえ。私にはわかるの。
あの女は普通の人間じゃない。
さっきすれ違ったんだけど、あの女からは人外のにおいがしたもの」
ブーニャンが鋭く瞳を光らせる。
「人外のにおいって、何かが腐ったようなにおいのことを言っているの?」
「そうよ。ひょっとしてローズも感じていたの?」
「ええ」
「ローズ。やはり彼女には注意が必要ね」
ブーニャンがコロコロと喉をならした。
「ローズ様。
猫ちゃんとのお喋りはそれ位にして、はやく手紙を読んで下さいよ」
ブーニャンの言葉を理解しないグラスが、じれたように言う。
「わかったわ」
封筒からすかし模様の入った便箋を取り出して、まずは目で読む。
とたんに頬がゆるんできてしまう。
「やはり王様からですね。
ローズ様の顔を見ればすぐにわかります。
で、王様はなんて言ってるんです」
グラスが冷やかすような目をして笑っている。
「たいしたことは書いてないわ。
特製のクッキーを用意しているから、召し上がってくれだって」
「きっとこれのことですよ。
箱の中から、とても甘い香りが漂ってきてます」
グラスが花瓶の横にあるリボンのかけられた箱を手にする。
「ローズ様は本当に愛されているんですね。
他に何も書かれてなかったんですか」
恋バナが大好きなグラスが、期待をこめた瞳でたずねてきた。
「そりゃあ。あるわよ」
コホンと小さく咳払いをして、頬を赤らめる。
「やっぱりですか。
で、なんて書かれてたんですか。
私にだけこっそり教えて下さいな」
「いくらグラスでも嫌よ」
「そう言われると、ますます聞きたくなります」
グラスがぐいと大きな身体を近寄せてくる。
「だめだったら」
グラスに奪われまいと、手紙を手にした方の腕を高くかかげた時だった。
空中に黒い影が走る。
「なら私ならいいでしょ」
気がつけばブーニャンが口に手紙を加えていた。
「こらブーニャン」
「私達は運命共同体なのよ。
秘密はなしよ。
それにたいしたこと書いてないじゃないの」
勝手に手紙の内容を確認したブーニャンは、がっかりしたようだ。
「そうよ。
『ローズウッド王女へ
今日、時間をつくって会いにゆく』
それだけだもの。
わかったでしょグラス」
糖度低めの言葉だけど、そっと胸に秘めたかったのを暴露されたのだ。
不機嫌に口をすぼめた。
「はい。
とても素敵な愛の言葉のおっそわけ、ありがとうございます。
たいへん。今日、王様がこられるのですね」
とたんにウキウキしたグラスが、テキパキとお茶の用意を始めてくれた。
「うん。やはりオウギのお茶はいやされるわ」
琥珀色の液体が入ったカップに口をつけた時だ。
コツ、コツ、コツ。
部屋の扉が叩かれる。
さっそく王様がいらっしゃったのかしら。
着いたそうそう、一体どこで油を売ってたのよ。
心配してたんだら」
ストーン国へ到着するなり、馬車から勝手に飛び出していった気ままな猫に眉をひそめる。
「無事ブーニャンも戻ったことだし、まずはお茶でも飲みませんか」
「大賛成よ」
グラスにニッコリ微笑み、部屋の中心に置かれた丸テーブルへ着く。
真っ白なテーブルとお揃いの真っ白な椅子は、身体に沿うように設計されていて座りごごちが最高だった。
テーブルの上には花瓶が一つ。
花瓶の中では、華やかな薔薇が美しさを競っている。
「生きたお花は特にいいわね」
しみじみと花々を眺めていると、花瓶の下に置かれている小さな封筒に気がついた。
「誰からかしら」
封筒にソッと手をのばす。
封筒は一見して上質な紙でできていた。
こんな高級品を無造作に使える人は、限定されている。
「きっとレオ王様からよ」
「あまり期待しない方がいいわよ。
ひょっとしたらさっきの女官からかもよ。
だとしたら、手紙の内容はローズへの嫌味ばかりね」
「ブーニャン。
まだよくわからない人の悪口を言うものじゃないわ」
「いいえ。私にはわかるの。
あの女は普通の人間じゃない。
さっきすれ違ったんだけど、あの女からは人外のにおいがしたもの」
ブーニャンが鋭く瞳を光らせる。
「人外のにおいって、何かが腐ったようなにおいのことを言っているの?」
「そうよ。ひょっとしてローズも感じていたの?」
「ええ」
「ローズ。やはり彼女には注意が必要ね」
ブーニャンがコロコロと喉をならした。
「ローズ様。
猫ちゃんとのお喋りはそれ位にして、はやく手紙を読んで下さいよ」
ブーニャンの言葉を理解しないグラスが、じれたように言う。
「わかったわ」
封筒からすかし模様の入った便箋を取り出して、まずは目で読む。
とたんに頬がゆるんできてしまう。
「やはり王様からですね。
ローズ様の顔を見ればすぐにわかります。
で、王様はなんて言ってるんです」
グラスが冷やかすような目をして笑っている。
「たいしたことは書いてないわ。
特製のクッキーを用意しているから、召し上がってくれだって」
「きっとこれのことですよ。
箱の中から、とても甘い香りが漂ってきてます」
グラスが花瓶の横にあるリボンのかけられた箱を手にする。
「ローズ様は本当に愛されているんですね。
他に何も書かれてなかったんですか」
恋バナが大好きなグラスが、期待をこめた瞳でたずねてきた。
「そりゃあ。あるわよ」
コホンと小さく咳払いをして、頬を赤らめる。
「やっぱりですか。
で、なんて書かれてたんですか。
私にだけこっそり教えて下さいな」
「いくらグラスでも嫌よ」
「そう言われると、ますます聞きたくなります」
グラスがぐいと大きな身体を近寄せてくる。
「だめだったら」
グラスに奪われまいと、手紙を手にした方の腕を高くかかげた時だった。
空中に黒い影が走る。
「なら私ならいいでしょ」
気がつけばブーニャンが口に手紙を加えていた。
「こらブーニャン」
「私達は運命共同体なのよ。
秘密はなしよ。
それにたいしたこと書いてないじゃないの」
勝手に手紙の内容を確認したブーニャンは、がっかりしたようだ。
「そうよ。
『ローズウッド王女へ
今日、時間をつくって会いにゆく』
それだけだもの。
わかったでしょグラス」
糖度低めの言葉だけど、そっと胸に秘めたかったのを暴露されたのだ。
不機嫌に口をすぼめた。
「はい。
とても素敵な愛の言葉のおっそわけ、ありがとうございます。
たいへん。今日、王様がこられるのですね」
とたんにウキウキしたグラスが、テキパキとお茶の用意を始めてくれた。
「うん。やはりオウギのお茶はいやされるわ」
琥珀色の液体が入ったカップに口をつけた時だ。
コツ、コツ、コツ。
部屋の扉が叩かれる。
さっそく王様がいらっしゃったのかしら。
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