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2話 : ヒドラ族と私

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ヒドラ族である藤崎美和との出会いから3ヶ月。美和とはあれ以来1度も会わなかった。
街の騒ぎも次第に落ち着いてきて、いつも通りの日常に戻った。
私はあれから美和と会った場所に毎日行くようになった。何の確信もないけどいつか美和に会えるような気がした。そういえば前新聞でヒドラ族について初めて知った時、お母さんの反応がおかしかったような…ヒドラ族についてかなり詳しいみたいだけど…
その日、お母さんが帰って来てからそれとなく言った。
「ねぇ…私前にヒドラ族に会ったの。」
母は驚いて持っていたカバンを落としかけた。
「会った!?えっ!?どうしてヒドラ族って分かったの?」
「教えてくれてね、傷直してもらった」
「あ、そう…」
目を泳がせる母を見て怪しく思った。
「お母さん…会ったことあるの?怪しい」
「……………友達がね、ヒドラ族だったの…」
「友達?いいなぁ楽しそう。優しい?」
「まぁ…すごく優しくて一緒にいると楽しかったな」
「羨ましい…私1度しか会えてないから」
「そ…そう」
そう言うと早足で部屋に戻って行った。これ以上ヒドラ族のことを話したくないと言っているようだった。昔何かあったのかな…

「おはよう麻衣」
「鈴乃か…おはよ」
「私じゃ不満?」
鈴乃はムスッとした
「ごめんごめん。会いたい人がいてね、」
「えー?あ、それより聞いてほしい事があってね、」
「んー?」
鈴乃はカバンから本を取り出した
私は題名を見て思わずひったくるようにして鈴乃から本を取った。
「ヒドラ族の…特徴…!?」
「麻衣ヒドラ族について疎いから家にあるの持って来たのー」
「貸してくれるの?」
「うん」
「あ、ありがとう!すぐ読むね!」
鈴乃はニッと笑った。
朝休みの間に早速開いてみた。

                    
~ヒドラ族の特徴~
ヒドラ族は永遠の命を持つ。花、水、火などの力を持ち、力を使う時本来の姿に戻るといわれている。ヒドラ族は人間に紛れて生活するため普段は人間そっくりだが、仲間と行動する時や戦う時は姿を元に戻す。花使いなら花をまとった妖精のような姿、水使いなら水をまとう妖精のような姿らしい。妖精の姿という情報しかないため、写真はまだない。妖精の姿になったヒドラ族はとても美しく、人々は逃げることを忘れるようで、その隙にヒドラ族は攻撃や逃走を図る。ヒドラ族は冷酷な性格で正体を知られたり少しでも我々が攻撃体制に入ると殺してしまうという。ヒドラ族は群れを作る訳ではなく、単独行動が多い。未だ捕まえることは困難で、これ以上の特徴はわかったいない。もう少し調査が進めば子供の育て方が分かるようになるかもしれない。


