59 / 61
5章 どうやら、可愛いは無敵じゃなかったようね
8、数年後のお父様
しおりを挟む
創立以来、「オリビアクローゼット」は驚異の業績をあげている。
その勢いにのり、ブラウニー王国にも支店をオープンすることとなった。
「オリビア。寒いだろう。ほらひざ掛けをあげよう」
「オリビア。喉が渇いただろう。ここにオレンジジュースを用意している」
私とアランは開店準備の為に馬車でブラウニーへ向かっているのだが、隣に座るアランがずーと構ってくる。
「私は子供じゃないんだから、寒かったり喉が渇いたりしたら自分でなんとかできるのよ。
あまり心配しないで欲しいの」
「いやだ。
僕はもっとオリビアに構いたいんだ。
お互い仕事が忙しくて、最近2人っきりになってないだろう。
だから喜しくてしかたないんだ」
私の肩を抱くと、アランは耳元にキスを落とす。
「愛しているよ。オリビア」
「もう。アランったらこんな所で……」
「いいじゃないか。
ここには僕達しかいないのだから」
「違うわ。
シロ達がいるもわ」
私は向かいの席にチョコンと座るシロとペコに視線を移した。
丸い目をした小型犬のペコは新しく発売するワンコ用服のモデルなのだけど、いつのまにかシロといい仲になっている。
アツアツの2匹はピッタリと身体を密着させて幸せそうだ。
「大丈夫だ。
すっかり自分達の世界に浸っていいるシロらに、僕達なんか見えてないだろう」
「そうかしら?」
「そうだって。
だから僕達もシロ達に負けずに愛しあおう」
アランの綺麗な顔がだんだんとこちらに接近してくるので、ギュツと目を閉じた時だった。
ガタン、ガタガタと荒々しい音をあげて馬車が突然停止したのは。
「ぺぺの所へ到着したのね?」
支店に行く前にぺぺの施設に寄るつもりだったので、御者に声をかけて確認してみる。
「いえ。いきなり男が道に飛び出してきたんです。
奥様。驚かせて申し訳ありません」
「そうなのね。
アナタが謝ることないのよ。
で、その男の人は大丈夫なのかしら」
「はい。たぶん大丈夫だと思います」
「たぶん、じゃダメよ。
念のため私が確認してみるわね」
「オリビア。
それは危ないからやめた方がいい。
わざと馬車の前に飛び出して、小金をせびろうとする輩かもしれないし。
どうしてもと言うなら、代わりに僕が行くよ」
「大丈夫よ。
さっきも言ったはずよ。
私は子供じゃないって」
アランの手をふりほどいて馬車の外へおりていくと、ふらつきながら立ち上がる老人に声をかけた。
「おケガはありませんか?」
「こんな私を心配してくれるなんて、ありがたいわい。
ゴホ、ゴホゴホ。
大丈夫、ワシはケガなんぞしてない。
ふらついているのは腹ペコのせいだ。
昨日から、水しか飲んでないんでのう」
何度も咳をしながら男はしゃがれて声をだす。
ボロボロの服を着た老人の顔は無精ひげで隠れてはっきりとわからなかったが、なんとなく見覚えがあるような気がする。
「ひょっとして、以前どこかで会った事があるかしら?」
声をかけた時だった。
「おい。ジイさん。
博打で負けた分はちゃんと払いなよ」
大男が現れて、老人になぐりかかろうとしたのは。
「博打ですって」
その言葉を聞いた瞬間、脳裏にお父様の顔が再生された。
そう。
目の前にいる薄汚い老人は私のお父様だったのだ。
「やめて下さい。
この人は私のお父様なのです。
借りていたお金なら私が払いますから、サッサと立ち去りなさい!」
懐から札束をだして啖呵をきる。
「これだけあれば十分だ。
しっかし、顔に似合わず気の強い女だな」
急いで札束をポケットにネジこむと大男はご機嫌で去ってゆく。
「お父様は相変わらずなのね。
元公爵ともあろうお方が情けないです」
「お父様?元公爵?
