ドジっ子鷹華ちゃんのウェイトレス奮闘記

私にできること

翌日、学校での授業を終えた鷹華は、アルバイト先のレストランへと向かった。
ドアを開けて店内に入ると、マネージャーは忙しそうに客の案内をしているところだった。
「マネージャーさん、こんにちは。お疲れ様です」
「おはようございます、ね。早速だけど、これに着替えて」
マネージャーは鷹華に店のユニフォームを手渡した。
「分かりました」
鷹華は更衣室に行き、ユニフォームに着替えた。
このレストランは洋食の店で、ユニフォームはフリルが付いたオシャレなエプロンだった。
かわいい衣装に身を包んだせいもあって、鷹華の仕事へのやる気はがぜん高まった。
「準備できました」
着替えを覆えた鷹華はマネージャーに声をかけた。
「なかなか似合ってるじゃないか」
「ありがとうございます」
「早速だが、君に頼みたい仕事がある。こっちへ来てくれ」
マネージャーは鷹華を調理場へと連れて行った。
調理場ではコック達がウェイターから入ってくるオーダーを必死でさばいていた。
「私の仕事はいったい何でしょうか」
「ここにある食器を全て洗ってきれいにしておいてくれ」
マネージャーは鷹華に指示を出した。
「はい、分かりました」
鷹華はさっそく食器洗いを始めた。
スポンジに洗剤をつけて食器をこすり、水で洗い流す。
「ガチャン！」
鷹華の手から皿が滑り落ち、床に叩きつけられた。
「……あっ！お皿を落としてしまいました！」
マネージャーはため息をついた。
「あーあ。今度は気をつけてね」
「すいません……ガチャン！ああっ、またやっちゃった……」
「またかね」
「申し訳ありません」
鷹華はすまなさそうに謝った。
「ごしごし……ガチャン！ああっ！？」
「……もういい、止めなさい」
マネージャーは憂鬱そうな顔で腕組みをした。
そして鷹華に話しかけた。
「これだったらできそうだ、という事はないか？」
「私、お料理だったら出来ますよ」
「そうか。じゃ、そこにレシピがあるから、とりあえずその通りに作って見てくれ」
「はい、お任せください！」
鷹華はマネージャーに言われた通り、レシピを見ながら必死で料理を作った。
「塩、こしょうを振って完成、っと。マネージャー、出来ました！」
「どれ、味見をさせてもらうとするか」
マネージャーはさっそく、鷹華の作った料理に口をつけた。
「うっ、こ、この味は……」
マネージャーは言葉を失った。
「ど、どうですか、私の料理は！？」
鷹華は緊張の面持ちだ。
「オ、オエ～ッ！！！！！」
マネージャーは料理を食べた途端、真っ青な顔になり、全力疾走でトイレへと駆け込んだ。
「オエェェェェェェ……ゲロゲロ……」
トイレの中からは、苦しみのたうち回るマネージャーの声が延々と聞こえた。
しばらくすると、青い顔をしたマネージャーがトイレから出て来て、鷹華に言った。
「君に調理を任せるのは一兆光年くらい早すぎたようだ」
「ガーン！」
鷹華はショックを受けた。
マネージャーは淡々と言葉を続けた。
「可哀そうだが、はっきり言わせてもらおう。この店に君に出来る仕事はなさそうだ……」
「そんなぁ～」
「残念だが君は……」
「すいません、マネージャー、ちょっといいですか！？」
マネージャーが鷹華にクビを宣告しようとした瞬間、マネージャーと鷹華の会話に誰かが割って入った。
マネージャーと鷹華は二人そろって、声の主の方に目をやった。
「……お前か、一体なんだ」
マネージャーに話しかけたのは、同じレストランでウェイターをしている、鷹華と同じぐらいの年の男の子だった。
その男の子は続けてマネージャーに話した。
「どうしてもしなきゃいけない急用ができて、勤務に入れなくなってしまいまして……申し訳ないんですが、明日は休ませてもらえないでしょうか？」
「困ったな。優秀なウェイターである君が抜けると、仕事が回らなくなってしまう。かと言って、今の世間は人手不足だ。休暇の取得を断って、優秀なウェイターに辞められてはなおさら困る……」
マネージャーは難しい顔で腕を組み、困り果てているようだった。
「どうしたらいいものか……」
「あの、すいません」
鷹華はとっさに思いつき、マネージャーに話しかけた。
「ん、何だ？」
「明日、人手が足りないんだったら、私にウェイトレスをさせてもらえませんか？」
「……」
マネージャーは黙り込み、しばらく考えた。
「……分かった。お前たち二人の提案を認めよう。お前は休暇を取ってもいい。そして鷹華、お前はウェイトレスとして勤務に入れ。ただし、それでダメだったら……分かってるな？」
「ありがとうございます、マネージャー」
「ありがとうございます、マネージャー」
ウェイターの男の子と鷹華の二人は、満面の笑顔で声を合わせて言った。

仕事を終えた鷹華は、家に帰った。
くたくたになった鷹華はふろに入る事にした。
脱衣所で服を脱ぎ、髪の毛を洗う。
「あー、疲れた。お仕事って大変だなぁ」
鷹華は体を洗い終えて、浴槽に入る。
「あーあ、さっきは勢いでマネージャーさんにあんな事を言っちゃったけど……」
鷹華、お風呂の中で頭を抱える。
「私、人と話すのが大の苦手なのに……ウェイトレスさんの仕事なんか、出来るのかなぁ」
鷹華は考えれば考えるほど、憂鬱な気持ちでいっぱいになった。