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1章 ヴァーゲ交易港
16話 墓穴
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ゆらゆらとカメールは行く。
どこまでも広がる大地の先に、日の変わりを告げる光が覗く。今日の砂漠も晴れそうだ。僕はうんざりと息を吐いた。
砂虫の巣へ向かう時と違って、オルティラとそのカメールは、僕やカーンの乗るカメールと並んで歩いていた。
彼女が先行しないお蔭で、僕の視界は開けていた。
視界は高く、障害物は殆どない。どこまでも続く砂の海を、飽きる程眺めることができる。
僕にとっては目新しい景色だったが、十歩も進むと、その気持ちも失せてしまった。
この景色と、まだ長い時間付き合わねばならないのか。げんなりとする僕の口から、魂が彷徨い出そうになる。
その一方、オルティラは清々しい笑みを浮かべていた。まるで登り来る太陽のように。
「今日はいっぱい動いたな。ビールが美味そうだ。カーン殿、この後飲みに行こう」
カーンは応じない。時折僕に視線を落とし、それ以外の時には、ただ前を向いている。並んで歩く女戦士には、全く目をくれようとはしなかった。
まさか聞こえていない訳ではあるまい。彼はあえて、オルティラの声を無視しているのだ。
そんな扱いを受ける女性が不憫になって、僕はカーンを小突いた。すると彼は観念したように唸る。
「……一人で飲んでいろ」
「何でだよ。いいじゃん、ちょっとくらい付き合ってくれても」
「酒は飲まない主義だ」
「ほほーん、カーン殿は下戸か! これは意外だったなぁ」
ケラケラと弾ける笑声に、カーンは口をつぐんでしまう。もう話す気はないのだろう。
二度のやり取りを成立させただけだが、彼は頑張った方だ。
そんな二人を横目に、僕は口を開こうとする。しかし譲る気の欠片も見られない声が、それと重なった。
「そういえば二人とも、何か虫を弄っていたよね。何やってたの?」
話題を先に越されたか。僕は組み立てていた会話の予定図を仕舞い込んで、思考を切り替える。
「砂虫の中に魔力を感じたから、その源を探していたんだ」
「魔力?」
オルティラは首を傾げる。
そこから説明しなければならないのか。僕は少しだけ考える。
「えっと、魔術の材料のこと。魔術は分かるよね?」
「さっき私を燃やそうとしたアレだろ?」
「そうそう」
僕は頷く。頷いてから、妙な冤罪を掛けられていると気付いたが、今は放っておくことにした。
「魔力は本来、生きているモノや自然にしか宿らないんだ。死人には魔力を持つ権利を与えられない。だけど女王虫からは、死んでもなお魔力を感じたんだ。だから、その出所を――」
「ええっと、ちょっと待って」
額に手を当てて、彼女は低く喉を鳴らす。
「その……魔力って、物として存在するわけ? 探そうと思って探せる物なの?」
「魔力の出所自体は、頑張れば探せるよ。でも、物としては存在しない。ええっと、そうだな……何て説明すればいいだろう」
僕は首を捻る。
僕もオルティラも揃って悩んでいると、僕の頭上から、聞き慣れた声が、さながら啓示の如く降って来た。
「事切れていれば持つはずのない魔力を、女王虫が持っていた。だからリオ様は不思議にお思いになり、“あるはずのない魔力”の出所を探していた。少しは勉強をしたらどうだ」
「は~、何でそんな棘のある言い方しかできないのかねぇ、カーン殿は! こっちとら、最近字が書けるようになった弱小モンですよ。好きで勉強しなかった訳じゃない」
そう不満を垂らして、オルティラはそっぽを向いてしまう。
確かにカーンは言い過ぎた。魔力に対する知識がないのは、魔力という存在が、人間界において然程流通していないからであり、学習不足が最大の原因であるという訳ではない。
学習不足。その点で責める事は間違っている。オルティラが普通に近いのだ。僕たち余所者が、「異常」であるだけだ。
「カーンがトゲトゲしているのはいつもの事なんだ、ごめんね。でも、言っている事は正しいよ。カーンが言っていたように妙だと思って……とりあえず、女王虫の解剖していたんだ」