何を言っとる。ゴホゴホ。
ワシには娘もいないし、貴族だった覚えもない」
キョトンとするお父様を見てアランが呟く。
「オリビア。お父様は記憶をなくしているんじゃないか」
と。
それからお父様はぺぺの救貧院でお世話になっていたが、数日後には病死したのだ。
死因は肺病だった。
「ネーネという妻とマリーという娘はどうしていますか?」
「アイツに家族なんかいたんですかい?
オレと出会った時は『結婚なんかした事がない』って、言ってましたがね」
お葬式にやってきた友達は私の質問に不思議そうな顔をする。
「すでにその時から記憶をなくしていたのかしら?」
「だろうな。
どこかで悪さをして、頭をぶったたかれて記憶をとばしてしまった、てとこでしょーかね。
オレ達の間では珍しくもない話だぜ」
男はそう言うと「ククク」と声を押し殺して笑った。
お父様はジョイ王子が即位した時、恩赦をうけて鉱山労働から解放されたはずだけど、結局はそういう生き方しかできなかったのね。
その勢いにのり、ブラウニー王国にも支店をオープンすることとなった。
「オリビア。寒いだろう。ほらひざ掛けをあげよう」
「オリビア。喉が渇いただろう。ここにオレンジジュースを用意している」
私とアランは開店準備の為に馬車でブラウニーへ向かっているのだが、隣に座るアランがずーと構ってくる。
「私は子供じゃないんだから、寒かったり喉が渇いたりしたら自分でなんとかできるのよ。
あまり心配しないで欲しいの」
「いやだ。
僕はもっとオリビアに構いたいんだ。
お互い仕事が忙しくて、最近2人っきりになってないだろう。
だから喜しくてしかたないんだ」
私の肩を抱くと、アランは耳元にキスを落とす。
「愛しているよ。オリビア」
「もう。アランったらこんな所で……」
「いいじゃないか。
ここには僕達しかいないのだから」
「違うわ。
シロ達がいるもわ」
私は向かいの席にチョコンと座るシロとペコに視線を移した。
丸い目をした小型犬のペコは新しく発売するワンコ用服のモデルなのだけど、いつのまにかシロといい仲になっている。
アツアツの2匹はピッタリと身体を密着させて幸せそうだ。
「大丈夫だ。
すっかり自分達の世界に浸っていいるシロらに、僕達なんか見えてないだろう」
「そうかしら?」
「そうだって。
だから僕達もシロ達に負けずに愛しあおう」
アランの綺麗な顔がだんだんとこちらに接近してくるので、ギュツと目を閉じた時だった。
ガタン、ガタガタと荒々しい音をあげて馬車が突然停止したのは。
「ぺぺの所へ到着したのね?」
支店に行く前にぺぺの施設に寄るつもりだったので、御者に声をかけて確認してみる。
「いえ。いきなり男が道に飛び出してきたんです。
奥様。驚かせて申し訳ありません」
「そうなのね。
アナタが謝ることないのよ。
で、その男の人は大丈夫なのかしら」
「はい。たぶん大丈夫だと思います」
「たぶん、じゃダメよ。
念のため私が確認してみるわね」
「オリビア。
それは危ないからやめた方がいい。
わざと馬車の前に飛び出して、小金をせびろうとする輩かもしれないし。
どうしてもと言うなら、代わりに僕が行くよ」
「大丈夫よ。
さっきも言ったはずよ。
私は子供じゃないって」
アランの手をふりほどいて馬車の外へおりていくと、ふらつきながら立ち上がる老人に声をかけた。
「おケガはありませんか?」
「こんな私を心配してくれるなんて、ありがたいわい。
ゴホ、ゴホゴホ。
大丈夫、ワシはケガなんぞしてない。
ふらついているのは腹ペコのせいだ。
昨日から、水しか飲んでないんでのう」
何度も咳をしながら男はしゃがれて声をだす。
ボロボロの服を着た老人の顔は無精ひげで隠れてはっきりとわからなかったが、なんとなく見覚えがあるような気がする。
「ひょっとして、以前どこかで会った事があるかしら?」
声をかけた時だった。
「おい。ジイさん。
博打で負けた分はちゃんと払いなよ」
大男が現れて、老人になぐりかかろうとしたのは。
「博打ですって」
その言葉を聞いた瞬間、脳裏にお父様の顔が再生された。
そう。
目の前にいる薄汚い老人は私のお父様だったのだ。
「やめて下さい。
この人は私のお父様なのです。
借りていたお金なら私が払いますから、サッサと立ち去りなさい!」
懐から札束をだして啖呵をきる。
「これだけあれば十分だ。
しっかし、顔に似合わず気の強い女だな」
急いで札束をポケットにネジこむと大男はご機嫌で去ってゆく。
「お父様は相変わらずなのね。
元公爵ともあろうお方が情けないです」
「お父様?元公爵?