最初の簡単な説明だけ読んでみた。この本は人間から見た特徴だから実際は間違いが多いかもしれない。冷酷…?藤崎さんはそんな風に見えなかったけど…。それに本来の姿って…。私の傷を直してくれたあの力は何だったのかな、
本の続きを軽く読んでみたけど似たようなことが書かれていた。やっぱりヒドラ族について分かることはこの程度か…
真由美と鈴乃と一緒に下校している時間もヒドラ族の事が頭から離れなかった。
私がぼーっとしている様に見えたのか、鈴乃が私の肩をたたいた。
「麻衣ー?具合悪いとか?」
「え?…あ、何でもない」
「最近おかしいねぇ…」
「そ、そんなことないよ」
と、私は軽く笑ってみせた。
鈴乃は3人兄弟の一番上だからか優しい。真由美は小さい頃母親を亡くし父と2人暮らしをしている。真由美自身は新しいお母さん別にいらないとか言っているけど時々寂しそうに見える。ふいに前を向くと長髪でワンピースを着た女の人が角を曲がるのが見えた
「!鈴乃、真由美、ちょっと用できた。先に帰ってもらえる?」
「えっ?ちょ、麻衣!?」
私は2人の返事を待たずに走り出した。さっきの人が美和さんに似ていたから。
あの日会った美和は長髪にワンピースだった。
「あ、待って!」
と、追いついた私はその人の腕をつかんだ。振り返ったのは知らない人だった。
「あ、人違いでした。すみません…」
苦笑いを浮かべてその人は去っていった。
人違いか…
そう思った矢先、後ろで声がした。
「麻衣ちゃん?」
はっとして振り返ると美和が立っていた。
「藤崎さん…」
「美和でいいよ」
「探してたの。少し話がしたくて」
美和はしばらくじっと私を見てからうなずいた。人気のない公園の椅子に座った。美和が自販機で紅茶を買ってくれた。
「ヒドラ族は、食べなくても大丈夫なの?」
「死にはしないよ。でも痩せるし体力無くなるし力も弱くなるから」
「そっか…あ、あのね。友達から本借りたんだけど、どこまでが真実なの?」
私は鈴乃から借りたヒドラ族の特徴が書かれている本を見せた。美和は1通り読んだ
「この内容をどれくらい信じてる?」
「……何も信じてない」
「全部?」
私はこっくりとうなずいた。
「人間が書いた本だから。人間目線でしょ。偏見が多いからヒドラ族に直接聞くまで何も信じない」
美和は嬉しそうに笑った。
「この本は…半分間違ってるね。まず本来の姿は正しいし、力を一種類持つのも本当。でもみんな冷酷じゃないし、殺すとかはよっぽどの時だけ。例えば、どうしても逃げられない時や本気で怒った時くらい。普通はヒドラ族と会ったという記憶を消すか力を使って逃げる。」
「単独行動は本当?」
「半々かな。私は人間が好きでね、ずっと移動しながら生活してるよ。人間にまじってバイトもしてるし。」
「他のヒドラ族は?」
「他のヒドラ族は、ヒドラ族の街にいるよ」
「ヒドラ族の…街!?」
「そう。人間に見つからない結界の中。後ね、人間に合わせるために名前変えてあるんだけど、藤崎美和は本名じゃない」
「え…?」
「と言っても、ずっとこの名前使ってるから本名のようなものだよ。」
「美和さんの…名前は?」
「ミューズ。花使いのヒドラ族よ」
そう言って美和はにっこり笑った。


その頃麻衣の家では母、陽子の友達と思われる人が来ていた。
「久しぶりね、京子。」
京子と呼ばれた人は軽く笑った。
「そうね。15年ぶり。」
「お茶でもいれようか?」
「あぁ、いいよ。すぐ帰るから」
陽子は京子の前の席に座った。
「京子…」
「何?」
「最後に家に来た日、麻衣2歳だったでしょ」
「麻衣ちゃんね、可愛かったなぁ、そっか。もう高校生…」
「うん。ところで今日はどうしたの?」
「あ、私ね、旅に出ようと思ってて」
「旅!?」
京子はふふっと笑った。
「ずっと同じ街にいたけど、それじゃ駄目だなと思って。もっといろんな世界を見ようって」
「京子が決めた事なら私は何も言わないけど…旦那さんは?」
「街に残るって。面倒事嫌いだから…。私がいつでも帰れるようにしてくれるって。」
「そう…じゃあもう来ないの?」
「どうかな…先のことは私にはわからない」
「…………」
黙り込む陽子を見て、京子は立ち上がった。
「そろそろ帰るね。」
「えっ」
「今日からもう行くのよ。ついでに立ち寄っただけだし。」
「ま、麻衣に会っていかない?」
「陽子…。会わせてどうしたいの?」
「え…そ、そりゃ会って欲しいだけよ。今会って、麻衣があなたに好意を持ってくれたら…」
「陽子。おせっかいは嫌いよ。私はもう決めてるから」


私は玄関のドアを開けた。知らない靴…誰か来てるのかな?そう思ってリビングに向かうと、声が聞こえてきた。
「私はもう決めてるから」
誰だろう…?するとお母さんの声がした。
「おせっかいだとしても、私は…」
「絶対怖がられるわよ。あの日のあんたのように。私がヒドラ族だから…」

ヒド…ラ?
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