「何このガキ。発想怖……」
顔を強張らせるオルティラにを横目に、僕はカーンを仰ぐ。
意図を察した彼は、カメールの腰の辺りに積んだ荷物の中から布の塊を取り出した。
「お手を触れないよう、お気を付けください」
「うん、分かってる」
手の上に置かれた布の塊。僕はそれを剥いていく。カーンの言いつけ通り、中身に触れてしまわないよう慎重に。
そんな僕の手元を、オルティラが身を乗り出して覗き込む。不安定な姿勢を取る騎手を乗せたカメールは、ひどく迷惑そうだ。
くすんだ布から現れたもの――それは黒い玉だった。正確には、黒い渦が蠢く玉。
砂虫の女王の体内で、その魔力を燻らせ続けていた玉は、至宝や珠玉の類とは言い難い。それどころか、廃棄物以下の劣悪品だ。
年を経た悪い魔力ばかりが封じ込められ、とても自然に生成された物とは思えない。見ているだけでも気分が悪くなる。
一体誰が何のためにこの玉を作り、砂虫の体内に埋め込んだのか。僕には分からなかった。だからこそ気味が悪い。
「それが魔力の源ってやつ?」
「うん。女王虫から感じられた魔力の核。強くて、とても汚い。魔物以上にドロドロした魔力だよ」
「魔物って……あの魔物? 魔族軍が率いて攻めてきたと言われる、あの?」
その言葉に、僕は目を丸くする。
「よく知ってるね、そんな大昔のこと」
「いろいろな所で語られているからね。そこら辺の子供だって知ってるよ」
魔族軍による人間界侵攻。それは約二百年前に遡る。短命で知られる人間族の一員であるオルティラが、その時代を見てきたはずがなく、かと言って親の代も経験していないだろう。
ああ、そういえばそうか。僕はやっと思い出した。
いつだったか、友人が言っていた。人間界には、過去の出来事を大げさに物語る風潮があるのだと。
それを聞いた当初、僕はその意図に頭を悩ませた。歴史は本から学ぶことこそが一番だと、ずっと思っていたからだ。
自分の歩調で学び、記憶から零れ落ちたものは、その都度読み返して補う。
それに対して口承は、文字を知らずとも語り伝え、また知ることができる。
文字ほどの普遍性は期待できないが、幼少の頃から歴史に親しむという点では、本を読むよりもずっと、生涯と深く関わっていられるのかもしれない。
寿命も学べる期間も短い人間族によって編み出された“伝える技術”。数十年の時を経て、ようやく僕は、その成果を知ったのだった。
「で、それがこの――魔力の源とやらと、どう関係するの? これがあると、魔物になっちゃうわけ?」
「魔物は、魔力を大量に取り込んだ動物が変化したものと言われているんだ。そしてこれは、さっきも言った通り魔力の塊でしょう? 砂虫の女王が、これから魔力を得て魔物になって、この地を荒らし回ることも考えられた。そういう……関係?」
そう説明すると、オルティラは空を仰ぐ。ぽっかりと口を開けた彼女は少しばかり沈黙すると、
「なるほど?」
と曖昧に頷いた。理解は期待できないようだ。
「ボクの言うこと、よく分からないんだよなぁ……。幼児教育行き届き過ぎじゃない? お父さん、頑張っちゃった?」
「僕が自分で勉強したんだよ」
「うわぁ、キモ……」
「なんでそんなに引くの?」
ここでは、勉強をしていると蔑まれるものなのだろうか。
複雑な思いを胸に抱きつつ、僕はようやく台本を取り戻す。幾例も作り上げた問答の言葉。それに不備があるとも気付かずに、僕の口はそれをなぞった。
「オルティラ、どうして僕たちが魔族だって分かったの?」
「簡単なことだよ。耳――私たちのと比べると、少し尖っている。後は勘? だけど、ボクも魔族だとは知らなかったなぁ。顔見てないし」
僕は固まる。そしてようやく気付いた。完全に墓穴を掘ったのだと。
サッと血の気が失せる。同時に纏わり付くような汗が噴き出る。弁解する言葉すら出てこない。僕の頭はすっかり混乱していた。
やってしまった。相棒の、これまでの苦労を無に還してしまった。
僕はカーンに助けを求める。いつだって僕を助けてくれるのは、この男だけだ。カーンだけが、僕の手を取ってくれる。
