Gate of World―開拓地物語―

三浦常春

文字の大きさ
42 / 62
5章 忘れられた国

42話 戦争ってこと?

しおりを挟む
「話は聞きました。あれで終わりではなかったとは」

 救援依頼を出した翌日、ジビナガシープを駆ってやって来たのは男だった。

 サミュエルが村を襲撃した時、たまたま近くを通り掛かったキャラバンの長、マルケン巡査部長。奇抜な名を冠した彼は、積み荷もそこそこに、護衛を二人付けただけの身軽さでせ参じたようだ。

「AIを甘く見ていたな……うーん、悔しい」

「私も予想外です、村人があのような行動に出るなど。事件が解決し次第、運営にも報告します」

「……あー、そっか。そうですか……」

 応じるマルケンは入り組んだ表情を浮かべていた。どこか歯切れが悪い。ナビ子の言う「報告」に賛同していないようにも見える。

「で、どうするの」

 投げ掛けるのはルシンダだ。その横顔は凛としていながらも、どこか焦り苛立っていた。事件の発覚後、すぐにでも彼女は動こうとしていた。しかしルシンダの思惑とは裏腹に、村長とイアン両人の失踪から丸一日を、結果的には無下にしている。

 その苛立ちを、マルケンも感じ取ったのだろう。参ったと言わんばかりに髪を掻いた。

「昨日の時点で、ポリさんまで十キロ程――でしたっけ、ナビ子ちゃん」

「はい。現在はそこから殆ど離れていない位置に止まっています」

「昨日から動いてないということは、そこが相手の本拠地であれ仮拠点であれ、『プレイヤー』もしくは捕虜を、一時的に保管しておく場所に違いないでしょう。となると、護衛もいる筈――」

「植民地座標と村長さんの反応、二つの地点は合致します。おそらく村長さんは、本拠地の中に囚われているかと」

「……なぜナビ子達は情報を小出しにしたがるのかな?」 

 マルケンは額に手を当てる。

「しかし……そうか、本拠地か。それは厄介だな。百番台ってことは、大分やり込んでますよね? 俺のところで八千番台だった気が」

 背を丸め、その男は考え込む。クマのようだ。サミュエルの腹がクウと鳴った。

「最近のログイン状況とかって、どうなってますか?」

「アクセス権はありません」

「そうですか。……ああでも、命令が出てるってことは、ログインはしているんだろうな。マジか、怖いなぁ」

 頭を掻き、マルケンは身体を揺らす。しばらく彼は考え込んでいたが、

「……まあ、本拠地を訪ねるにしても、この村を無人には出来ません。何かあった場合の連絡手段、抗戦力それも必要でしょう。今後、再び『初心者狩り』が行われる可能性があるならば」

「それはほぼないと思う。少なくとも、僕の国は」

 サミュエルが口を挟む。

「僕達の目的は『プレイヤー』だ。それがいなくなった村になんか興味ない」

「……そういえば、どうして『プレイヤー』って分かったんだ?」

「『プレイヤー』には攻撃が通らないって、そう言われた。だから、あの腑抜けた男が村長だって分かった」

「入植十日以内の『プレイヤー』はシステムの保護下に置く――これを逆手に取ったのかぁ」

 頷き、詠嘆する。想定の範囲外だった、そう言わんばかりの反応である。

「ただ、なぜ一一七番植民地の『プレイヤー』がそれを知っているのか、それだけが謎なのです」

 神妙とした表情でナビ子が語る。

「襲撃を受けない限り、『プレイヤー』はそれを知りません。保護期間内にあるという事実すら把握していない者も多く存在します。我々ナビ子には、伝達の義務はありませんから」

「Wikiから情報を仕入れた可能性もあるけど……ああ、いや。書いてないな。保護期間とはあるけど、無敵状態までは書いてないな。けど、察しのいい人や情報網の太い人なら気付くか」