何を言っとる。ゴホゴホ。
ワシには娘もいないし、貴族だった覚えもない」
キョトンとするお父様を見てアランが呟く。
「オリビア。お父様は記憶をなくしているんじゃないか」
と。
それからお父様はぺぺの救貧院でお世話になっていたが、数日後には病死したのだ。
死因は肺病だった。
「ネーネという妻とマリーという娘はどうしていますか?」
「アイツに家族なんかいたんですかい?
オレと出会った時は『結婚なんかした事がない』って、言ってましたがね」
お葬式にやってきた友達は私の質問に不思議そうな顔をする。
「すでにその時から記憶をなくしていたのかしら?」
「だろうな。
どこかで悪さをして、頭をぶったたかれて記憶をとばしてしまった、てとこでしょーかね。
オレ達の間では珍しくもない話だぜ」
男はそう言うと「ククク」と声を押し殺して笑った。
お父様はジョイ王子が即位した時、恩赦をうけて鉱山労働から解放されたはずだけど、結局はそういう生き方しかできなかったのね。
143
あなたにおすすめの小説
矢車菊の花咲く丘で
六道イオリ/剣崎月
ファンタジー
ある日カサンドラは
墓地で怪我をした老人と見知らぬ男に遭遇した
その老人から行方不明になった娘を探して欲しいと頼まれる
行方不明になった娘の行方を
墓地で会った見知らぬ男ことトリスタンを手下に加え娘の行方を追うことに――
「そんなこともあったわね」
「はいはい、ありましたね、姫さま」
二人は小高い丘から青い花が咲く平原を眺める
※重複投稿※
おっさん武闘家、幼女の教え子達と十年後に再会、実はそれぞれ炎・氷・雷の精霊の王女だった彼女達に言い寄られつつ世界を救い英雄になってしまう
お餅ミトコンドリア
ファンタジー
パーチ、三十五歳。五歳の時から三十年間修行してきた武闘家。
だが、全くの無名。
彼は、とある村で武闘家の道場を経営しており、〝拳を使った戦い方〟を弟子たちに教えている。
若い時には「冒険者になって、有名になるんだ!」などと大きな夢を持っていたものだが、自分の道場に来る若者たちが全員〝天才〟で、自分との才能の差を感じて、もう諦めてしまった。
弟子たちとの、のんびりとした穏やかな日々。
独身の彼は、そんな彼ら彼女らのことを〝家族〟のように感じており、「こんな毎日も悪くない」と思っていた。
が、ある日。
「お久しぶりです、師匠!」
絶世の美少女が家を訪れた。
彼女は、十年前に、他の二人の幼い少女と一緒に山の中で獣(とパーチは思い込んでいるが、実はモンスター)に襲われていたところをパーチが助けて、その場で数時間ほど稽古をつけて、自分たちだけで戦える力をつけさせた、という女の子だった。
「私は今、アイスブラット王国の〝守護精霊〟をやっていまして」
精霊を自称する彼女は、「ちょ、ちょっと待ってくれ」と混乱するパーチに構わず、ニッコリ笑いながら畳み掛ける。
「そこで師匠には、私たちと一緒に〝魔王〟を倒して欲しいんです!」
これは、〝弟子たちがあっと言う間に強くなるのは、師匠である自分の特殊な力ゆえ〟であることに気付かず、〝実は最強の実力を持っている〟ことにも全く気付いていない男が、〝実は精霊だった美少女たち〟と再会し、言い寄られ、弟子たちに愛され、弟子以外の者たちからも尊敬され、世界を救って英雄になってしまう物語。
(※第18回ファンタジー小説大賞に参加しています。
もし宜しければ【お気に入り登録】で応援して頂けましたら嬉しいです!
何卒宜しくお願いいたします!)