我ながら酷い奴だ。そうだと分かっていながら、僕は彼に縋ることしかできなかった。
「殺しましょうか」
さらりとそんな事を言ってみせる、冷酷な男だとしても。
どこまでも広がる大地の先に、日の変わりを告げる光が覗く。今日の砂漠も晴れそうだ。僕はうんざりと息を吐いた。
砂虫の巣へ向かう時と違って、オルティラとそのカメールは、僕やカーンの乗るカメールと並んで歩いていた。
彼女が先行しないお蔭で、僕の視界は開けていた。
視界は高く、障害物は殆どない。どこまでも続く砂の海を、飽きる程眺めることができる。
僕にとっては目新しい景色だったが、十歩も進むと、その気持ちも失せてしまった。
この景色と、まだ長い時間付き合わねばならないのか。げんなりとする僕の口から、魂が彷徨い出そうになる。
その一方、オルティラは清々しい笑みを浮かべていた。まるで登り来る太陽のように。
「今日はいっぱい動いたな。ビールが美味そうだ。カーン殿、この後飲みに行こう」
カーンは応じない。時折僕に視線を落とし、それ以外の時には、ただ前を向いている。並んで歩く女戦士には、全く目をくれようとはしなかった。
まさか聞こえていない訳ではあるまい。彼はあえて、オルティラの声を無視しているのだ。
そんな扱いを受ける女性が不憫になって、僕はカーンを小突いた。すると彼は観念したように唸る。
「……一人で飲んでいろ」
「何でだよ。いいじゃん、ちょっとくらい付き合ってくれても」
「酒は飲まない主義だ」
「ほほーん、カーン殿は下戸か! これは意外だったなぁ」
ケラケラと弾ける笑声に、カーンは口をつぐんでしまう。もう話す気はないのだろう。
二度のやり取りを成立させただけだが、彼は頑張った方だ。
そんな二人を横目に、僕は口を開こうとする。しかし譲る気の欠片も見られない声が、それと重なった。
「そういえば二人とも、何か虫を弄っていたよね。何やってたの?」
話題を先に越されたか。僕は組み立てていた会話の予定図を仕舞い込んで、思考を切り替える。
「砂虫の中に魔力を感じたから、その源を探していたんだ」
「魔力?」
オルティラは首を傾げる。
そこから説明しなければならないのか。僕は少しだけ考える。
「えっと、魔術の材料のこと。魔術は分かるよね?」
「さっき私を燃やそうとしたアレだろ?」
「そうそう」
僕は頷く。頷いてから、妙な冤罪を掛けられていると気付いたが、今は放っておくことにした。
「魔力は本来、生きているモノや自然にしか宿らないんだ。死人には魔力を持つ権利を与えられない。だけど女王虫からは、死んでもなお魔力を感じたんだ。だから、その出所を――」
「ええっと、ちょっと待って」
額に手を当てて、彼女は低く喉を鳴らす。
「その……魔力って、物として存在するわけ? 探そうと思って探せる物なの?」
「魔力の出所自体は、頑張れば探せるよ。でも、物としては存在しない。ええっと、そうだな……何て説明すればいいだろう」
僕は首を捻る。
僕もオルティラも揃って悩んでいると、僕の頭上から、聞き慣れた声が、さながら啓示の如く降って来た。
「事切れていれば持つはずのない魔力を、女王虫が持っていた。だからリオ様は不思議にお思いになり、“あるはずのない魔力”の出所を探していた。少しは勉強をしたらどうだ」
「は~、何でそんな棘のある言い方しかできないのかねぇ、カーン殿は! こっちとら、最近字が書けるようになった弱小モンですよ。好きで勉強しなかった訳じゃない」
そう不満を垂らして、オルティラはそっぽを向いてしまう。
確かにカーンは言い過ぎた。魔力に対する知識がないのは、魔力という存在が、人間界において然程流通していないからであり、学習不足が最大の原因であるという訳ではない。
学習不足。その点で責める事は間違っている。オルティラが普通に近いのだ。僕たち余所者が、「異常」であるだけだ。
「カーンがトゲトゲしているのはいつもの事なんだ、ごめんね。でも、言っている事は正しいよ。カーンが言っていたように妙だと思って……とりあえず、女王虫の解剖していたんだ」
「何このガキ。発想怖……」
顔を強張らせるオルティラにを横目に、僕はカーンを仰ぐ。