 理解し得ない次元の会話に飽きてきたのか、ルシンダは、戸惑うクローイと共に平焼きパンの生地を練り始めていた。珍しくアランも、それを手伝っている。

 それを横目にマルケンは、

「まあとにかく、一一七番植民地の座標を、うちのナビ子に送ってください。部隊の派遣は許可してあります。現地集合という形にはなりますが、ないよりはマシでしょう」

「御支援、感謝致します」

 頭を下げるナビ子の一方、クローイがはっとした様子で面を上げる。その顔は、先程までの戸惑いをすっかり掻き消していた。これから何が起こるのか、確信を得たらしい。

「戦争……ってこと?」

 そう、これは戦争なのだ。一一七番植民地と、この村・マルケン巡査部長連合軍、二派閥による争いだ。

 どちらを選んだとしても、行き着く先は同じである。村長を失えば村が滅び、奪還の道を進めば望まぬ損失が発生する。一縷の望みを掴むか、動かずして待つか。与えられた選択肢は、至極単純なものである。

 マルケン巡査部長は精悍とした目を細め、口角を緩める。サミュエルの目には、それがひどく胡散臭げに見えた。

「少なからず戦闘も起こることでしょう。しかし、かと言って、無造作に人員を連れ歩くことも出来ません。とりあえず、まあ、今回のことは俺達に任せてください。皆さんはここで村を守っていてくださいな」
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

おっさん武闘家、幼女の教え子達と十年後に再会、実はそれぞれ炎・氷・雷の精霊の王女だった彼女達に言い寄られつつ世界を救い英雄になってしまう

お餅ミトコンドリア
ファンタジー
 パーチ、三十五歳。五歳の時から三十年間修行してきた武闘家。  だが、全くの無名。  彼は、とある村で武闘家の道場を経営しており、〝拳を使った戦い方〟を弟子たちに教えている。  若い時には「冒険者になって、有名になるんだ!」などと大きな夢を持っていたものだが、自分の道場に来る若者たちが全員〝天才〟で、自分との才能の差を感じて、もう諦めてしまった。  弟子たちとの、のんびりとした穏やかな日々。  独身の彼は、そんな彼ら彼女らのことを〝家族〟のように感じており、「こんな毎日も悪くない」と思っていた。  が、ある日。 「お久しぶりです、師匠!」  絶世の美少女が家を訪れた。  彼女は、十年前に、他の二人の幼い少女と一緒に山の中で獣(とパーチは思い込んでいるが、実はモンスター)に襲われていたところをパーチが助けて、その場で数時間ほど稽古をつけて、自分たちだけで戦える力をつけさせた、という女の子だった。 「私は今、アイスブラット王国の〝守護精霊〟をやっていまして」  精霊を自称する彼女は、「ちょ、ちょっと待ってくれ」と混乱するパーチに構わず、ニッコリ笑いながら畳み掛ける。 「そこで師匠には、私たちと一緒に〝魔王〟を倒して欲しいんです!」  これは、〝弟子たちがあっと言う間に強くなるのは、師匠である自分の特殊な力ゆえ〟であることに気付かず、〝実は最強の実力を持っている〟ことにも全く気付いていない男が、〝実は精霊だった美少女たち〟と再会し、言い寄られ、弟子たちに愛され、弟子以外の者たちからも尊敬され、世界を救って英雄になってしまう物語。 (※第18回ファンタジー小説大賞に参加しています。 もし宜しければ【お気に入り登録】で応援して頂けましたら嬉しいです! 何卒宜しくお願いいたします!)

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

現代知識と木魔法で辺境貴族が成り上がる! ~もふもふ相棒と最強開拓スローライフ~

はぶさん
ファンタジー
木造建築の設計士だった主人公は、不慮の事故で異世界のド貧乏男爵家の次男アークに転生する。「自然と共生する持続可能な生活圏を自らの手で築きたい」という前世の夢を胸に、彼は規格外の「木魔法」と現代知識を駆使して、貧しい村の開拓を始める。 病に倒れた最愛の母を救うため、彼は建築・農業の知識で生活環境を改善し、やがて森で出会ったもふもふの相棒ウルと共に、村を、そして辺境を豊かにしていく。 これは、温かい家族と仲間に支えられ、無自覚なチート能力で無理解な世界を見返していく、一人の青年の最強開拓物語である。 別作品も掲載してます!よかったら応援してください。 おっさん転生、相棒はもふもふ白熊。100均キャンプでスローライフはじめました。

追放令嬢と【神の農地】スキル持ちの俺、辺境の痩せ地を世界一の穀倉地帯に変えたら、いつの間にか建国してました。

黒崎隼人
ファンタジー
日本の農学研究者だった俺は、過労死の末、剣と魔法の異世界へ転生した。貧しい農家の三男アキトとして目覚めた俺には、前世の知識と、触れた土地を瞬時に世界一肥沃にするチートスキル【神の農地】が与えられていた! 「この力があれば、家族を、この村を救える!」 俺が奇跡の作物を育て始めた矢先、村に一人の少女がやってくる。彼女は王太子に婚約破棄され、「悪役令嬢」の汚名を着せられて追放された公爵令嬢セレスティーナ。全てを失い、絶望の淵に立つ彼女だったが、その瞳にはまだ気高い光が宿っていた。 「俺が、この土地を生まれ変わらせてみせます。あなたと共に」 孤独な元・悪役令嬢と、最強スキルを持つ転生農民。 二人の出会いが、辺境の痩せた土地を黄金の穀倉地帯へと変え、やがて一つの国を産み落とす奇跡の物語。 優しくて壮大な、逆転建国ファンタジー、ここに開幕!

【完結】うだつが上がらない底辺冒険者だったオッサンは命を燃やして強くなる

邪代夜叉(ヤシロヤシャ)
ファンタジー
まだ遅くない。 オッサンにだって、未来がある。 底辺から這い上がる冒険譚?! 辺鄙の小さな村に生まれた少年トーマは、幼い頃にゴブリン退治で村に訪れていた冒険者に憧れ、いつか自らも偉大な冒険者となることを誓い、十五歳で村を飛び出した。 しかし現実は厳しかった。 十数年の時は流れてオッサンとなり、その間、大きな成果を残せず“とんまのトーマ”と不名誉なあだ名を陰で囁かれ、やがて採取や配達といった雑用依頼ばかりこなす、うだつの上がらない底辺冒険者生活を続けていた。 そんなある日、荷車の護衛の依頼を受けたトーマは――

【完結短編】ある公爵令嬢の結婚前日

のま
ファンタジー
クラリスはもうすぐ結婚式を控えた公爵令嬢。 ある日から人生が変わっていったことを思い出しながら自宅での最後のお茶会を楽しむ。

お飾りの妻として嫁いだけど、不要な妻は出ていきます

菻莅❝りんり❞
ファンタジー
貴族らしい貴族の両親に、売られるように愛人を本邸に住まわせている其なりの爵位のある貴族に嫁いだ。 嫁ぎ先で私は、お飾りの妻として別棟に押し込まれ、使用人も付けてもらえず、初夜もなし。 「居なくていいなら、出ていこう」 この先結婚はできなくなるけど、このまま一生涯過ごすよりまし

少し冷めた村人少年の冒険記 2

mizuno sei
ファンタジー
 地球からの転生者である主人公トーマは、「はずれギフト」と言われた「ナビゲーションシステム」を持って新しい人生を歩み始めた。  不幸だった前世の記憶から、少し冷めた目で世の中を見つめ、誰にも邪魔されない力を身に着けて第二の人生を楽しもうと考えている。  旅の中でいろいろな人と出会い、成長していく少年の物語。

処理中です...