短い恋愛短編集。

匿名希望

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年下と年上

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いつ言ったのか忘れてしまったが
いくつも歳の離れた彼が誕生日を祝ってくれると言う。
別に付き合っているわけではない。
「ありがとう」と気のない風を装って返事をしておいた。

だが、絶賛片思い中の私は家に帰って飛び跳ねた。
いくつも歳が離れているせいで子供扱いをされていたが
誕生日を覚えていてくれて、尚且つ祝ってくれると言う。
これは期待しても良いのだろうか。

たまたま、仕事先が同じと言うだけの存在。
たまたま、彼が先輩で私が後輩だったというだけの存在。

もしかしたら、そんな存在から抜け出せるのかもしれない。

自分の居場所を探すようにベットの上で転がっていると
携帯がけたたましく鳴った。その音に驚き、跳ねるように携帯を取る。
彼の名前が画面に映し出されている。慌てて通話ボタンを押せば
街の雑踏と一緒に彼の声が聞こえてきた。

「起きてた?」

「起きてます。」

そっけない風を装う。そうしないと、私の理性が持たないのだ。
そして、子供扱いを受けたくないが故の、精一杯の態度。
彼は恐らく、そんな私の心を読んでいる。読んでいてあの態度なのだ。

「誕生日プレゼント、何が欲しいか聞いてなくて。」

最近の子は何がいいのかな、なんて呑気に聞いてくる。
この人は、わかっていてこんな事を聞くのだ。
携帯を握る手に力が入る。

「あなたがいい」

自分の声が震えているのがわかる。
電話口で彼が困っているのもわかる。
しかし、年に一度の許された我儘。これを逃すわけにはいかない。

「あなたがいればそれでいい。」

言い終えると、彼は「うーん」と唸る。
暫くの沈黙が続く。いつの間にかベットの上で正座し
膝の上で拳を握っている。

「・・・返品不可、だけど。」

雑踏にまぎれてしまうきらいの小さな声だったが
確かに聞き取れた。


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