意図を察した彼は、カメールの腰の辺りに積んだ荷物の中から布の塊を取り出した。
「お手を触れないよう、お気を付けください」
「うん、分かってる」
手の上に置かれた布の塊。僕はそれを剥いていく。カーンの言いつけ通り、中身に触れてしまわないよう慎重に。
そんな僕の手元を、オルティラが身を乗り出して覗き込む。不安定な姿勢を取る騎手を乗せたカメールは、ひどく迷惑そうだ。
くすんだ布から現れたもの――それは黒い玉だった。正確には、黒い渦が蠢く玉。
砂虫の女王の体内で、その魔力を燻らせ続けていた玉は、至宝や珠玉の類とは言い難い。それどころか、廃棄物以下の劣悪品だ。
年を経た悪い魔力ばかりが封じ込められ、とても自然に生成された物とは思えない。見ているだけでも気分が悪くなる。
一体誰が何のためにこの玉を作り、砂虫の体内に埋め込んだのか。僕には分からなかった。だからこそ気味が悪い。
「それが魔力の源ってやつ?」
「うん。女王虫から感じられた魔力の核。強くて、とても汚い。魔物以上にドロドロした魔力だよ」
「魔物って……あの魔物? 魔族軍が率いて攻めてきたと言われる、あの?」
その言葉に、僕は目を丸くする。
「よく知ってるね、そんな大昔のこと」
「いろいろな所で語られているからね。そこら辺の子供だって知ってるよ」
魔族軍による人間界侵攻。それは約二百年前に遡る。短命で知られる人間族の一員であるオルティラが、その時代を見てきたはずがなく、かと言って親の代も経験していないだろう。
ああ、そういえばそうか。僕はやっと思い出した。
いつだったか、友人が言っていた。人間界には、過去の出来事を大げさに物語る風潮があるのだと。
それを聞いた当初、僕はその意図に頭を悩ませた。歴史は本から学ぶことこそが一番だと、ずっと思っていたからだ。
自分の歩調で学び、記憶から零れ落ちたものは、その都度読み返して補う。
それに対して口承は、文字を知らずとも語り伝え、また知ることができる。
文字ほどの普遍性は期待できないが、幼少の頃から歴史に親しむという点では、本を読むよりもずっと、生涯と深く関わっていられるのかもしれない。
寿命も学べる期間も短い人間族によって編み出された“伝える技術”。数十年の時を経て、ようやく僕は、その成果を知ったのだった。
「で、それがこの――魔力の源とやらと、どう関係するの? これがあると、魔物になっちゃうわけ?」
「魔物は、魔力を大量に取り込んだ動物が変化したものと言われているんだ。そしてこれは、さっきも言った通り魔力の塊でしょう? 砂虫の女王が、これから魔力を得て魔物になって、この地を荒らし回ることも考えられた。そういう……関係?」
そう説明すると、オルティラは空を仰ぐ。ぽっかりと口を開けた彼女は少しばかり沈黙すると、
「なるほど?」
と曖昧に頷いた。理解は期待できないようだ。
「ボクの言うこと、よく分からないんだよなぁ……。幼児教育行き届き過ぎじゃない? お父さん、頑張っちゃった?」
「僕が自分で勉強したんだよ」
「うわぁ、キモ……」
「なんでそんなに引くの?」
ここでは、勉強をしていると蔑まれるものなのだろうか。
複雑な思いを胸に抱きつつ、僕はようやく台本を取り戻す。幾例も作り上げた問答の言葉。それに不備があるとも気付かずに、僕の口はそれをなぞった。
「オルティラ、どうして僕たちが魔族だって分かったの?」
「簡単なことだよ。耳――私たちのと比べると、少し尖っている。後は勘? だけど、ボクも魔族だとは知らなかったなぁ。顔見てないし」
僕は固まる。そしてようやく気付いた。完全に墓穴を掘ったのだと。
サッと血の気が失せる。同時に纏わり付くような汗が噴き出る。弁解する言葉すら出てこない。僕の頭はすっかり混乱していた。
やってしまった。相棒の、これまでの苦労を無に還してしまった。
僕はカーンに助けを求める。いつだって僕を助けてくれるのは、この男だけだ。カーンだけが、僕の手を取ってくれる。
我ながら酷い奴だ。そうだと分かっていながら、僕は彼に縋ることしかできなかった。
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