報われなかった姫君に、弔いの白い薔薇の花束を
さくたろう
恋愛
その国の王妃を決める舞踏会に招かれたロザリー・ベルトレードは、自分が当時の王子、そうして現王アルフォンスの婚約者であり、不遇の死を遂げた姫オフィーリアであったという前世を思い出す。
少しずつ蘇るオフィーリアの記憶に翻弄されながらも、17年前から今世まで続く因縁に、ロザリーは絡め取られていく。一方でアルフォンスもロザリーの存在から目が離せなくなり、やがて二人は再び惹かれ合うようになるが――。
20話です。小説家になろう様でも公開中です。
婚約者はメイドに一目惚れしたようです~悪役になる決意をしたら幼馴染に異変アリ~
たんぽぽ
恋愛
両家の話し合いは円満に終わり、酒を交わし互いの家の繁栄を祈ろうとしていた矢先の出来事。
酒を運んできたメイドを見て小さく息を飲んだのは、たった今婚約が決まった男。
不運なことに、婚約者が一目惚れする瞬間を見てしまったカーテルチアはある日、幼馴染に「わたくし、立派な悪役になります」と宣言した。
【完結】婚約者?勘違いも程々にして下さいませ
リリス
恋愛
公爵令嬢ヤスミーンには侯爵家三男のエグモントと言う婚約者がいた。
先日不慮の事故によりヤスミーンの両親が他界し女公爵として相続を前にエグモントと結婚式を三ヶ月後に控え前倒しで共に住む事となる。
エグモントが公爵家へ引越しした当日何故か彼の隣で、彼の腕に絡みつく様に引っ付いている女が一匹?
「僕の幼馴染で従妹なんだ。身体も弱くて余り外にも出られないんだ。今度僕が公爵になるって言えばね、是が非とも住んでいる所を見てみたいって言うから連れてきたんだよ。いいよねヤスミーンは僕の妻で公爵夫人なのだもん。公爵夫人ともなれば心は海の様に広い人でなければいけないよ」
はて、そこでヤスミーンは思案する。
何時から私が公爵夫人でエグモンドが公爵なのだろうかと。
また病気がちと言う従妹はヤスミーンの許可も取らず堂々と公爵邸で好き勝手に暮らし始める。
最初の間ヤスミーンは静かにその様子を見守っていた。
するとある変化が……。
ゆるふわ設定ざまああり?です。
【完結】気味が悪い子、と呼ばれた私が嫁ぐ事になりまして
まりぃべる
恋愛
フレイチェ=ボーハールツは両親から気味悪い子、と言われ住まいも別々だ。
それは世間一般の方々とは違う、畏怖なる力を持っているから。だが両親はそんなフレイチェを避け、会えば酷い言葉を浴びせる。
そんなフレイチェが、結婚してお相手の方の侯爵家のゴタゴタを収めるお手伝いをし、幸せを掴むそんなお話です。
☆まりぃべるの世界観です。現実世界とは似ていますが違う場合が多々あります。その辺りよろしくお願い致します。
☆現実世界にも似たような名前、場所、などがありますが全く関係ありません。
☆現実にはない言葉(単語)を何となく意味の分かる感じで作り出している場合もあります。
☆楽しんでいただけると幸いです。
☆すみません、ショートショートになっていたので、短編に直しました。
☆すみません読者様よりご指摘頂きまして少し変更した箇所があります。
話がややこしかったかと思います。教えて下さった方本当にありがとうございました!
【完結】婚約破棄はお受けいたしましょう~踏みにじられた恋を抱えて
ゆうぎり
恋愛
「この子がクラーラの婚約者になるんだよ」
お父様に連れられたお茶会で私は一つ年上のナディオ様に恋をした。
綺麗なお顔のナディオ様。優しく笑うナディオ様。
今はもう、私に微笑みかける事はありません。
貴方の笑顔は別の方のもの。
私には忌々しげな顔で、視線を向けても貰えません。
私は厭われ者の婚約者。社交界では評判ですよね。
ねぇナディオ様、恋は花と同じだと思いませんか?
―――水をやらなければ枯れてしまうのですよ。
※ゆるゆる設定です。
※名前変更しました。元「踏みにじられた恋ならば、婚約破棄はお受けいたしましょう」
※多分誰かの視点から見たらハッピーエンド
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる